- 更新日 : 2025年7月11日
勤務延長と再雇用の違いとは?メリット・デメリットや制度の選び方を解説
企業が定年後も社員に働き続けてもらう仕組み(継続雇用制度)として、「勤務延長」や「再雇用」の制度が広く使われています。どちらも高年齢者を雇用し続けるための継続雇用制度ですが、契約内容や給与、雇用形態などに違いがあります。この記事では、勤務延長と再雇用の違いや選び方をわかりやすく解説します。
目次
勤務延長と再雇用の違いとは?
企業が高年齢者を雇用し続けるための制度には、「勤務延長制度」と「再雇用制度」の2種類があります。どちらの制度も高年齢者雇用安定法に基づく「高年齢者雇用確保措置」の一つとして位置づけられています 。
勤務延長は定年年齢に達した従業員を、退職させずにそのまま雇用し続ける制度です。一方、再雇用は定年退職した従業員を、改めて別の労働契約で雇用し直す制度です。
この二つの制度は、給与、雇用形態、労働条件、役職、そして手続きにおいて明確な違いがあります。
勤務延長と再雇用の給与の違い
勤務延長の場合、給与は原則として定年前と同水準で維持されることが多いです。ただし、企業によっては定年後の給与体系を別途定めている場合もあります。給与水準が大きく変動しないため、従業員は生活設計を立てやすいでしょう。
再雇用の場合、同一労働同一賃金の原則が適用されますが、新たな労働契約を結ぶため、業務内容や責任範囲の変更があれば給与水準が定年前より低くなるケースが一般的です。例えば、定年前の給与の50%から70%程度になることが多いです。業務内容や責任範囲の変更に伴い、給与額も調整されることを従業員に事前に説明することが欠かせません。
勤務延長と再雇用の雇用形態の違い
勤務延長では、定年を迎えても雇用契約が継続されるため、雇用形態は定年前と同じ正社員のまま維持されます。従業員は安定した雇用のもとで働き続けられます。
再雇用では、一度定年退職という形になり、その後、新たな労働契約を結びます。このため、雇用形態は正社員から嘱託社員や契約社員、パート・アルバイトなどに変わることが一般的です。
勤務延長と再雇用の労働条件の違い
勤務延長の場合、労働時間、休日、福利厚生などの労働条件は、原則として定年前と変わりません。ただし、業務内容の変更に伴い、一部調整する企業もあります。
再雇用の場合、労働条件は新たな労働契約に基づいて設定されます。定年前と比較して労働時間や日数が短縮されたり、残業が減ったりするケースがあります。福利厚生についても、正社員とは異なる規定が適用されることがありますので、契約時に明確にすることが大切です。
勤務延長と再雇用の役職の違い
勤務延長の場合、役職は定年前と変わらないことが一般的です。引き続き管理職として業務に携わることも可能です。
再雇用の場合、定年前の役職を離れ、新たな役割やポジションで雇用されることが多くなります。例えば、管理職から専門職や一般職として業務に従事するケースがよく見られます。これにより、若い世代への昇進機会を確保しつつ、経験豊かなベテランの知見を活かせます。
勤務延長と再雇用の手続きの違い
勤務延長は、定年を迎える従業員に対し、企業が雇用契約の期間を延長する手続きを行います。原則として、特別な契約更新の手続きは不要で、就業規則に基づき自動的に適用される場合が多いです。
再雇用は、定年退職の後に改めて雇用契約を締結する手続きが必要です。これには、新たな雇用契約書や労働条件通知書の作成、社会保険の手続きなどが伴います。従業員も退職と再雇用の手続きを理解しておく必要があります。
項目 | 勤務延長 | 再雇用 |
---|---|---|
給与 | 定年前と同水準を維持することが多い | 定年前より低くなることが一般的 |
雇用形態 | 定年前と同じ正社員のまま | 嘱託社員、契約社員、パート・アルバイトなどが一般的 |
労働条件 | 定年前と原則同じ | 新たな契約に基づき設定(労働時間・日数が短縮されることも) |
役職 | 定年前と変わらないことが多い | 定年前の役職を離れ、新たな役割となることが多い |
勤続年数 | 継続して加算される | 一度リセットされ、再雇用開始から新たに加算される |
手続き | 雇用契約の期間を延長する(就業規則に基づく) | 定年退職後、新たな雇用契約を締結する |
勤務延長と再雇用のメリット
勤務延長と再雇用は、企業にとって様々なメリットをもたらします。
経験を活かした人材の継続活用が可能
定年後も業務に精通した従業員に働いてもらうことで、職場に蓄積されたノウハウを維持できます。例えば、技術職のベテランがOJTで若手社員を指導すれば、現場の知識が自然に受け継がれていきます。
人材育成にかかる時間とコストを抑えられる
新たな人材を採用・教育するには手間がかかります。すでに業務を理解している社員に引き続き働いてもらえば、教育の手間も最小限で済みます。結果として、生産性を維持しながらコストを抑えることができます。
従業員の働く意欲につながる
定年後も働ける選択肢があることで、従業員は将来への不安を感じにくくなります。「この会社で長く働ける」という意識は、業務への意欲や組織への帰属意識にもつながり、職場全体の安定にも寄与します。
高齢者雇用の取り組みで企業価値を高める
高年齢者の雇用を確保することは、企業の社会的責任への対応でもあります。高齢化が進む中で、高齢者に働く機会を提供する企業は、社会からの信頼を得やすくなり、企業イメージの向上にもつながります。
勤務延長と再雇用のデメリット
勤務延長と再雇用にはメリットがある一方で、デメリットや課題もあります。
人件費が高止まりしやすい
勤務延長では、定年前と同じ水準の給与が維持されることが多く、人件費の見直しが難しくなります。再雇用でも、業務内容や責任が変わらない場合は同一労働同一賃金の原則により賃金引下げは不合理とされるため注意が必要です。また、当然のことながら再雇用者の人数が増えれば総額は増加します。賃金体系の見直しが難しい企業では、人件費の硬直化が課題になります。
若手の昇進チャンスに影響を与える
ベテラン社員が長く管理職に留まると、若手社員の昇進が遅れがちになります。管理職ポストが空かないことで、若手のやる気が下がったり、将来に不安を感じたりすることもあります。
新しい考え方やシステム導入が遅れることも
長く同じメンバーが残ることで、新しいシステムや業務手法への対応が遅れることがあります。例えば、ITツールの導入に否定的な声が多い場合、業務の効率化が進みにくくなります。変化に柔軟に対応する組織風土を維持するには、新旧のバランスが欠かせません。
業務内容と本人の能力にズレが生じることも
勤務延長や再雇用では、本人の健康や体力に合わない業務が割り当てられると、かえって体調を崩すことがあります。特に肉体労働の現場では注意が必要です。再雇用前に本人の希望や適性を確認し、無理のない業務を選定することが求められます。
勤務延長と再雇用はどちらを採用すべき?判断ポイント
勤務延長と再雇用、どちらの制度を適用するかは、企業の状況や従業員の希望によって判断が分かれます。
人材戦略に基づいて制度を選ぶ
企業がどのような人材活用を重視するかが判断の軸になります。例えば、専門技術を持つ社員に継続的に同じ業務を担ってもらいたい場合は、勤務延長を選ぶことでスムーズに業務を続けてもらえます。特定顧客との関係維持や技術継承が必要な現場では、延長によって組織の安定を保てます。
一方、再編や若返りを進めたい、あるいは新たなプロジェクトに再配置したい場合は、再雇用によって職務や責任の再設計がしやすくなります。組織の柔軟性を確保したい場面で有効です。
従業員の希望とキャリアプラン
定年後の働き方について、本人の意向を確認することも欠かせません。定年前と同じ責任や給与を希望する場合は、勤務延長が適しています。モチベーションの維持にもつながります。
反対に、業務量を抑えたい、家族との時間を大切にしたい、責任の軽い仕事を望むといった声がある場合は、再雇用による雇用形態の見直しが適しています。個別面談を通じて、希望と職務のバランスを見極めることが重要です。
業務内容の変更有無で制度を見極める
定年前と同じ業務を続けてもらいたいなら勤務延長が適しています。業務内容や役割を変えずに継続させたい場合、雇用契約を維持することで手続きも簡単になります。
逆に、責任を軽くしたい、特定の作業に絞りたいなど、職務内容を調整したい場合は、再雇用で新たな契約を結ぶほうが適切です。契約内容を明文化しやすく、労使双方にとって管理しやすくなります。
人件費と組織のバランス
勤務延長は給与の水準が定年前と大きく変わらないため、人件費が高くなる傾向があります。組織全体のバランスを考えたとき、特に若手との賃金格差に配慮する必要があります。
一方で、再雇用では給与を抑えた条件設定がしやすく、人件費を抑制しやすくなります。企業の財務状況や昇格人事の流れを見ながら、制度を柔軟に使い分ける視点が求められます。
勤務延長と再雇用は併用できる?
勤務延長と再雇用は、同一企業で両制度を併用することができます。 再雇用・勤務延長いずれか一方のみの制度を設けなければならないという定めはなく、両制度を従業員のニーズに合わせて運用することも可能です。
例えば、特定の専門職や技術職の従業員には勤務延長を適用し、その知識やスキルを継続的に活用してもらう一方で、一般職の従業員には再雇用によって、労働時間や業務内容を調整した上で働き続けてもらう、といった運用が考えられます。
ただし、両制度を併用する場合には、どちらをどのような条件で適用するかを就業規則で明確に定めることが不可欠です。
どのような条件を満たせば勤務延長の対象となるのか、再雇用の場合はどのような労働条件になるのかなどを具体的に記載し、従業員への周知を徹底することが、トラブルを避けるために重要です。従業員が自身のキャリアパスを明確に描けるよう、公平性と透明性を持った制度設計が求められます。
勤務延長と再雇用のルールの決め方
勤務延長や再雇用のルールを定める際は、就業規則や個別の労働契約書に具体的に明記することが大切です。
就業規則への明記
就業規則に定年後の雇用に関する規定を盛り込みます。具体的には、定年年齢を何歳に設定するか、勤務延長や再雇用の制度を設けるか否か、設ける場合はそれぞれの適用条件、期間、給与、労働時間、業務内容、役職の扱い、福利厚生などを詳細に定めます。
例えば、「勤務延長の対象者は、会社の指定する業務を遂行できる健康状態にあり、かつ、評価基準を満たした者とする」といった具体的な適用条件を設けることが考えられます(高年齢者雇用安定法第8条により、不合理な選定基準や差別的取扱いは認められていません)。これにより、従業員は制度の利用条件を事前に把握できます。
個別労働契約書での明確化
再雇用の場合には、個別の労働契約書を締結することが不可欠です。契約書には、再雇用後の雇用期間(例えば1年契約で更新の可能性ありなど)、賃金(基本給、手当、賞与など)、労働時間(所定労働時間、残業の有無など)、休日・休暇(年次有給休暇、特別休暇など)、業務内容、勤務地、試用期間の有無などを明確に記載します。
これにより、従業員と企業との間で、再雇用後の労働条件に関する認識のずれを防ぎ、安心して業務に取り組める環境を整えられます。
従業員への周知と説明
定年後の雇用に関するルールを定めたら、従業員に内容を周知し、丁寧に説明する機会を設けることが大切です。説明会を開催したり、社内報やイントラネットで情報を提供したりすることで、従業員は自身の将来の働き方について具体的なイメージを持てます。
不明な点があれば、個別に相談できる窓口を設けるなど、従業員が不安を解消できるような配慮が求められます。
勤務延長や再雇用する際の注意点
勤務延長や再雇用を円滑に進めるためには、いくつかの注意点があります。
働き方の希望を事前に確認する
定年後の働き方について、必ず従業員本人の意思を確認し、合意を得ます。例えば、勤務延長を希望しない従業員に無理強いすることはできません。また、再雇用の場合でも、労働条件や業務内容について十分に説明し、従業員が納得した上で契約を締結することが、後のトラブル防止につながります。書面での合意形成が望ましいです。
労働条件の明示と説明義務
再雇用する際は、賃金・労働時間等の主要労働条件は書面で明示することが義務付けられています(労働基準法第15条第1項、同法施行規則第5条)。特に、給与、労働時間、休日、業務内容、契約期間など、定年前と変わる可能性のある項目については、誤解が生じないよう具体的に説明することが大切です。労働条件通知書を交付し、従業員がいつでも確認できるようにすることが望ましいです。
高年齢者雇用安定法の順守
高年齢者雇用安定法では、企業に対し、定年を迎える従業員が希望すれば65歳まで雇用を継続する措置を講じることを義務付けています。これは努力義務ではなく、義務ですので、勤務延長や再雇用制度を適切に運用し、法律を遵守することが不可欠です。
現在、70歳までの就業機会確保が努力義務となっています。今後も法改正の動向に注意を払い、適切な対応が必要です。
適切な人員配置と業務内容の調整
勤務延長や再雇用後も、従業員が能力を最大限に発揮できるよう、適切な人員配置と業務内容の調整が求められます。例えば、体力的な負担が大きい業務から、知識や経験を活かせるコンサルティング業務や後進の指導などにシフトさせることで、従業員の定着率を高められます。定期的な面談を通じて、従業員の状況を把握し、必要に応じて業務内容を見直す柔軟な対応が大切です。
若手社員とのコミュニケーション促進
ベテラン社員が長く職場に留まることで、若手社員とのコミュニケーションが滞る場合があります。世代間の良好な関係を築くため、メンター制度の導入や合同研修の実施など、積極的に交流を促す機会を設けることが考えられます。例えば、ベテラン社員が若手社員に経験談を語る場を設けることで、互いの理解を深められます。
勤務延長と再雇用の違いを理解して活用しよう
60歳や65歳で定年を迎える従業員に対して、その後もどのように雇用を継続するかは、企業の人事制度に大きく関わります。勤務延長と再雇用はその選択肢ですが、制度設計や運用には明確な違いがあります。勤務延長は現行の雇用契約をそのまま継続し、再雇用は一度退職したうえで新たに契約を結び直す仕組みです。
自社の人材戦略や財務状況、従業員の意向に合わせて制度を選び、就業規則や契約書に明確なルールを設けることが欠かせません。公平性と透明性のある制度運用が、企業と社員双方の信頼を支えます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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