• 更新日 : 2025年3月19日

出張中の移動時間は労働時間に該当する?ケースをもとに解説!

出張中の移動時間の使い方に悩む方は多いでしょう。移動時間が労働時間に該当するかどうかで、過ごし方が大きく変わります。

本記事では、具体的なケースや判例をもとに、出張の移動時間が労働時間に該当する条件を解説します。基本的に、移動時間は労働時間には該当しないため、有効活用することが大切です。

労働時間の定義とは?

労働時間の定義として、労働基準法では労働時間について原則1日8時間、1週間で40時間を法定労働時間と定めています。

一方で、労働基準法では何を労働時間とするのかの具体的な定めはなく、労働時間に該当するかは「使用者の指揮命令下に置かれたもの」かどうかで客観的に判断されます。

たとえば、作業服への更衣や移動、副資材の準備や作業後の片づけなども会社の指揮命令下に置かれたものであれば、労働時間として扱われる可能性もあるでしょう。業務遂行に不可欠な準備や後処理は、過去の判例でも労働時間と認められています。

そのため、労働時間には業務内容や企業の指示の有無が大きく関わることの理解が重要です。

出典:三菱重工業長崎造船所事件/最高裁判所2000年3月9日判決

出張の移動時間は労働時間に含まれる?

出張中の移動時間は、基本的には労働時間には含まれません。音楽鑑賞や読書、仮眠などが可能であり、労働者が自由に使える時間とされるためです。

労働時間とみなされるには、「会社からの業務上の指示」をもとに業務を実行する必要があり、平日だけでなく、休日の出張であっても同様に適用されます。海外出張の移動中であっても、原則として労働時間に該当しないため、注意が必要です。

ただし、通常の勤務と比べて拘束時間が長くなりやすく、移動そのものが負担になることから、従業員の不満につながるケースもあります。そのため、企業によっては出張手当や日当を取り入れ、移動の負担を考慮しているケースもあります。

業務時間内に移動が発生する3つのケース

実際に業務時間内に移動が発生する主なケースを以下に3つまとめました。

  • 所定労働時間内の近距離出張
  • 長距離出張での移動
  • 出張先への直行・家への直帰

ケース1.所定労働時間内の近距離出張

1つ目のケースは、所定労働時間内の近距離出張です。会社に出社した後、近距離出張をして数時間程度で帰社するケースが該当します。

たとえば、オフィス街で勤務していれば取引先が近隣のビルに入居していることや、工場勤務であれば取引先が車で15分の場所にあることなどがその一例です。近隣の出張の場合だと、移動と打ち合わせを含めても短時間の出張で済む場合が多く、所定労働時間内に出張が完結します。

そのため、移動時間が発生しても基本的には業務の一環としてみなされ、労働時間として扱われることが一般的です。

ケース2.長距離長距離出張での移動

2つ目のケースは、長距離出張での移動です。長距離になると新幹線や飛行機での移動を伴う可能性が高くなり、日帰りだけではなく、宿泊を伴うケースも珍しくありません。

さらに、宿泊を伴う長距離出張には、海外出張も含まれます。海外出張は移動時間が長いため、拘束時間が増えて労働者の負担が増えます。企業によっては出張手当や移動時間中の業務指示の有無を明確に定めている場合もあるでしょう。

長距離出張は営業職や技術職など、顧客と頻繁に会議をする職種で発生しやすいため、事前に移動時間に関する取り扱いを確認しておきましょう。

関連記事:出張とは?各種手当や日帰り・宿泊の判断基準を解説!

ケース3.出張先への直行・家への直帰

3つ目のケースは、出張先への直行や家への直帰です。業務内容や出張先、当日の予定によっては出社せず、直接出張先へと直行することも珍しくありません。

同様に、出張先から会社に戻らず、自宅に直帰することもよくあるでしょう。たとえば、朝一番から打ち合わせが入っていたり出張先が会社と逆方向であったりする場合などに、移動効率を考慮して直行・直帰することが想定されます。

直行・直帰の場合は一般的な通勤と同様に扱われるため、移動時間が労働時間に該当するかは企業の就業規則によって異なります。

関連記事:直行直帰とは?定時前や残業代のルールなど労働時間の管理方法を解説

出張の移動時間が労働時間に含まれる例を3つ解説

原則として、出張時の移動時間は労働時間に含まれません。しかし、一定の条件を満たすと労働時間に含む可能性もあります。労働時間に含まれる出張の例を、以下で3つ解説します。

  • 所定労働時間内に移動する場合
  • 移動中に業務の指示を受けている場合
  • 移動中に打ち合わせなどをする場合

出張が労働時間に含まれるかパターンを把握しておくと、出張の移動時間に関するトラブルの抑制効果が期待できるでしょう。

1. 所定労働時間内に移動する場合

1つ目のケースは、所定労働時間内に移動する場合です。所定労働時間内は本来労働すべき時間であるため、使用者による指揮命令下にあると判断されます。

所定労働時間とは、「会社と従業員との間で就業規則や雇用契約書によって定められた、働くことになっている時間」を指します。したがって、所定労働時間内に発生する移動では、業務上の連絡にすぐに対応できるような準備が必要です。

2. 移動中に業務の指示を受けている場合

2つ目のケースは、移動中に業務の指示を受けている場合です。以下に該当すると、移動時間でも労働時間に含まれる可能性があります。

  • 会議資料をPCで作成する
  • 物品を運搬中に監視する
  • 同僚を車に乗せて出張先まで運転する
  • 会社からの指示にすぐに対応できるように待機する
  • 移動中にリモートで会議に参加する

業務の指示を受けている場合は、移動中であっても業務に携わっているとみなされるため、労働時間として判断されます。

3. 移動中に打ち合わせなどをする場合

3つ目のケースは、移動中に打ち合わせなどをする場合です。移動している際の上司との会話が仕事に関連するものであれば、労働時間としてみなされる可能性があります。移動時でも労働に含まれる打ち合わせ内容は以下のとおりです。

  • 会議内容のすり合わせ
  • 会議を受けての業務指示
  • 上司の指示を受けて資料を作成

上司に限らず、仕事に関係する電話を受けている場合や同僚と仕事に関する会話をしている場合も労働時間に該当します。ただし、仕事に関係のない日常会話をする場合は、仕事をしているとはみなされないため注意が必要です。

出張の移動時間が労働時間に該当しない判例を2つ紹介

出張の移動時間が労働時間に該当するかは、過去の判例が判断の参考になります。移動時間が労働時間とみなされなかった判例を、以下で2つ紹介します。

  • 日本工業検査事件
  • 横河電機事件

判例1.日本工業検査事件

判例の1つ目は、日本工業検査事件です。本判例は、地方現場への出張時の移動時間や作業時間が時間外労働に当たるとし、割増賃金を要求した事例になります。裁判所は、移動時間は通常の通勤時間と同じ性質であり、通勤時間と同様労働時間には含まれないものと判断しています。

結果として、出張の際の移動時間は通勤時間と同様であるとし、労働時間に含まないという判決がくだされました。ただし、出張先の作業に関しては企業の指揮命令下にあるとしたため、労働時間に該当すると認定し、時間外労働に対する割増賃金の支払い義務を認めています。

出典:日本工業検査事件/横花地方裁判所1974年1月26日

判例2.横河電機事件

判例の2つ目は、横河電機事件です。本判例は、韓国への出張に伴う移動時間が労働時間に含まれるかを巡り、労働者が時間外勤務手当の支払いを求めた事例です。

企業側は労働協約において移動時間は労働時間に含まれておらず、代替措置として海外出張手当を支給していると主張しました。一方で労働者側は、移動時間は労働時間に含まれるべきと主張した事件です。

結果として、裁判所は労働協約の規定にもとづき、出張中の移動時間は業務指示による労働拘束性が低いため、実労働時間には当たらないと判断しています。

出典:横河電機事件/東京地方裁判所1994年9月27日

出張の時間外労働は残業代を請求できる?

出張を伴う時間外労働の残業代を請求できるかについて、以下の2つのケースをもとに解説します。

  • みなし労働時間制が適用される場合
  • みなし労働時間制が適用されない場合

残業代の請求は、「みなし労働時間制」が適用されるかどうかで変わるため、しっかりとポイントを押さえておきましょう。

みなし労働時間制が適用される場合

みなし労働時間制が適用されている場合は、残業代は支給されません。みなし労働時間制とは、実際に働いた時間に関わらず、あらかじめ定められた時間を労働時間としてみなす制度を指します。

たとえば、出張や外勤など、労働時間の算定が難しい業務においてよく取り入れられている制度です。みなし労働時間制が適用されている場合は、出張における時間外労働に対して残業代を請求できないため、注意が必要です。

ただし、出張先での労働時間の算定が実態に即しておらず、あらかじめ定められた時間を超過することが常態化している場合は、時間外労働に該当する可能性があります。

関連記事:みなし労働時間制と固定残業制の違いとは?導入のメリットや注意点も解説

みなし労働時間制が適用されない場合

みなし労働時間制が適用されない場合は、残業代を請求できる可能性があります。みなし労働時間制が適用されなければ、実際の労働時間をもとに労務管理を行うからです。

ただし、出張の移動時間や出張先で時間外労働を行った証拠がなければ残業代の請求は困難になるため、注意が必要です。

出張の移動時間に関するトラブルを防ぐためには?

出張時の移動時間に関するトラブルを防ぐための方法を以下で2つ解説します。

  • 会社のルールを事前に確認する
  • 移動時間が労働時間に含まれる場合は残業代を請求する

会社のルールを事前に確認する

トラブルを防ぐための1つ目の方法として、会社のルールを事前に確認することが挙げられます。会社が出張の移動時間をどのように規定しているかを把握しておくと、移動時間をより自分のために活用できるでしょう。

会社のルールは就業規則の確認や担当部署に問い合わせると把握できます。また、出張の移動時間に業務指示を受けているケースに関しても、事前に問い合わせることで認識の齟齬を防ぎやすくなるでしょう。

移動時間が労働時間に含まれる場合は残業代を請求する

トラブルを防ぐためにできる2つ目の方法として、移動時間が労働時間に含まれる場合は残業代を請求することが挙げられます。労働時間に含まれる条件を満たしているにも関わらず残業代が支払われない場合は、会社に対して相当する賃金を請求できます。

該当する労働時間が時間外労働に当たる場合は、25%以上の割増賃金として請求可能です。請求方法がわからなかったり不安を感じたりする場合は、労働組合や労働基準監督署への相談がおすすめです。

出張中の移動時間が労働時間に該当するかを正しく判断しよう

出張時の移動時間が労働時間に該当するかについて、3つのケースと判例をもとに解説しました。原則として移動時間は労働時間として認められませんが、業務指示を受けている場合や移動中の打ち合わせなどを伴う場合は労働時間として認められます。

労働時間に該当するかを正しく判断し、移動時間を有意義に活用してください。


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