• 更新日 : 2025年7月11日

高年齢雇用継続基本給付金が廃止されるのはいつ?企業への影響や対策も解説

高年齢雇用継続基本給付金は、60歳から65歳未満の被保険者を対象に、賃金が下がった場合にその一部を補填する目的で支給されている制度です。しかし、この制度は近年の高年齢者雇用政策の変化を受けて、段階的な縮小を経て将来的に廃止される方針が打ち出されています。

この制度変更は、企業の経営者や人事担当者にとって、高齢者の雇用戦略を見直す重要な契機となります。この記事では、高年齢雇用継続基本給付金の廃止時期、その背景、企業が受ける影響、そして今から講じるべき対策について解説します。

高年齢雇用継続基本給付金はいつ廃止されるのか?

高年齢雇用継続基本給付金は、一律に廃止されるのではなく、段階的に縮小された後に廃止される予定です。2020年度の通常国会において、この方針が決定されました。背景には、65歳までの雇用確保措置がすでに企業に義務付けられ、多くの企業が対応を進めてきたことがあります。

高年齢雇用継続基本給付金の廃止に向けた第一段階として、2025年4月から支給率が縮小されました。その後も段階的に制度が縮小され、2030年度を目途に完全廃止されるという見方も出ていますが、2025年7月時点、今後の正式な方針発表を待つ必要があります。

【2025年4月改正】高年齢雇用継続基本給付金の縮小

2025年4月1日より、高年齢雇用継続基本給付金制度は縮小されました。従来、60歳以降の賃金が60歳時点の75%未満に低下した状態で働く60歳以上65歳未満の雇用保険被保険者に対して、賃金の低下率に応じて最大15%の給付金が支給されていました。しかし、改定に伴い、2025年4月1日以降に60歳になる方については、以下の表のとおりの運用となります。

適用開始日最大給付率賃金低下率の条件
2025年3月31日まで15%61%以下
2025年4月1日以降10%64%以下

2025年の4月の改正により、賃金低下率が64%以下の場合の支給率は、従来の15%から10%に引き下げられました。また、賃金低下率が64%を超え75%未満の場合の支給率も、低下率に応じて逓減する仕組みに変更はありません。なお、現在すでに高年齢雇用継続基本給付金を受給している方は、2025年4月1日以降も従来の支給率が適用されます。

高年齢雇用継続基本給付金が廃止される背景

高年齢雇用継続基本給付金の廃止は、制度そのものの役割が変化しつつあることを反映した政策判断です。その背景には、日本における高齢者雇用の環境が大きく変化してきた現状があります。

法改正による雇用環境の整備

最大の要因は、高年齢者雇用安定法の改正です。2013年4月の改正により、企業は原則として65歳までの雇用確保措置を講じることが義務付けられました(定年の引き上げ、継続雇用制度の導入、定年制の廃止など)。さらに2021年4月には、70歳までの就業機会を確保することが努力義務として定められ、高齢者がより長く働ける法的環境が整備されています。

「同一労働同一賃金」の浸透

加えて、同一労働同一賃金の原則が広く適用されるようになったことも大きな要因です。年齢による賃金格差が見直されつつあり、再雇用時に大きく賃金が下がるという従来の前提が変わってきています。これにより、賃金低下を補う目的で支給されていた給付金の必要性が相対的に低くなってきたのです。

高齢者の就労意欲の高まり

実際、内閣府の調査によれば、65歳以上でも希望すれば働ける企業は全体の8割を超えており、また高齢者自身の就労意欲も高まっています。こうした社会的・経済的背景を踏まえ、政府は「高年齢雇用継続基本給付金の役割は一定程度果たされた」との判断に至りました。

このように、法制度の整備や社会意識の変化により、高齢者が安定して働ける環境が整ってきたことが、給付金の縮小・廃止に向かう要因となっています。

高年齢雇用継続基本給付金の廃止まで手続きは同様

高年齢雇用継続基本給付金の制度が廃止されるまでの間は、これまでと同様の申請手続きが必要です。現在、高年齢雇用継続基本給付金を受給するには、以下のようなステップを踏む必要があります。

給付の対象者

高年齢雇用継続基本給付金の対象となるのは、以下のすべての条件を満たす60歳以上65歳未満の雇用保険被保険者です。

  • 60歳時点の賃金と比較して、賃金が75%未満に低下していること
  • 雇用保険に通算5年以上加入していること
  • 再雇用・継続雇用などで、引き続き雇用保険の適用を受けていること

なお、給付金は本人の申請があって初めて支給されるため、企業が手続きを代行していても本人の協力が不可欠です。

申請手続きの流れ

初回申請

給付の対象となる月の初日から起算して、4ヶ月以内に所轄のハローワークへ申請を行います。この期限を過ぎると、当該月の給付が受けられないため、特に注意が必要です。

【主な必要書類】
  • 高年齢雇用継続給付支給申請書
  • 雇用契約書(または就業条件明示書)
  • 賃金台帳、出勤簿、賃金明細書などの賃金証明書類
  • 雇用保険被保険者証など、ハローワークが指定する書類

2回目以降の申請

初回申請が承認された後、ハローワークから交付される「高年齢雇用継続給付 次回支給申請日指定通知書」に記載された期日までに、原則として2か月ごとに申請を行う必要があります。こちらも期限厳守でないと給付が打ち切られる可能性があります。

高年齢雇用継続基本給付金の廃止によるデメリット

高年齢雇用継続基本給付金の廃止は、企業と高齢者双方に影響を与える可能性があります。特に、高齢者を戦力として積極的に雇用してきた企業にとっては、経済的・人的な課題が浮上する可能性があります。

企業側のデメリット:人件費の増加とモチベーション管理

まず企業側にとって最も大きな懸念は、人件費の上昇です。これまで、定年後に再雇用された高齢者の賃金が下がった場合でも、給付金によってその一部が補填されていました。しかし制度廃止後は、この補填がなくなり、企業が実質的な補償を求められる場面が増える可能性があります。

特に65歳以上の社員を正社員やフルタイムで雇用している企業では、従業員の生活維持のために賃金水準を引き上げる必要が出てくるかもしれません。結果として、想定以上の人件費負担が経営を圧迫するリスクも考えられます。

加えて、給付金という補償がなくなることで、高齢者本人の就労意欲や働く目的が薄れ、モチベーションの維持が難しくなることも想定されます。これが職場のパフォーマンス低下や早期退職の増加につながる恐れもあります。

従業員側のデメリット:収入減と生活の不安定化

高齢者側にとっては、給付金の廃止は収入減という非常に現実的な問題です。再雇用や継続雇用でフルタイム勤務を続けても、現役時代に比べて賃金は大きく下がるケースが多く、これまでは給付金がその差を埋める役割を果たしてきました。

給付金がなくなることで、生活の安定性が損なわれ、生活費を補うために新たな職を探す、あるいは副業を検討する高齢者が増えることも予想されます。また、特別支給の老齢厚生年金を受給している場合、給付金と年金の調整制度が適用されていましたが、給付金廃止によりこの調整は不要になり、結果的に年金支給が満額に近づくケースもあるなど、一部にはプラスの影響もあります。

企業の事務的な負担が軽減される側面も

一方で、制度が廃止されることで、企業にとっては一定の事務負担がなくなる側面もあります。これまで煩雑だった申請業務や書類管理、支給額の確認などが不要となり、人事労務担当者の負荷が軽くなることが期待されます。

とはいえ、制度廃止による全体的な影響を見れば、企業にとっても高齢者にとってもデメリットの方が大きい可能性は否めません。特に、人手不足が続くなかで、高齢者の労働力を安定的に確保するためには、制度に代わる新たな対応策が求められます。

高年齢雇用継続基本給付金の廃止による企業の対策

高年齢雇用継続基本給付金の廃止は、企業の高齢者を雇用するにあたって大きな影響を与える可能性があります。企業は、この変化に対応するために、早めの準備と対策が求められます。

賃金制度の見直し

まず検討すべきは、賃金体系の見直しです。これまで高齢者の再雇用にあたっては、給付金による補填を前提に賃金を設定していた企業も少なくありません。制度廃止により、従業員の収入が実質的に減少するケースが出てくるため、企業は新たな評価軸に基づく給与体系を導入する必要があります。

例えば、業務の成果や貢献度、専門性を評価に反映させる「職務給制度」や、「スキル評価型の昇給制度」などが有効です。高齢社員が年齢に関係なく意欲を持って働き続けられるよう、報酬面での納得感を高める仕組みが求められます。

人件費の再計算

給付金の廃止に伴い、人件費の負担が企業側にシフトする可能性があるため、長期的な予算見直しも重要です。収入減の補填として企業が賃金を引き上げれば、その分だけ人件費が増加します。特に複数の高齢者を雇用している企業では、影響額を早期に試算し、経営計画に反映させる必要があります。

また、これまで支援策だった制度「高年齢労働者処遇改善促進助成金」は、2025年3月末で廃止されており、今後は企業独自の資金で高齢者の処遇改善を図っていく必要があります。

法的義務への対応

65歳までの雇用確保措置は、2013年4月の法改正により企業の義務となっています。さらに2021年の改正では、70歳までの就業機会の確保が努力義務として加わり、高齢者の就労環境整備が一層進められています。この法改正により、企業は希望する全ての従業員が65歳まで安心して働ける職場づくりを求められます。

具体的には、定年の引き上げ、再雇用制度の拡充、短時間勤務やフレックスタイム制度の導入など、多様な働き方の整備が効果的です。高齢者が持つ経験やスキルを最大限に生かす環境を整えることで、企業の競争力強化にもつながります。

社内説明と助成金の活用

制度変更に対して従業員が不安を抱えることが予想されるため、雇用や賃金の方針について丁寧に説明しましょう。従業員の理解を得ることで、不安を和らげることができます。

また、「65歳超雇用推進助成金」など他の支援制度も引き続き活用が可能です。これらの助成金を利用すれば、高齢者の職場環境改善やスキル向上支援を行う際のコスト負担を軽減できます。

高年齢雇用継続基本給付金以外に活用できる助成金制度

高年齢の雇用を促進し、支援するための給付金や助成金は、高年齢雇用継続基本給付金以外にもあります。これらの制度を活用することで、企業は高齢者の雇用をより積極的に進めることができます。

65歳超雇用推進助成金

「65歳超雇用推進助成金」は、65歳以上の定年引上げや定年の廃止、66歳以上の継続雇用制度の導入など、高年齢者の就業機会拡大に資する措置を行った事業主に対して支給される制度です。

この助成金にはいくつかのコースがあり、定年引上げや雇用管理制度の整備、無期雇用への転換支援など、多様な取り組みに応じた助成が用意されています。例えば以下のような金額が支給されることがあります。

  • 65歳への定年引上げ:15万円~30万円
  • 定年の廃止:40万円~160万円(条件により変動)

企業が主体的に制度改革を行うことで、高齢者の職場定着を促進できます。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

この制度は、60歳以上の高年齢者をはじめ、障がい者、シングルマザーなど、就職が困難な求職者をハローワークや職業紹介事業者等の紹介を通じて雇用した企業に対して支給される助成金です。

高年齢者を新規雇用した場合の助成額は以下の通りです。

  • 中小企業:1人あたり60万円
  • 中小企業以外:1人あたり50万円

人手不足に悩む中小企業にとって、即戦力となる高齢者人材の雇用を後押しする制度です。

高年齢雇用継続基本給付金の廃止に向けて企業は今から備えを

高年齢雇用継続基本給付金の段階的な廃止は、2025年4月の支給率縮小から始まります。企業は、この制度変更がもたらす影響を正確に理解し、早急な対策を講じる必要があります。具体的には、高齢者の賃金制度や雇用条件を見直し、従業員への丁寧な説明を行うとともに、他の支援策の活用も検討することが重要です。65歳までの雇用確保義務化と合わせて、高齢者が意欲と能力を発揮して活躍できる環境を整備することで、企業は持続的な成長と発展につなげることができるでしょう。


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