• 更新日 : 2025年1月27日

ソフトウェア仮勘定の会計処理方法や消費税の取り扱いを解説

ソフトウェア仮勘定とは、長期にわたるソフトウェア開発プロジェクトにおいて、制作に関する費用を計上するための勘定項目です。関連費用をソフトウェア仮勘定として計上することで、会計や税務をより正確に行うことができます。

本記事では、ソフトウェア仮勘定の概要や会計処理方法をはじめ、消費税の取り扱いや建設仮勘定との違いなどについて解説します。

ソフトウェア仮勘定とは

「ソフトウェア仮勘定」とは、ソフトウェア制作に関する費用を計上するための勘定科目です。
ソフトウェア仮勘定で計上した費用は、ソフトウェア完成時に「ソフトウェア」という勘定科目に振り替えます。ソフトウェアは完成・稼働するまでは業務には使えず資産としても計上できないため、「ソフトウェア仮勘定」として計上することで、会計上の正確性を保つことができます。

なお、ソフトウェア開発は長期間に及ぶケースも多く、大規模プロジェクトなどでは年単位の時間を要する場合もあります。このような場合も、ソフトウェア仮勘定を用いて開発にかかった費用を繰り延べておけば、完成後の減価償却で「費用」と「収益」を期間対応させることができます。
さらに税務上の費用認識タイミングも調整できるため、結果として消費税などの計算を正確に行えます。

ソフトウェア仮勘定については、次の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

ソフトウェア仮勘定の会計処理方法

ソフトウェアは「受注制作」か、あるいは「市場販売目的」かによって、次の3種類に分類されます。

  1. 受注制作
  2. 市場販売目的
  3. 自社利用

なお、工程によって「ソフトウェア仮勘定」に計上できるかが異なる点には注意が必要です。
本章ではソフトウェアの分類別に会計処理方法を解説します。

受注制作のソフトウェア

受注制作の場合、ソフトウェアの制作に関するコストは「仕掛品」として計上するため「ソフトウェア仮勘定」は用いません。

なお、受注制作の場合は、制作に関する進捗の確実性により「工事進行基準」と「工事完成基準」のいずれかの会計処理を行う必要があります。

市場販売目的のソフトウェア

市場販売目的の場合は、開発工程によって「研究開発費」と「ソフトウェア仮勘定」という勘定科目を使い分ける必要があります。

企画から設計、開発を経て最初の製品マスター(Ver.0)が完成するまでの費用は「研究開発費」に計上します。その後、Ver.0の製品に対して実施する機能追加や、改良後に制作される製品マスター(Ver.1)が完成するまでの費用は「ソフトウェア仮勘定」として計上可能です。

「製品マスター(Ver.1)」の制作時に発生した費用の仕訳は下記のようになります。

借方金額貸方金額
ソフトウェア仮勘定500,000人件費300,000
外注費150,000
経費50,000

その後「製品マスター(Ver.1)」が完成したタイミングで下記の仕訳を行い、ソフトウェア仮勘定をソフトウェアに振り替えます。

借方金額貸方金額
ソフトウェア500,000ソフトウェア仮勘定500,000

自社利用のソフトウェア

自社利用の場合、収益獲得や費用削減が確実と認められるまでは「研究開発費」、認められた後は「ソフトウェア仮勘定」として計上します。

例えば、基本設計完了時点で将来の収益獲得あるいは費用削減が確実と認められ、予算が承認された場合は次の仕訳を行います。

借方金額貸方金額
ソフトウェア仮勘定500,000人件費300,000
外注費150,000
経費50,000

その後、ソフトウェアが完成した時点で下記の仕訳を行い、ソフトウェア仮勘定をソフトウェアに振り替えましょう。

借方金額貸方金額
ソフトウェア500,000ソフトウェア仮勘定500,000

ソフトウェア仮勘定に関する消費税の取り扱い

本章では、ソフトウェア仮勘定に関する消費税の取り扱いについて解説します。

消費税法における仕入税額控除の基本原則

仕入税額控除とは、課税事業者が消費税の納税額を算出する際、仕入れや経費に対して外部に支払った消費税を売上にかかる消費税から差し引くことができる制度です。

仕入税額控除を行うには、外部への支払いを行った取引が消費税のかかる取引(課税仕入れ)である必要があります。なお課税仕入れには、材料費広告宣伝費水道光熱費通信費など、多岐にわたる費用が該当します。

一方で給与・賞与・退職金など、自社の役員や従業員に支払う人件費は非課税です。また健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料などは消費税の対象外です。ただし、人材派遣費用は外注費として扱われるため、仕入税額控除の対象となります。

ソフトウェア仮勘定に対する消費税の計上時期と注意点

ソフトウェア制作中の費用(材料費、労務費、経費など)をソフトウェア仮勘定に計上する際、どのように消費税を処理すればよいのかという疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

ソフトウェア仮勘定に計上する費用にかかる消費税は、各取引が発生したタイミングで「仮払消費税」として処理するため、個々の取引ごとに判断する必要があります。

主な費用科目に対する仕入税額控除の適用可否は次のとおりです。

科目消費税の処理
材料費ソフトウェア制作時に利用した消耗品の購入は課税仕入れに該当し、仕入税額控除が適用される。
労務費社内の人件費は基本的に非課税であり、仕入税額控除の対象にはならない。
経費以下の取引は主に課税仕入れに該当し、仕入税額控除の対象となる。

  • ソフトウェア制作部門が負担するものとして合理的に算定される事務所の賃料・光熱費
  • PCや備品のリース費
  • 派遣スタッフの費用
  • ソフトウェア制作のために参加したセミナー費用

仕入税額控除を適用するためには、精緻な帳簿記載と請求書などの保存が必要です。また、ソフトウェア仮勘定に計上する際は、各費用の性質を正確に把握し、適切な税務処理を行うことが重要になります。

なお、税法は改正される可能性があるため、最新の情報を確認し、必要に応じて税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

ソフトウェア仮勘定と建設仮勘定との比較

ソフトウェア仮勘定と類似の勘定科目として、「建設仮勘定」があります。

建設仮勘定は、建物や構築物、製作中の機械など、建設中の固定資産に支払われた費用を、該当する固定資産が完成するまで一時的に計上するための勘定科目です。
ソフトウェア仮勘定と建設仮勘定は、どちらも長期にわたるプロジェクトの費用を暫定的に計上するための勘定科目という共通点があります。

ただし、消費税の仕入税額控除のタイミングについて、建設仮勘定の場合は建設工事が長期にわたるため、工事の目的物がすべて完成し引き渡された時点で課税仕入れとして処理する方法も認められています。(消費税法基本通達11-3-6)

また、将来の資産計上時における償却方法について、ソフトウェア仮勘定は無形固定資産として振り替え、比較的短期間(3年または5年)で償却されます。一方で建設仮勘定は有形固定資産に振り替えますが、建物や設備によっては長期間にわたって償却が続くのが特徴です。そのため、税務への影響を長いスパンで考慮する必要があります。

両勘定科目の特性と税務処理の違いを踏まえ、資産計上時の計画と実務対応をしっかりと進めることが重要です。

まとめ

本記事では、ソフトウェア仮勘定の会計処理方法や消費税の取り扱いをはじめ、建設仮勘定との比較などについて解説しました。
ソフトウェア開発は完成までに数年間という歳月を要することも珍しくありません。その開発期間に発生する費用は、特定の条件を満たせばソフトウェア仮勘定に計上可能です。ただし、費用科目によって仕入税額控除の適用可否が異なる点には注意しましょう。


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