• 更新日 : 2025年4月18日

ESG投資の問題点は?メリットや今後の動向を徹底解説

ESG投資は、企業の環境・社会・ガバナンスへの配慮を評価し、持続可能な成長を目指す投資方法です。

しかし、評価基準の不透明さグリーンウォッシュなどの問題点も指摘されています。一方で、長期的なリターン向上や企業価値の向上につながることがESG投資のメリットです。

本記事では、ESG投資の課題やメリット、今後の動向について解説します。

ESG投資の5つの問題点

ESG投資は、環境・社会・ガバナンスに配慮した企業を重視する投資手法です。

持続可能な社会の実現に貢献する一方で、さまざまな課題も存在します。問題点を理解せずに投資を行うと、期待したリターンが得られなかったり、意図しないリスクを抱えたりする可能性があり危険です。

ESG投資の現状を正しく把握し、適切な判断をするために、以下では主な問題点を具体的に解説します。

ESGについては下記の記事で詳しく解説しているため、ぜひあわせてご覧ください。

1. ESGの評価基準が曖昧である

ESG投資の評価基準が曖昧であることは、大きな課題です。

ESGは2006年に提唱された比較的新しい概念であり、評価基準が明確に確立されていません。そのため、複数の調査会社が独自の指標を用いて評価を行っており、統一的な基準が存在しない状況です。

結果的に、同じ企業でも、評価機関によって評価が異なることも珍しくありません。ESGの曖昧さは、投資家にとっての不確実性を生む要因となっています。

ESG投資を行う際は、自社の事業と関連性の低い分野への過度な投資を避け、既存事業の延長線上で持続可能な取り組みを考えることが重要です。標準的な評価基準がない現状を踏まえ、独自の視点で慎重に判断する必要があります。

2. 企業の情報が十分でない

ESG投資では、企業の情報開示が十分でないことが課題の一つです。

日本では、同業他社の動向を見てから情報開示する傾向があり、積極的な開示が進みにくい状況です。さらに、ESGの歴史が浅いため、企業側も投資家側も手探りの状態が続いており、情報整備には多くの時間と手間がかかります。

上記の結果、投資判断に必要な情報が不十分なまま投資が行われるケースも少なくありません。

一方で、近年では上場企業を中心にESG情報の開示が進んでおり、今後、透明性の向上が期待されます。しかし、現時点では情報の不足が投資のリスクとなるため、慎重に判断する必要があります。

3. 中小企業や地方の企業は効果を感じにくい

ESG投資は、中小企業や地方企業にとって効果を実感しにくい側面があります。

ESGは短期的な利益を生みにくく、自己資本が少ない中小企業や地方企業にとって導入や運用の負担が大きいためです。とくに、ESG関連の取り組みには多額の資金が必要であり、自己資本が不足している企業は融資に頼る必要があり、経営の負担が増します。

また、ESG投資にはリスクが伴い、短期間での利益確保が難しいため、成長戦略として採用しにくい企業も少なくありません。問題を解決するためには、地方自治体や公的機関が資金支援や情報提供を強化するなどの対策が必要です。

4. ESG対応にはコストがかかる

ESG対応には高いコストが伴い、企業にとって大きな負担となります。

エネルギー効率の高い設備の導入や、持続可能な素材の採用には初期投資が必要です。さらに、ESG対応は設備投資だけでなく、従業員研修や福利厚生の充実などにもコストがかかります。

とくに中小企業にとっては、取り組みに必要な費用が経営を圧迫する要因となるでしょう。ただし、短期的には負担となるものの、長期的に見れば持続可能な経営につながり、投資回収も期待できます。

ESG対応を進める際は、短期的なコストと長期的な利益のバランスを考慮して取り組むことが重要です。

5. グリーンウォッシュにより投資家へのリスクがある

グリーンウォッシュとは、企業が環境に配慮しているように見せかける行為で、投資家にとって大きなリスクです。

企業価値を向上させる目的で、実際にはない強みを誇張するケースもあります。たとえば、環境問題への配慮を強調する広告を出し、実態以上にアピールする企業もあります。

とくに情報開示が不十分な企業では、グリーンウォッシュを見抜くのは困難です。ESG投資が拡大する中で、誤解を招く表現が発覚すれば、株価の下落や評判リスクにつながります。EUや米国では、ESG情報の開示規制の強化が進んでおり、誤解を招く表現には訴訟リスクもあります。

グリーンウォッシュをする企業を回避するためにも、投資家は企業の実態を徹底的に調査し、慎重に判断することが重要です。

ESG投資に取り組む4つのメリット

ESG投資には課題もありますが、メリットもあります。問題点を理解することは重要ですが、課題だけを理由にESG投資を避けるのは適切ではありません。

ESGに取り組むことは、企業価値の向上やリスク管理の強化など、長期的な利益につながる可能性があるため、事前にメリットを確認することが重要です。

以下では、ESG投資の具体的なメリットを紹介します。

1. 企業価値を向上させられる

ESG投資に取り組むことで、企業価値を向上させられます。

環境保護や社会貢献に積極的な企業は、消費者や取引先からの支持を集め、ブランドの信頼性を高められます。さらに、社会的責任を重視する企業は、優秀な人材の確保や定着にもつながるでしょう。

とくに、透明性のある情報開示を行い、実際の取り組みを示すことが重要です。不十分な情報開示では「グリーンウォッシュ」と疑われ、かえって企業の評判を損なうリスクがあります。

具体的には、店舗や商品の環境配慮を強化したり、使用する素材を見直したりすることで、社会的評価が高まって企業イメージの向上につなげられます。

持続可能な経営を目指すうえで、ESG投資は有効な手段の一つです。

2. 持続可能な社会づくりに貢献できる

ESG投資は、持続可能な社会づくりに貢献できる点もメリットです。

環境や社会に配慮した企業や機関に投資することで、企業が資金を調達しやすくなり、より持続的な事業活動の推進が可能です。たとえば、環境関連プロジェクトへの資金調達手段として「グリーンボンド」が注目されています。

企業によっては、資源問題や環境問題、産業廃棄物の処理などに積極的に取り組んでいます。ESGに配慮した経営は、顧客や従業員の支持を得やすく、売上や従業員満足度の向上にも貢献するでしょう。

結果的に企業経営が安定し、持続可能な社会の実現を後押しします。従業員にとっても、働きがいのある環境が整い、従業員のエンゲージメント向上や離職率の低下につながります。

持続可能な発展を目指す考え方である「サステナビリティ」については、下記の記事で説明しているため、ぜひあわせてご覧ください。

3. 長期的に効果を得られる

ESG投資のメリットは、長期的に効果を得られることです。

企業の持続的な成長や安定を重視するため、短期的な市場の変動に影響を受けにくく、リスクを分散できます。ただし、市場全体の不況時にはESG銘柄も影響を受けるため、注意が必要です。

ESG評価の高い企業は、投資家や金融機関、消費者からの信頼を得やすく、資金を集めやすい傾向があります。近年、再生可能エネルギーや脱炭素技術、循環型ビジネスモデルを提供する企業への社会的需要が高まっています。

上記のような企業を投資先として選び、成果を出せば長期的な利益につながるでしょう。ただし、投資家の評価基準によって効果は異なり、短期間での成果は期待しにくい場合もあるため、注意が必要です。

4. 市場拡大を期待できる

ESG投資は、世界中の機関投資家や個人投資家から注目されており、市場の拡大が期待されています。

市場が成長すれば投資資金の流入が増え、活発な投資活動が促進されることで、新たな基準となる可能性があります。拡大・成長する分野に投資することで、リターンを期待しやすくなり、投資家にとっても選択肢が広がる点もメリットです。

ただし、市場が拡大しても短期的な利益が保証されるわけではなく、慎重な判断が必要です。また、ESG市場は成長が見込まれる一方で、技術革新や規制の変化によって特定の分野が伸び悩むリスクもあります。

したがって、長期的な視点で市場の動向を見極めることが重要です。

ESG投資の今後の動向と企業への影響

ESG投資は世界的に注目されており、今後の動向や企業への影響に関心が高まっています。今後ESG投資を検討している方は、最新の動向や企業への影響を理解しておくことが重要です。

以下では、ESG投資の今後の展望と企業への影響について解説します。

世界的にESG投資は拡大する可能性がある

ESG投資は世界的に拡大する可能性があり、持続可能な社会の実現に向けた重要な投資方法として注目されています。

欧州を中心にESG投資の普及が進み、各地域で持続可能な投資への意識が高まっています。日本でも2016年以降、市場が拡大し、2020年にはESG投資の割合が24.3%に達しました。

上記のデータは、企業や投資家の間で持続可能性への関心が高まっていることを示しています。

さらに、アメリカのブルームバーグ社の分析によると、2025年までに世界の運用資産残高140.5兆ドルのうち、ESG投資が約3分の1(53兆ドル)を超えると予測されています。

今後もESG投資の市場規模は拡大し、企業の経営戦略にも大きな影響を与えるといえるでしょう。

参考:GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020(GSIA)
参考:ESG assets may hit $53 trillion by 2025, a third of global AUM | Insights | Bloomberg Professional Services

デジタル化の推進により透明性が向上する

デジタル化の推進により、ESG投資の透明性が向上すると期待されていますが、いくつかの課題も残っています。

デジタルトランスフォーメーションの発展により、サプライチェーンの詳細な追跡や二酸化炭素排出量の正確な計測が可能になり、企業のESG活動の可視化が進んでいます。データの公開により、投資家は具体的なデータに基づいた投資判断が可能です。

しかし、ESGデータの基準は統一されておらず、企業ごとに開示内容が異なるため、比較が難しいという課題も残っています。
今後、デジタル技術を活用した標準化が進めば、より信頼性の高いESG評価が可能になり、投資家にとってより有益な環境が整うでしょう。

アジアでのESG投資が今後注目される可能性がある

アジアでのESG投資は、今後さらに注目を集める可能性があります。

英国の国際NGO「Climate Bonds Initiative」のデータを三菱総合研究所が分析した結果、ESG投資の中心は欧州ですが、アジアでも関心が高まりつつあることがわかります。とくに中国ではESG投資の拡大が進んでおり、持続可能な経済成長を目指す取り組みが活発です。

一方で、日本では中国ほどESG投資が進んでいないのが現状です。しかし、世界的にESG投資の重要性が増していることを踏まえると、日本でも今後、さらに注目される可能性があります。

アジア全体での投資拡大が進めば、企業のESG対応がますます求められるでしょう。

参考:Interactive Data Platform|Climate Bonds Initiative
参考:世界と日本のESG投資動向GX推進を契機にESG投資の拡大へ | MRI 三菱総合研究所

ESG投資に取り組む際の注意点

ESG投資に取り組む際は、注意すべきポイントがあります。適切な判断をしないと、期待したリターンを得られず、意図しないリスクを抱える可能性があります。

事前に注意点を確認することで、戦略的に投資を進められるでしょう。以下では、ESG投資を行う際に押さえておくべき重要なポイントを解説します。

短期間で利益を出すのは難しい

ESG投資は短期間で利益を出すのが難しいため、長期的な視点が求められます。

環境や社会に関する課題はすぐに解決できるものではなく、企業の持続的な成長を支える投資であるためです。効果が出るまでに数年かかることもあり、短期的にリターンを求める投資には適していません。

とくに、ESG対応には初期コストがかかるため、投資資金をすぐに回収するのは難しく、慎重な資金計画が必要です。

短期間での利益を期待しすぎると、想定した成果が得られない可能性があるため、リスクを理解したうえで投資を進めることが求められます。

中小企業には難しい可能性がある

ESG投資は中小企業にとってハードルが高い傾向があります。

ESGへの取り組みは重要ですが、取り組むための初期投資が大きく、簡単に実行できるものではありません。たとえば、環境対応のための設備導入や持続可能な素材への切り替えにはコストがかかるため、資金に余裕のない企業にとっては負担となります。

また、初期投資をしても必ずしも利益につながるとは限らず、短期的なリターンを求める場合にはリスクが伴います。そのため、中小企業がESG投資を進める際は、コストや投資効果を慎重に検討し、無理のない範囲で段階的に取り組むことが重要です。

情報開示しないと効果を感じにくい

ESG投資に取り組む際は、情報開示をしないと効果を実感しにくい可能性があります。

ESGの活動自体は重要ですが、投資家やステークホルダーに認知されなければ、適切な評価や投資を得るのは困難です。とくに、透明性のある情報開示がなければ、企業の取り組みが正しく伝わらず、ESG投資のメリットを十分に受けられません。

そのため、Webサイトや企業レポート、広告などを活用し、積極的にESGの取り組みを発信することが効果的です。

ESG投資の問題点を理解して効率的に運用しよう

ESG投資にはメリットがある一方で、評価基準の不透明さやグリーンウォッシュなどの問題も存在します。

投資の際は問題点も理解し、適切な情報をもとに判断することが重要です。投資先の実態を見極め、長期的な視点で運用することで、リスクを抑えながら持続可能な成長を目指せます。ESG投資の本質を押さえ、戦略的に活用していきましょう。


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