- 更新日 : 2025年3月18日
出張中の残業に残業代は出ない?移動時間や休日の扱いについて解説!
出張中に所定時間外の労働を行った場合、残業代が支給されるにはいくつかの条件があり、出張に伴う移動時間も労働時間にはカウントされません。労働者としては、出張中でも残業をしたら残業代を請求したいと考えるでしょう。
そこで本記事では、出張中における残業代について詳しく解説します。
目次
出張中に残業をしても残業代は出ない?
出張中は、会社が労働者の労働時間を把握できないため「事業場外みなし労働時間制」を採用している企業が多いです。事業場外みなし労働時間制は、原則残業なしとみなしているため、残業代が出ないと言われる要因になっています。
しかし、事業場外みなし労働時間制が対象外となるケースもあるため、出張中の残業代は出る場合もあります。どのケースで残業が出るのか確認しておくことが重要です。
事業場外みなし労働時間制とは?
事業場外みなし労働時間制とは、出張のように労働時間の管理が難しい場合に活用される労働法上の制度です。労働基準法に定められた要件を満たした場合、実際の労働時間数にかかわらず、所定労働時間を労働したとみなせます。
たとえば、みなし時間を8時間に設定している場合、実際の労働時間が8時間を超えていても、8時間働いたものとみなされます。反対に、実働時間が8時間未満だった場合でも、8時間働いたものとみなされ、8時間分の給料が支給される仕組みです。
事業場外みなし労働制でも残業代が認められるケース
事業場外みなし労働時間制を採用している企業の場合でも、残業代が認められるケースがあります。業務を遂行するために必要な時間が、所定労働時間を超えることが明確な場合は、残業代と認められます。
たとえば、所定労働時間が8時間で、指示された業務が通常12時間かかる場合は、12時間働いたとみなされて4時間分の残業代を請求可能です。所定労働時間以上の時間がかかる業務量にもかかわらず、8時間働いた分と同じ給料の支払いを行えてしまうと、企業が従業員に過剰労働を強いることになってしまうためです。ただし、時間外労働を認めるには、残業の証拠も必要となります。
出張における移動時間は残業とみなされる?
出張先に行くまでの移動時間や、自宅に帰るまでの移動時間は、基本的には労働時間とはみなされません。通常の出勤時も移動時間は労働時間とみなされておらず、遅延して通常よりも移動時間が伸びたとしても残業とみなされませんが、出張でも同じことが言えます。
一般的に、出張の移動時間はネットサーフィンをしたり読書をしたりなど、自由に過ごせる場合が多いでしょう。労働時間と認められる「使用者の指揮命令下に置かれている」という評価はされないため、移動時間は労働時間にはあたらず、残業とみなされることもないと考えられています。
出張における移動が労働時間にあたるケース
出張において移動時間は労働とみなされませんが、例外もあります。以下で紹介する2つのケースについて確認しておきましょう。
自由に過ごせない移動時間
移動時間であっても「使用者の指揮命令下に置かれている」と判断される場合は、労働時間にあたるケースがあります。出張における移動時間が、労働時間にあたる事例は以下のとおりです。
- 物品を管理・運送する
- 要人を警備する
- 病人を介護する
- 打ち合わせをする
- 資料作成をする
配達業務や警備など、移動そのものが業務にあたる場合は当然、労働時間としてみなされます。また、パソコンを使って移動時間中に打ち合わせや資料作成を行うことを会社から指示されている場合は、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価され、労働時間とみなされるケースもあります。
所定労働時間内の移動時間
所定労働時間内に移動している場合は、使用者の指揮命令下に置かれている時間として認められます。たとえば、朝9:00から夜18:00までの所定労働時間が設けられており、その時間内に移動していれば労働時間として認められます。
出張は会社の業務として行っているため、仮に移動の時間が自由に利用できる時間であったとしても、所定労働時間内の移動時間は給与控除できません。そのため、8時間の中で2時間移動に使ったとしても、この移動時間分、給与が引かれることはないです。
日当(出張手当)とは?
日当とは、従業員が出張したときに会社から支給する手当のことです。一般的には出張手当と呼ばれることが多く、1日単位で支給される手当であり、出張時に発生する食費や雑費を補助するために支給されます。
たとえば、出張中の食事は宿泊先で提供されるケースもありますが、素泊まりや朝食のみの場合には、自身で食事を用意する必要があるでしょう。止むを得ず外食をすることになるため、外食費用を補填し、出張期間を考慮した出張手当が支給されます。
日当(出張手当)は残業代とみなされる?
出張時の残業代を補填するために、日当を支給する企業もあります。出張先の労働時間を正確に把握できないため、事業場外みなし労働時間制を採用し、残業なしとみなす代わりに日当を別途支給しているのです。
しかし、日当に残業代が含まれていると証明するためには、その手当が実質的に時間外手当の代わりとして支払われていることが必要です。時間外手当を含むものとは認められないケースであれば、日当とは別に残業代を請求できる可能性があります。
日当(出張手当)の相場
日当の相場は、目的地や役職、国内出張か海外出張かなどによって金額が異なります。それぞれの相場の目安は以下のとおりです。
日帰り | 国内出張 | 海外出張 | |
---|---|---|---|
一般社員 | 1,500〜2,000円 | 2,000〜2,500円 | 4,000〜5,000円 |
部長クラスの役職 | 2,000〜2,500円 | 3,000〜4,000円 | 5,000〜6,000円 |
一般社員の日帰り出張であれば、2,000円前後が相場の目安となります。距離が長くなるほど金額が上がる傾向があり、国内宿泊の出張であれば2,500円前後、海外であれば4,000〜5,000円が相場の目安です。また、海外出張の中でも距離が遠い欧米への出張は、金額が高めに設定される傾向があります。
出張中における休日の扱い
出張が数週間から数ヶ月など長期にわたる場合は、出張期間中に休日が与えられます。出張期間中の休日は自宅に帰れないため、仕事に拘束されていると感じる人もいるでしょう。休日は、自由に過ごせるか過ごせないかによって、労働時間とみなされるかどうかが異なります。
自由に過ごせる休日
使用者から具体的な仕事の指示がなく、自由に過ごせる休日は、労働時間とはみなされません。自宅に帰れないとはいえ、自由に休息をとれて、好きなことができるため、使用者の指揮命令下に置かれているとは評価できないためです。
ただし、使用者側は週1回もしくは4週間で4日以上の休日を付与することが求められています。出張中も労働しているため、従業員が付与された休日できちんと休息をとれるように配慮は必要です。
自由に過ごせない休日
使用者から具体的な指示があり、自由に過ごせない休日は労働時間としてみなされます。休日だとしても、具体的な業務命令が下されれば、従業員は使用者の指揮命令下にあるとみなされるためです。
たとえば、休日に緊急の打ち合わせが発生して会議への参加を求められた場合や、資料作成をする必要があって休日に行う必要があった場合などが該当します。休日に労働をしているため、休日出勤手当の請求が可能になります。また、休日に移動のみ行った場合は、移動時間に具体的な業務指示がなければ、休日労働とはみなされないため注意が必要です。
出張における残業代の計算方法
出張中の残業代は、通常の勤務日と同様に計算されます。計算式は以下のとおりです。
割増賃金率は、残業の種類によって異なります。
残業の種類 | 割増賃金率 |
---|---|
法定労働時間超過(月60時間まで) | 25%以上の割増 |
法定労働時間超過(月60時間超) | 50%以上の割増 |
深夜労働 | 25%以上の割増 |
休日出勤 | 35%以上の割増 |
たとえば、当該社員の1時間あたりの賃金額が2,000円で2時間の残業を行った場合は「2,000円×2時間×1.25=5,000円」が残業代となります。これが深夜労働であればさらに25%割増となり「2,000円×2時間×1.5=6,000円」が残業代です。
出張における残業に関するよくある質問
最後に、出張における残業に関するよくある質問5つを紹介します。
出張で運転をした場合の移動時間は残業になる?
出張先までの往復の移動時間は、運転によって移動した場合でも労働時間としてはみなされません。社用車であったとしても同様で、移動時間は残業代が支給されないためです。ただし、運転中に遂行するべき業務を命じられた場合や、車に上司が同行していて勤務時間を把握できる場合などは、労働時間とみなされて残業代が支給されるケースもあります。
出張中の懇親会や会食は残業になる?
懇親会や会食は、参加の強制や、業務の有無などによって労働時間に該当することがあります。たとえば、業務命令によって所定労働時間外に懇親会へ強制的に参加させられた場合、使用者は残業代を支給するのが義務です。ただし、出張中の場合は、事業場外みなし労働時間制によって時間外勤務が残業代として認められない可能性もあるでしょう。
海外出張で時間外労働をしたら残業代は支給される?
海外出張の場合も国内出張と同様に、労働時間の把握が難しいため、事業場外みなし労働時間制によって残業は発生しないとみなされることが多いです。ただし、通常10時間かかる勤務と判断される業務内容であれば、所定労働時間の8時間を超過した2時間分は支給されます。また、渡航先で上司と同行していて労働時間を算定できる状況であれば、残業代が発生することもあるでしょう。
出張後に帰社して残業した場合はどうなる?
出張先で勤務をした後、本社やオフィスに戻って所定労働時間を超えた勤務をした場合は、残業として扱われます。とくに日帰り出張の場合は自宅へ帰らず、帰社して事務作業をする場合もあるでしょう。その場合は日当だけでなく、超過時間分の残業代を請求可能です。
出張に伴って早朝移動する場合に残業代は出る?
遠方への出張の場合、移動時間が長くなるため、早朝に出発するケースもあるでしょう。しかし、出張における移動時間は原則労働時間としてみなされず、早朝移動の場合も同様です。移動自体は通常業務の通勤時間と同じ性質と捉えられるため、どれだけ自宅を出発する時間が早くても残業代が出ることはありません。
出張における残業の定義を把握して正確な給料を受け取ろう
事業場外みなし労働時間制を採用している企業の場合、原則残業代が別途支給されることはありませんが、明らかに所定労働時間を超える業務を命令された場合は、残業代として請求が可能になります。また、出張中の移動時間も基本的には労働時間に含まれず、移動自体が業務の場合や移動中に具体的な業務を命令された場合は、労働とみなされます。
出張中における残業は、企業の規定や方針によって支給されるかどうかが異なるため、残業の定義を把握して正確な給料を受け取れるようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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