- 作成日 : 2025年5月7日
架空外注費とは?不適切なケースや税務署の視点、ペナルティ、防止策を解説
外注費は、業務の一部を社外に委託した際に発生する経費です。しかし、存在しない取引を装って外注費を計上する「架空外注費」は、税務上の重大な問題となります。うっかりミスだけでなく、意図的に処理を誤ることで、追徴課税や重加算税などの大きなペナルティを受けるおそれがあります。この記事では、架空外注費の基本的な考え方や税務調査でのチェックポイント、不正を防ぐための実務対応までを、わかりやすく解説します。
目次
架空外注費とは?
架空外注費とは、実際には存在しない外注業務について、あたかも取引があったかのように装って計上される外注費のことです。帳簿上は外注費として処理されていても、実際には業務が行われていなかったり、支払先が実在していなかったりする場合、それは「架空外注費」とみなされます。
このような架空外注費は、企業の利益を意図的に減らし、納めるべき税金を不当に少なくする目的で行われることが多いため、税務署では重大な不正行為とみなされます。
さらに、実際に外注業務の一部が行われていたとしても、請求金額を実際よりも多く水増しして計上していたり、そもそも業務の内容が会社の業務と無関係であったり(たとえば社長の自宅の清掃費をオフィスの清掃費という名目で請求してもらう)する場合も、「架空外注費」と判断されることがあります。形式的には外注費に見えても、実態が伴っていない、または不自然に高額な場合は注意が必要です。
架空外注費にあたるケース
ここでは、具体的にどのような行為が架空外注費に該当するのか、代表的な例を見ていきましょう。
実在しない外注先を使う
最も典型的な例は、実在しない会社や個人を取引先として登録し、業務委託費を支払ったように装うケースです。たとえば、実際には存在しない会社に対して100万円の外注費を支払ったと記録し、帳簿上で処理します。支払いは行われているように見えても、その資金は関係者に還流している場合が多く、税務署ではこのような行為を厳しく取り締まります。
請求書の金額を水増しする
実際には50万円しかかからなかった業務について、協力してくれる取引先に80万円の請求書を発行してもらい、30万円をキャッシュバックしてもらって裏金として受け取るといった手口もあります。帳簿上は実在する取引であっても、金額が不当に大きい場合は「経費の水増し」とされ、広い意味での架空外注費と判断されます。
個人的な支出を外注費として処理する
本来は経費として認められない個人的な支出、たとえば、社長の自宅の清掃費用などを「業務委託費」や「外注費」として処理するケースも、架空外注費の一種です。実際には事業に無関係な支出を、あたかも業務に関係しているように見せかけることは、明確な不正処理とされます。
給与を外注費に偽装する
実質的には社員として働いている人に対して、外注費という名目で報酬を支払い、源泉所得税や社会保険料、消費税の負担を回避しようとする例もあります。契約書上は業務委託になっていても、働き方の実態が「従業員」に近いと判断されれば、それは給与と認定され、「架空外注費」とみなされる可能性があります。「偽装請負」とも呼ばれます。
関連会社と不自然な取引をする
グループ会社や親族が経営する会社と、実質的な業務がないにもかかわらず高額の外注契約を結び、経費として計上するケースも問題になります。たとえば、月に1回メールを送るだけの業務に対して毎月50万円を支払っているような場合、税務署はその取引の合理性を疑い、内容によっては「架空外注費」と判断することがあります。
このような行為はすべて、帳簿の見た目を整えていても、税務調査においては「実態があるかどうか」が重視されます。仮に形式的に整っていても、実際に業務が行われていなければ、税務署はそれを「外注を装った不正」として認定し、悪質性が高いと判断された場合には重加算税や刑事罰の対象になることもあります。
架空外注費がバレるとどうなる?
架空外注費が税務調査で発覚すると、経費として認められなくなるだけでなく、追加の納税やペナルティの対象になります。企業の信用にも大きな影響を与えるため、注意が必要です。
経費として認められない
税務署による調査で架空外注費と判断された場合、最初に行われるのは「経費の否認」です。帳簿上で外注費として処理していても、実際に業務が行われていなかった、または取引先が実在しないなどの理由で、税務署が「その経費は認められない」と判断すれば、計上していた外注費は無効になります。
これにより、その金額分だけ利益が増えたものとみなされ、「課税所得」が修正されます。課税所得が増えれば当然、法人税や所得税の額も増え、追加で納税しなければなりません。
たとえば、1,000,000円の架空外注費が否認された場合、それがまるごと課税所得に加算され、税率30%であれば300,000円の追加納税が必要になる計算です。
重加算税が課される
架空外注費の計上が単なるミスではなく「仮装」や「隠ぺい」といった悪質な意図によるものであると判断されれば、「重加算税」が課されることになります。
重加算税は、通常の「過少申告加算税(10~15%)」よりもはるかに重く、本来納めるべき税額に対して35~ または445%が上乗せされます。つまり、先ほどの例で追加納税が300,000円必要だった場合、重加算税としてさらに105,000円~135,000円の支払いが発生するのです。
延滞税が発生する
さらに、支払期限を過ぎて税金を納めることになるため、「延滞税」も発生します。
延滞税は、税金の納付が本来の期限よりも遅れたことに対して課されるもので、納期限の翌日から2か月までは年7.3%(または延滞税特例基準割合+1%)、それ以降は年14.6%(または延滞税特例基準割合+7.3%)と定められています(※税率は年によって変動あり)。
たとえば、3年分の架空外注費が発覚した場合には、3年分の追加納税額に対して延滞税がかかることになるため、最終的な負担は当初の想定をはるかに超える金額になることがあります。
税務署からの信頼を失う
一度でも不正が明らかになれば、税務署からの信頼は大きく損なわれ、今後の調査対象として選ばれやすくなります。
また、取引先や金融機関からも「不正会計を行っていた会社」という印象を持たれ、資金調達や新規契約の機会にも悪影響が及ぶおそれがあります。
税務調査で架空外注費が「バレる」理由
税務署は、外注費が不正に利用されやすい勘定科目であることを認識しており、税務調査においては特に注意深くチェックされます。架空外注費が税務調査で「バレる」のには、いくつかの理由があります。
証拠書類に不備や不自然な点がある
架空外注費の典型的な特徴のひとつが、請求書や契約書、納品書といった関連書類が揃っていない、あるいは内容に不自然な点があるということです。
たとえば、契約書に業務の内容が具体的に書かれていなかったり、納品書がなく成果物の存在を証明できなかったりする場合、税務署は「この経費は実在しないのではないか」と疑います。また、同じ書式の請求書が何度も繰り返されている、印鑑や日付の字体が不自然といった小さな違和感も、調査官のチェック対象になります。
反面調査で取引先との記録に食い違いが出る
「反面調査」とは、税務署が申告者本人だけでなく、その取引先にも調査を行い、取引の事実を確認する方法です。たとえば、自社が「取引先Aに100万円を支払った」と帳簿に記録していても、取引先A側の帳簿にその収入が計上されていない場合、税務署はその外注費に不正の疑いがあると判断します。
取引の事実、時期、金額が一致していないケースは、架空計上の可能性が高いとされ、詳しい説明や証拠を求められることになります。
外注費の金額やタイミングが不自然
税務調査では、取引の金額や計上のタイミングもチェックされます。特に、期末に急に外注費が増えていたり、特定の取引先にだけ高額な外注費が集中していたりする場合は、「利益を意図的に圧縮しているのでは?」という疑いが強まります。
また、前年度と比べて外注費が急増しているのに、業務内容が変わっていないような場合も、調査官はその理由を詳しく確認しようとします。
支払先の実態に不審な点がある
支払先の会社が登記されていない、事業活動の様子が確認できない、電話がつながらない、こうしたケースも「取引先が存在しないのではないか」と疑われます。
個人への支払いの場合でも、受け取った本人が確定申告をしていなかったり、事業者として登録されていなかったりすると、外注費の妥当性が疑われる材料となります。
給与を外注費として処理していると判断される
従業員と同じような働き方をしている人に対し、契約だけを「業務委託」にして、外注費として処理していた場合も要注意です。税務署は「形式ではなく実態」を重視しており、勤務時間、指揮命令の有無、業務内容などを確認したうえで、「これは給与である」と判断することがあります。
その場合は外注費としての経費計上は否認され、源泉所得税の徴収漏れや、消費税の仕入税額控除が過大になっているとして、追徴課税の対象になります。
近年では、国税総合管理システム(KSKシステム)の導入により、税務署は様々な情報を容易に照合できるようになっています。これにより、以前は発見が難しかった不正も、発覚するようになっています。
架空外注費が発覚した場合の「修正申告」の手続き
税務調査や自主的な見直しの結果、架空外注費を計上していたことが明らかになった場合には、「修正申告」を行う必要があります。修正申告は、過去に提出した申告書の内容に誤りがあった場合に、正しい内容に訂正して再度申告する手続きです。
正しい手続きに従って申告し直すことで、加算税などのペナルティが軽減される可能性もあるため、早めに対応しましょう。
修正申告の流れ
修正申告の手続きは、基本的に以下のステップで行います。
- 税務署からの通知: 税務調査の結果、架空外注費などの誤りが指摘され、修正申告を求められます。
- 税務署との協議: 税務調査で発覚した場合は、担当調査官との話し合いを行い、申告内容の誤りについて説明や確認を受けます。
- 修正申告書の作成: 正しい金額に基づいて修正申告書を作成します。原則として、誤りがあった年度の確定申告書を訂正する形になります。
- 修正申告書の提出: 所轄の税務署に、修正申告書を提出します。郵送、窓口持参、またはe-Taxでの提出が可能です。
- 追納と加算税・延滞税の納付: 不足していた税額に加え、過少申告加算税、重加算税、延滞税などが課されることがあります。支払いは原則として申告と同時に行います。
早期に自主的に修正申告を行った場合には、加算税が軽減される場合もあります。税務署からの指摘に納得できない場合は、異議申し立てを行うことも可能です。
税務署による「反面調査」とは?
税務調査において、帳簿や証拠書類の内容に疑問がある場合、税務署は「反面調査」という方法を使って取引先に直接確認を行うことがあります。反面調査とは、調査対象となっている企業や個人事業主ではなく、その取引の相手側(仕入先、得意先、外注先、金融機関など)に対して行われる調査です。
たとえば、ある企業が「外注先に対して100万円を支払った」と申告していたとしても、帳簿だけではその取引の実在性が判断できない場合があります。このようなとき、税務署はその取引先に対して「あなたの会社は、○月○日にこの金額を受け取りましたか?」と確認します。
もし取引先が「そのような支払いは受けていない」と回答した場合、その支出は架空だった可能性が高まり、外注費としての経費計上は否認される可能性があります。
この調査は、申告内容が事実と異なっていないか、第三者の情報と突き合わせて確認します。調査対象の申告内容が「本当に正しいのか」を外部からチェックする手段のひとつです。
反面調査は、申告者にとって不利になる調査方法ですが、税務署にとっては架空外注費や水増し請求の不正を見抜く重要な手段です。
架空外注費の計上が行われないようにするための対策
架空外注費の計上を防ぐためには、日ごろの経費処理や社内のルールづくりがとても大切です。以下のようなポイントを意識することで、不正やミスを未然に防ぎやすくなります。
外注に関するルールを明確に決める
外注が本当に必要かどうか、誰が選ぶのか、契約や金額の決め方はどうするかなど、社内でルールを決めておきます。また、上司や担当部署による「事前の承認フロー」を設けると安心です。
証拠となる書類をしっかり保管する
契約書、請求書、納品書、振込明細など、外注取引に関するすべての書類を保管しましょう。書類が揃っていれば、税務署からの調査が入っても安心して対応できます。
取引先の実在性を確認する
新しい取引先や、これまで付き合いのない業者と取引するときは、その会社や個人が実際に活動しているか、連絡先や事業内容などを確認しておきましょう。
会計担当と支払担当を分ける
一人の担当者が、請求書の作成・承認・支払いをすべて行える体制だと、不正が起きやすくなります。経理処理と資金の動きを分担し、複数人でチェックできる体制を整えることが効果的です。
外注費や経費を定期的に見直す
経費報告や外注費の支払い内容は、定期的に見直しを行い、不自然な点や不明確な支出がないか確認しましょう。第三者の目を通すことで、思わぬ見落としを防げます。
従業員と外注先をきちんと区別する
業務内容や働き方、指示の出し方などをもとに、外注先なのか従業員なのかを正しく判断しましょう。外注のように見えても、実態が社員と同じであれば、給与として処理しなければなりません。
迷ったときは税理士に相談する
外注費として処理すべきか、それとも別の勘定科目にすべきか迷ったときは、自分で判断せず、税理士などの専門家に相談することが確実です。
架空外注費に関するよくある質問
- Q: 領収書がない外注費は経費として認められますか?
A: 原則として、領収書は支払いを証明する重要な書類ですので、ない場合は経費として認められない可能性が高くなります。 - Q: 個人事業主に支払う外注費も源泉徴収が必要ですか?
A: 一般的には不要ですが、原稿料や講演料、弁護士や税理士への報酬など、特定の種類の報酬については源泉徴収が必要です。 - Q: 税務調査で架空外注費がバレたらどうなりますか?
A: 修正申告が必要となり、不足分の税金を支払うとともに、「過少申告加算税」や悪質な場合は「重加算税」などのペナルティが課される可能性があります。 - Q: 外注費と給与の判断基準は?
A: 指揮命令の有無、時間的な拘束の有無、業務の代替可能性、材料や道具の提供者の違いなどが考慮されます。
透明性の高い経費管理で架空外注費を防ごう
架空外注費は、形式だけ整っていても、実態がなければ必ず発覚します。経費処理の透明性と証拠書類の管理を徹底し、不自然な取引は見直しましょう。税務署の視点を理解し、正しい判断を積み重ねることが、信頼される経営と健全な会計につながります。迷ったときは専門家に相談し、安心できる経理体制を整えておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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