• 更新日 : 2024年11月5日

前受金と売掛金の違いは?間違いやすいポイントや相殺する仕訳も解説!

前受金は、商品やサービスを提供する前に受け取る代金のことを指し、売掛金は商品やサービスを提供した後に受け取る代金です。

入金された金額を見ただけではどちらに該当するか判断が難しいため、会計処理のときに困るケースもあります。本記事では前受金と売掛金の違いや使い分け、相殺する仕訳、間違いやすいポイントについて詳しくご紹介します。

前受金と売掛金の違いは?

前受金とは企業が商品やサービスを提供する前に顧客から受け取る代金のことです。売掛金とは、企業が商品やサービスを提供した後に顧客から受け取る代金のことです。

前受金と売掛金は、代金を受け取るタイミングと会計処理の方法が異なります。前受金と売掛金の管理は、企業の資金繰りを円滑にするために重要な要素です。仕訳をスムーズに行うために、まずは前受金と売掛金の違いを理解しておきましょう。

前受金とは

前受金は商品やサービスの提供前に受け取る代金のことで、一般的には手付金、内金、予約金などが該当します。たとえば企業が商品を販売する際に、顧客から事前に支払い金額の一部として手付金を受け取る場合、手付金は前受金として処理されます。

前受金を受け取るメリットは、企業のキャッシュフローの安定化につながることです。しかし、前受金はまだ実際の売上として計上されないため、会計上は負債として扱われることに注意が必要です。商品やサービスが提供された時点で、前受金は売上に振り替えられ、収益として計上されます。

前受金については以下の記事でさらに詳しくご紹介しています。

売掛金とは

売掛金は商品やサービスの提供後に受け取る代金のことで、一般的には「ツケ」と呼ばれます。たとえば企業が商品を販売し、顧客に先に商品を引き渡したとしましょう。売掛金の受領に該当するのは、商品の引き渡しの後に一定の期間が経過してから、企業が代金を受け取るケースです。売掛金は、企業にとって将来の現金収入を示すため、まだ手元に現金を受け取っていなくても会計上は資産として計上されます。

売掛金が発生した時点で、企業は収益として認識でき、売上としての計上が可能です。後に顧客から代金が支払われた時点で、売掛金は現金に振り替えられます。

売掛金については以下の記事でさらに詳しくご紹介しています。

前受金と売掛金を使い分けるには?

慣れた経理担当者の方でも、口座に入金された金額を見ただけでは、それが前受金か売掛金か瞬時に判断するのは難しいです。前受金か売掛金かを判別するためには、それぞれの特性と使用するタイミングを理解することが重要です。ここからは前受金と売掛金を使い分けるポイントを解説します。

入金日と売上計上日の確認

まずは入金日と売上計上日を確認しましょう。金融機関の口座に入金された日が売上計上日より前だった場合は前受金として処理します。理由は、顧客に商品やサービスを提供する前に代金が振り込まれているからです。

一方で、入金された日が売上計上日より後だった場合は売掛金として処理します。前受金とは逆で、顧客に商品やサービスを提供した後に代金が振り込まれているからです。

取引状況の確認

取引状況の確認によって、経理担当者は前受金なのか売掛金なのか判別が可能です。たとえば前受金の場合、顧客からの注文時に内金を受け取る場合や、契約時に手付金を受け取ることがあります。一方で売掛金の場合は、商品やサービスを提供した後に代金を後日請求することになります。

関連帳票の確認

関連帳票の確認も有効です。たとえば前受金の場合は、注文書や契約書に内金や手付金の記載があれば前受金として判別できます。前受金管理用の台帳を作成し、入金日や提供予定日を記録しておきましょう。売掛金の場合は請求書納品書に基づいて未収の代金を管理し、売掛金元帳や得意先元帳で未収金額を把握することが重要です。

前受金と売掛金を相殺する場合の仕訳例は?

前受金と売掛金は互いに打ち消し合うことによって会計処理を簡素化できる「相殺」が行えます。前受金と売掛金は相殺できることが民法上で認められているからです。

ただし相殺を行うには条件があり、同一企業に対して売掛金と買掛金が同時に存在することと、同一人物に対する貸付金・借入金未払金が同時に存在することです。相殺することで会計処理のスピードアップとミス削減が期待できます。ここからは前受金と売掛金を相殺する場合の仕訳例を見ていきましょう。

前受金の支払い

A社とB社の間で商品の取引を行った事例をもとに会計処理方法を解説します。A社が1万円の商品を販売しており、顧客のB社から手付金を5,000円受け取ったと仮定します。仕訳は以下のように「借方:現金5,000円」「貸方:前受金5,000円」と記入します。

借方貸方
現金5,000前受金5,000

相殺条件の成立

A社がB社の5,000円の商品を購入し、代金を後払いにする取引が成立したとします。仕訳は以下のように「借方:売掛金5,000円」「貸方:売上高5,000円」と記入します。すると、同一企業間において売掛金と買掛金が同時に発生します。

借方貸方
売掛金5,000売上高5,000

相殺の実施

売掛金と買掛金が同時に発生している状況となり相殺処理が行えるので、以下のように概要欄に「相殺処理を実施」と記入します。

借方貸方概要
買掛金5,000売掛金5,000相殺処理を実施

上記のように前受金と売掛金を相殺する場合は「前受金」と「売掛金」で仕訳を行います。このように相殺を正確に行えば、企業の財務状況を正確に反映させられます。

前受金と売掛金が混在している場合の仕訳例は?

ここからは前受金と売掛金が混在している場合の仕訳例をご紹介します。例として企業が商品を販売し、前受金を受け取った後に売掛金が発生するケースを考えます。

前受金の支払い

A社から2万円の商品を購入する契約を締結しましたが、商品の在庫がなかったために8,000円の手付金を支払いました。仕訳は以下のように記入します。

借方貸方
現金8,000前受金8,000

商品の納品

商品が入荷したため、A社が顧客に商品を納品しました。手付金として受け取っていた8,000円が売上高として計上されました。まだ支払っていない12,000円は売掛金として残ります。仕訳は以下のように記入します。

借方貸方
前受金8,000売上高20,000
売掛金12,000

売掛金の支払いが完了

売掛金の支払い期日となったため、代金12,000円が支払われました。仕訳は以下のように記入します。

借方貸方
現金12,000売掛金12,000

上記のように、前受金を受け取った時点では「前受金」として負債に計上し、商品やサービスを提供した時点で「売掛金」として資産に振り替えます。以上が、前受金と売掛金が混在している場合の仕訳例です。

前受金や売掛金と間違いやすい勘定科目は?

前受金や売掛金と間違いやすい勘定科目には、前受収益・仮受金・預り金・未収入金があります。名称も内容も似ている部分があり、慣れないうちは判別が難しいかもしれません。

ここからはそれぞれの特徴を詳しく解説しますので、前受金や売掛金との違いを理解しておきましょう。

前受収益

前受収益は企業が提供する継続的なサービスに対して事前に受け取った代金のうち、まだ提供していない期間に対応する部分を計上するための勘定科目です。たとえば、家賃や地代、利息などが該当します。前受収益は、当期の損益計算から除外され、貸借対照表の負債の部に計上されます。

前受金と似ていますが、前受金は商品やサービスの提供前に受け取る代金であり、提供が完了した時点で売上として計上されます。一方、前受収益は継続的なサービスの提供に対するもので、契約中には提供が完了するというタイミングがないことに注意しましょう。

仮受金

仮受金は企業の銀行口座に入金があった際に、どんな内容で入金されたのか不明な場合に一時的に使用する勘定科目です。たとえば、取引先から企業の銀行口座に入金があったものの、その入金がどの請求に対するものなのかが不明な場合、一旦仮受金として処理します。

貸借対照表に記入する際には、流動負債の部に表示される勘定科目です。後に入金の内容が判明した時点で、仮受金は前受金などの正しい勘定科目に振り替えられます。仮受金は前受金と似ていますが、取引の内容が不明な点が前受金と異なります。

預り金

預り金は役員・従業員・取引先などが負担すべきお金を、支払う前に会社が一時的に預かっているときに使う勘定科目です。従業員の給与から天引きする所得税や住民税社会保険料などが該当します。給与から引かれる税金や保険料は、企業が従業員に代わって税務署や自治体に納付するため、一時的に預かる形です。たとえば、従業員から預かった所得税を税務署に納付する際には、預り金として処理されます。

貸借対照表に記入する際には、負債の部に計上されます。預り金は将来的に返還されるか、第三者への支払いに充てられるため、企業の収益とはみなされません。

未収入金

未収入金は企業の営業活動以外の取引で発生する債権です。たとえば、企業が所有する固定資産や有価証券を売却し、その代金を後日受け取る場合に使用されます。売掛金と混同しやすいですが、未収入金は通常の売上に関する取引ではなく、営業外の取引に関連するものです。貸借対照表では未収入金は流動資産の部に計上され、代金が回収された時点で現金に振り替えられます。

また、未収入金と似た勘定科目に「未収収益」がありますが、未収収益は継続的なサービス提供に対する債権であり、未収入金は単発の取引に対する債権です。

前受金と売掛金の違いを理解し、相殺を有効活用しましょう

前受金と売掛金の違いを理解するポイントは、顧客から代金を受け取るタイミングです。支払いのタイミングが契約時に決められている場合もありますが、帳簿や伝票などをチェックして自ら判断しなければならない場合もあります。また、前受金と売掛金が同時に存在している場合には、相殺によって手続きの簡略化も可能です。

経理業務は速さと正確さが求められるので、相殺ができるケースでは積極的に活用し、効率化に役立てましょう。


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