- 更新日 : 2024年8月8日
損益分岐点とは?具体例でわかる計算方法
損益分岐点を活用した分析について興味を持っている経営者の方も多いのではないでしょうか。しかしエクセルでグラフを作成する方法や各指標の計算など、分析方法がわからない方も多いでしょう。
損益分岐点を分析することで、事業の収益構造を理解して正しい経営判断が行えます。今回の記事では損益分岐点の分析方法や、分析によってわかること、損益分岐点の下げ方について紹介します。
目次
損益分岐点とは
損益分岐点とは、事業を行っていくうえで売上と利益が、プラスマイナスゼロになる売上高をさします。事業に必要な経費などを賄うために必要な、最低限の売上高ともいえるでしょう。損益分岐的を上回れば上回るほど利益は大きくなり、下回れば赤字になります。
損益分岐点を算出する際の経費には、事業を継続するために必要な経費をすべて含めなければなりません。飲食店であれば食材などの仕入価格だけでなく、社員の人件費や店舗の賃料なども含めます。企業にとって損益分岐点は、利益を確保するための重要な指標といえるでしょう。
損益分岐点の計算方法
損益分岐点は、以下の計算式で算出します。
上記の式のうち「変動費率」は、変動費÷売上高で算出され、売上に占める変動費の割合を表します。さらに「1-変動費率」を計算することで、売上から変動費を除いた限界利益を求められます。
限界利益と変動費の関係は、以下のとおりです。
限界利益とは、売上と変動費の差額であり、固定費は差し引いていません。限界利益は、コンスタントに発生する費用(固定費)を費用に含めないで、売上に対してどれだけ利益が出るか?という指標です。
固定費は限界利益の中から捻出するため、損益分岐点の分析には固定費も考慮しなければなりません。
では具体例を交えて、計算してみましょう。こちらのラーメン屋では1杯1,000円でラーメンを販売しており、小麦粉などの変動費が1杯あたり200円、お店の家賃などの固定費が月30万円かかっています。
売上高 | 1,000円/杯 |
---|---|
変動費 | 200円/杯 |
固定費 | 30万円/月 |
ラーメン1杯の価格に対し変動費が200円のため、変動費率は0.2になります。これをさきほど紹介した損益分岐点売上高の計算式にあてはめると、以下のとおりです。
損益分岐点売上高=30万円÷(1-0.2)=375,000円
このラーメン屋では月間375,000円以上、つまり375杯以上の売上があれば赤字にはなりません。
ここまでの説明で変動費と固定費という言葉が出てきました。どちらも経費のことですが、それぞれ内容が違うため理解しておきましょう。
変動費 | 売上に応じて変わる経費のこと。変動費に含まれる経費は、原材料費や外注費、運送費や販売手数料など |
---|---|
固定費 | 売上にかかわらず発生する費用。固定費に含まれる経費は、地代や家賃、役員報酬などの人件費、広告宣伝費など |
エクセルでの損益分岐点グラフの作成方法
エクセルで損益分岐点グラフを作成する方法は、以下のとおりです。
- グラフのもとになるデータを作成する
- グラフを作成する
グラフにすることで、損益分岐点の把握が容易になります。
グラフのもとになるデータを作成する
まずは、グラフのもとになるデータを作りましょう。
さきほどのラーメン屋を例にすると、売上が0の場合の費用は固定費の30万円のみです。売上の最大値を100万円とした場合、ラーメンは1,000杯売れたことになります(100万円÷1,000円)。1杯あたりの変動は200円のため、月の変動費は20万円です。
グラフを作成する
データの入力ができたら、グラフの範囲を選択します。
グラフを選択した状態で挿入をクリック、グラフをクリックして「すべてのグラフ」の中から「面」の右側を選びましょう。
グラフタイトルを変更すると、下記のとおりグラフが完成します。売上高の青い部分と、変動費+固定費のオレンジの部分が交わる点が、損益分岐点売上高です。
損益分岐点を超えて、売上が増えれば増えるほど利益は極大化します。つまり上記のグラフでは青い部分が、売上増加による増えていく利益部分です。
上記のグラフでは見えにくい場合は、グラフの塗りつぶしを使って加工するとよいでしょう。
売上・変動費+固定費・(内固定費)のそれぞれの塗りつぶしをして枠線をつけることで、上記のようになります。こちらのグラフであれば損益分岐点を下回る場合の、損失部分も把握することが可能です。
損益分岐点でわかること
損益分岐点は、事業を左右する重要な指標です。損益分岐点を分析することで、わかることを紹介していきます。
損益分岐点に対する現在の売上高の位置がわかる
損益分岐点を使って分析することで、損益分岐点に対して現在の売上高がどの位置にあるのかを理解できます。具体的には損益分岐点を使って、下記の算式で損益分岐点比率を算出します。
たとえば、損益分岐点売上高が100万円で、現在の売上が110万円の場合の損益分岐点比率は90.9%です。損益分岐点比率が低ければ低いほど、損益分岐点売上を上回る売上を維持している健全な事業といえるでしょう。
どれくらい売上が減少すれば赤字になるかわかる
安全余裕率を使えば、どれくらい売上が減少したら赤字になるかも分析できます。安全余裕率は、以下の計算式で算出します。
たとえば、実際の売上高が150万円で損益分岐点売上高が100万円の場合、安全余裕率は33.3%です。これは現在の売上から33.3%売上が減少すると、赤字になってしまうことを意味します。安全余裕率が高ければ高いほど、高い利益率を確保できている優良な事業といえるでしょう。
不況などの要因で売上が減少した場合でも、安全余裕率を把握していれば慌てることもありません。
安全余裕率は、さきほど紹介した損益分岐点比率とよく似ていますが、それぞれ下記のような違いがあります。
安全余裕率 | どれくらい売上が減少しても黒字を確保できるかがわかる数値 |
---|---|
損益分岐点比率 | 損益分岐点売上に対し、現在の売上がどの程度なのかがわかる |
収益率が高い商品がわかる
損益分岐点を分析することで、収益率の高い商品を調べられます。商品や事業ごとの収益率の分析には、損益分岐点ではなく限界利益率が向いているでしょう。限界利益率は売上高から変動費を引いて算出し、さらに売上で割ると算出できます。
具体例を見ていきましょう。さきほどのラーメン屋の事例で、以下の2つの商品があったと仮定します。
商品名 | 売上/杯 | 変動費/杯 |
---|---|---|
ラーメン | 1,000円 | 200円 |
チャーシューメン | 1,100円 | 300円 |
この場合ラーメンの限界利益率は80%、チャーシューメンの限界利益率は72.7%です。一見どちらも同じ限界利益に見えますが、売上に対する収益力という意味ではラーメンのほうが優秀といえます。
目標利益を達成できる売上がわかる
限界利益を分析することで、利益目標を達成するための売上を算出することが可能です。いくら売上を増やせば目標を達成できるかを分析するには、下記の算式を使います。
たとえば、さきほどのラーメン屋の事例で、10万円の利益を達成することを目標にします。限界利益率は「限界利益÷売上×100%」で計算します。1杯1,000円のラーメンで変動費が200円ですから限界利益は800円、限界利益率は80%となりました。
目標利益達成売上高は「(30万円+10万円)÷80%=50万円」となります。月の売上を50万円、つまり500杯のラーメンを売れば目標利益10万円を達成することが可能です。
損益分岐点の活用方法
損益分岐点を分析し、さらに活用することで正しい経営判断ができるようになります。ここでは損益分岐点の活用方法を紹介していきます。
適切な販売価格の指標にする
損益分岐点を正確に把握していれば、適切な販売価格を設定できます。固定費や原価などをふまえて、損益分岐点の視点で販売価格を決めることで販売戦略も練りやすくなるでしょう。
販売価格は安くすればするほど売りやすくなりますが、利益を圧迫してしまいます。あまりに安くしてしまっては売っても売っても赤字という状況にもなりかねません。このようなリスクを防ぐためにも、正しい損益分岐点を理解しておきましょう。
経営の意思決定の参考にする
損益分岐点を活用すれば、正しい意思決定の参考になります。限界利益率を正しく分析することで、どの事業や商品の利益率が高いかを正しく認識できます。会社としてどの分野にリソースを集中すべきか、正しい判断ができるでしょう。
また損益分岐点の活用は、固定費の見直しにも役立ちます。売上にかかわらず必要となる固定費の見直しは、利益率改善に大きく影響します。損益分岐点を活用することで、正しい経営判断ができるでしょう。
目標利益達成の売上がわかる
損益分岐点を活用することで、適切な売上目標を設定できます。さきほど紹介した目標利益達成売上高を使えば、目標達成に必要な売上高がわかります。合理的な売上目標は、従業員にも理解を得やすいでしょう。
会社としての売上目標を従業員にも理解してもらえることで、組織が一体となって目標を目指せます。損益分岐点を活用すれば、効率のよい経営が行えます。
損益分岐点分析(CVP分析)の方法
CVP分析とは、販売量(Volume)の変化がコスト(Cost)と利益(Profit)にどのような影響を与えるのかを分析し、損益分岐点をあきらかにする手法です。事業の収益構造や、問題点が把握しやすいため、経営計画の策定や事業方針の立案など、幅広く活用されています。
CVP分析は、以下の手順で行います。
- 変動費・固定費を算出する
- 損益分岐点売上高を算出する
- CVP図表を作成する
- 現状分析を行う
- 対応策を検討する
CVP図表はエクセルで簡単に作成できます。図表の作成方法まではさきほど紹介しているため、ここでは現状分析について見ていきましょう。現状を分析するための、代表的な手法を3つ紹介します。
- 費用構造分析
- 安全余裕額
- 時系列分析
費用構造分析
グラフをもとにして、変動費と固定費の割合をつかめます。変動費が大きい事業と、固定費が大きい事業のグラフを比べてみましょう。
設備などが必要な製造業は、固定費が高くなります。固定費が高い業種は利益が出しにくい一方、固定費を上回る売上を確保できれば利益を上げやすいといえるでしょう。卸売業や仲介業のように変動費の高い業種では、利益が出やすい反面、利益を極大化しにくいことが特徴です。
安全余裕額
安全余裕額は、赤字になるまでどれくらい余裕があるかがわかります。不況などへの抵抗力を分析する際に役立ちます。さきほど紹介した安全余裕率や、損益分岐点比率と合わせて活用しましょう。
時系列分析
変動費と固定費をわけた、「変動損益計算書」を作成する手法もあります。
通常の損益計算書では損益分岐点売上はつかめませんが、変動損益計算書であれば変動費と固定費などがわかります。変動損益計算書を時系列に分析することで、事業の構造的変化をつかめるでしょう。
CVP分析で現状が把握できたら、次は損益分岐点を下げるための対応策を検討しましょう。
損益分岐点の下げ方
CVP分析で得た情報をもとにした、対応策を紹介します。損益分岐点を下げるには、3つの対策があります。
- 変動費を下げる
- 固定費を下げる
- 売上を増やす
変動費を下げる
変動費を下げると、売上に連動する費用が少なくなるため、損益分岐点売上が下がり、利益率がアップします。変動費を下げるためには、以下のような方法があります。
- 材料費や外注費を抑える
- 利益率の高い商品の売上を上げる
ただし、材料費や外注費を抑えると、商品やサービスの質が低下するかもしれません。過度な削減にならないように注意しましょう。
固定費を下げる
固定費を下げれば、売上に関係なく損益分岐点を下げられます。固定費を削減するには、以下のような方法があります。
- 家賃を見なおす
- 人件費を削減する
- 不採算事業を縮小する
不要な拠点の閉鎖や、人件費の削減は効果がありますが、会社を支える資本でもあります。将来売上が増えた際に対応できなくなってしまうため、適度な削減にとどめましょう。
売上を増やす
経費を削減しなくても売上を増やすことで、損益分岐点を下げられます。売上を増やすには、以下のような方法があります。
- 販売単価を上げる
- 販売量を増やす
- 値引きはしない
売上を上げることは簡単ではありませんが、付加価値の向上などで販売単価や販売量を上げることを目指しましょう。
損益分岐点を分析して経営判断に活かそう
損益分岐点は事業の経費を賄うために、最低限必要な売上高です。事業の損益分岐点を知り、分析することで事業の収益率やリスクを正しく理解できます。また利益目標を達成するために必要な売上も合理的に算出できるため、社員の理解も得やすくなるでしょう。損益分岐点の分析を活用することで、正しい経営判断ができるようになります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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