• 作成日 : 2018年10月23日

高度プロフェッショナル制度で労働生産性は向上!?過労死・自殺の問題は?

高度プロフェッショナル制度とは何か?導入の目的は?

高度プロフェッショナル制度(ホワイトカラーエグゼンプション)は特に米国のホワイトカラーで広範に実施されている制度で、「時間外・休日労働の規制(いわゆる36協定の規制)」「時間外・休日・深夜の割増賃金等」の適用が除外されるものです。働き方改革法の中で、新たに取り入れられた制度であり、2019年4月から適用されます。
対象者は「職務の内容が明確に決まっている高度な専門職*」で、「年収1075万円以上の高所得者」が「希望する」場合にのみ適用されます。
この制度を導入した目的としては「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにするため」とされています。

(*高度の専門的知識等を必要とし、従事した時間と成果との関連が高くない業務:具体例:金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務、コンサルタントの業務、研究開発業務など)

導入時の手続きと健康確保措置

この「高度プロフェッショナル制度」の創設にあたっては、過労死遺族の団体や、野党などから、「過労死を助長する」「残業代ゼロで働かせ放題になる」等として、強く反対があったこともあり、対象となる労働者が長時間労働を強いられないよう、手続が厳しく定められています。
導入時には、「事業場の労使同数の委員会(いわゆる「労使委員会」)で、対象業務、対象労働者、健康確保措置などを5分の4以上の多数で決議し、労基署に届出ること」、「本人の同意(後日撤回も可能。)を得ること」が必要です。

また、制度導入後、対象労働者に対して事業主は、割増賃金支払の必要はなくなりますが、健康管理時間(「事業場内に所在していた時間」と「事業場外で業務に従事した場合における労働時間」との合計)を客観的な方法で把握した上で、これに基づく長時間労働防止措置・健康確保措置を取ることが必要とされています。
健康確保措置として、具体的には以下の2つが挙げられています。

(1)年間104日以上、かつ、4週4日以上の休日確保を行うこと
(2)次の4つのうちのいずれかを採用すること
「勤務間インターバル規制」
「健康管理時間の上限設定」
「1年につき2週間の連続休暇」
「臨時の健康診断」

過労死・過労自殺、労働生産性の問題

上述の通り、本制度の導入にあたっては多くの批判がありました。
法案が可決され、前述の導入時の手続きや健康確保措置に対しても、「労使委員会のチェックの実効性は疑問である」、「年104日以上の休日は、要するに週休二日制と同じである」、「四つの追加的な措置といっても、結局、「臨時の健康診断」が選択されれば、ほとんど意味をなさない」などといった批判があります。

さらに、過労死・過労自殺の問題について検討が不十分とされています。
「高度プロフェッショナル制度」が適用される対象者については、労基法上の「労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定」が適用されなくなり、残業時間の上限規制や割増手当の支払いの必要がなくなりますが、「働き方に裁量があること(自分で働き方・働く時間を決められること)」については、法律上の要件とはなっていません。そのため、高度プロフェッショナル制度が適用される従業員に対して、企業が、長時間労働を命令しても違法ではないと解釈される可能性も否定できません。
また、「時間ではなく成果で評価」する「時間に縛られない働き方」が労働生産性の向上に役立つという主張についても疑問視する声があります。
労働生産性は、単位時間当たりの生産性(成果)で示されるものであり、労働時間管理を粗略にすれば、正確な労働生産性の測定もできなくなってしまいます。ホワイトカラーの生産性は人によって違うからこそ、労働時間と成果を適切に測定し、生産性の高い人の技能やノウハウを業務担当者間で共有することにより、全社的な生産性向上を図る必要がある、というものです。

欧米の実情(労働慣行の相違、違反時の制裁など)

欧米での高度プロフェッショナル制度の実情については、各種の研究報告があります。

(1)労働政策研究研修機構「労働政策研究報告書」2005年の調査概要
「同制度は欧米で一般的な制度とは言えない。ドイツフランスではごく少数。英国では統計がなく判然としない。」
「米国では、違反の制裁措置が極めて厳しい。米国でのホワイトカラーの職務のあり方が我国と全く異なり、米国の制度をそのまま我国に適用できるかは疑問。」
「米国で適用除外に該当しないのに該当すると扱った場合の制裁例:未払分割増賃金(日本と異なり5割)、倍額賠償金さらに弁護士費用の支払い。集団訴訟により同様の立場の労働者のための訴訟が可能。不適切な賃金減額を行った場合、減額相手の被用者のみならず当該管理者の下で同一職務に従事していた被用者全員につき適用除外が受けられなくなる。」

(2)笹島 芳雄(明治学院大学名誉教授)「労働政策の展望 ホワイトカラー・エグゼンプションの日本企業への適合可能性」
「米国では、職務内容は職務記述書で明確化されている。ホワイトカラー・エグゼンプションの利点たる「自由度の高い働き方」の前提条件である担当業務の明確さが実現している。担当業務の決定権は各ホワイトカラーが保有している、転職も容易、等である。」

このように、米国と日本では、そもそもの転職市場の成熟度や労働慣行が大きく異なるため、「米国では広く活用されているから日本でも」という点には疑問が残ります。

日本で高度プロフェッショナル制度は広まるのか

上述の通り、高度プロフェッショナル制度は米国では相当に普及していると言われます。
しかし、労働市場の違い、企業の人事管理の違いなど様々な相違点があることから、米国では適切で効果的に機能している制度だからといって、日本においても適切で効果的に機能する制度であるとは限りません。
過労死・過労自殺が深刻な問題となっている現在の日本では、過労死・過労自殺が発生した企業には、制度導入を認めない等、より厳しくきめ細かな検討が必要ではないでしょうか。

<参考>
東京労働局「労働時間法制の見直しについて(労働基準法、労働安全衛生法、労働時間等設定改善法の改正)


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