ベンチャー企業が見落としがちな勤怠・労務管理

ベンチャー企業の労務管理の重要性

ベンチャー企業がIPOを目指す際、問題になりやすいのが労務管理の問題です。東証一部・二部、マザーズの上場審査では「コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、適切に整備され、機能しているか」が重要視され、コンプライアンスの中でも特に労働関連法規の順守は重要とされています。また、IPOを目指していなくとも、労働者との無用な争いを避けるためにも労務管理は非常に重要です。

東京圏雇用労働相談センターが「『ベンチャー企業』『グローバル企業』の社長がやるべき労務管理チェックリスト」を公開しています。

『ベンチャー企業』『グローバル企業』の社長がやるべき労務管理チェックリスト
労働条件通知書への記載にモレが無い自信がある。
就業規則に労働時間、休日、賃金、退職などを定めた。
有給休暇制度について説明できる。
法定3帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿)の備え付けは万全だ。
36協定を締結し、労働基準監督署に届けを出した。
ハローワークに事業所設置届を提出した。
業務委託、外注スタッフとの契約と労働契約の違いを説明できる。

日本進出を考えているグローバル企業は下記もチェックする
日本と海外の労働法の違いについて理解している。
外国籍の方を雇用する際の留意点を理解している。

こちらに記載している8項目は、労務管理上、基本的な内容となっていますが、すべてにチェックがつきますか?労働条件通知書、就業規則等の規程類、有給休暇の取り扱い、法定3帳簿、36協定、業務委託等との労働契約の違い等々。すべてにチェックがつかなかった、質問の意味がよくわからなかった、という労務担当者、経営者の方は、一度自社の労務管理を見直してみた方が良いでしょう。
上記のチェックリストを公開している東京圏雇用労働相談センターは、ベンチャー企業や海外からの進出企業等の労務管理をサポートするために、2015年1月に内閣府・国家戦略特別区域会議の下に設置されたものです。センターでは、弁護士や社労士等の専門家に、労務紛争を未然に防止したり、自社の労務管理が適切かといった各種相談に、無料で対応してもらえます。既存企業だけでなく、これから起業を考えている方の相談も対応可能ですので、自社の労務体制に不安がある場合は、ぜひ利用してみましょう。

ベンチャー企業の勤怠管理の落とし穴

ベンチャー企業の労務管理においては、人員増加や企業規模の拡大等によるステージごとに、様々な問題が生じます。

1.起業初期

事業を経営陣と外部委託のみの少人数で進めることが多く、本来労働者に該当しないはずの業務委託が実質的な雇用状態(労働基準法上の労働者)となる、インターンが事業に直結する業務を無給で行う(賃金未払いの状態)など、潜在的な問題が生じている場合があります。

2.事業拡大期

社員の新規採用等の人員増加が進むステージですが、就業規則・雇用契約書等、労務体制が整備されていない事象が多く見受けられます。また、労働時間の管理がずさんなまま、未払割増賃金が累積してしまう、秘密保持の体制などが整備されていないため、退職者が営業秘密などを競業他社に漏らしてしまう、就業規則や雇用契約書等の不備から従業員と揉め事が起きる、などの問題が徐々に生じてくる場合があります。

3.上場準備期

この段階で未払賃金の問題等が顕在化することが多いようです。過重労働、ハラスメントなど過去の様々な問題も発覚し、上場に支障が出るにとどまらず、多額の未払賃金支払いを求められたり企業名が公表され、企業イメージが毀損するなど、思いがけない問題が生じる場合があります。

上場申請時に問題となりうる主な事象

上述の通り、上場審査においては、労働関連法規の遵守、適切な勤怠管理は非常に重要です。労務管理上の問題が発覚すると、業績や財務状況がいくら好調であっても、上場延期や断念に至る要因になることも少なくありません。特に注意すべきは「ずさんな勤怠管理による未払賃金の防止」、「就業規則や雇用契約書等の整備」、「各種社会保険への適切な加入手続き」です。

1.ずさんな勤怠管理による未払賃金の防止

  • 従業員の労働時間を正確に把握できていない(勤怠管理システムが未整備)
  • 残業時間を一定までしか認めない、勤怠管理が1分単位で計算できていない(15分未満は切り捨てとする)など、社内ルールが適法でない
  • 固定残業代を超過する労働があった場合も超過分を支払っていない

など、ずさんな勤怠管理を行っていた結果、未払い残業代が蓄積しているといった事象が多くみられます。未払賃金が発覚すると、上場申請時には既に退社済みの社員も含め、賃金等請求権の時効となる2年前まで遡及しての支払いが必要になり、大きな負担となります。また、働き方改革関連法の施行により、罰則付き時間外上限規制が課される(中小企業は2020年4月施行)、中小企業の月60時間超の割増賃金率適用猶予が2023年4月から廃止されるなど、今後未払賃金の問題は、さらに厳しく取り扱われることとなります。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」なども参照し、適切な時間把握などに真剣に取り組む必要があります。

2.就業規則や雇用契約書等の整備

ベンチャー企業では、形式上就業規則は作成されているものの、実態と大きく乖離している、といったことが少なくありません。また、雇用契約書等の各種書式が法定の必須項目を満たしていない、労働基準法の規定を下回る労働条件になっているなどといったことも考えられます。適宜、労働基準監督署に相談したり、社会保険労務士、労働問題に詳しい弁護士など、専門家の目でチェックしてもらう必要があるでしょう。

3.各種社会保険への適切な加入手続き

社会保険の適用対象を適切に把握しておらず、非正規社員(パート・アルバイトや学生インターン等)は加入要件を満たしているのに加入させていない、といった事象が散見されます。労働保険(労災保険・雇用保険)、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入要件を確認し、加入の必要がある未加入者がいる場合には、迅速に加入手続きを行うなど、適切な対応が必要です。

労働条件チェックリスト活用のすすめ

ベンチャー企業での労務管理の重要性は上述までの通りですが、とはいえ、労務専任の担当者がいない、役員も労務に関する知識・経験がない、といったことが多いかもしれません。千葉労働局では「労働条件チェックリスト」を公開しています。末尾には参考資料として就業規則に記載すべき事項や労働条件の明示、時間外労働の制限等の基本的な情報がまとまっています。

まずは自社の現状を正確に把握することが大切です。上記チェックリストを活用し、社内で労務体制の点検を定期的に行ってみてはいかがでしょうか?チェックの結果、改善が必要な場合には、上述の「雇用労働相談センター」で社労士や弁護士等の専門家に相談してみることで、労務体制の改善を図りましょう。

ベンチャー企業こそ労務体制を怠らず

ベンチャー企業は少ない人員で変化に柔軟に、そしてスピーディーに対応していく必要があります。新しい働き方、新しい仕事のあり方に挑んでいくことができるのも魅力の一つかと思います。一方で、人材の定着や新規採用などに問題を抱えている場合は、今一度自社の現状に目を向けてみてはいかがでしょうか。勤怠管理の見直しや適切な休暇取得等が従業員のモチベーションを上げ、業務の効率化につながる、といったことも考えられます。

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【監修】金田朋子(かねだ ともこ) 社会保険労務士

社労士事務所にて給与計算、各種社会保険事務、就業規則の作成・改定、行政機関調査対応等に関する社会保険・労務コンサルティング業務に従事後、現在はベンチャー企業内の社内社労士として勤務。
社労士事務所での外部コンサルタント、ベンチャー企業内での労務担当者としての経験を生かし、ベンチャー・中小企業に強い社労士として社会保険・労務コンサルティングを行っている。
Twitter : @tok0moco

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