- 更新日 : 2024年8月8日
有価証券報告書とは何かをわかりやすく解説!提出義務がある記載要綱とは
目次
有価証券報告書とは
有価証券報告書とは、株式を発行する上場企業などが開示する企業情報をいいます。開示される情報は、企業の概況、事業の状況、財務諸表などです。有価証券報告書を略して「有報」と呼ぶこともあります。
有価証券報告書は、一般にも開示されるもので、EDINET(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)などをとおして閲覧できます。
有価証券報告書の目的
有価証券報告書の目的とは、投資家に対し、投資判断に有用な情報を開示することにあります。主に、金融商品取引法が重視する、投資家保護を念頭に置いた制度です。
有価証券を発行する企業の投資家は、企業外部から、事業の状況や経営状態といった企業内部の情報を容易には取得できません。有報は、企業外部の投資家に企業の状況を知ってもらい、投資判断が適切に行えることを目的としています。
有価証券報告書は法律で提出が義務付けられている
有価証券報告書は、前述のように投資判断に有用な情報です。仮に、会社によって提出にばらつきがあると、投資家保護は難しくなってしまいます。そこで、金融商品取引法という法律では、有価証券の発行者(株式を発行する企業等)などに有価証券報告書をはじめとした開示書類の提出を義務付けています。この項では、有価証券報告書の情報開示と提出義務についてわかりやすく解説します。
有価証券報告書の情報開示の位置づけ
ディスクロージャーとは、情報開示のことです。以下の図は、ディスクロージャーと有価証券報告書の関係を示した簡単な図になります。
情報開示の大きな分類
- 法定開示:有価証券報告書、有価証券届出書、四半期報告書など法により開示が要求される情報
- 適時開示:上場会社の決定事項など金融商品取引所の規制で開示が要求される情報
- 任意開示:IRなど企業が任意に開示する情報
情報開示を区分すると、「法定開示」「適時開示」「任意開示」に分けることができます。このうち、有価証券報告書は、法定開示にあたる、金融商品取引法で開示が定められているものです。
内閣総理大臣への提出義務がある
情報開示のうち、有価証券報告書は、金融商品取引法の規制を受けて開示が強制される情報になります。有価証券発行者のうち提出義務のある者は、内閣総理大臣へ有価証券報告書を提出しなければなりません。
内閣総理大臣への提出期限は、事業年度終了後の3カ月以内です。たとえば3月決算の会社なら6月末日が提出期限、12月決算の会社なら3月末日が有価証券報告書の提出期限となります。
法定開示は投資家保護を主眼に置いたものですので、情報に誤りがあると、投資判断に有用な情報が開示されたことにはなりません。必要な情報を適切に開示できるように、有価証券報告書には提出義務があるだけでなく、監査法人や公認会計士による監査も義務付けられます。
提出義務がある有価証券発行者の条件
有価証券とは、株券や社債のことをいいます。有価証券報告書の提出義務があるのは、以下のような条件に当てはまる一定の有価証券の発行者に限定されます。
- 東証1部・2部、マザーズ、ジャスダックなど、金融商品取引所に上場された有価証券の発行者(上場企業)
- 店頭登録(国内法人で上場されていないもものうち店頭有価証券に関する規定で一定以上のディスクロージャーが求められるもの)のある有価証券の発行者
- 6月の通算50名以上の勧誘、1年の通算1億円以上の売り出しや募集を行う、有価証券届出書または有価証券通知書を提出する有価証券発行者
- 所有者数1000人以上の株券や優先出資証券、総出資総額1億円以上で所有者数500人以上のみなし有価証券の発行者
【参照】関東財務局|企業内容等開示(ディスクロージャー)制度の概要
まとめると、大規模な募集を行っている有価証券発行者に提出義務が定められているということです。多くの投資家が取引する上場企業はもちろん、非上場企業でも規模の大きい募集や売り出しを行ったり、所有者数が増えたりすれば、有価証券報告書の提出義務が発生します。
有価証券報告書に記載する内容
有価証券報告書には決算書に含まれる情報をはじめ、さまざまな情報が記載されています。以下が、有価証券報告書に記載する内容です。
企業の概況
- 主要な経営指標等の推移
- 沿革
- 事業の内容
- 関係会社の状況
- 従業員の状況
企業の概況は、企業の主要な情報を簡単にまとめたものです。主要な経営指標等の推移では売上高や当期純利益、資本金のほか、株式資本比率やキャッシュ・フローなど、企業の数年間の推移がすぐにわかるように決算書等から抜粋された重要な指標が並びます。さらに、企業の概況では、提出会社だけでなく、関係会社や連結会社の情報も記載されます。
事業の状況
- 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
- 事業等のリスク
- 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
- 経営上の重要な契約等
- 研究開発活動
事業の状況は、決算書だけではわからない、事業の詳細を記載する項目です。経営方針や事業の課題、事業のリスクなど、事業の現状や先行きを予想するための重要な情報が並びます。経営者による決算書の分析が含まれるのもこの項目です。
設備の状況
- 設備投資等の概要
- 主要な設備の状況
- 設備の新設、除去等の計画
設備の状況は、企業がどのような設備にどれくらいの投資を行っているかを示します。今後の設備投資について資金調達の方法も含めた計画も表示されるため、将来の安全性の予測にも役立ちます。
提出会社の状況
- 株式等の状況
- 自己株式の取得等の状況
- 配当政策
- コーポレート・ガバナンスの状況等
提出会社の状況では、主に株式や自己株式の取得、配当政策など、資金調達や投資家にとって関心の高い情報が開示されています。
経理の状況
- 連結財務諸表等
- 財務諸表等
経理の状況では、決算書にあたる連結財務諸表等、財務諸表等が開示されています。
提出会社の株主事務の概要では、事業年度の開始時期と終了時期、定時株主総会の時期、基準日や配当の基準日、株式の単元数、公告の方法などが記載されます。
提出会社の参考情報
- 提出会社の親会社等の情報
- その他の参考情報
提出会社の参考情報では、有価証券報告書提出までに提出した開示情報などの情報が記載されます。
有価証券の発行に保証会社が関連している場合に記載します。ほとんどの上場企業は該当事項がない項目です。
【参照】
金融庁|有価証券報告書等の記載内容の見直しに係る具体的な取扱い(案)の公表について
金融庁|金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム
有価証券報告書と決算短信の違い
目的 | ||
情報の正確性 | 確定 | 速報 |
情報量 | ||
開示タイミング | ||
ルール |
決算短信とは、証券取引所の規定により開示される情報です。有価証券報告書とは、投資家に向けた情報開示であるという点が共通します。どちらも、投資判断のための重要な開示情報となります。
- 情報量と開示のタイミング
有価証券報告書も決算短信も、企業の決算や状況を示す重要な情報ではあるものの、中身は大きく異なります。大きな違いは、情報量です。
決算短信は、貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書を中心とした報告にまとまっていますが、有価証券報告書は記載内容の部分でも説明したように記載内容は多岐にわたります。決算短信ではわからない事業の状況、株式の変動の状況、配当の状況、将来的な予測など、さまざまな視点から内容の濃い情報が開示されます。
しかし、内容が濃い分、作成までに時間がかかるのが有価証券報告書の難点です。決算短信は、決算後、早期に企業の状況が投資家に開示されることを目的としたもので、情報量が少ない分、有価証券報告書よりも早期に開示されるようになっています。
- 開示の規定
情報開示の規定も異なります。有価証券報告書は、法定開示の一種で、金融商品取引法により規定されています。決算短信は、適時開示に分類される情報開示で、証券取引所のルールで開示される情報です。
- 情報の正確性
特に将来の予測については、決算短信は推測も含まれます。一方、有価証券報告書は、監査後の精査された開示情報になるため、決算短信と比べて正確性は高いです。
有価証券報告書を見るときのポイント
投資家によって投資判断や参考にする情報は異なるため、有価証券報告書の見るべきポイントも異なります。この項では、有価証券報告書の中でも投資判断に重要と思われる箇所を抜粋していくつか紹介します。
- 主要な経営指標等の推移:連結、個別の5年間の経営指標等の推移を示した部分です。売上や資本金、当期純利益など決算書からの指標のほか、1株当たり当期純利益や配当額、自己資本比率などの財務諸表の分析に使わる指標も一目で分かります。企業の経営状況が一目で分かる重要な項目です。
- 事業の内容:提出会社が行っている事業の概要がわかります。
- 経営方針、経営環境および対処する課題:決算書では読めない、方向性、力を入れている事業、事業の将来性や課題などを記載した項目です。事業の将来性を測るのに役立ちます。
- 事業等のリスク:投資判断が適切に行えるよう、事業の将来性だけでなくリスクもあわせて記載されています。決算書だけでは見えない、事業のリスクが分かる重要な項目です。
- 配当政策:提出会社の配当に対する考え方がわかる項目です。中長期で株式を保有する投資家にとって特に重要な項目といえます。
- 株式の保有状況:提出会社の保有する他社株式の保有状況を示したものです。投資有価証券の運用状況などがわかります。
- 事業別セグメント情報:連結財務諸表等の項目で、事業セグメント別の利益などが記載された項目です。提出企業がどの事業でどれくらいの利益を得ているのかわかります。
上記は一部ですが、有価証券報告書の内容からは、財務諸表や決算短信ではわからなかったさまざまな情報が取得できます。いずれも、投資家が今後の投資をどうするか、投資を止めるかあるいは投資額を増やすか、判断するのに重要な情報です。財政状態や経営成績など現状は決算短信でもわかりますので、事業の将来性やリスクなど、将来の投資を左右する情報が有価証券報告書の中でも特に重要で有用な情報といえるでしょう。
有価証券報告書の実例
有価証券報告書は、有価証券報告書のほか、監査報告書、内部統制報告書、確認書から構成されます。全部で百数十ページから数百ページにまで及ぶことにある膨大な量の情報が記載されます。ここでは、株式会社セブン銀行を例に、有価証券報告書のイメージを簡単に紹介します。
【引用】有価証券報告書|セブン銀行(2020年3月期有価証券報告書)
有価証券報告書は、冊子のように表紙、目次、内容で構成された報告書です。目次部分には、どの項目がどのページから記載されているのか一目でわかるようになっています。有価証券報告書を活用して投資判断を行う場合は、まず目次を参照すると良いです。
【引用】有価証券報告書|セブン銀行(2020年3月期有価証券報告書)
有価証券報告書のトップにくるのが、企業概況のうちの、主要な経営指標等の推移です。5年間の経営指標が一目でわかるように、連結、個別に分けて表の形で表示されます。上記は2020年3月決算の決算報告書なので、2020年3月までの2019年度の最新版を含め過去4年間の値です。たとえば、図の連結の値からは、過去5年で1株当たりの連結純資産額が増加していることがわかります。
有価証券報告書の閲覧方法とは
内閣総理大臣に提出された有価証券報告書は、誰でも閲覧ができるようになっています。閲覧できる場所は、提出会社の本店やホームページ、証券取引所、財務局など。金融庁の金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム「EDINET」でも閲覧可能です。
閲覧したい企業があれば、EDINETの書類検索に企業名(提出者)などを入力し、書類種別を指定して検索をかけます。書類種別では、有価証券報告書以外に、半期報告書、四半期報告書、大量保有報告書、その他の書類種別を選択可能です。
EDINETで閲覧できる書類、閲覧可能な期間については、以下を参照ください。
総覧書類 | 公衆総覧期間 |
---|---|
有価証券届出書 | 受理した日から5年を経過する日まで(参照方式の届出書は1年) |
発行登録書 | 受理した日から発行登録が効力を失うまでの期間 |
発行登録追補書類 | 同上 |
有価証券報告書 | 受理した日から5年を経過する日まで |
有価証券報告書に係る確認書 | 受理した日から5年を経過する日まで |
内部統制報告書 | 受理した日から5年を経過する日まで |
四半期報告書 | 受理した日から3年を経過する日まで |
半期報告書 | 受理した日から3年を経過する日まで |
四半期報告書及び半期報告書に係る確認書 | 受理した日から3年を経過する日まで |
臨時報告書 | 受理した日から1年を経過する日まで |
親会社等状況報告書 | 受理した日から5年を経過する日まで |
自己株券買付状況報告書 | 受理した日から1年を経過する日まで |
公開買付届出書 | 受理した日から公開買付期間の末日の翌日以後5年を経過する日まで |
公開買付撤回届出書 | 同上 |
公開買付報告書 | 同上 |
意見表明報告書 | 同上 |
対質問回答報告書 | 同上 |
大量保有報告書 (変更報告書を含む) | 受理した日から5年間 |
上記書類の訂正届出書(報告書) | 元となる書類の縦覧期間と同じ |
利益関係書類 | 書類の写しを送付した日から起算して30日を経過した日から利益提供の請求権が消滅する日まで |
安定操作届出書 | 受理した日から1月間 |
安定操作報告書 | 安定操作期間が終了した日の翌日から1月間 |
【引用】関東財務局|企業内容等開示(ディスクロージャー)制度の概要
有価証券報告書の役割分担表テンプレート – 無料でダウンロード
上場申請には多くの手続きが発生します。ミスや漏れを防ぐためにも、役割分担をして進めていきましょう。
以下のテンプレートには、必要な項目が揃っていますので、内容を書き換えるだけでかんたんに作成できます。
ぜひこのテンプレートをダウンロードして、ご活用ください。
まとめ
有価証券報告書とは、金融商品取引法で規定された決算後の企業状況がまとまった書類です。上場企業など条件を満たす企業は、投資判断を誤らせないための投資家保護の目的で法による提出が義務付けられています。
投資家への情報開示をメインにした書類ですが、社内で競合他社を分析する場合にも活用できます。有価証券報告書は、EDINETなど特定の場所で閲覧できますが、ディスクロージャーの観点から、任意ではありますがIR情報として自社ページに掲載すると親切です。
【参考】
東海財務局|企業内容等の開示について
日本証券取引所グループ|会社情報の適時開示制度
日本証券取引所グループ|ディスクロージャー・ポリシー
金融庁|EDINETについて
関東財務局|企業内容等開示(ディスクロージャー)制度の概要
よくある質問
有価証券報告書とは?
株式を発行する上場企業などが開示する企業情報のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
有価証券報告書を見るときのポイント
主要な経営指標等の推移や事業内容などです。詳しくはこちらをご覧ください。
有価証券報告書の閲覧方法は?
提出会社の本店やホームページ、証券取引所、財務局などです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
連結決算における持分法を適用するメリットは?会計処理もわかりやすく解説
持分法とは、会社が他の会社の一部の株式を所有している場合に使用される会計方法です。 企業が連結財務諸表を作成するために必要なものとなり、特に経営陣は子会社や関連会社を含めたグループ全体の決算を行うのであれば覚えておく必要があります。 そこで…
詳しくみる決算書とは?主な種類や見方をわかりやすく解説
決算書を見ると企業の経営状態や財務状況がわかります。しかし、見方がわからないと記載されている数字の意味が理解できないため、企業の経営状況を把握することができません。決算書の作成は税理士に依頼することが一般的とされていますが、自身でも読み取れ…
詳しくみる中小企業には連結決算の義務はある?メリットやデメリットを解説
連結決算は、基本的に多くの子・関連会社を抱える大企業が行うべき会計処理方法です。しかし、最近は企業規模を問わずM&Aや海外進出などで国内外に子会社を持つ動きが高まっていることにともない、中小企業でも連結決算を行うケースが増えてきています。 …
詳しくみる決算短信とは?概要と読み方を徹底解説
決算短信(けっさんたんしん)とは、企業の財務情報や経営状態がまとめてある書類のことです。投資家にとっては非常に有益な情報源であり、証券取引所でも重要情報として扱われています。しかし、専門用語や記載内容の多さから「どこをどう読めばよいのかわか…
詳しくみる連結決算の対象となる子会社の基準は?例外や行うことをわかりやすく解説
上場企業の場合は子会社を含む経営全体を把握するために、連結決算が不可欠です。一定の条件下で報告が義務付けられており、中小企業・非上場でも一概には要否を判断できません。違反すると罰則があるため、対象となる基準を正しく理解しましょう。 今回は、…
詳しくみる月次決算とは?経理業務における目的や流れやり方まで解説
決算は年に1回行っているという会社も多いでしょう。税務申告を目的にするなら、決算作業は年に1回で十分といえます。 しかし、会社の経営状況を正確に把握するには、月ごとの月次決算を行わなければ見えてこないことが多くあるのです。月次決算は経営者に…
詳しくみる