- 更新日 : 2025年4月17日
有給奨励日とは?違法になってしまうケースや注意すべきポイントを解説
「有給奨励日って何?」「会社が指定した日に有給休暇を取らなければならないの?」
上記のような疑問をもつ方も多いのではないでしょうか。
有給奨励日は、企業が従業員に有給休暇の取得を推奨する日ですが、運用方法によっては違法になる可能性があるため、注意が必要です。
とくに「強制取得させる」「他の日の有給取得を制限する」などのケースは、労働基準法違反に該当する場合もあります。
本記事では、有給奨励日の基本から違法となるケース、適切な設定方法、よくある疑問への回答まで詳しく解説します。
適法で効果的な有給奨励日を運用し、従業員が安心して働ける環境を整えましょう。
目次
有給奨励日とは有給休暇取得を推奨する日
有給奨励日とは、企業が従業員に対して有給休暇の取得を推奨する日のことです。有給奨励日に法的な強制力はなく、従業員の判断で取得するかどうかを決められます。
しかし、多くの企業がこの制度を導入しているのは、有給休暇の取得率向上や労働環境の改善につながるためです。
有給奨励日の導入目的は以下の通りです。
- 取得率の向上:企業の推奨による取得しやすい環境の整備
- 労働環境の改善:休暇を取りやすい職場環境の整備と従業員満足度の向上
- 業務の効率化:特定時期への休暇集約による業務調整の円滑化
日本の有給取得率は約62.1%(2022年時点)と、6割程度の人が取得している状況となっています。(参考:10月は「年次有給休暇取得促進期間」です|厚生労働省)
企業は有給奨励日を適切に設定し、従業員が休みやすい環境を作ることが重要です。
また、制度の形骸化を防ぐために、上司や経営層が率先して有給を取得するような座組みも必要でしょう。
有給奨励日が設定されることが多いタイミング
有給奨励日は、特定の時期や曜日に設定されることが一般的です。企業は業務の繁忙期を避けながら、従業員が休みを取りやすいタイミングを選定します。
よく設定されるタイミングは以下の通りです。
時期 | 具体例 |
---|---|
ゴールデンウィーク | 4月末〜5月初旬の連休前後 |
お盆休み | 8月中旬の休暇前後 |
年末年始 | 12月下旬〜1月初旬の休暇前後 |
上記のような時期に有給奨励日を設定すると、長期休暇を取りやすくなります。
たとえば、ゴールデンウィークの前後に1日有給を取ると、最長10連休になるケースもあるでしょう。
企業が適切なタイミングで奨励日を設けると、従業員の休暇取得を促進し、業務の効率化にもつながります。
とくに、繁忙期を避けた奨励日は、業務の混乱を最小限に抑えながら休暇取得を推奨できるメリットがあります。
有給奨励日は違法ではない
有給奨励日は、企業が従業員に休暇の取得を推奨する制度であり、違法ではありません。
労働基準法では、労働者が有給休暇を取得する権利を認めていますが、企業側が取得を促進すること自体は法的に問題ありません。
有給奨励日が合法である理由は以下の通りです。
- 有給奨励日はあくまで「推奨」であり、取得するかどうかは従業員の自由
- 取得率向上を目的とし、休暇を取りやすい環境づくりの一環
- 企業が強制しない限り、違法には該当しない
ただし、運用方法によっては違法となるケースもあるため、企業側は労働基準法を理解し、適切な設定が求められます。
有給奨励日が違法になる可能性があるケース
有給奨励日は、企業が従業員に対して有給休暇の取得を推奨する日ですが、運用方法によっては違法となる可能性があります。
強制的に有給休暇を取得させる場合
労働基準法第39条では、有給休暇の取得日は労働者が自由に決められると定められ、強制的に取得させてはいけません。
有給奨励日が違法となる具体的なケースは以下の通りです。
- 「この日は全員必ず有給を取得すること」と指示する行為
- 「〇月〇日は会社の方針で有給休暇を取得してください」と命じる行為
- 従業員の事情を考慮せず、休暇取得を義務付ける運用
ただし、「計画年休制度」を適切に運用し、労使協定にもとづいて年休取得日を設定している場合は問題ありません。
企業が有給休暇の取得を促進する際は、労働者の意思を尊重しながら、適切な制度の活用が求められます。
「実質的な休業日」として扱い有給休暇の消化を強制する場合
企業が特定の日を「実質的な休業日」として扱い、従業員に有給休暇の取得を強制することは違法の可能性があります。
有給休暇は労働者の自由な意思にもとづいて取得するものであり、企業が一方的に決定することは認められていません。
たとえば「〇月〇日は業務を行わないので、有給休暇を取得してください」「この日は会社を閉めるので、全員有給休暇扱いとする」と企業が指示した場合は違法となる可能性があります。
企業が業務の都合上休業日を設ける場合は、有給休暇を充てるのではなく「特別休暇」や「休業手当」の支給など、別の制度を活用するのが適切です。
有給休暇の取得促進は大切ですが、労働者の権利を侵害しない形で運用する必要があります。
実質的に「休日出勤の強要」につながる場合
有給奨励日を設定しているにもかかわらず、実際には休めない状況を作り、後日休日出勤を求めるケースも違法となる可能性があります。
有給休暇の取得は従業員の健康維持やワークライフバランス向上が目的であり、結果として労働負担が増すような運用は適切ではありません。
違法となるケースの例は以下の通りです。
- 「有給奨励日だから休め」と指示しながら、後日「業務が遅れているので休日に出勤してほしい」と求める行為
- 有給奨励日を取らなかった従業員に対し、「代わりに別の日に休むことは認めない」と制限する運用
企業が有給休暇を推奨する目的は、従業員の働き方改革や生産性向上にあります。
結果的に労働時間が増えたり、休暇の取得が負担になるような運用では本末転倒です。
有給奨励日を設ける際は、休暇取得後の業務バランスにも配慮し、従業員が安心して休める環境を提供しましょう。
有給奨励日を理由に別の日に有給を取得させない場合
労働基準法第39条では、従業員が希望する日に有給休暇を取得する権利があると定められています。そのため、企業が「有給奨励日に休んだから、他の日は有給取得を認めない」とするのは違法です。
有給奨励日はあくまで推奨であり、他の日の取得を制限する根拠にはなりません。
企業は有給休暇を適切に管理する責任がありますが、労働者の権利を侵害しないことが前提です。企業側は、奨励日以外の日の有給取得も認め、従業員のワークライフバランスを尊重する姿勢が求められます。
有給休暇を持たない従業員への対応方法
有給奨励日を設定する際、入社間もない従業員やパート・アルバイトなど、有給休暇を持たない従業員への対応が求められます。
休暇を取得できる従業員とできない従業員がいる状況は、公平性の観点からも課題となるため、企業は適切な対応策を講じることが重要です。
特別休暇を付与する
有給休暇を持たない従業員に対して、企業独自の「特別休暇(有給)」を付与すると、全従業員が公平に休暇を取得できます。
特別休暇とは法的な義務ではなく、企業の裁量で運用できる制度です。特別休暇を導入することで、労働者の満足度向上や採用面での競争力強化につながります。
一方で、有給の特別休暇を付与することで企業側のコスト負担が増えるため、制度導入時には財務状況を踏まえた検討が必要です。
休業手当を支払う
有給休暇を持たない従業員に対し、有給奨励日を「会社都合の休業日」とし、休業手当(平均賃金の60%以上)を支給する方法もあります。
労働基準法では、企業都合で労働者を休ませる場合、休業手当の支払いが必要です。
休業手当を支払うことで、労働者が有休取得しやすい環境を生み出し、リフレッシュする機会にもつながります。
しかし、企業側のコスト負担が大きいため、業績への影響も考慮しながら運用しましょう。
振替休日を付与する
有給奨励日に休めなかった従業員に対し、別の日に振替休日を取得できる制度を導入することもひとつの方法です。振替休日とは、あらかじめ出勤日と休日を入れ替えることで、労働時間を調整する制度です。
振替休日制度を導入することで、従業員の不満を軽減しながら、企業側のコスト負担も抑えられます。ただし、繁忙期などに振替休日を取得しづらくなる可能性もあるため、スケジュール調整が課題となります。
また、振替休日は企業の就業規則や労使協定にもとづいて設定されるため、適切な運用が必要です。
有給奨励日を設定する際の注意すべき3つのポイント
有給奨励日は、従業員に有給休暇の取得を促す制度ですが、運用方法によっては違法となる場合も少なくありません。
企業が適切に制度を運用するためには、労働基準法を遵守しながら、従業員の権利を尊重することが求められます。
労使協定を締結し計画年休として運用する
有給奨励日を設定する場合、「計画年休」として運用するのも一つの方法です。
計画年休を適用するには、事前に労使協定を締結してください。
計画年休のポイントは以下の通りです。
- 労使協定を締結し、適用範囲を明確にする
- 企業側が年5日を超える有給休暇の取得日を指定できる
- 労使協定なしでの一方的な指定は違法となる
労働基準法では、企業が従業員の有給休暇取得を計画的に管理することが認められていますが、労働者の権利を制限できません。
そのため、労使協定を締結し、計画的な休暇取得の仕組みの整備が求められます。
休日を削減して設定すると労働条件の不利益変更の可能性あり
有給奨励日を設定する際、既存の休日を削減して新たに有給奨励日を設けることは、労働条件の不利益変更に該当する可能性があります。
労働基準法では、労働者の不利益となる変更を一方的に行うことは禁止されています。
企業が有給奨励日を導入する際は、既存の休日を維持したままの運用が重要です。
従業員の権利を損なわない形で制度を設計し、就業規則や労使協定にもとづいた適切な運用を行わなければなりません。
強制ではなく「推奨」とする
有給奨励日は、従業員に対する「推奨」であり、取得を強制することは違法となる可能性があります。
労働基準法では、有給休暇の取得は従業員の自由であり、企業が一方的に決定することは認められていません。
「取得を推奨するが、業務の都合や個人の事情で取得しない場合は通常勤務も可能」と社内規定に明示したり、経営層や管理職が率先して有給奨励日を活用し職場の意識を変えるといった形で取得を推奨しましょう。
また、有給奨励日が形だけにならないように、制度の目的を明確にし、従業員が安心して休める環境を整えましょう。
有給奨励日に関するよくある疑問
有給奨励日は、従業員に有給休暇の取得を推奨する制度ですが、運用方法について疑問をもつ人も多いでしょう。
とくに、土曜日の取得可否や派遣社員の扱い、新入社員の取得資格など、勤務形態によって適用ルールが異なります。
有給奨励日は土曜日も取得できる?
有給奨励日が土曜日に設定された場合、有給休暇を取得できるかどうかは、就業規則や勤務形態によります。
取得可否の判断基準は以下の通りです。
- 土曜日が所定労働日に含まれる場合 → 有給休暇を取得可能
- 週休二日制の企業で、土曜日が「所定労働日」の場合 → 有給休暇可能
- 完全週休二日制で、土曜日が休日に指定されている場合 → 有給休暇の対象外
企業は、有給奨励日の運用ルールを事前に明確化し、従業員が適切に取得できるような整備が求められます。
派遣社員への対応は?
派遣社員の有給奨励日は、派遣元(派遣会社)が管理するため、派遣先企業が強制することはできません。
派遣社員の有給休暇ルールは以下の通りです。
- 有給休暇の付与・管理は派遣元企業(派遣会社)が行う
- 派遣社員が有給奨励日に休むかどうかは、派遣元の指示や本人の意思による
- 派遣先企業は、派遣社員に対して有給奨励日を義務付けられない
派遣社員の有給奨励日運用については、派遣元と派遣先が連携し、適切な対応が重要です。
新入社員でも取得できる?
新入社員が有給奨励日を取得できるかどうかは、有給休暇の発生条件によります。
取得できるケースは以下の通りです。
- 企業が入社日から有給休暇を付与する制度(初年度特別付与など)を導入している場合
- 有給奨励日が「特別休暇(有給)」として扱われる場合
労働基準法では、有給休暇は「6ヶ月継続勤務し、所定労働日の8割以上出勤した従業員」に付与されます。
しかし、近年では「初年度付与(前倒し付与)」を導入する企業も少なくありません。
企業側は就業規則等により新入社員も含めた有給休暇の取り扱いを明確にし、従業員自身が付与日数の把握ができ、安心して取得できる環境づくりが必要です。
有給奨励日を設定して従業員のモチベーションを上げよう
有給奨励日は、従業員に有給休暇の取得を促し、ワークライフバランスを向上させる制度です。勤務形態や雇用形態によって適用ルールが異なるため、企業は適切な運用を心がける必要があります。
そして、適切な有給奨励日の運用は、従業員のモチベーション向上や定着率の向上につながります。企業は、従業員が安心して休める環境を整え、働きやすい職場づくりを進めることを意識しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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