- 更新日 : 2025年7月7日
育休中の会社負担は?社会保険や住民税、給与などについて解説
従業員のライフワークバランスを支援し、安心して育児に専念できる環境を提供することは、企業の持続的な成長にとっても不可欠です。育児休業制度の適切な運用は、その中核をなすものと言えるでしょう。しかし、人事労務担当者の皆様にとっては、「育休期間中、会社は具体的にどのような費用を負担するのか?」「社会保険料や税金の取り扱いはどうなるのか?」といった疑問や不安が伴うことも少なくありません。
この記事では、育児休業期間中における「会社負担」について、法的な側面と実務上のポイントを整理し、人事労務担当者の皆様が正確な知識に基づいて適切な対応を行えるよう、包括的に解説します。
育休について詳しく知りたい方は、こちらの記事も併せてご覧ください。
目次
育休期間中の「会社負担」とは何を指すのか?
「育休の会社負担」と一言で言っても、その内容は多岐にわたります。人事労務担当者としては、どの費用が法的に免除されたり、支払う必要がなかったりするのか、また、企業が任意で負担するものは何かを正確に区別して理解しておく必要があります。
主に検討すべき項目は以下の通りです。
これらの項目について、次章以降で詳しく見ていきましょう。
育休中の社会保険料
育児休業期間中の従業員および会社の経済的負担を軽減するため、社会保険料については特例措置が設けられています。これは企業にとって大きなメリットと言えるでしょう。
健康保険料・厚生年金保険料の免除制度
従業員が育児休業等を取得する場合、一定の要件を満たせば、健康保険料および厚生年金保険料の被保険者負担分・事業主負担分ともに免除されます。
免除の対象となる期間
- 育児休業等を開始した日の属する月から、終了した日の翌日が属する月の前月まで。
- ただし、育児休業等の開始日と終了予定日が同一月内にあり、かつその月における育児休業等の日数が14日以上ある場合は、その月も免除対象となります(2022年10月施行改正)。
- 賞与にかかる保険料も、育児休業期間中に支払われた賞与であれば、月末時点で育児休業を取得している場合に限り免除の対象となります(連続して1ヶ月を超える育児休業を取得した場合)。
免除の条件と手続き(会社が行う手続き)
- 従業員から育児休業取得の申し出があった際に、会社が「育児休業等取得者申出書(新規・延長)」を日本年金機構(または健康保険組合)に提出します。この手続きにより、被保険者本人と事業主の保険料負担が免除されます。
- 申出は、原則として従業員が育児休業等を取得している間に行う必要があります。遡っての免除は認められない場合があるため、速やかな手続きが重要です。
従業員負担分・会社負担分ともに免除
この制度の大きなポイントは、従業員の給与から天引きされる保険料だけでなく、会社が負担している分の保険料も免除されるという点です。
この免除期間中も、被保険者資格は継続され、将来の年金額計算においては保険料を納付したものとして扱われます。
雇用保険料の取り扱い
雇用保険料は、従業員に支払われる賃金総額に対して保険料率を乗じて計算されます。
育児休業給付金の財源
雇用保険は、育児休業期間中の従業員の生活を支える「育児休業給付金」の財源でもあります。
賃金が発生しない場合の保険料
育児休業期間中、多くの企業では従業員に賃金を支払いません(ノーワーク・ノーペイの原則)。賃金の支払いがない場合、その期間の雇用保険料は発生しません。したがって、会社負担分の雇用保険料も発生しないことになります。
もし、企業が育休中に何らかの手当等を賃金として支給する場合は、その支給額に対しては雇用保険料が発生します。
労災保険料の取り扱い
労災保険料は、全額事業主負担であり、年度ごとに確定した賃金総額を基に計算・納付します。育児休業期間中に賃金の支払いがない場合、その期間に対応する労災保険料の負担は実質的に発生しないことになります。
育休中の住民税
社会保険料とは異なり、住民税には育児休業期間中の免除制度はありません。住民税は前年の所得に対して課税されるため、育休中であっても納税義務が発生します。
住民税の仕組み(前年所得課税)
住民税は、その年の1月1日時点での住所地の市区町村に、前年1月1日から12月31日までの所得に基づいて課税されます。
育休中の従業員の住民税納付方法
育休中の従業員の住民税納付方法としては、主に以下の2つのケースが考えられます。
会社が特別徴収を継続する場合の留意点
会社が特別徴収を継続する場合、以下の点に留意が必要です。
実務上の負担
会社が立て替える場合、その管理や復職後の精算手続きなど、経理・労務担当者の事務負担が発生します。
従業員との合意
会社が立て替える場合は、その方法や精算方法について事前に従業員と十分に話し合い、合意を得ておくことがトラブル防止のために重要です。就業規則等に規定しておくことも検討しましょう。
資金繰り
立て替える住民税額や対象人数によっては、一時的に会社の資金繰りに影響が出る可能性も考慮に入れる必要があります。
多くの企業では、事務負担やトラブル回避の観点から、育休中の住民税は普通徴収に切り替えるケースが多いようです。しかし、従業員の利便性を考慮して特別徴収を継続する場合は、上記のような注意点を踏まえた上で、社内ルールを明確にしておくことが求められます。
育休中の給与
育児休業期間中の給与(賃金)の支払いについては、法律上、企業に支払う義務はありません。
ノーワーク・ノーペイの原則
労働契約において、賃金は労働の対償として支払われるものです。育児休業期間中は労務の提供がないため、「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、企業は給与を支払う義務を負いません。
企業が任意で手当や賞与を支給する場合の注意点
法律上の支払い義務はありませんが、企業が福利厚生の一環として、育休中の従業員に対して独自の手当を支給したり、賞与の算定対象期間に育休期間を含めたりすることは可能です。
その場合の注意点は以下の通りです。
- 就業規則等への明記
任意で手当等を支給する場合は、その支給条件、金額、計算方法などを就業規則や賃金規程に明確に定めておく必要があります。これにより、公平性と透明性を担保し、無用なトラブルを防ぐことができます。 - 育児休業給付金との調整(支給額によっては給付金が減額される可能性)
育休中に会社から一定額以上の賃金が支払われると、従業員が受給する育児休業給付金が減額されたり、支給停止になったりする場合があります。
具体的には、休業開始時賃金月額の80%以上の賃金が支払われた場合、育児休業給付金は支給されません。また、13%を超え80%未満の賃金が支払われた場合は、その額に応じて給付金が減額されます。 企業が良かれと思って手当を支給した結果、従業員の受給する給付金が減ってしまうという事態を避けるため、この点を十分に理解し、慎重な制度設計が求められます。
企業が独自の手当を設ける場合は、育児休業給付金の制度との関連性を考慮し、従業員にとって不利益にならないような配慮が必要です。
育休取得促進・職場復帰支援における企業の取り組み
法的に定められた負担以外にも、企業が従業員の育休取得を促進し、スムーズな職場復帰を支援するために、様々な取り組みを行うことが考えられます。これらには、直接的・間接的な費用負担が伴う場合があります。
代替要員の確保と人件費
育休取得者の業務をカバーするために、代替要員を派遣社員や契約社員として雇用する場合、その人件費が発生します。また、既存の従業員で業務を分担する場合も、残業代の増加や業務負荷の増大といった間接的なコストが生じる可能性があります。
育休取得者への情報提供・相談体制の整備
育休中の従業員が孤立感を感じないよう、社内報の送付、定期的な面談の実施、相談窓口の設置などを行う場合、その運営コストがかかります。
復職前面談、復職後のフォローアップ
スムーズな職場復帰を支援するために、復職前面談を実施し、復職後の業務内容や勤務条件について話し合うことは重要です。
また、復職後も定期的なフォローアップ面談を行うことで、従業員の不安を軽減し、定着を促進できます。これらの対応にも人的コストが発生します。
職場環境整備
育児と仕事の両立を支援するために、柔軟な働き方を可能にする制度(短時間勤務制度、フレックスタイム制、テレワークなど)を導入・運用する場合、制度設計や勤怠管理システムの改修などに費用がかかることがあります。
助成金の活用
上記のような企業の自主的な取り組みを支援するため、国は様々な助成金制度を設けています。代表的なものとして「両立支援等助成金」があり、育休取得や職場復帰支援、代替要員の確保、職場環境整備などに対して助成が行われます。
これらの助成金を活用することで、企業の費用負担を軽減しつつ、従業員にとってより働きやすい環境を整備することが可能です。積極的に情報収集し、活用を検討しましょう。
育休における会社負担について正しく理解しよう
育児休業期間中の「会社負担」について、押さえるべきポイントを解説してきました。
企業にとって、従業員の育児休業は、一時的な業務調整やコスト発生の側面があるかもしれませんが、長期的な視点で見れば、優秀な人材の確保・定着、従業員のモチベーション向上、企業イメージの向上など、多くのメリットをもたらします。
法的な義務を遵守することはもちろん、従業員が安心して育児休業を取得し、円滑に職場復帰できるような環境を整備することは、企業の社会的責任であり、持続的な発展のための重要な投資と言えるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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