• 更新日 : 2025年7月11日

在宅勤務・テレワークの就業規則で規定すべき項目は?記載例や運用のポイントも解説

在宅勤務やテレワークが急速に普及し、働き方の選択肢が広がる一方で、企業には新たな労務管理の課題が生じています。従来のオフィス勤務を前提とした就業規則だけでは、労働時間管理、費用負担、情報セキュリティといった在宅勤務特有の状況に十分対応できず、思わぬトラブルを招くことがあります。

この記事では、なぜ在宅勤務に特化した就業規則の規程が必要なのか、具体的にどのような項目を定め、どのように作成・運用していくべきかをわかりやすく解説します。

在宅勤務・テレワークに特化した就業規則の規程が必要な理由

オフィス勤務を前提とした従来の就業規則だけでは、在宅勤務特有の状況に対応しきれない場面が多く発生します。従業員が安心して生産的に在宅勤務に取り組み、企業として適正な労務管理とコンプライアンスを遵守するためには、在宅勤務の実態に即した規程を就業規則に設けることが重要です。

在宅勤務・テレワークに関する規程の整備にあたっては、厚生労働省が公表している「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」や「テレワークモデル就業規則」などを参考に、自社の状況に合わせて具体的に定めるのがよいでしょう。

参考:テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン|厚生労働省テレワークモデル就業規則|厚生労働省

在宅勤務・テレワークの就業規則の必須項目と記載例

在宅勤務・テレワークに関する就業規則(テレワーク規程または在宅勤務規程)を作成・変更する際には、必要事項を具体的に定めることが求められます。

ここでは、ポイントとなる項目について記載例を挙げて解説します。

1. 在宅勤務の定義と対象者

  • 定義
    在宅勤務とは何かを明確に定義します。例「在宅勤務とは、従業員が情報通信機器を利用して、自宅その他会社が業務遂行に適すると認めた場所(以下「自宅等」という。)において業務に従事する勤務形態をいう。」
  • 対象者
    どのような従業員が在宅勤務制度を利用できるのかを定めます。全従業員を対象にすることも、対象者を限定することも可能です。業務内容、職種、勤続年数、役職、本人の希望や適性、情報セキュリティ環境などを考慮して対象者を決定します。例「在宅勤務の対象者は、原則として勤続1年以上の正社員のうち、所属長が業務遂行上支障がなく、かつ在宅勤務に適すると認めた者とする。ただし、会社が特に必要と認めた場合はこの限りではない。」
  • 対象業務
    在宅での実施が可能な業務と、そうでない業務を明示することも有効です。

2. 在宅勤務の申請・承認手続き

  • 申請方法・承認基準・承認権者
    申請書の様式、提出期限、承認・不承認の基準、承認権者を明確にします例「在宅勤務を希望する者は、原則として開始日の●営業日前までに、所定の申請書に必要事項を記載し、所属長を経由して人事部に提出し、承認を得なければならない。会社は、業務の都合その他やむを得ない事由がある場合には、申請を承認しないことがある。」
  • 変更・解除の手続き
    在宅勤務の頻度変更や、在宅勤務からオフィス勤務への切り替えに関する手続き、会社からの指示による変更・解除の条件(業務上の必要性、服務規律違反、情報セキュリティインシデント発生時など)と、従業員からの申し出による条件を定めます。例「会社は、業務上の必要性がある場合、または従業員が在宅勤務に関する諸規程に違反した場合には、在宅勤務の承認を取り消し、または勤務形態の変更を命じることができる。」

3. 労働時間管理

在宅勤務における労働時間管理は最も重要な項目の一つです。在宅勤務でも労働基準法が適用されるため、適正な管理体制の構築が求められます。

在宅勤務の従業員の労働時間をオフィス勤務者と同じ労働時間制とする場合は、本則の規定を準用して問題ありません。

例「在宅勤務時の労働時間については、原則、就業規則第●条の定めるところによる。」

  • 始業・終業時刻の記録・報告
    客観的な記録方法(メール、チャットツール、勤怠管理システムへの入力など)を定めます。原則として実労働時間で管理します。例「始業時刻及び終業時刻は、就業規則第●条の規定にかかわらず、原則として会社指定の勤怠管理システムへの打刻により記録する。打刻漏れや修正が必要な場合は、速やかに所属長に報告し指示を受けること。」
  • 休憩時間
    法定の休憩時間を確実に取得できるよう定めます。
    例「休憩時間は、原則として12時から13時までの1時間とする。業務の都合により変更する場合は、事前に所属長の許可を得て、勤務時間の途中に取得すること。」
  • 中抜け(私用外出)
    認める場合のルール(事前申請、事後報告、時間単位の有給休暇扱いなど)を明確にします。例「業務時間中の私的な離席(中抜け)は、原則として認めない。ただし、やむを得ない理由で中抜けする場合は、事前に所属長の許可を得るものとする。この場合、中抜けした時間は休憩時間として取り扱い、労働時間から除外する。」
  • 時間外労働、休日労働、深夜労働
    原則として事前申請・許可制とし、上限時間や割増賃金の支払いについて明記します。例「時間外労働、休日労働または深夜労働(以下「時間外労働等」という。)は、原則として命じない。業務上の必要により時間外労働等を行う場合は、事前に所属長の承認を得なければならない。承認を得て行った時間外労働等については、賃金規程第●条の規定に基づき割増賃金を支払う。」

4. 服務規律

在宅勤務においても、従業員は会社の服務規律を遵守する義務があります。

  • 職務専念義務
    勤務時間中は業務に専念することを明記します。例「在宅勤務中といえども、所定の勤務時間中は職務に専念し、私的な行為(許可された中抜けを除く)を慎まなければならない。」
  • 情報セキュリティ
    機密情報・個人情報の取り扱いルール、私物PC・スマートフォンの業務利用の可否と条件、セキュリティインシデント発生時の報告手順などを厳格に定めます。別途、詳細な情報セキュリティ規程を設けることが望ましいです。例「業務に関する情報(機密情報、個人情報を含む)の取り扱いについては、別途定める情報セキュリティ規程を遵守しなければならない。許可なく会社の情報を自宅等のPCに保存したり、私物の記憶媒体にコピーしたりしてはならない。」
  • ハラスメント防止
    オンライン環境下での各種ハラスメントを防止するための指針、相談窓口を明記します。例「在宅勤務中におけるオンラインツール等を利用したコミュニケーションにおいても、相手に不快感を与える言動(セクシャルハラスメント、パワーハラスメント等に該当する行為)を行ってはならない。ハラスメントに関する相談窓口は人事部とする。」
  • 会社の施設・物品の適切な利用
    貸与されたPCや業務資料等の適切な管理・利用について定めます。例「会社が貸与したパソコン、プリンタ等の情報通信機器、ソフト、業務資料等は適切に扱い、また、会社の許可を受けずに会社が認めていないソフトウェアをインストールしてはならない。」

5. 費用負担

在宅勤務に伴い発生する費用について、会社と従業員のどちらがどの範囲まで負担するのかを明確に定めます。

  • 通信費・光熱費
    全額会社負担、一部会社負担(上限設定、在宅勤務手当として一律支給など)、従業員負担など、具体的な取り扱いを明記します。例「在宅勤務に必要な通信回線及びそれに係る費用は、原則として従業員の負担とする。ただし、会社は在宅勤務手当として月額●●円を支給し、これに充当するものとする。」
  • 業務に必要な物品
    会社が貸与するのか、従業員の私物利用を認めるのか、従業員が自己負担で購入する場合の補助制度の有無などを定めます。例「業務に必要なPC及び関連機器は会社が貸与する。貸与品以外の物品(事務用品、デスク、椅子等)の購入費用は、原則として従業員の負担とする。」

6. コミュニケーション手段・報告体制

円滑な業務遂行と従業員の孤立防止のため、コミュニケーションに関するルールは重要です。

  • 定例報告・連絡手段
    業務の進捗状況、成果物、課題などを報告する頻度、方法、主に使用するコミュニケーションツール(メール、チャット、ビデオ会議システムなど)を指定します。例「毎日の始業時及び終業時には、会社指定のチャットツールにて所属長に報告を行う。週に一度、チームミーティングをオンラインで実施する。」
  • 緊急時の連絡体制
    業務上のトラブル発生時や、災害時などの連絡方法を明確にします。

7. 健康管理・安全配慮義務

企業は在宅勤務を行う従業員に対しても安全配慮義務を負います。

  • 健康状態の確認・作業環境の整備
    定期的なアンケート、オンライン面談、作業環境整備に関する情報提供や指導について定めます。例「会社は、従業員の健康状態を把握するため、定期的にオンラインでの面談を実施することがある。従業員は、自宅等の作業環境が安全かつ衛生的であるよう自ら配慮し、長時間労働や不適切な作業姿勢による健康障害の予防に努めなければならない。」
  • 労働災害(労災)の適用
    在宅勤務中の業務に起因する傷病は労災保険の対象となることを明記し、事故発生時の報告手順を定めます。業務遂行性と私的行為との切り分けが重要です。例「在宅勤務中に業務に起因して負傷、疾病または死亡した場合は、労働基準法または労働者災害補償保険法の定めるところにより補償給付が行われる。災害発生時は速やかに所属長及び人事部に報告すること。」

8. 教育訓練

在宅勤務を円滑に実施するために必要な教育訓練(情報セキュリティ、コミュニケーションツール利用、自己管理など)について定めます。

例「会社は、在宅勤務を行う従業員に対し、情報セキュリティ、労働時間管理、コミュニケーションツールの利用等に関する必要な教育訓練を適宜実施する。」

9. 人事評価

在宅勤務者の人事評価が不利益にならないよう、公平性・透明性を確保するための評価方法を検討し、明記します。成果や貢献度を重視した評価基準が一般的です。

例「在宅勤務を行う従業員の人事評価は、オフィス勤務者との公平性を確保し、勤務場所によって不利益な取り扱いを行わない。評価は、業務成果、職務遂行能力、貢献度等を総合的に勘案して行う。」

10. 通勤手当の扱い

在宅勤務の導入に伴い、通勤手当の取り扱いを見直す必要があります。

例「在宅勤務を主とする従業員については、原則として通勤手当は支給しない。ただし、業務命令により出社した場合は、その実費を支給する。」

11. 災害時の対応

地震、台風、感染症の流行など、災害発生時における在宅勤務者の業務継続や安否確認について定めます。

12. 懲戒規定

在宅勤務中の服務規律違反や従業員の過失により情報漏洩などが発見された場合に、就業規則本則の懲戒規定が適用されることを明記します。在宅勤務特有の事由を懲戒事由として具体的に列挙することも検討します。

在宅勤務・テレワークの就業規則を作成・変更する方法

在宅勤務に関する就業規則を新たに作成したり、既存の就業規則を変更したりする際には、以下のステップと法的な注意点を押さえておく必要があります。

1. 現状分析と制度設計

導入目的の明確化、対象業務・対象者の検討、課題の洗い出しと対策、トライアル導入の検討などを行います。

2. 就業規則(案)の作成

自社の実情に合った就業規則(または在宅勤務規程)の案を作成します。

3. 厚生労働省モデル就業規則やひな形の活用

厚生労働省が提供する「テレワークモデル就業規則」や、マネーフォワード クラウドが提供する無料のテンプレートは、一般的な項目を網羅しているため、たたき台として有効です。

しかし、これらをそのまま利用するのではなく、必ず自社の業種、規模、業務内容、企業文化、在宅勤務を導入する目的や実態に合わせて、必要な修正や追加を行う必要があります。カスタマイズにあたっては、社会保険労務士などの専門家のアドバイスを受けるのも有効です。

4. 労働者の意見聴取

就業規則を作成・変更する際には、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません。意見書への意見の記入と記名または署名が必要です。

5. 就業規則(在宅勤務規程)の労働基準監督署への届出

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成または変更した場合、所轄の労働基準監督署長に届け出る義務があります。在宅勤務に関する規定を独立した「在宅勤務規程」として定めた場合でも、従業員の労働条件や服務規律を定めるものは就業規則の一部となりますので、届出が必要です。

6. 従業員への周知

作成・変更した就業規則は、従業員に周知しなければ効力が発生しません。事業場の見やすい場所への掲示、書面での交付、社内イントラネットへの掲載など、従業員がいつでも容易に確認できる方法で周知する必要があります。説明会の実施も有効です。

在宅勤務・テレワークの就業規則を作成・変更しない場合のリスク

既存の就業規則を在宅勤務の実態に合わせて変更しない場合、以下のようなリスクが考えられます。

  • 労働時間管理の不明確さによる未払い残業代請求のリスク
  • 費用負担の曖昧さによる従業員とのトラブル
  • 情報セキュリティ対策の不備による情報漏洩リスク
  • 服務規律の適用範囲の解釈を巡るトラブル

これらのリスクを避けるため、就業規則の改定は重要です。

在宅勤務・テレワークに関する規定は、就業規則の本則に盛り込むこともできます。しかし、すべての条文を見直す大規模な改定が難しい場合は、就業規則の本則の適用範囲などに委任規定を設け、従業員にとってわかりやすいように、既存の就業規則の本則とは別に、在宅勤務・テレワークに特化した規程を別途定める方法も有効です。

この場合、本則の変更を最小限に抑えられ、一部の従業員のみを対象とする場合など、柔軟な対応が可能になるでしょう。重要なのは、法的な要件を満たし、労使双方にとって明確でわかりやすいルールを定めることです。

委任規程の例「従業員のテレワーク勤務に関する事項については、この規則に定めるもののほか別に定めるところによる。」

在宅勤務・テレワークの導入に活用できる助成金・補助金

国や地方自治体では、中小企業などを対象に、テレワーク導入・運用を支援するためのさまざまな助成金や補助金制度を設けている場合があります。これらの支援策は、以下のような経費の一部を助成するものです。

  • 就業規則・労使協定等の作成・変更費用
  • テレワーク用通信機器の導入・運用費用
  • クラウドサービス導入・利用料
  • テレワークに関する研修費用
  • サテライトオフィスの利用料 など

助成金・補助金の種類や内容は、年度や時期によって変更されたり、募集期間が限定されていたりします。また、支給要件もそれぞれ異なります。

関心のある企業は、厚生労働省のウェブサイト、中小企業庁のウェブサイト、各都道府県や市区町村の産業振興担当課のウェブサイトなどを定期的に確認し、最新情報を入手することをおすすめします。申請にあたっては、募集要領などをよく読み、計画的に準備を進めることが重要です。

在宅勤務・テレワークの就業規則を運用するポイント

就業規則は作成して終わりではありません。効果的に運用し、労使双方にとってよりよい在宅勤務環境を築くためのポイントと、トラブルを未然に防ぐためのポイントを紹介します。

周知徹底と継続的な教育・意識啓発

定期的な説明会、Q&A集の共有、相談窓口の設置などを通じて、従業員の理解を深めます。特に情報セキュリティや自己の健康管理については、継続的な意識啓発が重要です。

労働時間管理の客観性と適正性の確保

勤怠管理システムの適切な活用、管理職への教育、長時間労働の未然防止策(アラート機能、残業の事前承認制の徹底など)、「つながらない権利」への配慮などを徹底します。

コミュニケーションの質と量の確保・工夫

定期的なオンラインミーティング、チャットツールの効果的活用、1on1ミーティングの実施、バーチャルオフィスの導入検討など、孤立感を防ぎ、チームワークを維持するための工夫を凝らします。

情報セキュリティ対策の徹底とアップデート

定期的なセキュリティ研修とテスト、貸与PCのセキュリティ設定強化、インシデント発生時の対応訓練などを実施し、常に最新の脅威に対応できるような対策をアップデートします。

作業環境と健康管理への配慮強化

従業員が自宅等で安全かつ健康的に働けるよう、作業環境整備に関する情報提供、自己点検チェックリストの活用、オンライン産業医面談の機会提供、メンタルヘルスサポートの充実などを図ります。特に、労働災害防止の観点から、業務起因性と私的行為の切り分けに関する注意喚起や、長時間労働・不適切な作業姿勢による健康障害リスクの周知は重要です。

定期的な見直しと改善プロセスの確立

従業員アンケートの実施、運用状況のモニタリング、関連法規の改正や社会情勢の変化への対応を通じて、定期的に就業規則や運用方法を見直し、改善していくプロセスを確立します。

在宅勤務・テレワークの就業規則を整備しましょう

在宅勤務やテレワークを円滑かつ適法に運用するためには、その実態に即した就業規則の整備が不可欠です。明確なルールは、労働時間管理の適正化、費用負担や情報セキュリティに関するトラブル防止、そして、従業員の公平な処遇と安心感の確保に繋がり、結果として生産性の向上や企業全体の信頼性向上にも貢献します。

厚生労働省のガイドラインやひな形を参考にしつつ、自社の状況に合わせて在宅勤務の実態に即した規程を就業規則に設けましょう。


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