- 更新日 : 2025年3月18日
外国人雇用の際に社会保険加入は必要?条件や手続きの流れを解説
外国人労働者を雇用する際、日本人と同じように社会保険への加入が必要になる場合があります。適切な手続きを行わず未加入のままだと、企業には追徴金や罰則が科されることがあるため、注意が必要です。
本記事では、外国人雇用時の社会保険の適用条件や加入手続きの流れについて詳しく解説します。
目次
外国人雇用の際に社会保険に加入する必要がある
外国人労働者も、日本人と同じく一定の条件を満たせば社会保険への加入義務があります。社会保険に未加入の場合、企業には罰則や追徴金のリスクがあるため、適切に手続きを進めましょう。
日本の社会保険制度は、大きく「社会保険」と「労働保険」に分類されており、加入条件や給付内容が異なります。外国人労働者も適用条件を満たせば、日本人と同様に加入が必要です。
ここでは、それぞれの制度について詳しく解説していきます。
以下の記事では、外国人労働者を雇用するメリットや問題について詳しく解説していますので、あわせて参考にしてください。
社会保険
社会保険は、日本国内で働く労働者の生活を支えるために設けられた制度です。ここでは、健康保険・厚生年金保険・介護保険について詳しく解説します。
健康保険
健康保険は、業務外の病気やケガの際に、医療費の自己負担を軽減する制度です。加入すると、医療機関での自己負担額が3割になり、出産手当金や傷病手当金などの給付制度も利用できます。
週20時間以上、月額88,000円以上の給与を得ている労働者が、従業員数100人を超える(2024年10月からは50人を超える)企業に勤務している場合は、加入義務があります。
健康保険への加入義務は、事業所の種類や従業員数に応じて決まるのが特徴です。
事務所の種類 | 詳細 |
---|---|
強制適用事業所(加入義務がある事業所) |
|
強制適用事業所に該当しない業種 |
|
なお、強制適用事業所以外の企業でも、一定の条件を満たし、事業主と従業員の合意があれば健康保険に加入可能です。これを、任意適用事業所と呼びます。
外国人労働者も、日本人と同じ条件を満たせば加入が必要です。一方で、健康保険の適用条件を満たさない場合は、国民健康保険へ加入できます。ただし、国民健康保険は加入者が保険料を全額負担する仕組みとなっているため、注意が必要です。
厚生年金保険
厚生年金保険は、老後の生活を支える公的年金制度です。国民年金(基礎年金)に上乗せされる形で支給されます。加入することで、将来の老齢年金の受給額が増えるだけでなく、障害年金や遺族年金も受け取れる仕組みです。
厚生年金保険の加入義務は、健康保険と同様に、事業所の種類や従業員数によって決まります。
事務所の種類 | 詳細 |
---|---|
強制適用事業所 (加入義務がある事業所) |
|
強制適用事業所に該当しない業種 |
|
外国人労働者も、日本人と同じ条件を満たせば厚生年金に加入する必要があります。ただし社会保障協定を結んでいる国の出身者は、日本の厚生年金への加入が免除される場合があるため、注意が必要です。
【協定を締結している国の例】
- ドイツ
- 英国
- 韓国
- アメリカ
また、老齢年金の受給資格(10年以上)を満たさずに帰国した場合は、脱退一時金の申請によって、納付した年金の一部を受け取れます。
介護保険
介護保険は、高齢化や核家族化の進行などを背景に、介護を社会全体で支えることを目的として創設された制度です。40歳以上の健康保険加入者は、自動的に介護保険料が徴収されます。
適用条件は、下記のとおりです。
- 40歳以上の健康保険加入者
- 日本に3ヶ月以上滞在する外国人労働者
健康保険に加入する第2号被保険者が負担する介護保険料は、健康保険の保険料と一体的に徴収されます。保険料は原則、被保険者と事業主で1/2ずつ負担します。
また、国民健康保険加入者が負担する介護保険料は、国民健康保険の保険料と一体的に徴収される仕組みです。外国人労働者も、40歳以上で健康保険に加入していれば、同様に介護保険料を支払う必要があります。
労働保険
労働保険は、労働者が安心して働ける環境を整えるために設けられた制度です。「労災保険」と「雇用保険」に分類されており、それぞれ役割が異なります。
ここでは、労災保険と雇用保険について詳しく解説します。
労災保険
労災保険は、業務中や通勤途中の事故や病気に対する補償制度で、外国人も含めてすべての労働者が対象となります。保険料は企業が全額負担し、従業員の給与から天引きされることはありません。
労災保険の補償内容と適用条件は、下記のとおりです。
項目 | 詳細 |
---|---|
補償内容 |
|
適用条件 |
|
参考:厚生労働省|労災補償
労災保険は、日本で働くすべての労働者にとって重要な制度であり、企業は適正な手続きを行う必要があります。
雇用保険
雇用保険は、失業時の生活支援や再就職支援を目的とした制度です。失業手当(基本手当)や、育児休業給付金などの支給も受けられます。
適用条件は、下記のとおりです。
- 週20時間以上勤務し、31日以上の雇用見込みがある場合は加入義務あり
- パート・アルバイトでも条件を満たせば加入対象
- 学生や短期間の季節労働者は適用外
外国人労働者も、日本人と同じ条件を満たせば、加入義務があります。また、帰国した場合でも、一時金の申請をすれば、一定の保険料を受け取れる場合があります。
外国人を雇用したときの社会保険加入の手続き
外国人労働者を雇用する際、日本人従業員と同じように社会保険の加入手続きが必要です。手続きを怠ると、労働者の福利厚生に影響が出るだけでなく、企業側にも罰則が課される可能性があるため、速やかに手続きを進めましょう。
ここでは、外国人労働者を雇用した際の社会保険の加入手続きについて詳しく解説します。
1. 健康保険・厚生年金保険
外国人労働者を雇用した場合、日本人と同じ条件で健康保険と厚生年金保険への加入手続きが必要です。適用事業所に雇用されている場合、事業主が責任を持って手続きを行い、必要書類を提出する義務があります。
【主な手続きの流れ】
- 外国人従業員が入社した時点で「被保険者資格取得届」を作成し、日本年金機構へ提出する
- 健康保険証が発行され、厚生年金保険の加入者として登録される
【提出書類】
- 被保険者資格取得届(健康保険・厚生年金保険)
- 被保険者ローマ字氏名届(マイナンバー制度の対象外の外国人の場合)
- 本人確認書類の写し(短期在留外国人や海外居住者の場合)
参考:
日本年金機構|厚生年金保険・健康保険制度手続きガイド
日本年金機構|外国人従業員を雇用したときの手続き
外国人労働者は、マイナンバーを持っていないケースがあり、本人確認のために追加書類を求められる場合があります。滞在期間や雇用形態によっては、国民健康保険を利用することもあるため、事前に確認しましょう。
手続きに不備や遅延があれば、従業員の権利や福利厚生に影響を及ぼす可能性があります。手順ごとに確認しながら、慎重に手続きを進める必要があります。
外国人労働者が家族を被扶養者にするときの手続き
外国人労働者が健康保険に加入し、扶養家族がいる場合や新たに扶養家族を追加する際には、適切な手続きが必要です。
被扶養者の認定条件は、下記のとおりです。
条件 | 詳細 |
---|---|
被扶養者に該当する条件 |
|
収入要件 | 年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満)かつ 同居の場合:収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満 別居の場合:収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満 |
同一世帯の条件 | 【被保険者と同居している必要がない者】
【被保険者と同居していることが必要な者】
|
参考:日本年金機構|従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き
【手続きの流れ】
- 被扶養者(異動)届を事業主経由で日本年金機構または健康保険組合へ提出
- 扶養家族が発生した日から5日以内に提出
- 電子申請・郵送・窓口持参のいずれかで手続き可能
健康保険が協会けんぽ以外(健康保険組合など)の場合は、「国民年金第3号関係届」も提出が必要です。事前に必要書類を準備し、認定の遅れがないように手続きを進めましょう。
2. 労災保険
労災保険の手続き方法は、事業の種類によって異なるため、事前に確認しましょう。
事業の種類 | 手続き方法 |
---|---|
一元適用事業 (製造業・小売業・サービス業など) | 労災保険と雇用保険の手続きを一括で行う |
二元適用事業 (農林水産業、建設業、港湾労働、地方自治体の事業) |
|
はじめて労働者を雇用する場合は、事業主は労災保険の成立手続きを行う必要があります。必要な書類が複数あり、それぞれに提出期限が設けられているため、遅れないように気をつけましょう。
また、事業主が労災保険に未加入の場合でも、労働災害が発生すれば、労働基準監督署に申請することで補償を受けられます。
3. 介護保険
介護保険の加入者は、年齢に応じて「第1号被保険者(65歳以上)」と「第2号被保険者(40歳以上65歳未満)」に分かれます。それぞれの加入方法は異なりますが、原則として個別の加入手続きは不要です。
介護保険は健康保険と連携しており、自動的に加入できる仕組みとなっているため、特別な手続きは必要ありません。
介護保険の詳細や手続きに関する質問は、市区町村の介護保険窓口へ相談しましょう。
参考:
厚生労働省|「介護保険制度」について
厚生労働省|介護保険制度について
4. 雇用保険
外国人労働者を雇用した場合は、雇用対策法第28条にもとづき、氏名や在留資格などをハローワークに届け出る義務があります。
事業主が「雇用保険被保険者資格取得届」を作成・提出をして、手続きを進めます。提出先と提出期限は、下記のとおりです。
- 提出先:事業所を管轄するハローワーク
- 提出期限:雇用開始日の翌月10日まで
- 提出方法:書面提出・電子申請どちらでも可能
外国人労働者の場合は、国籍・在留資格・在留カード番号の記入が必要です。ハローワークが申請内容を確認したあとに、雇用保険被保険者番号が発行されます。
事業主は、労働者に番号を通知する義務があるため、注意しましょう。事前に在留カードのコピーを取得し、マイナンバーの確認方法を把握しておけば、スムーズに手続きを進められます。
なお、事業主が手続きを怠った場合でも、労働者自身がハローワークで加入の確認請求を行うことが可能です。
外国人労働者が退職したときの社会保険の手続き
外国人労働者が退職または解雇された場合、基本的な社会保険手続きは日本人と同様ですが、外国人特有の手続きも発生します。
手続き内容 | 対象 | 提出期限 | 提出先 | 注意点 |
---|---|---|---|---|
健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届 | 健康保険・厚生年金に加入していた外国人労働者 | 退職日の翌日から5日以内 | 事業所を管轄する年金事務所 | 健康保険証を必ず回収し、不足の場合は「健康保険被保険者証回収不能届」を提出 |
雇用保険被保険者資格喪失届 | 雇用保険に加入していた外国人労働者 | 退職日の翌日から10日以内 | 事業所を管轄するハローワーク | 「被保険者が外国人の場合」の欄に国籍・在留資格・在留カード番号を記入 |
外国人雇用状況の届出 | すべての外国人労働者(雇用保険未加入者を含む) | 退職日の翌月末日まで | 事業所を管轄するハローワーク | 届出を怠ると罰則の対象になる可能性あり |
参考:日本年金機構|従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き
社会保険の手続きのほかにも、退職証明書の作成・交付や、在留カード番号の届出など、外国人特有の手続きも必要です。場合によっては、出入国在留管理局への届出が必要となるケースもあります。
また、労働施策総合推進法第28条によって、事業主はハローワークへ「外国人雇用状況の届出」を提出する義務があります。届出を怠ると、罰則の対象になる可能性があるため、事業主は正確かつ迅速に手続きを進めましょう。
脱退一時金制度について
脱退一時金制度は、日本で厚生年金保険や国民年金に加入していた外国人労働者が出国後、年金の一部を受け取れる制度です。
支給対象者は、下記のとおりです。
- 日本国籍を持たないこと
- 厚生年金保険または国民年金の被保険者資格を喪失していること
- 日本を出国し、国内に住所を有しなくなっていること
- 年金の受給資格期間(10年)を満たしていないこと
- 最後に被保険者資格を喪失してから2年以内であること
日本年金機構や加入していた共済組合に、本人または代理人が脱退一時金請求書と必要書類を提出します。
【必要書類】
- パスポートの写し
- 住民票の除票(または出国確認できるパスポートページの写し)
- 銀行口座情報
- 基礎年金番号通知書または年金手帳
- 委任状(代理人が請求する場合)
脱退一時金の請求書は、外国語と日本語が併記された様式となっており、日本年金機構のサイトからダウンロード可能です。
必要書類や請求書の提出方法は郵送または電子申請から選べます。手続きは、出国後2年以内に行う必要があるため、事前に手続きの流れを確認しておくとよいでしょう。
なお、脱退一時金を受け取ると、受給以前の年金加入期間が無効になるため注意が必要です。
外国人雇用で社会保険に加入する際の注意点
外国人労働者を雇用する際、社会保険の適切な加入は企業の義務です。万が一、未加入や不正加入を放置すると、法的リスクや罰則が発生する可能性があります。
ここでは、外国人雇用で社会保険に加入する際の注意点を紹介します。
以下の記事では、外国人雇用の注意点について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
社会保険の不正加入・未加入によるリスク
未加入が発覚した場合、未払いの社会保険料は最長2年分遡って徴収されるため、事業主に大きな負担がかかります。未加入だった従業員がすでに退職している場合は、事業主が全額を負担しなければいけません。
また、正当な理由なく未加入を続けると、「6ヶ月以下の懲役」または「50万円以下の罰金」が科される可能性があります。さらにハローワークでの求人掲載が不可となったり、求職者からの応募が減少したりなど、人材採用面でも不利になる恐れがあります。
加えて、社会保険未加入が理由で退職者が年金を受給できなかった場合、損害賠償を請求されるケースも考えられるでしょう。
このように、社会保険未加入は企業にとって大きなリスクとなります。そのため、対象者の加入状況を定期的に確認し、適切に対応しましょう。
参考:e-Gov 法令検索|健康保険法(大正十一年法律第七十号)
外国人労働者への社会保険制度の説明義務
厚生労働省の指針によると、以下の点について、事業主は外国人労働者に周知することが求められています。
- 雇用保険・労災保険・健康保険・厚生年金保険に関する法令の内容
- 各種保険の給付内容や請求手続き
- 被保険者に該当する外国人労働者の適用手続き
とくに、雇用契約を結ぶ際や、社会保険に加入したタイミングで説明を行うことが大切です。
説明が不足すると、外国人労働者が社会保険の給付を受けられないだけでなく、企業とのトラブルにつながる可能性があります。
適切な対応を行い、外国人労働者が安心して働ける環境を整えましょう。
社会保障協定の内容と適用範囲の確認
外国人労働者が日本で働く際に、母国の年金制度に加入しながら、日本の厚生年金にも加入してしまうケースがあります。結果、保険料の二重負担が発生する可能性があるため、注意が必要です。
このような負担を軽減するために、日本は特定の国と社会保障協定を締結しています。協定を結んでいる国の労働者は、一定の条件を満たせば、日本の厚生年金への加入が免除される場合があります。
また、両国の年金加入期間を合算して、将来的に年金を受け取ることも可能です。
だし、適用範囲や条件は国によって異なります。事業主は、外国人労働者の出身国が協定の対象かを事前に確認し、適切な対応をとりましょう。
外国人雇用時の社会保険の義務を理解し適切に対応しよう
外国人労働者を雇用する際、健康保険や厚生年金などの加入手続きは事業主の義務です。未加入のままだと、企業に罰則や追徴金のリスクが発生するため、適切に対応する必要があります。
また、社会保障協定の確認や、退職時の脱退一時金制度の案内など、外国人特有の手続きも忘れずに行うことが大切です。
本記事を参考に、社会保険の加入を適切に行い、外国人労働者が安心して働ける環境を整えましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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