• 更新日 : 2022年2月28日

労働者派遣契約法とは?個別契約と基本契約についてもご紹介

企業に人材を派遣する派遣会社と派遣社員を受け入れる派遣先企業は「労働者派遣法」に則って契約を締結し、それに従って派遣社員に業務を任せなければなりません。契約を結ばないなど正しい手続きを行わず派遣社員を受け入れたり、契約内容を無視して仕事をさせたりすると、派遣会社や派遣社員とトラブルになる、法律違反でペナルティが課されるといったリスクもあります。

今回は労働者派遣契約法の内容や人材派遣の契約の種類、契約締結までの流れ、2021年の法改正についてわかりやすく解説します。

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労働者派遣契約法とは?

労働者派遣法の正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」で、その名のとおり労働者派遣事業の適正化と労働者の権利保護・雇用安定を目的に1985年に施行された法律です。略して「派遣法」とも呼ばれます。

派遣社員は正社員と比較すると賃金が低い、仕事量が確保されていない、昇給・昇進がないなど雇用状態が不安定で、派遣先から理不尽な扱いを受けるといった問題も多く発生しました。労働者派遣法は、派遣労働者が差別されることなく、安心して働ける環境を整えるために制定されました。

労働者派遣事業の制限・規制や労働者を派遣できる業種、派遣期間、無期雇用(正社員)への転換など、さまざまなルールがあり、派遣事業者と派遣先はこれを遵守する必要があります。派遣社員と派遣会社が締結する労働者派遣契約についても、労働者派遣法に定められています。

人材派遣について

人材派遣とは、派遣会社(派遣元)が労働者派遣契約を締結しているクライアント(派遣先)に労働者を派遣することです。労働者は派遣先の指揮命令下で仕事を行いますが、派遣元と雇用契約を結び、給料も派遣元から支払われます。

一般的に派遣社員として働く場合は、派遣会社に登録して派遣先の事業所を紹介してもらいます。登録した時点では雇用契約は成立せず、仕事が決まって初めて雇用関係が生まれます。

人材派遣の仕組み

派遣期間には定めがあるため、基本的に同一の派遣先でずっと働くことはできません。また、派遣会社に登録したとしても必ず仕事が紹介されるわけではないため、どうしても収入が不安定になります。このような背景もあり、今回のテーマである労働者派遣法が制定されたのです。

派遣契約の種類は2種類ある

派遣元である派遣会社と労働者を派遣してもらう派遣先は、労働者派遣契約を締結します。この契約が成立しないと、派遣先は人材を派遣してもらうことができません。労働者派遣契約については労働者派遣法第26条に内容が定められていて、これに従う必要があります。

第二十六条 労働者派遣契約(当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約をいう。以下同じ。)の当事者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者派遣契約の締結に際し、次に掲げる事項を定めるとともに、その内容の差異に応じて派遣労働者の人数を定めなければならない。
一 派遣労働者が従事する業務の内容
二 派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事する事業所の名称及び所在地その他派遣就業の場所並びに組織単位(労働者の配置の区分であつて、配置された労働者の業務の遂行を指揮命令する職務上の地位にある者が当該労働者の業務の配分に関して直接の権限を有するものとして厚生労働省令で定めるものをいう。以下同じ。)
三 労働者派遣の役務の提供を受ける者のために、就業中の派遣労働者を直接指揮命令する者に関する事項
四 労働者派遣の期間及び派遣就業をする日
五 派遣就業の開始及び終了の時刻並びに休憩時間
六 安全及び衛生に関する事項
七 派遣労働者から苦情の申出を受けた場合における当該申出を受けた苦情の処理に関する事項
八 派遣労働者の新たな就業の機会の確保、派遣労働者に対する休業手当(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第二十六条の規定により使用者が支払うべき手当をいう。第二十九条の二において同じ。)等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担に関する措置その他の労働者派遣契約の解除に当たつて講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項
九 労働者派遣契約が紹介予定派遣に係るものである場合にあつては、当該職業紹介により従事すべき業務の内容及び労働条件その他の当該紹介予定派遣に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

引用:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov法令検索

10項目の「厚生労働省令で定める事項」は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則第22条」に定められています。
第二十二条 法第二十六条第一項第十号の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。

一 派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度
二 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項
三 労働者派遣の役務の提供を受ける者が法第二十六条第一項第四号に掲げる派遣就業をする日以外の日に派遣就業をさせることができ、又は同項第五号に掲げる派遣就業の開始の時刻から終了の時刻までの時間を延長することができる旨の定めをした場合における当該派遣就業をさせることができる日又は延長することができる時間数
四 派遣元事業主が、派遣先である者又は派遣先となろうとする者との間で、これらの者が当該派遣労働者に対し、診療所等の施設であつて現に当該派遣先である者又は派遣先になろうとする者に雇用される労働者が通常利用しているもの(第三十二条の三各号に掲げるものを除く。)の利用、レクリエーション等に関する施設又は設備の利用、制服の貸与その他の派遣労働者の福祉の増進のための便宜を供与する旨の定めをした場合における当該便宜供与の内容及び方法
五 労働者派遣の役務の提供を受ける者が、労働者派遣の終了後に当該労働者派遣に係る派遣労働者を雇用する場合に、労働者派遣をする事業主に対し、あらかじめその旨を通知すること、手数料を支払うことその他の労働者派遣の終了後に労働者派遣契約の当事者間の紛争を防止するために講ずる措置
六 派遣労働者を協定対象派遣労働者に限るか否かの別
七 派遣労働者を無期雇用派遣労働者(法第三十条の二第一項に規定する無期雇用派遣労働者をいう。)又は第三十二条の四に規定する者に限るか否かの別

引用:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則(昭和六十一年労働省令第二十号)|e-Gov法令検索

また、労働者派遣契約には「基本契約」と「個別契約」があり、契約の性質や締結するタイミングが異なります。

基本契約

派遣基本契約は、派遣先と派遣元企業が取引を行う旨の契約です。派遣料金やお互いの義務、禁止事項、損害賠償、契約解除事項などの取り決めを定め、両者が合意します。

派遣基本契約は企業間のトラブルを回避するために締結される契約ですが、労働者派遣法では締結や保管が義務付けられていません。しかし、派遣会社がクライアント企業に人材を派遣する際は、リスク回避のために派遣基本契約を締結するケースがほとんどです。また、毎回詳細な記載が必要となっては煩雑なので、派遣基本契約を利用するという意味もあります。

個別契約

個別契約は、基本契約を締結した上で、派遣労働者を受け入れる際に個別の就業条件等を定める契約です。こちらは労働者派遣法で締結・保管が義務付けられており、前述の労働者派遣法第26条に定められた内容を盛り込む必要があります。項目は業務内容や派遣日、就業時間、休憩などで、派遣社員が働くにあたってより具体的な内容について取り決めることになります。派遣先は、この契約内容に従って派遣社員を指揮命令しなければなりません。

派遣基本契約は企業間トラブルを回避するものであるのに対し、個別契約は派遣社員を守るという意味合いがあるのが両者の違いです。

労働者派遣契約の流れ

ここからは、労働派遣契約を締結するまでの流れを見ていきます。前述のとおり、派遣元と派遣先が取引を開始する際は派遣基本契約を、実際に人材を派遣する際は個別契約を結ぶのが基本的な流れですが、それ以外にも抵触日通知や派遣先管理台帳保存などのルールが決められています。契約の流れを図にまとめました。

労働派遣契約の流れ

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

基本契約を結ぶ

基本契約は、派遣先企業と派遣元企業が取引関係を構築する際に締結する契約です。個別契約は労働者派遣法で義務付けられているため必須ですが、基本契約は任意です。しかしながら、派遣会社と派遣先企業の間でトラブルにならないよう、基本契約に関しても事前に協議して内容をすり合わせ、確認した上で締結する必要があります。なお、基本契約書と個別契約書は別々に作成します。

基本契約書

料金(通常の派遣料金や派遣先都合による損害金など)やお互いが履行すべき義務(法令遵守や守秘義務)、損害賠償に関する取り決め、禁止事項、知的所有権の帰属、契約解除に関する事項など、契約の基本となる内容を盛り込みます。派遣元と派遣先の間で取り決めを定め、認識を共有することが基本契約の目的です。初めて取引を行う際に締結し、それ以降は労働者を派遣する際に都度個別契約を締結します。

個別契約書

個別契約書は業務内容や派遣期間、人数、就業日、就業時間、残業など、具体的な就業条件について定めた契約書です。前述のとおり、労働者派遣法第26条所定の事項を定めなければなりません。

事業所抵触日を通知する

基本契約書を交わせば派遣元と派遣先が取引関係となりますが、実際に労働者を派遣する前には「事業所抵触日の通知」という手続きを行わなければなりません(労働者派遣法26条4項)。労働者派遣法では、同一の事業所が派遣労働者を受け入れられる期間は原則3年と定められています。事業所抵触日の通知は、この期間を超えることがないようにするための措置です。

派遣受入期間の制限に抵触する事となる最初の日(制限期間を超える日)を「抵触日」といいます。例えば、2022年4月1日から期間を3年として派遣社員を受け入れる場合、派遣可能期間2025年3月31日までとなり、事業所抵触日は2025年4月1日となります。労働者を派遣する際は派遣先企業から派遣元企業に対して、あらかじめ抵触日がいつになるかを通知しておかなければなりません。

個別契約を結ぶ

実際に派遣先が派遣元から労働者を派遣してもらう際は、個別契約を締結します。基本契約は企業間のトラブルを防ぐことを目的としています、個別契約の主な目的は労働者の権利を守ることです。労働者派遣法で締結や内容が定められており、個別契約を締結しなければ人材を派遣してもらうことができません。また、派遣社員を受けるたびに個別契約を結ぶ必要があります。

派遣先管理台帳を作成・保存する

派遣先事業所が派遣社員を受け入れる場合は、派遣労働者ごとに「派遣先管理台帳」を作成し、派遣期間の終了日から3年間保管しなければいけません。派遣先管理台帳には派遣労働者の氏名、就労日、就業時間、業務内容などの情報を記載します。

派遣先管理台帳の内容は、労働者派遣法第42条に定められています。

第四十二条 派遣先は、厚生労働省令で定めるところにより、派遣就業に関し、派遣先管理台帳を作成し、当該台帳に派遣労働者ごとに次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 協定対象派遣労働者であるか否かの別
二 無期雇用派遣労働者であるか有期雇用派遣労働者であるかの別
三 第四十条の二第一項第二号の厚生労働省令で定める者であるか否かの別
四 派遣元事業主の氏名又は名称
五 派遣就業をした日
六 派遣就業をした日ごとの始業し、及び終業した時刻並びに休憩した時間
七 従事した業務の種類
八 派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項
九 紹介予定派遣に係る派遣労働者については、当該紹介予定派遣に関する事項
十 教育訓練(厚生労働省令で定めるものに限る。)を行つた日時及び内容
十一 その他厚生労働省令で定める事項
2 派遣先は、前項の派遣先管理台帳を三年間保存しなければならない。
3 派遣先は、厚生労働省令で定めるところにより、第一項各号(第四号を除く。)に掲げる事項を派遣元事業主に通知しなければならない。

引用:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov法令検索

派遣先は少なくとも1ヵ月に1回、派遣元に対して派遣労働者の就業状況などを書面、FAX、メールなどで通知するよう厚生労働省が定めています。
参照:派遣先の講ずべき措置は・・・|厚生労働省

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労働者派遣法に関するルールは2021年に改正

労働者派遣法の施行規則・指針が、2021年に大きく改正されました。改正のポイントは以下の4点です。

2021年労働者派遣法試行規則・指針改正ポイント
~改正前後でどう変わる?~

1.派遣契約書の電磁記録の容認
改正前
派遣契約の締結は書面の契約書しか認められない
改正後
電磁的記録(電子データ)でのやり取りも認められる
2.派遣労働者の雇入れ時の説明を義務付ける
改正前
雇入れ時の説明やキャリアコンサルティングは任意
改正後
雇入れ時の説明やキャリアコンサルティング(希望者のみ)は義務
3.派遣先における、派遣労働者からの苦情を処理する
改正前
派遣先が派遣社員の苦情処理を十分に行っていなかったケースもあった
改正後
派遣社員から労働関係法上の苦情が出た場合、派遣先も対応が義務となった
4.日雇い派遣について
改正前
労働者の帰責事由以外の事由による契約解除であっても措置を講じる義務はない
改正後
労働者の帰責事由以外の事由によって契約解除する場合は派遣元が休業手当を支払う

労働者派遣の現場でトラブルが相次いでいることや労働者の人権保護の機運の高まりからより厳格化されたことと、IT化の流れで電磁記録(電子データ)でのやり取りが緩和されたことが今回の改正のポイントです。それぞれについて詳しく解説します。

派遣契約書の電磁的記録の容認

これまでは、個別契約をはじめとする派遣先と派遣元のやり取りは書面で行うことが義務付けられており、その他の手段は認められていませんでした。2021年には「厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令別表第2」が改正され、書面に加えて電磁記録(パソコンで作成したPDFなどの電子データ)が使えるようになり、電子契約であっても個別契約や基本契約を交わすことが可能です。

なお、派遣先や派遣元から派遣社員に業務に関する指示などを行う場合は、改正前からメールや口頭で行うことが認められていました。

派遣労働者の雇入れ時に教育訓練に関する説明を義務付ける

一定期間しか働けないため、継続した教育を受ける機会が少ない派遣社員は、正社員と比較するとスキルアップやキャリアアップが図りにくいといえます。

今回は「施行規則25条の14第2項4号」の改正により、派遣労働者を雇入れる際、派遣元の事業者は教育訓練やキャリアコンサルティング(希望者のみ)について説明することが義務付けられました。また、「派遣元指針第2の8⑸ロ」の改正により、教育訓練の計画に変更があった場合も説明が必要となりました。

派遣先における、派遣労働者からの苦情を処理する

これまで、派遣社員からの苦情(不当な労働環境や待遇、処遇、差別、パワハラ、セクハラなど)は、派遣元である派遣会社が処理していました。しかし、実際に派遣社員が働くのは派遣先であり、苦情が派遣先の処遇に起因するケースも少なくありません。

「労働者派遣事業関係業務取扱要領第7、派遣先指針」の改正によって、派遣社員から労働関係法上の苦情があった場合、派遣元はもちろん派遣先事業者も主体的に対応し、改善するよう義務付けられました。また、前述の派遣先管理台帳にも苦情の内容や処理について記載しなければなりません。

日雇派遣について

1日~数日という短期間のみ派遣先で働く「日雇派遣」は雇用状態が特に不安定で、雇い止めや契約解除による貧困化が社会問題になっています。改正前は労働者に原因がある場合以外、つまり派遣元や派遣先の自己都合などで契約解除となっても措置を講じる義務はありませんでした。

「日雇派遣労働者の雇用の安定等を図 るために派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針第2の5⑵」改正の改正により、派遣労働者の責に帰すべき理由がない状態で契約を解除した場合、派遣元が休業扱いとして手当の支払いなどの措置を講じなければならなくなりました。

改正法の詳細を押さえておこう

派遣社員を受け入れる、あるいは派遣社員を派遣する際は然るべき契約・手続きを行い、労働者派遣法を遵守する必要があります。後々の企業間あるいは派遣社員とのトラブルを防ぐためにも、基本契約を締結するのが望ましいです。契約の内容についても、双方でしっかり協議・確認しましょう。

2021年に労働者派遣法の施行規則・指針が改正され、派遣労働者の人権を守るための厳しいルールが定められました。「知らなかった」では済まされません。これから派遣社員を受け入れる事業者の方や派遣事業を開始する方はもちろん、すでに派遣社員を受け入れている方や派遣事業に携わっている方も、改正法を確認しておくことをおすすめします。

一方で電磁的記録による契約については緩和され、メールや電子契約システムによる契約も可能になりました。紙によるやり取りよりも業務が効率的になるため、電子契約の導入なども検討するとよいでしょう。

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よくある質問

派遣社員を受け入れる際はどんな契約が必要ですか?

派遣社員を受け入れるたびに、派遣会社と「個別契約」を締結しなければなりません。また、派遣会社と取引を開始する際は「基本契約」を結ぶのが一般的です。 詳しくはこちらをご覧ください。

派遣社員を受け入れるまでの流れは?

基本契約の締結、事業所抵触日の通知、個別契約、派遣先管理台帳の作成・保管がおおまかな流れです。労働者派遣法では他にもさまざまなルールが定められており、それらを遵守しなければなりません。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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