- 更新日 : 2024年8月8日
起業したらいつ税理士をつける? 契約タイミングの目安は「1年間の売上」
起業した方から、「どのタイミングで税理士をつけたらいいですか?」と質問されることがあります。その質問に答える前に、税理士紹介サービスを手掛ける私がまずお伝えしているのは「税理士をつける目的」です。
そもそも税理士にお願いできることとできないことを理解しておかないと、「なんとなく顧問契約をしたけど期待していたものと違った」と物足りなくなり、報酬の支払いに負担を感じるようになるでしょう。
今回は税理士をつける目的と、顧問契約のタイミングの目安をお話しします。(執筆者:タックスコム代表取締役 山下健一)
顧問税理士をつける2つの目的
起業間もない方にぜひ知ってもらいたいのですが、顧問税理士をつける目的は2つあります。
2つ目は、税務調査が入ったときに、会社側の立場に立って守ってもらうため。
会社設立当初は様々な手続きや税務署への提出物などが多く、細々と疑問が出てくるでしょう。全部税理士にまかせたい気持ちにはなりますが、その疑問の大部分はネットで調べればすぐに解決できるでしょう。起業したてでほとんど売上が無いにも関わらず、一時的な疑問を解消するために顧問税理士をつけるのは無駄な経費と言えます。
また、税理士に売上を上げるための経営的な相談をするのも間違えています。税理士はあくまでも会計・税務の専門家であって、経営コンサルタントではありません。以前の記事で、税理士に依頼できることを詳しく書いているのでぜひ参考にしてみてください。
>>「税理士が何も提案しない」? 税理士にお願いできることは“3つ”
税理士に資金調達の相談をしたい場合は…
資金調達の段階から相談に乗ってもらいたい方もいるでしょう。金融機関とのパイプがある税理士もいますが、パイプがあるからと言って融資の枠が広がったりはしません。ただ、審査までの流れが早くなることはあります。
そのため、事業計画書の段階から税理士にアドバイスをもらうのはアリですが、あくまでも審査までの手続きのスピードが早くなるだけだと心得ておきましょう。過度な期待は禁物です。
もちろん、個人投資家やベンチャーキャピタルからの出資がないと実現できない事業モデルもあるでしょう。そうなると税理士のアドバイスも必要になりますが、資金調達が不要なケースもあるので、本稿ではその場合の説明を割愛します。
顧問税理士をつける目安は「1年間の売上」
では、どのタイミングで税理士をつけるといいのでしょうか。
私が提案している目安は、1年間の売上が1,000万円を超えているかどうかです。1年間の売上が1,000万円未満の場合、顧問税理士をつけても、そのメリットより報酬の支払いが負担に感じるでしょう。
「会計の知識がない場合はどうすれば?」と心配する方もいますが、実は管轄の税務署に行けば無料で相談に乗ってもらえます。一般的に売上が1,000万円に満たない場合は、税務処理もシンプルです。会社の存続を揺るがすような致命的なミスが起こる確率は限りなく低いと言えます。税務署での相談でまかなえそうな場合は、無駄な経費を削ることをおすすめします。
税務調査のリスクは…
また、税務調査のリスクですが、税務署は規模が大きい法人や、不正発見率が高そうな業種、過去に不正を働いた個人・法人などを優先に調査します。売上が1,000万円に満たない場合は、急に売上が激増して税務署に注目されたり、虚偽の申告をして怪しまれたりしない限り、税務調査が入る確率は低いでしょう。とはいえ万が一に備えたいという方は、税理士との顧問契約を検討してみてください。
余談ですが、どうせバレないだろうと不正な申告をする人がいるものです。くぎを刺していても「売上を誤魔化して申告したら税務署が入った」「何年も申告せずにいたら税務調査が来た。どうすれば……」などと問い合わせが来ます。そうなってからでどうしようもありません。多額の罰金(重加算税や不納付加算税、延滞税)を科せられ、事業の継続自体が困難な状態になります。
私がある社長と面談をしていたところ、その方が「自分の知り合いもバレていないし、少しぐらいの不正は見つからない」と言いました。「もし脱税をしているなら必ず見つかりますよ!」とその方に言いましたがその社長は不正を続けていたようで、その後マルサの調査が入り、精神的に追い込まれボロボロになっていきました。どんなに売上を上げるのが得意な経営者でも脱税は必ず見つかります。これは私が10年以上、税理士と経営者の間に入って仕事をしてきて言い切れることです。
まとめ
年間売上が1,000万円を超えるまでは、会計もシンプルかつ税務調査の対象になる可能性も低いため、自分で税務署に相談に行ったり、ネットで調べたり、クラウド会計を活用したりして、なるべく経費を抑えることをおすすめしました。
税理士と顧問契約をせずに自分で申告しようと思った方は、「売上を誤魔化さない」「必ず申告する」ことを心に留めて事業に取り組んでいきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
新着記事
会社法で定められた株主総会はいつ開くべき?開催手順やスケジュールを解説
会社法では、株主総会については、招集の通知などをはじめ多くのルールがあります。法に則り定時株主総会を開催するには、開催までの手順を把握し、適切にスケジュールを立てておくことが重要です。この記事では、決算後の定時株主総会の概要や開催の手順、定…
詳しくみる一般社団法人向けの決算書のひな形を紹介!主な項目の書き方も解説
決算書とは、法人がそれぞれの年度における経営状況や財務状況をまとめた書類のことです。一般社団法人でも決算公告の義務があります。決算公告を行うためには必要な決算書をそろえ、適切に記載する必要があります。 本記事では、一般社団法人向けの決算書の…
詳しくみる未収入金を相殺したい!要件や仕訳方法、注意点を解説
未収入金とは、企業の営業活動以外の取引で発生する金銭債権のことを指します。買掛金と相殺することも可能ですが、要件や仕訳方法を知りたい方も多いでしょう。本記事では、未収入金とはどのような勘定科目なのかを解説します。売掛金と未収収益との違い、相…
詳しくみる製造業でよく使われる帳票は?種類やテンプレート、電子化のメリットを解説
帳票(帳票類)とは、お金の流れを記録する帳簿や伝票の総称です。一般的には見積書・納品書・請求書といった種類の帳票が使われていますが、業界別に特有の帳票も存在します。本記事では、製造業でよく使われる帳票を紹介します。起票する際に役立つ無料テン…
詳しくみるM&Aのメリット・デメリットは?失敗原因や成功事例もわかりやすく解説
M&Aを検討する場合、メリット・デメリットを事前に把握しておきたいと考える人も多いでしょう。M&Aには新規事業の開拓や事業承継問題の解消ができるといった利点がある一方で、多額の資金が必要になることや従業員離職のリスクといった…
詳しくみる仮受金に消費税はかかる?課税時期や仕訳例、前受金・預り金の場合を解説
仮受金の仕訳をする際に、消費税を計上するべきか悩むこともあるかもしれません。仮受金の中には、消費税の課税対象である取引であることが後に判明する可能性もあるためです。この記事では、仮受金と消費税の関係や仕訳例を紹介します。 仮受金は消費税がか…
詳しくみる