- 作成日 : 2025年1月30日
中小企業もキャッシュフロー計算書を作成したほうがよい?メリットや作り方をテンプレートとあわせて解説
企業経営において、資金繰りの把握は成功の鍵を握る重要な要素です。特に中小企業では、資金ショートのリスクや投資判断の精度向上が求められる中、キャッシュフロー計算書の作成が注目されています。
本記事では、キャッシュフロー計算書の重要性、作成のメリット、具体的な作成方法、そして活用法まで、わかりやすく解説します。
目次
中小企業はキャッシュフロー計算書の作成が必要?
キャッシュフロー計算書をご存知でしょうか?上場企業には作成が義務付けられていますが、中小企業には義務がありません。しかし、その重要性は企業規模に関係なく、経営の健全性を保つ上で欠かせないツールです。
キャッシュフロー計算書とは何か
キャッシュフロー計算書(CFS)は、一定期間の企業活動による資金の流入と流出を3つの区分に分けて記載する財務諸表です。この3つの区分は、営業活動によるキャッシュフロー(本業の活動による資金の動き)、投資活動によるキャッシュフロー(設備投資や資産売却などの資金の動き)、財務活動によるキャッシュフロー(借入や株式発行など資金調達に関する動き)です。
これにより、企業の収益力や投資効率、資金繰り状況が明確になります。特に中小企業では、キャッシュフロー管理が甘いと資金ショートに陥るリスクが高いため、収支バランスを把握する重要な指標となります。
作成および提出が義務付けられている会社の要件
キャッシュフロー計算書の作成および提出が義務付けられているのは、金融商品取引法適用会社(上場企業など)と、会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)です。
これらの企業は、キャッシュフロー計算書を含む財務諸表を作成・提出する義務があります。
具体的には、有価証券報告書や有価証券届出書の中で、貸借対照表、損益計算書と並んでキャッシュフロー計算書を開示することが求められています。これは、投資家保護や企業の財務状況の透明性確保を目的としています。
一定規模以下の企業は提出の義務がないが、作成がおすすめ
中小企業や個人事業主には、法律上キャッシュフロー計算書の作成義務はありません。しかし、企業の健全な経営のためには、規模に関わらずキャッシュフロー計算書を作成することが強く推奨されます。
中小企業がキャッシュフロー計算書を作成するメリット
中小企業にとって、キャッシュフロー計算書の作成は法的義務ではありませんが、その作成には多くのメリットがあります。
現金の動きや資金繰りを把握できる
中小企業にとって、現金の流れを可視化することは経営の安定に不可欠です。キャッシュフロー計算書を作成することで、営業、投資、財務活動ごとの現金の流入・流出が明確になり、資金繰りの現状を正確に把握できます。
例えば、営業活動によるキャッシュフローがマイナスであれば、収益性の低下やコスト管理の問題を示します。また、投資活動のキャッシュフローがマイナスの場合、新たな投資が適切か再検討する材料となります。
さらに、財務活動によるキャッシュフローの分析では、過剰な借入依存の回避や返済計画の見直しが可能です。このように、キャッシュフロー計算書を活用することで、企業は日々の資金管理を適切に行い、資金ショートを防止することができます。
経営課題の発見や分析に利用できる
キャッシュフロー計算書は、企業の経営課題を浮き彫りにし、分析するツールとしても有効です。例えば、営業キャッシュフローがプラスである一方、投資キャッシュフローが継続的にマイナスの場合、過剰投資や効率性の低下が疑われます。
また、営業キャッシュフローが安定していない場合、販売戦略や顧客獲得コストに問題がある可能性があります。この情報を基に、事業構造やコスト配分の見直しを行い、経営改善を図ることが可能です。
さらに、複数年にわたるキャッシュフロー計算書の比較分析では、成長性や収益性のトレンドを把握でき、長期的な経営戦略の策定にも役立つでしょう。このような分析により、経営判断の正確性を高め、将来的なリスク回避にもつながります。
株主や取引先からの信用が向上する
キャッシュフロー計算書を作成することは、株主や取引先に対する透明性を向上させ、信用を高めることにつながります。特に金融機関からの融資を受ける際には、キャッシュフロー計算書が事業の健全性を証明する重要な資料となるのです。
例えば、営業キャッシュフローがプラスで安定している場合、事業の収益性が高く、資金返済能力があることを示します。一方で、投資活動が活発である場合、成長志向の経営を評価されやすくなるのです。
また、取引先との商談では、財務の健全性を示すことで、取引条件の優遇や契約の安定化を図ることが可能です。株主に対しても、資金の流れを明示することで、利益配分や経営計画への納得感を高めることができます。
キャッシュフロー計算書の記載項目と見方
キャッシュフロー計算書は、企業の資金の流れを「営業」「投資」「財務」の3つの活動に分類して明示する財務諸表です。各項目の分析により、経営状況や課題が把握しやすくなり、経営判断に重要な役割を果たします。
営業活動によるキャッシュフロー
営業活動によるキャッシュフローは、企業の本業における資金の流入・流出を示します。具体的には、商品の販売やサービス提供による収入(キャッシュイン)と、仕入代金や人件費などの支出(キャッシュアウト)が含まれます。この項目は、企業の収益力を測る重要な指標です。
営業キャッシュフローがプラスであれば、本業で十分な利益を生み出していることを示します。一方、継続的にマイナスの場合、売上高の減少やコスト構造の問題が考えられます。これにより、改善すべき経営課題が明確になります。
計算には直接法(現金収支を基に計算)と間接法(損益計算書と貸借対照表から計算)があり、日本企業では間接法が主流です。根拠法令として、企業会計基準第3号で詳細が規定されています。
投資活動によるキャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフローは、設備投資や資産売却に関連する資金の動きを示します。具体的には、新規設備や機械の購入、事業拡大のための投資(キャッシュアウト)や、不動産や株式の売却による収入(キャッシュイン)を含みます。
この項目は、企業の成長戦略や投資の健全性を評価する指標となります。例えば、投資キャッシュフローが大幅にマイナスであれば、成長に向けた積極的な設備投資を行っていると判断されますが、過剰投資の可能性も考慮する必要があります。一方で、資産売却によるキャッシュインが多い場合、資金繰りに苦しんでいる兆候かもしれません。
投資活動のキャッシュフローを継続的に分析することで、長期的な資金計画や成長戦略の妥当性を評価できます。これも企業会計基準第3号に基づいて作成されます。
財務活動によるキャッシュフロー
財務活動によるキャッシュフローは、資金調達や返済に関連する動きを示します。具体的には、借入金や株式発行による資金調達(キャッシュイン)、借入金返済や配当金の支払い(キャッシュアウト)が含まれます。
この項目は、企業の資金調達能力や財務基盤の健全性を測る指標です。例えば、財務キャッシュフローがプラスであれば、資金調達を積極的に行なっている状況を示しますが、借入依存度が高い場合はリスクが伴います。一方、マイナスの場合、借入金返済や配当金支払いを着実に実行していると捉えられます。
特に中小企業においては、借入金返済計画や自己資本比率の適正化に役立つ指標です。財務活動のキャッシュフローを詳細に把握することで、健全な資金調達戦略を立案することが可能になります。企業会計基準第3号が、この項目の記載内容を定めています。
キャッシュフロー計算書のテンプレート(無料)
マネーフォワード クラウドでは、キャッシュフロー計算書の無料テンプレートをご用意しております。無料でダウンロードできますので、ぜひお気軽にご利用ください。
キャッシュフロー計算書の作り方
キャッシュフロー計算書は、企業の現金の流れを示す重要な財務諸表です。作成方法には直接法と間接法があり、それぞれ特徴があります。以下、両方法の作成手順を詳しく解説します。
直接法の場合
直接法によるキャッシュフロー計算書の作成は、主に以下の手順で行います。
まず、必要な資料として貸借対照表(前期・当期)、損益計算書(当期)、および総勘定元帳を準備します。次に、営業活動によるキャッシュフローを算出するため、以下の項目を集計します
1. 営業収入
2. 仕入による支出
現金仕入、買掛金支払い、前渡金などの現金減少額を集計します。
3. 人件費の支出
給料や賞与などの現金支払額を集計します。
4. その他の営業費用の支出
上記以外の営業関連の現金支出を集計します。
投資活動と財務活動によるキャッシュフローについては、固定資産の取得・売却、有価証券の取得・売却、借入・返済などの取引を個別に集計します。
最後に、これらの項目をキャッシュフロー計算書のフォーマットに記入し、営業活動、投資活動、財務活動ごとの小計と合計を算出して完成させます。
間接法の場合
間接法によるキャッシュフロー計算書の作成は、以下の手順で進めます。
まず、直接法と同様に貸借対照表(前期・当期)と損益計算書(当期)を準備します。次に、営業活動によるキャッシュフローを以下の手順で算出します。
投資活動と財務活動によるキャッシュフローの算出方法は直接法と同様です。
最後に、各項目をキャッシュフロー計算書のフォーマットに記入し、営業活動、投資活動、財務活動ごとの小計と合計を算出して完成させます。
間接法は直接法に比べて作成が容易であるため、多くの企業で採用されています。また、会計ソフトを使用すれば、転記ミスや集計ミスを防ぎ、より効率的に作成できます。
中小企業がキャッシュフロー計算書を活用する方法
中小企業にとって、キャッシュフロー計算書は単なる財務諸表ではなく、経営改善のための強力なツールです。適切に活用することで、資金繰りの改善や経営戦略の立案に大きく貢献します。
中小企業がキャッシュフロー計算書を経営分析に活かす方法として、以下の手法が効果的です。
1. フリーキャッシュフロー(FCF)の分析
フリーキャッシュフローは、営業キャッシュフローから設備投資額を差し引いた金額で、企業が自由に使える資金を示します。FCFの推移を分析することで、企業の資金創出力や財務の健全性を評価できます。
FCF = 営業キャッシュフロー – 設備投資額
FCFがプラスで増加傾向にある場合、事業が順調に成長していると判断できます。一方、マイナスの場合は、資金繰りに注意が必要です。
2. キャッシュフロー比率の分析
以下のような比率を計算し、経営状態を分析します。
- 営業キャッシュフロー比率 = 営業キャッシュフロー ÷ 売上高
この比率が高いほど、売上を現金化する能力が高いと判断できます。 - 設備投資比率 = 設備投資額 ÷ 営業キャッシュフロー
この比率が1を超えると、営業キャッシュフロー以上の投資をしていることを意味し、資金繰りに注意が必要です。 - 債務返済比率 = 営業キャッシュフロー ÷ 有利子負債
この比率が高いほど、債務返済能力が高いと判断できます。
3. キャッシュフロー・マージンの分析
キャッシュフロー・マージン = 営業キャッシュフロー ÷ 売上高
この指標は、売上高に対する現金創出力を示します。比率が高いほど、効率的に現金を生み出していると判断できます。業界平均や過去の自社データと比較することで、経営効率の改善度合いを把握できます。
4. 資金繰り予測への活用
キャッシュフロー計算書の各項目の推移を分析し、将来の資金繰りを予測します。特に、季節変動の大きい業種では、月次でのキャッシュフロー予測が重要です。これにより、資金不足が予想される時期を事前に把握し、適切な対策を講じることができます。
5. 投資判断への活用
新規事業や設備投資の判断にキャッシュフロー計算書を活用できます。投資によるキャッシュアウトフローと、それによって得られる将来のキャッシュインフローを予測し、投資の採算性を評価します。この際、正味現在価値(NPV)や内部収益率(IRR)などの指標を用いることで、より精密な投資判断が可能になります。
これらの分析手法を組み合わせることで、中小企業は自社の財務状況をより深く理解し、適切な経営判断を行うことができます。定期的にこれらの分析を実施し、経営改善につなげていくことが重要です。
キャッシュフロー計算書で中小企業の経営力を強化しよう!
キャッシュフロー計算書は、企業の資金状況を可視化し、経営の健全性を高める強力なツールです。特に中小企業においては法的義務の有無に関係なく、資金繰りの改善や信頼性の向上に役立つため、積極的に作成・活用することが推奨されます。
本記事でご紹介したテンプレートや作成手順を参考に、まずは基本的なキャッシュフロー計算書を作成し、活用を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
【建設業向け】損益計算書の書き方は?テンプレをもとに勘定科目も解説
着工から完成までに、場合によっては1年を超える長い期間を要する建設業では、1年ごとに区切って処理をする一般の会計とは異なる「建設業会計」が採用されます。建設業会計では損益計算書の勘定科目も、建設業に特有なものが用いられます。この記事では建設…
詳しくみる決算時に在庫を減らした方が良い理由とは?在庫と決算書の関係性
製品の加工や販売をするために、必要な商品を仕入れて在庫の確保を行う企業も多いでしょう。適正な在庫を保有しておくことで、品切れ防止や大量購入による単価コストの削減といったメリットが得られます。 一方で、在庫を抱えるリスクや貸借対照表や損益計算…
詳しくみる売上高営業利益率とは?計算方法や業種別目安を解説
売上高に対する営業利益の割合を売上高営業利益率といいます。利益率の指標は他にもありますが、売上高営業利益率とはどのような違いがあるのでしょうか。売上高営業利益率の業種別目安、売上高営業利益率を上げる方法、売上高営業利益率がマイナスになった場…
詳しくみる決算報告を成功させる説明の仕方は?ポイントや例文を紹介
企業の経理担当者の中には、決算報告の説明担当になった方もいるかと思います。決算報告を説明する際には、押さえておきたいポイントがあります。 本記事では、決算報告を説明する際のポイントや活用できるフレーズなどを紹介します。 決算報告とは 決算報…
詳しくみる中小企業には連結決算の義務はある?メリットやデメリットを解説
連結決算は、基本的に多くの子・関連会社を抱える大企業が行うべき会計処理方法です。しかし、最近は企業規模を問わずM&Aや海外進出などで国内外に子会社を持つ動きが高まっていることにともない、中小企業でも連結決算を行うケースが増えてきています。 …
詳しくみるキャッシュフロー計算書の分析方法
手元にキャッシュがなければ黒字でも倒産する可能性があるため、会社にとってキャッシュの状況を把握することは非常に重要です。この記事ではキャッシュフロー計算書の概念や見方、キャッシュフローの分析方法についてわかりやすくご紹介します。適切なキャッ…
詳しくみる