- 更新日 : 2021年6月4日
締め日がポイント|退職時に損をしないための税金と社会保険料

退職してすぐに再就職しない場合、それまで自動で給与から天引きされていた税金や社会保険料は自分で支払わなければなりません。
税金や社会保険料は退職日を基準にそれぞれの締め日が決定するため、退職日によっては損をすることが考えられます。
そこで今回は締め日が税金と社会保険料に及ぼす影響を解説し、退職してすぐに再就職しない場合はどのような選択手段があるのかを紹介します。
社会保険料の締め日はいつなのか
社会保険料と呼ばれるものには、健康保険料や厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料などがありますが、今回は「健康保険料」を例に挙げて説明します。
健康保険料は会社に在籍している間は、原則として会社が従業員の保険料の半分を負担しています(健康保険法第161条)。
しかし退職すると、
・任意継続保険料として全額支払う
・国民健康保険料に切り替える
のどちらかを選択することになります。
※退職後の選択肢として、扶養に入る場合がありますが、ここではその説明は省略します。
ここでは任意継続保険料を選択したこととして、以下の条件で解説を行います。
・平成30年度保険料額表(全国健康保険協会東京支部)の18等級に該当
・会社在籍中に健康保険料全額21,780円を会社と従業員とで10,890円ずつ健康保険協会に保険料を納付
・退職後は退職した従業員が任意継続保険料として健康保険料全額21,780円を2年間支払う
参考URL:平成30年度保険料額表 東全国健康保険協会東京支部の場合
退職する場合の健康保険料は、「退職日」と「資格喪失日」の2種類の締め日で事務手続きが行われます。
資格喪失日には、以下2つのルールが健康保険法によって定められています。
ルール2:被保険者の資格喪失日が存在する月の保険料は算定しない(健康保険法第156条)
そのため、退職日を月末(30日や31日など)にすると、資格喪失日は翌月の1日となります(ルール1:退職日の翌日が資格喪失日)。

また、資格喪失日が存在する4月は会社が健康保険料の半分を負担しなくなるため、退職者である任意継続被保険者が全額負担することになります。
つまり、
・3月分の健康保険料10,890円は給与から天引きされる(3月分までは会社が健康保険料の半分を負担する)
・4月分の健康保険料は任意継続保険料21,780円となり、以降2年間納付する(4月分から任意継続被保険者が健康保険料の全額を2年間納付する)
ことになります。
しかし、退職日を月末以外にすると退職日と資格喪失日は同月となり、「ルール2:被保険者の資格喪失日が存在する月の保険料は算定しない」が適用されることによって、退職月である3月から任意継続保険料として全額自己負担で納付する必要があります。

月末退職した場合 | 月末以外に退職した場合 | |
---|---|---|
3月分健康保険料 | 10,890円(会社が半分負担) | 21,780円(任意継続保険料) |
4月分健康保険料 | 21,780円(任意継続保険料) | 21,780円(任意継続保険料) |
合計 | 32,670円 | 43,560円 |
このように、退職日が数日異なるだけで上記例の場合は約1万円損をすることになってしまいます。
健康保険料の締め日は退職日の翌日である資格喪失日となるため、損をしないように退職したい場合は、退職日に注意する必要があります。
所得税の締め日はいつなのか
毎月給与から天引きされている所得税の締め日は、毎年12月31日となっています。
所得税は納め足りない場合の追加徴収の手続きの煩雑さを回避するために多めに給与から天引きされており、12月31日時点で会社に在籍していることを前提条件として年末調整を行ない、支払い過ぎた税金の精算を行います。
しかし退職日が12月31日以外の日を選択すると年末調整の対象から外れるため、自分で税金の精算を行わない限り、所得税を多めに納税している状態のままとなります。
もし退職後に確定申告を行なわなかったとしても所得税が納め過ぎとなっているだけに過ぎず、罰則等の規定は適用されません。
納め過ぎとなっている所得税を取り戻すには「還付申告」を行なうことで、損をしている状態を解消することができます。
退職日が所得税の締め日である12月31日以外の場合は原則として年末調整以外の方法(=還付申告)で所得税の精算を行なう必要がありますが、以下の5パターンは例外として年末調整の対象となります。
2.死亡によって退職した人
3.著しい心身の障害のため退職した人(退職した後に再就職をし給与を受け取る見込みがある人は除きます。)
4.12月に支給されるべき給与等の支払を受けた後に退職した人
5.いわゆるパートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下である人(退職後その年に他の勤務先から給与の支払を受ける見込みのある人は除きます。)
上記5パターンに当てはまる場合は、12月31日以外の退職日であったとしても年末調整によって所得税の精算(=年末調整)が行われます。
還付申告は、確定申告期間とは関係なく、5年間有効です。過去に年末調整をしていない年がある場合は、還付申告をされることをおすすめします。
まとめ
今回は「健康保険料」と「所得税」に特化して、退職時に損をしない方法を「締め日」を軸に紹介しました。
特に健康保険料の理解しにくい点として、
・退職日=資格喪失日ではなく、退職日の翌日が資格喪失日となる
・資格喪失日が存在する月からは会社が保険料を負担しなくなる
というルールがあるため、上手に活用しないと損をすることになってしまいます。
退職した後の健康保険料はいくら支払わなければならないのか、市町村や健康保険協会などへ問い合わせるなどして退職日を設定されてはいかがでしょうか。
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よくある質問
社会保険料の締め日は?
健康保険料に関しては「退職日」と「資格喪失日」の2種類の締め日で事務手続きが行われます。詳しくはこちらをご覧ください。
所得税の締め日は?
毎年12月31日です。詳しくはこちらをご覧ください。
退職日が12月31日以外の場合はどうなる?
年末調整の対象から外れるため、自分で税金の精算を行わない限り、所得税を多めに納税している状態となります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。