• 更新日 : 2025年3月13日

経理業務にAIを活用するには?メリット・デメリットやツールの導入事例なども解説

AIの発展により、経理業務は大きな変革期を迎えています。請求書処理や仕訳入力など、これまで人手で行っていた作業をAIが自動化しつつあります。本記事では、AIが経理業務に与える影響から、導入のメリット・デメリット、具体的な導入方法までわかりやすく解説します。

経理業務はAIでなくなる?なくならない?

AIの進化により、経理業務のさまざまな分野で自動化が進んでいます。特に、日々のルーティーン業務や大量のデータ処理を必要とする業務はAIが得意とする分野です。

しかし、経理の仕事が完全になくなることはありません。経理業務は多岐にわたり複雑で、人間による確認や判断が不可欠な場面が多くあります。例えば、経営判断に関わる分析やイレギュラーな経費処理などは、現状では人間の介在が必要です。したがって、AIは経理担当者を補助する強力なツールとなるものの、人間との共存が前提となります。こうした流れから、経理担当者にはAIを使いこなしつつ、AIにはできない付加価値業務を担うことが求められています。

経理業務におけるAIの役割

ここでは、経理業務におけるAIの役割や得意とする領域について解説します。

データ入力・仕訳の自動化

従来の経理業務では、請求書や領収書をもとに手作業で仕訳入力を行う必要があり、入力ミスが多く時間がかかるという課題がありました。AIを活用すれば、以下の方法で業務効率化を実現できます。

AI-OCR(光学文字認識)

紙の領収書や請求書をスキャンすることで、AIがテキストデータを自動抽出。「2025年3月1日、取引先A社、5,000円、消耗品費」といった情報を読み取って、自動的に仕訳入力できます。

AIによる仕訳候補の提案

企業の取引履歴を学習したAIが、「過去の取引データ」や「取引先情報」をもとに最適な勘定科目を提案。例えば、企業のクレジットカードで交通費を支払うと、自動で「旅費交通費」に仕訳されます。

経費精算の自動化

AIは経費精算のミスを防ぎ、承認作業を効率化する役割を果たします。

領収書の自動読み取り

経費精算アプリと連携し、領収書をスマートフォンで撮影するだけで日付・金額・支払先が自動で入力され、申請作業が簡略化されます。

経費ルールの自動チェック

AIが経費のルールを学習し、違反している申請を自動で検出。例えば、「1回の会食費の上限が5,000円」というルールがある場合、超過した申請を自動でフラグ付けして管理者に通知します。

AIチャットボットによる問い合わせ対応

社員が「〇〇の経費はどの勘定科目になりますか?」とチャットで質問すると、AIが適切な回答を提供。経理担当者の負担を軽減します。

決算業務の効率化

決算業務では、大量のデータを整理・分析する必要があります。AIを活用すると、以下のような業務が効率化されます。

決算データの自動チェック

AIが膨大な取引データを分析し、誤りのあるデータを発見。例えば、通常100万円前後の支払いが続いている取引で、突如1,000万円の取引が発生した場合、AIが異常を検出しアラートを発します。

決算書や財務諸表の自動作成

AIが仕訳データをもとに、貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)を自動作成。時間をかけずに決算書を作成できるため、早期決算の実現が可能になります。

過去のデータとの比較分析

AIは過去の決算データを学習し、収益や支出の異常値を特定。前年同月比の変動をリアルタイムで解析し、警告を出すことも可能です。

請求書処理の自動化

請求書の処理は、多くの経理担当者にとって負担の大きい業務ですが、AIを活用することで以下のような効率化が可能になります。

請求書の読み取りとデータ入力の自動化

AI-OCRを使い、請求書をスキャンするだけで取引先名・金額・支払期日を自動認識し、会計ソフトに入力。

支払いスケジュールの管理

AIが支払期限を自動で管理し、未払いの請求書をリスト化してリマインド通知。

経理業務におけるAIとRPAの違い

RPAはAIの一種ではなく、ルールに基づいた作業を自動化するソフトウェアロボットです。これは、AIのように自ら学習して判断するのではなく、人間がパソコンで行う操作を決められた手順通りに再現する仕組みです。

経理業務においては、複数システム間のデータ転記や定型帳票の作成などに活用されます。例えば、Excelのデータを会計システムに転記したり、毎月決まったフォーマットの報告資料を作成したりする作業を正確に繰り返し実行できます。RPAはこうした手順が決まっている業務の自動化に適しており、業務時間を大幅に削減することが可能です。

ただし、RPAはAIとは異なり、例外的なケースや判断が必要な業務には対応できません。そのため、業務フローが複雑すぎると開発・保守が難しくなることがあります。導入の際は、単純でルールが明確な業務から始めるのが成功のポイントです。

経理業務にAIを導入するメリット

AIを経理に導入することによって、多くのメリットが得られます。

業務効率の向上とコスト削減

仕訳入力や経費精算などの反復作業をAIが自動化することで、作業時間を大幅に削減できます。単純作業に費やしていた時間を削減することで、人件費や残業代のコスト削減にもつながります。また、処理スピードも向上するため、月次決算や年次決算の早期化にも寄与します。

ヒューマンエラーの削減

AIは一貫したルールに従って処理を行うため、入力ミスや計算違いの減少が期待できます。特に、請求書データの読み取りや仕訳の自動化では、人手による転記ミスを防止できます。AI導入後は二重計上や入力漏れが大幅に減少したという報告もあり、経理データの信頼性向上につながっています。

経理業務にAIを導入するデメリット

AIの導入により、経理業務の効率化やコスト削減が期待できますが、一方で導入にはリスクやデメリットも存在します。ここでは、経理業務にAIを導入する際に注意すべきポイントを詳しく解説します。

初期費用や運用コストがかかる

AIを経理業務に導入するためには、システムの導入費用が必要です。特に、中小企業の場合は「導入にかかるコストを回収できるかどうか」を慎重に検討する必要があります。

また、AIを導入した後も、継続的な費用が発生することに注意が必要です。企業の規模や業務の複雑さによっては、導入後に想定以上のランニングコストがかかるケースもあります。

すべての経理業務をAIで自動化できるわけではない

AIは定型的なルールに基づく業務には強いですが、例外的な仕訳や経営判断に関わる会計分析などの非定型業務は苦手です。そのため、最終的な判断は経理担当者が行う必要があります。したがって、AIの導入前に従業員向けの研修やトレーニングを実施することが必要です。

経理業務にAIを導入する方法

経理へのAI導入を成功させるには、計画的な手順と準備が重要です。以下に、経理業務へAIを導入する際の大まかなステップを示します。

導入目的を明確化する

まずはAIを導入する目的や解決したい課題を明確に設定します。例えば「経費精算の時間を○%短縮したい」「決算業務のミスをなくしたい」など、具体的な目標を定めます。目的が明確になると、導入後に効果を検証しやすくなり、プロジェクトの指針も定まります。

AIを活用する業務範囲を決める

次に、AIによって効率化できそうな経理業務を洗い出します。日常的なデータ入力や請求書処理、経費精算など定型的な業務が候補になります。現状の業務プロセスを可視化し、どの部分をAIで自動化すべきかを検討しましょう。効果が大きいものから優先順位をつけて導入計画に反映します。

適切なAIツールを選定する

市場には会計ソフトのAI機能からチャットボット、OCR、RPAまで様々なツールがあります。自社のニーズに合ったAIソリューションを調査・比較し、選定します。機能面だけでなく、コストや導入事例、サポート体制も考慮して選定しましょう。可能であればトライアル利用や小規模導入(PoC)を行い、自社データでの有効性を検証すると安心です。

導入・継続的な改善を行う

AIは導入して終わりではなく、継続的な改善プロセスが大切です。まずは小規模な範囲で導入し、得られた成果や課題をフィードバックします。その後、適宜AIの設定調整や社内フローの見直しを行いながら、適用範囲を広げていきます。現場からの声を反映しつつ改善を重ねることで、AI活用の効果を最大化できます。

経理業務に活用できるAIの種類

経理業務に活用できるAIツールには、多岐にわたる種類があります。ここでは最新のAIツールの中から、経理業務に役立つ代表的なものを紹介します。

ChatGPT

OpenAIが提供するChatGPTは、高度な自然言語処理能力を持つ対話型AIです。経理担当者の質問に即座に回答したり、専門知識の確認に役立てたりできます。例えば、会計基準の解釈や税法に関する疑問を入力すると、関連情報をわかりやすく説明してくれます。また、取引内容を入力すると適切な勘定科目や金額を提案する使い方も可能で、自社の仕訳パターンを学習させれば仕訳入力の自動化に近いことも実現できます。ChatGPTは無料プランから始められる手軽さも魅力で、経理業務の効率化に幅広く活用できるでしょう。

AI-OCR

紙の領収書や請求書をAIが読み取ってデータ化してくれるツールです。スキャナやスマホで書類を撮影・アップロードするだけで、日付・金額・取引先などの情報を自動抽出し、仕訳データに変換します。AI-OCRにより手入力が不要になり、会計ソフトへの入力作業もデータ確認程度で済むようになったとのことです。定型フォーマットの書類が多いほど効果が高く、近年は日本語の手書き領収書に対応したOCRも登場しています。

AI搭載のクラウド会計ソフト

クラウド会計ソフトには、AIを活用した自動仕訳機能が搭載されています。銀行明細やクレジットカードの利用明細を取り込むと、AIが内容を解析して適切な勘定科目を提案してくれます。例えば、交通系ICカードの利用履歴から「旅費交通費」と仕訳候補を上げたり、取引先名から販売や仕入の科目を推測することも可能です。これにより、日々の記帳作業が大幅にスピードアップします。学習を重ねることで精度が向上し、使うほどに賢くなる点も特徴です。

AIチャットボット

社内の経理・財務に関する問い合わせ対応に、AIチャットボットを導入する事例も増えています。社員からの「経費精算のルールを教えて!」「◯◯申請の締切は?」といった質問に、チャットボットが学習済みのFAQデータベースから即答します。チャットボットは24時間対応できる強みもあり、経理担当者の負担軽減と社内サービス向上に貢献します。

経理業務にAIを活用した企業事例

実際にAIを経理業務に取り入れている企業の成功事例をいくつか見てみましょう。

仕訳・勘定科目の自動提案で経理業務を大幅に効率化

企業向けのITツール研修・教育を中心に、複数事業を手掛けるプランノーツ様は、法人成りのタイミングで「マネーフォワード クラウド会計」を導入しました。銀行口座やクレジットカードから入出金データを連携して、自動で仕訳を提案してくれるため、毎月数時間の作業で経理業務が完了。使っていくうちに入力情報を学習して、レコメンドの精度も上がるため、勘定科目を自分で調べなくても簡単に仕訳ができます。

領収書データの自動取得やOCR読み取りで従業員の負担を軽減

「LOVE LOCAL」をテーマに地域密着型の販売店を埼玉エリアに28店舗展開するダイハツの正規ディーラー、埼玉ダイハツ販売株式会社は、経費精算および債務支払の業務課題を解決するため、「マネーフォワード クラウド経費」「マネーフォワード クラウド債務支払」を導入しました。営業車で移動することが多いため、ETC利用照会サービスの情報をマネーフォワード クラウド経費に自動連携。領収書やレシートからのOCR読み取りも精度が高いため、経費申請作業にかかる負担が大きく軽減されています。スマホアプリで簡単に経費申請ができるので、以前のように紙の申請書類を作成し、郵送する手間もかかりません。

AIを上手く活用して経理業務を効率化しましょう!

AI技術の進歩により、経理業務の在り方は今後も大きく変化していくでしょう。単純な入力作業や定型処理はますます自動化が進み、経理担当者はチェックや分析、戦略提案といった付加価値の高い業務にシフトしていくと考えられます。今後の経理担当者に求められるのは、AIを使いこなすスキルと探究心です。経理の専門知識にAIのスキルを掛け合わせることで、これからのキャリアの幅は大きく広がります。AIを上手く活用して、経理業務の未来を前向きに切り拓いていきましょう。


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