• 更新日 : 2025年7月14日

介護離職を防止するための4つの方法!改正育児・介護休業法の義務化についても紹介

高齢化の進展とともに、「仕事と介護の両立」に悩む人が多くいます。

40〜50代の働き盛り世代にとって、突然の介護は離職リスクにもなり得ます。

こうした状況を踏まえ、2025年4月から改正育児・介護休業法が段階的に施行され、介護離職を防ぐための制度が強化されました。

本記事では、介護離職の現状や原因、国の支援制度・助成金の概要、そして実際に介護と仕事を両立するための4つの具体策についてわかりやすく解説します。

今後のキャリアや生活設計のために、知っておきたい情報をまとめてお届けします。

2025年4月から改正育児・介護休業法が段階的に施行

2025年(令和7年)4月1日より、育児・介護休業法の改正内容が段階的に施行されます。

これは2024年5月に成立した「育児・介護休業法」および「次世代育成支援対策推進法」の改正に基づくもので、働く世代の育児・介護との両立支援をより強化するためのものです。

今回の改正では、主に以下の3点が柱となっています。

1 子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充

2 育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化

3 介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等

引用:育児・介護休業法の改正について|厚生労働省

法改正は、育児・介護に直面する従業員の離職を防ぎ、企業にとっても人材の確保と定着を図る上で重要な取り組みとなります。

介護離職に関するデータ

厚生労働省が公表した「令和5年雇用動向調査結果の概況」によれば、2023年(令和5年)1年間における離職者のうち、「介護・看護」を含む「個人的理由」による離職は全体の11.4%を占めており、前年より0.4ポイント増加しました。

一方で、「経営上の都合」や「出向」など、事業所側の理由による離職は0.9%にとどまり、前年から0.2ポイント減少しています。

離職理由の中で個人的な事情がより増えていることを示しており、なかでも介護離職の存在感が高まっていることが読み取れます。

今後、介護に直面する人材の離職をいかに防ぐかが、企業の継続的な成長と人材戦略の要となるでしょう。

今回の法改正は、そうした現実を踏まえた政策対応の一環といえます。

参考:令和5年 雇用動向調査結果の概況(PDF)|厚生労働省
関連記事:介護離職とは?後悔しない両立方法、企業の取り組み事例、助成金

改正育児・介護休業法での介護離職に関する支援制度の概要

2025年4月から段階的に施行されている改正育児・介護休業法では、介護離職を防ぐための支援制度が強化されました。

高齢化の進行とともに、仕事と介護の両立が重要な課題となっており、国は企業に対して実効性のある両立支援策を求めています。

この改正により、事業主には制度の周知や個別対応の義務が課されるとともに、対象となる介護休暇の範囲拡大やテレワークの推進など、より柔軟な働き方への対応が期待されています。

両立支援制度

改正法では、介護に直面する従業員への企業側の支援体制をより明確に求めています。

具体的には以下のような内容が盛り込まれています。

  • 介護が必要と申し出た際の対応義務
    事業主は、従業員から家族の介護が必要との申し出があった場合、介護休業制度やその他の支援策について説明し、本人と面談を行うなど、個別の意向を確認する措置を講じる必要あり。
  • 40歳到達時の情報提供
    労働者が40歳を迎える年度のはじめなど一定の時期には、介護制度や支援策に関する情報を適切な方法で伝えることが必要。事前の準備を促すための取り組みのひとつ。
  • 不利益取り扱いの禁止
    従業員が制度利用を申し出たことを理由に、解雇・降格などの不利益な扱いをしてはならない旨が法的に明記。

参考:育児・介護休業法|e-Gov法令検索

介護への備えと対応が企業の義務になり、働く人が安心して制度を使えるように法で守られることになりました。

関連記事:介護保険料はいつから支払う?40歳の誕生月から? 

介護休暇の対象範囲拡大

介護休暇を取得できる「対象家族」の範囲が法的に定義されており、今回の法改正では以下の範囲が明確化・拡大されました。

  • 配偶者
  • 父母
  • 祖父母
  • 兄弟姉妹
  • 配偶者の父母

より多様な家族形態や介護状況に対応できるようになり、柔軟な介護支援が可能となります。

関連記事:介護休暇とは?同居していない場合や取得条件、介護休業との違いを解説

また、介護休暇を取得できる労働者の要件が緩和され「継続雇用期間が6ヶ月未満の労働者を除外」といった規定を廃止し、入社間もない労働者が介護に直面した場合にも対応が可能となりました。

努力義務の対象にテレワークを追加

従来の両立支援に加え、今回の法改正では、テレワーク(在宅勤務等)を努力義務の対象として明記することで、より現代的な柔軟な働き方の導入を後押ししています。

労働者の申出があった場合には、住居などにおいて就業できるよう、就業規則や労働契約などに基づいて「在宅勤務等の措置」を講じる努力義務が事業主に課せられました。

一 労働者の申出に基づき、当該労働者が就業しつつその子を養育することを容易にするため、住居その他これに準ずるものとして労働契約又は労働協約、就業規則その他これらに準ずるもので定める場所における勤務(第二十四条第四項において「在宅勤務等」という。)をさせる措置(同条第二項において「在宅勤務等の措置」という。)

引用:育児・介護休業法(在宅勤務に関する条文)|e-Gov法令検索

努力義務の対象にテレワークを追加したことにより、通勤負担の軽減や、介護との物理的な両立が可能になります。

介護離職が起きる4つの理由

介護離職とは、家族の介護を理由に仕事を辞めることを指し、高齢化の進展とともに、働き盛りの世代が直面する深刻な社会課題となっています。

ここでは、介護離職が起きる主な4つの理由について解説します。

1. 介護の負担が想像以上に大きい

介護離職のもっとも大きな要因のひとつが、日々の介護負担の大きさです。

要介護者の状態によっては、認知症の進行や寝たきりの状態などにより、日常的な世話や見守りが必要になります。

本人が思っていた以上に時間と体力を奪われ、仕事との両立が困難になります。

具体的な事例としては以下の通りです。

  • 認知症の徘徊を夜通し見守る必要がある
  • 通院の付き添いで毎週平日を空けなければならない
  • 「自分しか世話できない」という思い込みで疲弊する

たとえば、突然の転倒や発熱、急な通院への付き添いといった出来事は、仕事中であっても即座に対応せざるを得ません。

また、介護者は責任感や罪悪感を抱えやすく、孤独を感じやすい傾向にあります。こうした精神的なプレッシャーが積み重なり、最終的に離職という選択をせざるを得なくなるケースが少なくありません。

2. 支援制度や介護サービスを知らない

介護をひとりで抱え込んでしまう背景には、制度やサービスの存在を知らないという問題があります。

介護休業制度や訪問介護、ショートステイなど、介護保険制度を通じて利用できるサービスは多くあります。

代表的な制度は以下の通りです。

制度名内容
介護休業制度最大93日まで取得可能(分割取得可)
介護休暇制度年5日まで取得可能(対象家族1人)
短時間勤務制度所定労働時間の短縮が可能

制度の複雑さや手続きの煩雑さから、そもそも調べる時間が取れない、あるいは「面倒くさい」と感じてしまい、情報収集を後回しにする人が多いのが現実です。

さらに、介護の相談窓口であるケアマネジャーや、地域包括支援センターの存在を知らない人も多いのが現状です。

制度を正しく知り、活用することで離職を防ぐ選択肢が広がるでしょう。

3. 職場に相談しづらく、制度も利用しにくい

企業が利用できる支援制度が存在していても、活用できない職場環境も問題です。

多くの日本企業では「介護は家庭の問題」という価値観が根強く残っています。

そのため、介護について職場に相談すること自体が心理的にハードルとなり、「迷惑をかけたくない」「評価が下がるのでは」と感じて制度利用を諦めてしまう人も少なくないでしょう。

企業側では介護支援に関する助成制度を利用できます。

企業が活用できる主な支援策は以下の通りです。

  • 介護休業支援助成金:介護休業を取得しやすい体制づくりへの補助
  • 介護両立支援制度導入支援:短時間勤務や在宅勤務制度の導入促進

従業員が制度を使えないまま介護と仕事の両立に苦しみ、最終的に離職にいたるケースは後を絶ちません。

職場と社員が互いに歩み寄り、制度を活用できる環境を整備することが重要です。

4. 今後の生活やキャリアに対する不安が大きい

介護がいつ終わるのか先が見えない、自分のキャリアについてもどうすればよいかわからないなどの漠然とした不安も、介護離職を決断させる要因のひとつです。

たとえば、「このまま仕事を続けていても、どこかで限界が来るのではないか」と感じたとき、体力的・精神的に余裕があるうちに自ら退職を選ぶ人もいます。

40代以降では再雇用のチャンスが限られており、一度離職してしまうとキャリアに大きなブランクが生まれる恐れがあります。

不安を軽減するためには、キャリア支援や柔軟な働き方の提供も必要です。

介護離職が起きた場合のリスク

介護離職がもたらす影響は、本人だけにとどまりません。企業や社会全体にも波及し、深刻な問題を引き起こします。

ここでは、シーン別に介護離職のリスクを整理し、それぞれが抱える課題を解説します。

本人へのリスク

介護離職の直接的な影響は、離職した本人におよびます。

よくあるリスク例としては以下の通りです。

  • 経済的リスク
  • 精神的リスク
  • キャリア的リスク

安定した収入が絶たれることで、生活水準の維持が難しくなります。

また、介護はいつ終わるかわからないため、収入の見通しが立たない状態が長く続く可能性も低くはありません。

精神的リスクでは、介護に専念することで社会との接点が減り、孤独感や無力感を抱く人も少なくないでしょう。

再就職に関しても、ブランクや年齢によって難易度が上がり、希望条件での復職が困難になるケースもあります。

リスクを避けるには、事前に情報収集を行い、利用できる支援制度を把握しておくことが大切です。

企業へのリスク

介護離職は、企業にとっても大きな損失となり、熟練人材の流出が大きなリスクとしてあげられるでしょう。

中堅〜ベテラン層が介護離職することで、業務ノウハウの継承が困難になり、組織の生産性が低下するリスクがあります。

代替要員の採用や育成にはコストと時間がかかり、企業経営への負担が増します。

さらに、職場のメンバーが突然離脱することで、残された社員に業務が集中し、負担感や不満が高まることもあるでしょう。

職場全体の士気が下がり、さらなる離職を引き起こす悪循環に陥りかねません。

介護と仕事の両立支援策を企業が積極的に導入し、リスクを最小限に抑える姿勢が大切です。

社会へのリスク

介護離職が社会全体に及ぼす影響として、以下の3つがあります。

  • 労働力人口の減少
  • 社会問題増加
  • 福祉コストの増加

生産年齢層の離職が相次ぐと、日本全体の経済活動が縮小し、税収にも影響を及ぼします。

また、介護を家庭に任せる風潮が強まることで、家庭内での介護負担が集中しやすくなり、介護疲労や介護うつなど二次的な社会問題を引き起こすでしょう。

さらに、要介護者の増加に伴い、介護保険財政への圧力が強まり、支援制度の持続性にも影響が出る可能性があります。

今後は、介護と就労の両立を支援する制度整備と、社会全体の意識改革が必要です。

介護離職を防止するための4つの対策

介護離職は、本人や企業・社会にとって大きな損失につながります。

しかし、あらかじめ準備し、適切な対策を取ることで、仕事と介護の両立は可能です。

ここでは、介護離職を防ぐために有効な4つの対策を紹介します。

1. 制度を正しく理解し早めに相談・準備する

介護離職を防ぐうえで重要なのは、制度を知らないまま介護に直面する事態を避けることです。 

早めに押さえておきたい制度や情報は以下の通りです。

制度・項目内容
要介護認定市区町村へ申請し、介護度を判定。申請から1〜2ヶ月かかることもある
介護保険サービス訪問介護・通所介護・福祉用具レンタルなど、1〜3割の自己負担で利用可能
介護休業・介護休暇介護を理由に一定期間の休業・短期の休暇を取得できる法定制度

まず、要介護認定や介護保険サービスを利用するには手続きが必要であり、申請から利用開始までに1ヶ月以上かかるケースも少なくありません。

また、介護休業制度や介護休暇制度といった職場での支援制度も知っておくべきです。

制度を知っているかどうかで、将来の選択肢や心構えが大きく変わります。

不安になってからではなく、もしものときのために、事前の情報収集と相談を心がけましょう。

2. 職場に相談しやすい環境をつくる

制度が整っていても、実際に使えるかどうかは職場の雰囲気次第です。

多くの社員が「迷惑をかけたくない」「評価が下がりそう」といった理由で、介護の悩みを職場に言い出せず、支援制度を利用できないまま離職にいたっています。

そのため、介護を含むライフイベントについて、オープンに話せる心理的安全性のある職場づくりが求められます。

企業側も、制度を「あるだけ」にせず、実際に活用される環境づくりを進めることが重要です。

企業の取り組み例は以下の通りです。

  • 社内に介護相談窓口を設置し、安心して相談できる体制をつくる
  • 介護と仕事の両立を支援するガイドラインやマニュアルを整備する
  • 介護に関する研修やハラスメント防止策を導入し、管理職の理解を促進

職場のサポート体制が整えば、社員は制度を積極的に活用でき、離職リスクを大幅に下げられます。

3. 柔軟な働き方を取り入れる

介護が必要になっても、働き方を調整することで仕事を続けることは十分可能です。

実際には、通院の付き添いやデイサービスの送迎など、特定の時間帯だけ外せる働き方ができれば、十分に仕事を続けられるケースも多いのです。

このようなニーズに応えるための柔軟な働き方には、以下のようなものがあります。

  • テレワーク:自宅からの勤務で、移動の負担や急な対応に柔軟に対応
  • 時差出勤:介護の都合に合わせて勤務時間を調整
  • 短時間勤務・フレックスタイム制:労働時間を調整しやすくする

働き方の選択肢が増えることで、仕事を辞めるしかないという思考から、両立できる方法を探す前向きな選択に変わっていきます。

柔軟な働き方を企業が率先して取り入れ、従業員が働きやすい状態も視野に入れましょう。

4. 介護サービスを積極的に活用する

介護離職を防ぐには、自分ひとりでなんとかしようと抱え込まないことが大切です。

公的・民間の介護サービスを活用すれば、心身の負担を軽減しながら仕事を続けることが可能になります。

代表的な介護サービスは以下の通りです。

サービス名概要
訪問介護ヘルパーが自宅を訪問して生活援助・身体介護を提供
デイサービス日中の通所型介護施設で入浴・食事・リハビリ等を提供
ショートステイ一時的に施設に宿泊できる介護支援サービス
地域包括支援センター地域の介護相談・制度案内・ケアマネ紹介の窓口

訪問介護やデイサービス、ショートステイなどは介護保険制度の対象であり、自己負担も1〜3割程度と比較的利用しやすいのが特徴です。

また、地域包括支援センターを活用すれば、制度やサービスの紹介、申請手続きの支援なども受けられます。

頼れるサービスは積極的に使うことが、介護者自身の生活とキャリアを守る第一歩です。


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