- 作成日 : 2024年8月30日
非課税取引にインボイスの発行は必要?制度の対象品目や記載方法を解説
消費税法により、課税取引のうち一定の取引は「非課税」と定められており、これらを「非課税取引」と言います。一方、インボイス発行事業者になれば、取引相手から求められたらインボイスの交付義務があります。しかし、非課税取引のみを行った場合、インボイスの交付義務はありません。
この記事では、取引におけるインボイス発行要否について解説します。
目次
非課税取引の定義
消費税においては、課税取引であっても「消費者に税金の負担を求める」対象として適切でないものや社会政策的配慮に基づき、消費税を課税しないこととされる取引が定められており、これを「非課税取引」と言います。
つまり、非課税取引はもともと課税取引ですが、法律によって例外的に課税しない(実質的に消費税0%)ことと定められている取引です。
消費税には非課税取引以外に「不課税取引」や「免税取引」など似たようなイメージを持ってしまう取引があります。それぞれの違いについて明確にしておきましょう。
「不課税取引」との違い
消費税の課税の対象となる取引以外の取引については、消費税はかかりません。この課税取引以外となる取引のことを「不課税取引」と言います。
すなわち不課税取引は、消費税の課税取引における4要件のどれかが欠ける取引と言えます。
- 国内取引である
- 事業者が事業として行う
- 対価を得て行う
- 資産の譲渡等である
資産の譲渡等とは、資産の譲渡(物品等を売ること)、資産の貸付け(保有する資産を貸し付けること)、役務の提供(サービスの提供)を言います。
参考:
消費税のあらまし(令和6年6月)|国税庁、消費税のあらまし(令和6年6月)p10参照
不課税取引の例としては、次のようなものなどがあります。
- 給与(事業上の資産の譲渡等ではない)
- 寄附金(対価を得ていない)
- 保険金(資産の譲渡等の対価と言えない)
- 株式等の配当金(株主の地位に基づき支払うものであるから)
- 損害賠償金(資産の譲渡等の対価と言えない)
参考:No.6157 課税の対象とならないもの(不課税)の具体例|国税庁
「免税取引」との違い
消費税において「免税取引」とは、消費税の課税取引のうち、輸出や特定の国際取引として、国内で消費しないため消費税が課税されない取引を言います。
消費税は、国内における商品販売やサービス提供等に課税されるものであり、課税事業者が行っても輸出等によって国外で消費されるもの等については、消費税が免除(実質的に消費税0%)されます。
したがって、消費税の免除取引は「課税取引」ですが、一定要件を満たすときは消費税が課されない取引を指します。
非課税取引の対象となる品目
消費税の非課税取引は消費税法によって限定的に列挙され、17品目に係る取引が非課税となります。以下、その17品目の概要を見てみましょう。
【非課税取引17品目】
No1~No7については消費税の性格から課税することになじまないため非課税となったものであり、No8以降は社会政策的な配慮により非課税となったものです。
No | 項目 | 主な非課税の例 |
---|---|---|
1 | 土地等の譲渡および貸付け | 借地権などの土地の上に存する権利も含まれる |
2 | 有価証券等の譲渡 | 公社債、株式、投資信託等の受益証券等 |
3 | 支払手段の譲渡 | 紙幣、硬貨、小切手、約束手形、暗号資産等 |
4 | 預貯金の利子および保険料 | 公社債、貸付金、預金等の利息、投資信託等の収益の分配金、手形の割引料、共済掛金等 |
5 | 切手類、印紙や証紙の譲渡 | 郵便切手、印紙・証紙等 |
6 | 商品券などの物品切手等の譲渡 | 商品券、ビール券、プリペイドカード等 |
7 | 国等による一定の事務に係る役務の提供 | 所得証明の発行手数料、不動産の登記料等 |
8 | 外国為替業務に係る役務の提供 | 旅行小切手の発行手数料、海外送金手数料等 |
9 | 社会保険医療の給付等 | 健康保険法などによる医療、労災保険・自賠責保険の対象となる医療等 |
10 | 介護保険サービスの提供等 | 介護保険法による一定の居宅サービス、施設サービス等 |
11 | 社会福祉事業等によるサービスの提供等 | 一定の社会福祉事業等によるサービスの提供等 |
12 | 助産 | 医師や助産師による助産サービス等 |
13 | 火葬料や埋葬料を対価とする役務の提供 | 火葬や埋葬にかかるサービス等 |
14 | 一定の身体障害者用物品の譲渡や貸付け等 | 義肢、視覚障害者つえ、義眼、点字器、人工喉頭、車椅子等の譲渡・貸付け等 |
15 | 学校教育 | 学校教育法における授業料や入学料等 |
16 | 教科用図書の譲渡 | 上記No15における教科用図書等 |
17 | 住宅の貸付け | 居住用であることが明らかなもの等 |
非課税取引の例外について
上記の非課税取引17品目の中でも、例外となる例には次のものがあります。
No | 非課税取引 | 非課税の例外(=課税となるもの) |
---|---|---|
1 | 土地等の譲渡および貸付け | 貸付期間が1カ月未満のもの |
2 | 有価証券等の譲渡 | 株式たるゴルフ会員権、株式売買手数料 |
4 | 預貯金の利子および保険料 | 保険代理店報酬 |
9 | 社会保険医療の給付等 | 自由診療 |
12 | 助産 | 妊娠中の入院、分娩の介助サービス |
13 | 火葬料や埋葬料を対価とする役務の提供 | 墓石、葬式、花輪代等 |
15 | 学校教育 | 塾や予備校の授業料 |
16 | 教科用図書の譲渡 | 補助教材の譲渡 |
17 | 住宅の貸付け | 住宅の貸付けのうち居住用以外のもの |
特にNo17については貸付けに伴い種々の支払があるため、下記サイトなどで確認してください。
非課税取引を行った場合のインボイス発行は不要
消費税のインボイス制度とは、複数税率に対応し税金の透明化を進めるために設けられた「仕入税額控除」のルールです。インボイス制度の下では、一定の要件を満たした請求書がある場合にのみ仕入税額控除が可能となります。
消費税の基本的な計算方法は次のとおりです。
消費税は、売上に係る消費税から仕入等に係る消費税を差し引いて計算します。この差し引く計算のことを「仕入税額控除」と言います。仕入税額控除をするためには、原則として適格請求書(以下、「インボイス」)が必要です。
インボイス制度の下ではインボイスが取得できない仕入れや経費については、仕入税額控除ができません。
インボイス制度において、非課税取引のみを行った場合、売り手にインボイスの交付義務はありません。従来(インボイス制度が始まる前)の請求書等を交付することとなります。または、登録番号などを付したインボイスの形式としても差支えないとされています。
一例として、郵便切手の購入は非課税取引ですが、切手を購入した郵便局ではインボイス形式にて領収書を発行していました。
(この形式は宛名等がないので簡易インボイスとなります。)
参考:消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A|国税庁、
課税取引と非課税取引が混在する場合はインボイス発行が必要
課税取引と非課税取引が混在する取引を行った場合、インボイスの交付を行ったとしても、売り手においてはその非課税取引部分については課税取引として取り扱う必要はないとされます。
この場合、混在している非課税取引の部分は消費税なしとして課税関係に応じたインボイスを発行することになります。
参考:消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A|国税庁、
課税区分が混在する場合のインボイスの記載方法
課税区分が混在するインボイスの記載方法について見てみましょう。国が積極的に例示しているものがないため、ここで挙げた具体例についてはあくまで一例として考えてください。
課税取引で標準税率と軽減税率の混在について
最も多い混在の例は、課税取引における10%(標準税率)と8%(軽減税率)の混在です。インボイスにおける消費税額や消費税率の表示については、次の2項目が必要です。
- 税率ごとに区分して合計した対価の額と適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
また、取引内容において軽減対象課税資産がある場合には、内容および軽減対象品目である旨を記載することになっています。
【10%と8%が混在する場合の請求書例】
この例では軽減税率の対象品目については「*」を付して表示しています。また、税率ごとに区分して合計した対価の額については、税抜価額にて表示しています。
非課税取引と課税取引の混在について
課税商品と非課税商品がある場合は、区分して記載する必要があります。どのような区分方法によるかまでは決められていないため、例えば次の例のようなものが考えられます。
(注:非課税取引を示す「非」マークについて)
なお、消費税においてはインボイスの課税・非課税混合ケースにおいて非課税取引である旨を明記することまでは求められていません。ここでは、取引内容の確認として明記をするほうが、よりよいと判断して付しています。
不課税取引と課税取引の混在について
先述のとおり、不課税取引とは課税取引以外のものであるので、1つの請求書で不課税と課税が混在するケースはあまりないでしょう。しかし、まとめて請求する場合などには課税・不課税の混在ケースも考えられます。
この場合は、上記の「非課税部分」について「不課税」に置き換えるとわかりやすいでしょう。
課税取引を同時に行なっている場合は適格請求書発行事業者に登録したほうがよい
インボイス制度導入の前から、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)になるかどうかの議論は多くなされてきました。現在免税事業者でインボイス発行事業者になるかどうかを検討している場合、次のケースではインボイス登録しなくても大きな影響はないと見られます。
- 売上先が免税事業者または消費者
- 売上先が簡易課税制度を選択している
免税事業者からの請求書は、売上先では経過措置(令和11年9月末迄)があるため、令和8年9月末までは免税事業者からの仕入税額の80%、それ以降は50%部分について仕入税額控除が可能です。
参考:消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A|国税庁、
「Q&A(問113ご参照)」
上記以外のケースで非課税取引と課税取引とを同時に行っているなど取引内容が複雑なときは、インボイス登録を行い、システムでインボイスが出力されるようにするほうが効率的だと言えます。
非課税取引のみ扱うなら事業者登録は不要
もともと非課税取引を行った場合、売り手はインボイスの交付義務がないためインボイスの登録は不要です。したがって、非課税取引のみを扱う場合には、インボイス登録が原則不要と考えてよいでしょう。
なお、事業の途中でインボイス登録することとなった場合には、主要な取引先に周知をしたあと、インボイス発行事業者となるのがよいでしょう。
非課税取引の性格を踏まえ、請求書を作成しよう!
もともと消費税が発生する取引に対して設けたルールがインボイス制度のため、国税庁のサイトにおいても非課税取引における記載も多くありません。しかし、課税取引の中に非課税取引が混在すること、または非課税取引とともに課税取引が発生することも多々あります。
インボイスの形式である場合でもそうでない場合でも、取引先が確認しやすい請求書を発行したいものです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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