• 更新日 : 2024年2月21日

棚卸しとは?目的や評価金額の計算をわかりやすく解説

棚卸しとは?目的や評価金額の計算をわかりやすく解説

棚卸しは、商品の在庫が実際にどのくらいで、状態はどうか確認するために必要なもので、会計処理にも影響します。年に数回棚卸しを行うこともあれば、業種によっては月末の度に実施するなど、手順や棚卸しをする時期はさまざまでしょう。

棚卸しはどのような目的をもって行われるのか、金額の計算や棚卸し資産の評価方法、棚卸しをごまかしたときの注意点などのポイントを解説します。

棚卸しとは

販売する商品や製品、社内で使用する消耗品などが社内に滞留している場合、会計上は資産として計上しなければなりません。これを「棚卸資産」と呼びます。

棚卸しとは、社内に滞留する「棚卸資産」の数量を実際に数えて、その価値を確認することをいいます。実地で数量や状態を確認し、会計上の資産価値を金額として確定することが棚卸しの大きな目的です。会社の事業年度は1年を超えることができませんので、少なくとも年に1回、決算時に棚卸しの作業が必要になります。

棚卸しの対象となるのは、商品や製品などの販売を目的とした資産のほか、仕掛品や原材料など製造途中、あるいは製造投入前の資産、また消耗品などです。いわゆる、在庫として確認できるような資産をいいます。

棚卸しの目的

棚卸しを実施する目的は次の2点です。

  • 実際の在庫(数量)を確認して、帳簿上記録された数量と照らし合わせること
  • 棚卸資産の状態や需要を見て、商品の価値が取得価額より低下していないか確認すること

正しい棚卸しを実施すると、正しい期間損益を知ることができるメリットがあります。

棚卸資産は会計上、資産として計上されるものです。それと同時に、費用をマイナスする効果があります。「棚卸資産が増加する = 費用がマイナスされる」といったイメージです。

費用がマイナスになれば利益は増加しますが、ここで棚卸資産の計上を忘れてしまうと利益が不当に少なく計算されることになり、脱税行為にもなります。

税務申告の基礎となる正しい利益を求めるためには、正確な棚卸しが欠かせません。

棚卸しを行った結果、数量に差異があるか、資産価値が大幅に低下しているケースがあります。こういった場合には決算時に「棚卸減耗損」「商品評価損」を計上するなど、正しい棚卸しにするための修正処理を行います。

棚卸しはいつ行うのか

棚卸しは、在庫がシステムや帳簿上管理している数量と一致しているかどうかを確認できるだけでなく、商品の状態を確認するのにも有効です。

個人事業主や法人の場合、年に1度必ず決算を行わなければなりません。決算では棚卸資産の残高を適切に把握する必要があります。したがって、少なくとも年1回は棚卸しを実施しなければなりません。決算では必須の棚卸しですが、年間を通して棚卸しを実施する回数に上限はありません。
棚卸しは商品の数量や品質を適切に管理する手段でもありますので、可能な限り頻繁に実施するのが良いでしょう。

小売業や飲食業など、商品を常にストックしており在庫管理が重要な業種においては、月1回の頻度で実施しているケースもあります。

棚卸しの手順

実際の棚卸しを行う手順について解説していきます。

棚卸しの計算式は次のとおりです。

棚卸し = 棚卸し数量 × 棚卸し単価

 

まずは「棚卸し数量」の確認から始めます。
数量の確認方法は、大きく「リスト方式」と「タグ方式」に分けることができます。

リスト方式での棚卸し

リスト方式は、在庫管理システムから在庫のリスト(帳簿棚卸高)を出力し、実際の在庫(実地棚卸高)と照らし合わせる方法です。リストの出力が前提ですので、在庫管理システムの導入など帳簿管理をしていないとリスト方式は採用できません。

リスト方式のメリットは、リストと比較しながら在庫数を確認できることです。棚卸し作業中にリストの数量と実際の数量が合わなければ、すぐに相違に気が付きますので効率良く棚卸しを進められるでしょう。

ただし、在庫管理システムなどの帳簿に棚卸し作業開始までのデータが正確に入力されていることが前提です。入力漏れがあったり、入力間違いがあったりすると、相違部分の確認にかえって時間をとられてしまいます。

タグ方式での棚卸し

タグ方式は、品目や数量を記入するタグ(棚札)を用意して棚卸しをする方法です。商品ごとに数量を確認し、確認を終えたら棚などにタグを貼り付けます。リスト方式のようにシステムを用意する必要はなく、どの業種においても取り入れられる方法です。

すべての商品などの棚卸資産の在庫を確認して、タグを貼り付け終えたら、番号順にタグを回収して、商品の状態を確認します。タグを貼り付けて回収する作業があるため、手間がかかるのがタグ方式の難点です。

このほか、大量の商品を扱う業種、システムを構築できる会社では、バーコードを読み込んで棚卸しをするバーコード方式もあります。

棚卸し在庫の評価計算

棚卸しを終えた棚卸資産は、最終的に金額にする必要がありますので、次に棚卸し単価を決めなければなりません。問題は、単価をどのようにして導き出すかということです。

同じ商品であっても仕入価格が毎回同じとは限りません。かといって自社で適当な単価を決めてしまうのは会計上、税法上問題が生じます。棚卸資産を正しく評価するには、会計や税法のルールに従って価額を導き出す必要があります。

単価の決定方法には大きく分けて「原価法」と「低価法」の2種類があり、さらに「原価法」のなかに、いくつかの評価方法があります。

原価法で棚卸し在庫を評価する

棚卸し単価の決定方法で認められているものとして、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、売価還元法などがあります。ただし、事前に評価方法の届出を提出し、税務署の承認を受けておく必要があります。

また届出をしなかった場合、税法上の個人事業者や法人の棚卸しは、期末からもっとも近い仕入単価で評価する「最終仕入原価法」が法定の評価方法になります。

個別法

棚卸資産ひとつひとつの仕入単価を個別に管理していく方法です。大量に仕入れるような資産の管理には向きませんが、宝石など個別性が強く、価値を一様に評価できない資産の評価方法として使われます。

先入先出法

先入先出法は、先に入ってきた資産を順に払い出したものとみなして計算する方法です。先に入ってきたものは順に払い出されると仮定するため、棚卸しとなっている資産は直近に入ってきたもの、と考えます。

総平均法

総平均法は、年または月に取得した棚卸資産の総額を、取得した総数量で除して、年または月当りの平均取得単価を計算する方法です。平均単価に棚卸し数量を乗じて期末の資産を評価します。

移動平均法

移動平均法は、棚卸資産を受け入れる都度、平均値を求める方法です。受け入れの都度、受入額と残高を足したものから、受け入れ額と在庫数量を除して、棚卸単価を求めます。

売価還元法

売価還元法は、販売総額に原価率を乗じて棚卸資産の取得単価を求める方法です。

最終仕入原価法

名称のとおり「最後に仕入れた商品の原価(仕入単価)によって評価する」方法です。各商品の棚卸し数量にそれぞれの最終仕入単価を乗じて金額を求めます。

低価法で棚卸し在庫を評価する

「低価法」とは、在庫の資産価値が仕入価額(原価)より低下している場合に行う評価方法です。

棚卸資産の価値は、需要低下や長期保管による品質低下などで価値が下がることがあります。価値が大きく下落した棚卸資産をそのまま資産計上してしまえば、会社の財務内容を正しく表した決算書を作ることはできません。

棚卸資産の実態を正しく評価できるように、税法では低価法による棚卸評価も認められています。原価法で計算した評価額と、時価による評価額を比較して、時価の方が低いときに時価を採用して期末の残高を評価する方法です。

低価法を採用する際も事前に税務署の承認を受ける必要があります。

時価評価という抽象的な方法で評価を行うため、他の評価方法に比べて恣意性が入りやすいというデメリットがあります。場合によっては税務上否認されるケースもありますので充分注意が必要です。

棚卸しのポイント・注意点

棚卸しの結果、実際の在庫とシステム上の在庫が合わない、実際の在庫と帳簿上の在庫が合わないといったことが発生することもあります。棚卸しの結果が一致しない主な原因は、以下のとおりです。

受け入れや払い出し時に間違ってカウントしている

商品などの受け入れ時、または払い出し時には数に誤りがないか確認するのが一般的です。しかし、数量や種類が多く毎回確認することが難しいケースもあります。棚卸しの結果が合わない原因のひとつとして、入出庫の数量を誤ってカウントしていることが挙げられます。特にリスト方式を採用している会社では入出庫の際、数量を二重にチェックする体制をとるなどの対策をしておきましょう。

誤った数値を入力している

リスト方式を採用している会社で起こりやすいのが、入力漏れや入力間違いといったヒューマンエラーです。誤った金額や数量を入力した結果、棚卸しが一致しなくなります。入出庫のチェックと同様に、二重にチェックする体制を整えるなどの対策が有効です。

管理ルールが徹底されていない

棚卸しの注意点はカウントする側の人員にもあります。例えば、仕掛品として計上すべき棚卸しがあったとしてもカウントする人が「完成していないから関係ない」と捉えれば在庫から漏れることになります。「そもそも在庫とは何か」「わが社で在庫となるものは何か」といった情報を共有し、管理ルールを徹底することが重要です。

棚卸しを効率化するには

棚卸しは時間がかかります。棚卸しを効率良くするにはどうするべきか、5つの効率化の方法を紹介します。

事前に計画を立てておく

何の準備もないまま棚卸しを始めると、各人がそれぞれのやり方で棚卸しを始めてしまったり、うまく連携がとれなかったりして、かえって想定より時間がかかってしまうことがあります。効率化のためにも、棚卸しに向けて事前に準備しておくことが重要です。

実地棚卸までに、棚卸しの責任者を決め、棚卸しの日程と範囲、担当振り分けなどを行い、計画書に落とし込んでいきます。誰もが同じ手順で作業ができるように、マニュアルも作成しておきましょう。また、棚卸しでの作業動線も考え、倉庫内を作業しやすいレイアウトにしておくなど環境も整えておくと良いです。

自社に適した方法を取り入れる

実地棚卸の範囲の区分として、一度ですべての品目を棚卸しする一斉棚卸、エリアや商品の種類で分割して業務と並行して棚卸しする循環棚卸があります。

また、棚卸しのやり方には、商品リストを作成して実際の数と比較するリスト方式、タグを付与して商品数を把握するタグ方式(棚札方式)などがあります。

どのような棚卸しの方法が適しているかは、棚卸しに充てられる人員や日数、取り扱う商品の種類などで変わってくるはずです。自社で効率良く回すにはどのような方法が良いかを考え、適した方法を導入するようにしましょう。

棚卸表を利用する

棚卸し作業を手書きで行う場合、複数人で棚卸しをすると後で結果をまとめるのに作業時間をとられてしまいます。表計算ソフトなどを利用して棚卸表を作成し、棚卸表を用いて作業をした方が効率良くできるでしょう。

棚卸表は、棚卸しに必要な項目が記載されているテンプレートの利用が便利です。「マネーフォワード クラウド会計」では、税理士監修のエクセル形式の棚卸表を無料で利用できますので、ぜひご活用ください。

システムを利用する

棚卸しを効率化できるものに、受発注や入出庫を確認できる在庫管理システム、スキャンで在庫状況を確認できるバーコードやRFIDを利用したアプリ、自動で数量を把握するIoTシステムなどがあります。

棚卸しの効率化においてシステムは便利です。しかし、導入に多額のコストがかかってしまったり、システムを利用した作業に慣れてもらうために従業員の教育が必要になったりするなどの注意点もあります。自社の規模や状況に合わせ、必要に応じて一部システム化するなど検討していくと良いでしょう。

作業の見直しを行う

棚卸しを終えたら、作業中にどのような問題があったか、どこに不便さを感じたか、作業の見直しをします。作業の見直しを行い、改善点を考え、次の棚卸しに活かしていくことも作業効率を高めるための重要なポイントです。

期末商品棚卸高とは

棚卸しは、期末商品棚卸高の算定にも関係があります。期末商品棚卸高とは、事業年度末日である決算日に在庫として保有する商品価額のことです。期末時の商品数量と会社の選択した棚卸資産の評価方法を用いて計算します。

なお、商品保管中に破損したり、または紛失したりして商品が減耗することもあるため、帳簿上の期末商品棚卸高が実際の期末商品棚卸高を反映できているとは限りません。実際の商品の在庫状況を把握するには、棚卸しによって商品別の数量や商品の状態を確認することが必要です。

期末に実地棚卸を行うことで実際有高と帳簿残高を比較して、減耗や商品劣化などによる価値の著しい低下がある場合には、それを帳簿上に反映させ、最終的な期末商品棚卸高とします。

期末商品棚卸高については以下の記事で詳しく説明していますので、こちらもご覧ください。

棚卸資産は利益計算にも繋がる重要なもの

棚卸しは会社の期間損益を計算するうえで、重要な役割を持ちます。在庫の間違いはイコール利益額の間違い、ひいては税額の間違いにも繋がります。棚卸しを計算する際には棚卸しに対する正しい認識と正確な作業を常に意識しながら取り組んでいきましょう。

よくある質問

棚卸しとは?

社内にある未販売の商品や製造途中の製品、未使用の消耗品などを集計する作業です。詳しくはこちらをご覧ください。

棚卸し在庫の評価方法は?

最終仕入原価法、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法などがあります。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談していただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事