- 更新日 : 2025年7月11日
就業規則における振替休日と代休の記載例|記載なしの場合の対処法も解説
休日出勤の際の「振替休日」と「代休」は、法的な意味合いや割増賃金の扱いが大きく異なり、就業規則への記載方法も変わってきます。これらのルールが曖昧なままでは、意図せず法令に違反してしまったり、従業員との間で認識の齟齬が生じ、思わぬ労務トラブルに発展したりする可能性も少なくありません。
本記事では、振替休日と代休の基本的な違いから、それぞれの就業規則への具体的な記載例、運用上の注意点、さらには就業規則に規定がない場合の対処法に至るまで、わかりやすく解説します。
振替休日や代休の記載例を含む就業規則のテンプレートもご用意しましたので、ぜひダウンロードしてご活用ください。
目次
振替休日と代休の違い
まず、振替休日と代休の違いを明確に理解することが不可欠です。
振替休日とは
振替休日とは、あらかじめ休日と定められた日を労働日とし、その代わりに他の労働日を休日とする制度です。
- 事前の特定と通知
休日労働が行われる前日までに、振り替えるべき休日を具体的に特定し従業員に通知することが絶対条件です。 - 休日と労働日の交換
元の休日は労働日となり、新たに指定された日が休日となります。 - 労働基準法上の扱い
労働基準法第35条(休日)との関連で、適切に振り替えられれば、元の休日に労働させても法定休日労働とはなりません。 - 厚生労働省の通達
振替休日の運用に関しては、厚生労働省からも通達が出ており、これらも運用上の指針となります。例えば、振替休日はできる限り近接した日とすることなどが示されています。
代休とは
代休とは、休日労働が実際に行われた後で、その代償として他の労働日に休みを与える制度です。
- 休日労働の事実は残る
代休を与えても、休日労働(特に法定休日労働)が行われた事実は消えません。 - 割増賃金の支払い義務
したがって、法定休日に労働させた場合は、その労働時間に対して休日労働割増賃金(135%以上)の支払いが必要です。代休が無給であってもこの義務は免れません。 - 労働基準法上の直接規定なし
代休という制度自体を直接定めた労働基準法の条文はありませんが、法定休日に関する規定(第35条)や割増賃金(第37条)の規定と深く関連します。
項目 | 振替休日 | 代休 |
---|---|---|
手続きのタイミング | 事前(休日労働の前日まで) | 事後(休日労働の後) |
元の休日の扱い | 労働日となる | 休日労働が行われた休日として扱われる |
割増賃金(法定休日労働分) | 原則不要(ただし、週40時間超過分は時間外割増賃金が必要) | 必要(135%以上) |
就業規則の根拠 | 必要 | 任意(ただし規定推奨) |
法的性格 | 休日と労働日の交換 | 休日労働に対する事後の代償 |
関連する主な通達等 | 厚生労働省の通達あり(近接性の原則など) | 直接的な通達は少ないが、休日労働・割増賃金に関する通達が関連 |
代休の先取りは違法となる可能性がある
「休日出勤が予想されるから、先に代休を取っておいて」という指示は、法的に代休とは言えません。代休はあくまで事後の措置です。
もし事前に休みを指定するのであれば、それは「振替休日」の手続きに則る必要があります。事前の手続きなく「代休の先取り」として処理した場合、後日、休日労働に対する割増賃金の未払い問題が生じるリスクがあります。これは違法な運用と判断される可能性が高いです。
就業規則における振替休日の規定と運用ポイント
就業規則に振替休日の定めがない場合、会社が一方的に「今日は振替休日だから出勤、代わりに○日を休み」と命じても、法的には有効な振替休日として認められないリスクがあります。その結果、休日出勤として扱われ、割増賃金の支払い義務が生じる可能性があります。
就業規則に振替休日の規定がない場合の対処法
もし現在、就業規則に振替休日の規定がない状態で運用してしまっている場合は、速やかに以下の対応を検討してください。
- 現状の運用確認
従業員との間でトラブルが生じていないか、割増賃金の支払いは適切かを確認します。 - 就業規則の変更手続き
振替休日に関する規定を新たに追加する就業規則の変更手続きを行います(従業員代表の意見聴取、労働基準監督署への届出など)。 - 従業員への説明
新たに規定を設ける旨、その内容を従業員に丁寧に説明し、理解を得ます。
就業規則に記載すべき振替休日の内容
振替休日制度を適切に運用するためには、以下の項目を就業規則に明記しましょう。
- 振替休日を命じることができる旨の根拠
- 振替の対象となる休日
- 振替休日の特定方法
- 振替日の通知方法と時期
- 振替休日の取得期限
振替休日を会社が指定できる旨を規定する場合でも、従業員の不利益にならないよう、できる限り事前に従業員の予定等も考慮し、早めに通知することが望ましいです。
就業規則における振替休日の記載例
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振替休日が週をまたぐ場合の割増賃金と4週4休の原則
振替休日が週をまたいで設定された結果、ある週の労働時間が法定労働時間(週40時間)を超える場合、その超過部分については時間外労働となり、125%以上の割増賃金が必要です。
また、労働基準法第35条第2項では「4週間を通じ4日以上」の休日を確保することが求められています(4週4休の原則)。振替休日の運用にあたっては、この原則を遵守することも重要です。
厚生労働省の通達から見る振替休日のポイント
厚生労働省の通達では、振替休日の運用について以下のような点が示されています。
- 就業規則等に振替休日制度を設ける旨を規定すること
- 振り替えるべき日をできる限り近接した日に設定すること
- 事前に振替休日を特定して通知すること
これらの通達内容は、就業規則の整備や実際の運用において必ず参照すべきです。
就業規則における代休の規定と運用ポイント
就業規則に代休の規定がない場合でも、会社が任意で代休を与えること自体は可能です。 しかし、ルールが不明確なため、以下のようなリスクが考えられます。
- 取得の可否や条件が曖昧で、従業員間に不公平感が生じる。
- いつまでに取得すべきか分からず、未取得の代休が溜まり続ける。
- 代休の賃金の取り扱い(有給か無給か)でトラブルになる。
- 代休を与えたことで、法定休日労働に対する割増賃金の支払い義務を会社が失念する。
就業規則に代休の規定がない場合の対処法
- 労使での話し合い
まず、代休制度の導入や運用ルールについて、従業員と十分に話し合い、合意形成を図ることが重要です。 - 就業規則に規定追加
上記リスクを回避するため、就業規則に代休に関する規定を設けることを検討しましょう。その際、労働者代表の意見を聴取し、労働基準監督署へ届け出る手続きが必要です。 - 個別合意書の作成
就業規則にすぐに規定できない場合でも、休日出勤が発生する都度、代休の取得条件や賃金の取り扱いについて個別に合意書を取り交わすことで、後のトラブルを予防する効果が期待できます。
就業規則に記載すべき代休の内容
代休制度を運用する場合、就業規則には以下の項目を定めておくとよいでしょう。
- 代休を付与する条件
- 代休の取得申請手続き
- 代休の取得期限
- 代休の賃金の取り扱い
- 時間単位での代休取得の可否
- 会社による取得日の指定・変更権
就業規則における代休の条文の記載例
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振替休日や代休の運用でよくあるトラブルと予防策
振替休日や代休の運用においては、以下のような労務トラブルが発生しがちです。事前の対策で未然に防ぎましょう。
割増賃金の計算ミス
振替休日と代休の割増賃金の取り扱いを混同してしまうことから起こることが多いです。この対策としては、給与計算担当者が両制度の違いを正確に理解し、就業規則と勤怠記録に基づいて正しく割増賃金を計算し支給することが重要です。
振替・代休の管理不備
対策としては、勤怠管理システムなどを活用して取得状況を可視化し、管理職が部下の取得を奨励・管理する体制を整えることが効果的です。また、取得期限を設け、それを従業員に周知することも有効でしょう。
事前の説明不足による不信感
従業員が制度を十分に理解しないまま運用されてしまうと、不満を抱くことにつながります。この対策としては、就業規則の内容を丁寧に説明し、質疑応答の機会を設けるなど、従業員の理解促進に努めることが求められます。
振替休日と代休を就業規則で正しく規定しましょう
本記事では、振替休日と代休の明確な違い、それぞれの法的要件、就業規則への適切な記載方法、そして運用上の注意点について、具体的な記載例や厚生労働省の通達、関連する労働基準法の条文を交えながら詳しく解説しました。
これらの制度を正しく理解し、就業規則に適切に規定し運用することは、割増賃金の適正な支払いはもちろんのこと、従業員との信頼関係を築き、無用な労務トラブルを未然に防ぐ上で極めて重要です。
ぜひこの機会に、貴社の就業規則における休日・休暇の規定をご確認いただき、必要に応じて専門家にも相談しながら、見直しをご検討ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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