• 更新日 : 2024年4月24日

改正障害者総合支援法とは?改正による事業者への影響まで解説

改正障害者総合支援法とは?改正による事業者への影響まで解説

障害者総合支援法等の障害者支援関連の法律が、2022年4月、厚生労働省により改正が決定され、2024年4月(一部は2023年4月ないし10月)から施行されます。障害者総合支援法とはどのような内容の法律か、改正によって変わるポイントをまとめました。事業者に求められる対応や違反した場合の罰則についてもわかりやすく解説します。

障害者総合支援法とは?

「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」とは、2012年6月に交付され、2013年4月から施行されている法律です。障害者総合支援法は、障害者が社会に参加する機会を確保することで、総合的かつ計画的に共生社会を実現することを目的としています。

障害者総合支援法は、「障害者自立支援法」をベースとしています。障害者総合支援法と名称を変えただけでなく、障害者の定義に難病患者なども含めることで、制度適用の隙間を埋める法律に生まれ変わりました。

障害者総合支援法の障害者支援は、主に以下の点において障害者自立支援法とは異なります。

  • 重度訪問介護の対象を拡大
  • ケアホームをグループホームに一元化
  • 地域移行支援の対象を拡大
  • 地域生活支援事業を追加

また、障害者総合支援法では、障害者支援サービスの基盤を計画的に整備することも定めています。主なポイントは以下のとおりです。

  • 障害福祉サービスの提供体制の確保や地域生活支援事業の実施に関する障害者福祉計画の策定
  • 障害福祉計画の定期的な検証・見直しの法定化
  • 市町村に対して、障害者などのニーズ把握の努力義務化
  • 自立支援協議会において対象者や家族の参画を明確化

障害者総合支援法の改正内容【2022年改正・2024年施行等】

障害者総合支援法は2022年に改正・交付され、2024年4月1日(一部の改正法は2023年4月ないしは10月)に改正法が施行されます。主な改正内容は以下のとおりです。

  • 障害者等の地域生活を支援する体制の強化
  • 障害者の幅広い就労ニーズに応えられる支援
  • 精神障害者に対する支援体制の整備
  • 難病患者等への医療・療養生活への支援
  • 障害福祉分野におけるデータ基盤の整備

それぞれ何が変わるのか、わかりやすく説明します。

障害者等の地域生活を支援する体制の強化

障害者等が地域と関わって生活していける体制を構築するために、改正障害者総合支援法では以下の点の見直しが実施されます。

  • 基幹相談支援センターを地域支援の中核的機関に位置づけ、設置を市町村の努力義務とする
  • 地域生活支援拠点等を位置づけ、整備を市町村の努力義務とする
  • 地域の協議会で障害者個々の事例について情報共有し、協議会の参加者には守秘義務と協議会への情報提供に関する努力義務を設ける
  • 市町村等が実施する精神保健関連の相談支援については、従来の精神障害者だけでなく、精神保健上の課題を有する者も対象とする
  • 精神保健福祉士が果たすべき業務の一つに、精神保健上の課題を有する者への相談援助を追加する

障害者等に対する支援体制を強化することで、施設に入所しない障害者も地域との関わりを持った生活が可能になります。

障害者の幅広い就労ニーズに応えられる支援

障害者雇用施策や障害福祉施策に基づいた就労支援を政府主導で進めてきてはいるものの、障害者の働き方や就労先の選択に結びついていない点も指摘されています。障害者のニーズが多様化する中、より働きやすい社会を実現するために、障害者一人ひとりの希望や能力に合った就労支援が必要です。

改正障害者総合支援法では、以下の点が見直されています。

  • 障害者自身がより良い働き方や就労先を選択できるように就労選択支援サービスを創設する
  • 障害者が一般就労中であっても、休職から復職を目指す場合などに一時的に就労系障害福祉サービスを利用できるようにする
  • 一般就労への移行・定着を推進するために、市町村や障害福祉サービス事業者と障害者就業・生活支援センターとの提携を規定する

精神障害者に対する支援体制の整備

精神障害者に対する支援体制は、以下のポイントに分けて整備されます。

  • 医療保護入院制度の見直し
  • 入院者訪問支援事業の創設
  • 精神科病院での虐待阻止の取り組み強化

医療保護入院制度とは、本人の同意を得られない場合でも、必要に応じて入院治療を実施する仕組みです。従来は入院に際して家族など、特定の人の意思表示が必要でしたが、市町村長の同意によっても入院できるように変わりました。

入院患者本人が希望する場合は外部交流を可能にするための入院者訪問支援事業も開始されます。入院者訪問相談員は入院患者に対して、生活相談や情報提供の役割も担います。

また、精神科病院における虐待がしばしば問題になってきました。改正障害者総合支援法では、精神科病院の管理者が主軸となって虐待防止措置に取り組むことを義務付け、都道府県等への虐待通報を仕組み化することを求めています。併せて、都道府県等には虐待件数を公表すること、国は虐待に関する調査や研究を実施することも定めました。

難病患者等への医療・療養生活への支援

改正障害者総合支援法は、障害者だけでなく難病患者や小児慢性特定疾病患者も対象としています。難病患者等への医療支援、療養生活支援においては、次の点が改正されました。

  • 重症化したときに医療費支給を円滑に受けられる仕組みの構築
  • 療養生活支援強化
  • 自立支援強化

従来は医療費助成の開始日と申請日が同一であったため、診断書の作成に時間がかかるときには開始が遅れるケースもありました。改正障害者総合支援法では重症度分類を満たしていると診断された時点で助成開始となり、円滑な受給が可能になります。

また、指定難病患者に登録者証を発行し、障害福祉サービスをスムーズに利用できる仕組みの構築も改正点の一つです。障害福祉サービスには市町村などの副詞部門だけでなく、ハローワークの難病患者就職サポーターも含まれ、社会参加や自立にもつながります。

小児慢性特定疾病患者に対する自立支援も強化されます。従来は自立支援事業は任意であったため、実施率が低く、シームレスな支援を受けることは難しい状態でした。改正により自立支援事業が努力義務とされ、地域ごとの事業実態率などの把握も努力義務に加えられます。

障害福祉分野におけるデータ基盤の整備

シームレスかつ抜け漏れのない障害福祉サービスの提供のためにも、障害福祉分野におけるデータ基盤の整備が必要です。改正障害者総合支援法では、次のポイントに基づいてデータベースの規定整備を進めていきます。

  • 障害者や難病患者のデータベース構築の法的根拠を新設し、国・都道府県等への情報提供を義務化する
  • 安全管理措置等をルール化した上で、他の公的データベースとの連結解析ができる状態にする
  • 難病患者データベースの登録対象者を拡大し、軽症の指定難病患者等も含める

データベースは調査や研究にも用いられ、より良い障害福祉サービスの提供に活かされます。

障害者総合支援法の改正による事業者への影響は?

改正障害者総合支援法の施行により、障害者等を雇用する事業者は以下の点に注意が必要です。

  • 雇用率算定方法の変更
  • 短時間就労者を雇用する事業主への特例給付金の廃止
  • 障害者雇用調整金の変更

それぞれのポイントを解説します。

雇用率算定方法の変更

週所定労働時間が10時間以上20時間未満の障害者等に対して、特例的な雇用率算定が適用されることになります。

従来は重度身体障害者のうち、週所定労働時間が30時間以上の場合は雇用率2、20時間以上30時間未満は雇用率1と算定されていました。改正法によりこれらの算定方法は引き継ぎ、新たに10時間以上20時間未満の場合は雇用率を0.5として算定することになります。また同様に、重度知的障害者と精神障害者についても雇用率0.5として算定されます。

短時間就労者を雇用する事業主への特例給付金の廃止

従来、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の障害者等を雇用している事業主に対して、雇用人数に応じて特例給付金(1人あたり月7,000円)が支給されていました。また、雇用障害者等が100人以下の事業主に対しては、1人あたり月5,000円が支給されていました。

しかし、雇用率の算定方法が変更になることで、週所定労働時間が少ない障害者等に対しても就労機会が拡大することになります。そのため、改正障害者総合支援法施行後は、特例給付金制度は廃止されます。

障害者雇用調整金の変更

事業主が一定数以上の障害者を雇用する場合、超過人数分に対して調整金や報奨金が支給されることになります。

  • 法定雇用障害者数が100人以上超過:超過1人あたり月27,000円
  • 法定雇用障害者数が100人以下:超過1人あたり月21,000円

また、障害者の雇用あるいは雇用継続に必要な相談援助業務等をサポートするための助成金制度も新設されます。

障害者総合支援法に違反した場合の罰則は?

障害者総合支援法に違反すると、以下の罰則が適用されることがあります。

  • 正当な理由なしに職務上知り得た情報を漏洩した場合は、1年以下の懲役、もしくは100万円以下の罰金
  • 虚偽の報告や、正当と思われる質問に対して答弁をしない場合、あるいは虚偽の答弁をした場合は、30万円以下あるいは10万円以下の罰金
  • 受給者証あるいは地域相談支援受給者証の提出や返還を求められたにもかかわらず、応じない場合は、10万円以下の罰金

参考:e-Gov法令検索 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律

障害者への支援体制を見直そう

改正障害者総合支援法が施行されることで、障害者だけでなく難病患者等に対しても総合的かつ計画的な支援が提供されるようになります。また、実施により精神障害者の入院施設や、障害者等を雇用する施設の事業者に対して、新しい対応が求められるようになります。

以下を参考に、厚生労働省で発表される内容を随時確認し、障害者等に適切なサポートをシームレスに提供できる社会を目指していきましょう。

参考:厚生労働省 障害者福祉


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