- 更新日 : 2026年5月29日
特別償却とは?一括償却との違いや対象設備など要件をわかりやすく解説
設備投資の初年度にまとまった費用を計上し税負担を抑える仕組みです。
- 通常の減価償却に上乗せして早期に回収する
- 中小企業向けの優遇措置が複数用意されている
- 対象や金額の条件は制度ごとに細かく分かれる
適用期限や税額控除との選択がある点も踏まえ、最新の要件を調べておくと安心です。
特別償却は、租税特別措置法に基づき一定の要件を満たす設備投資に対して、通常の減価償却とは別枠で費用計上できる優遇制度です。中小企業投資促進税制や中小企業経営強化税制など、一定の要件を満たす中小企業が活用できる制度が複数存在します。
本記事では特別償却と一括償却との違いや、対象設備・要件をわかりやすく解説します。
目次
特別償却とは
特別償却は、租税特別措置法に基づき、一定の要件を満たす固定資産を取得し事業の用に供した場合に、通常の減価償却費に加えて追加の償却額(特別償却額)を損金として計上できる優遇制度です。たとえば、設備投資の初年度から大きめの減価償却費を計上することが許されるため、早期に投資コストを回収しやすいメリットがあります。
ここでは、特別償却についての基本的な考え方や、類似の制度である即時償却・一括償却・税額控除との違いを整理してみましょう。
そもそも減価償却とは
減価償却とは、固定資産の取得価額を一度に費用計上せず、資産の利用可能期間(耐用年数)にわたって、毎期の費用として計上する手続きです。建物や機械装置などの設備は時間の経過や使用によって価値が減少していきますが、それを会計上合理的に反映させるために行います。
減価償却の方法には定額法や定率法などがあり、通常は税法(法人税法)や会計基準で定められた耐用年数をもとに、一定の計算ルールで毎期の償却費を算出します。
ここで税務上は、法定耐用年数や償却方法に基づいて減価償却を実施する一方、会計上は資産の経済的使用可能期間を踏まえた耐用年数で減価償却を行うため、両者の耐用年数や償却額は一致しない場合もあります。
減価償却の仕組みについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
特別償却と即時償却の違い
特別償却は、取得した資産のうち一定要件を満たすものについて、通常の減価償却費に加えて初年度から一定の割合の特別償却額を計上する制度です。
一方、即時償却は「取得した資産の全額を一度に費用計上する」仕組みです。中小企業経営強化税制や特定の措置で要件を満たす場合に、導入した年に全額を損金に算入できます。
即時償却は初年度にすべて費用化できる点で特別償却よりも短期間に大きな効果を生みますが、必ずしも常に選択できるわけではありません。対象資産や要件が厳しく、制度ごとに細かい制限があるため注意が必要です。
特別償却と一括償却の違い
一括償却は、「取得価額が20万円未満」の減価償却資産を対象とする制度です。一括償却資産として計上した場合、取得年度から3年間にわたって均等に償却を行えます。つまり、一括償却は少額資産向けの簡便的な制度といえます。
それに対して特別償却は、取得価額の制限がありません(※)。取得価額が20万円を超える高額な設備であっても、要件さえ満たしていれば初年度から追加で償却ができる点が一括償却とは異なります。
※各制度ごとに対象設備の取得価額要件は存在する点には留意が必要です。
なお、類似制度として、中小企業者等が取得価額30万円未満の資産を全額損金算入できる「少額減価償却資産の特例」もあります。令和8年度税制改正により、この特例の取得価額上限は30万円未満から40万円未満に引き上げられました(適用期限は令和11年3月31日まで3年延長、常時使用する従業員数が400人を超える法人は対象外となる点に留意)。
特別償却が適用される制度一覧
特別償却が適用される主な税制優遇制度としては、中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制、中小企業防災・減災投資促進税制があげられます。いずれも、中小企業が生産性向上や防災対策などの目的で設備投資を行う場合に活用できる制度です。
以下の表に対象企業規模と優遇措置など、主な違いをまとめました。
| 中小企業投資促進税制 | 中小企業経営強化税制 | 中小企業防災・減災投資促進税制 | |
|---|---|---|---|
| 主な対象 企業規模 |
|
|
|
| 優遇措置 | 30%特別償却または7%税額控除(資本金3,000万円超は特別償却のみ) |
|
|
| 必要計画認定 | 不要 | 経営力向上計画の認定必須 | 事業継続力強化計画または連携事業継続力強化計画の認定必須 |
※本記事では、現行制度に合わせて中小企業防災・減災投資促進税制の特別償却率を16%として記載しています。
なお、令和8年度税制改正により、大企業も対象とする「特定生産性向上設備等投資促進税制」が新設されています(産業競争力強化法改正の施行日から令和11年3月31日までの間に経済産業大臣の確認を受けた設備が対象で、即時償却または7%税額控除のいずれかを選択できる制度)。
中小企業投資促進税制における特別償却の要件
中小企業投資促進税制は、中小企業が生産性向上や経営力強化を目的として設備投資を行う際、特別償却や税額控除などの優遇を受けられる制度です。租税特別措置法の規定により、要件を満たした設備を購入・設置した場合、投資初年度に通常の減価償却に加えてさらに特別償却額を計上できます。ただし、資本金要件を満たす法人であっても、大規模法人に一定割合以上保有されている法人など、いわゆる「みなし大企業」に該当する場合は対象外となることがあります。
中小企業投資促進税制の対象企業
中小企業投資促進税制の対象になるのは、資本金または出資金の額が1億円以下の法人、協同組合(農業協同組合、商店街振興組合など)、あるいは従業員1,000人以下の個人事業主です。また、いずれも青色申告を行っている企業や協同組合等・個人事業主に限られます。
電気業や水道業、銀行業、鉄道業など一部除外されるものがあるものの、農林水産業や建設・建築業、小売業、飲食店業など幅広い業種で活用できます。
中小企業投資促進税制の対象設備
中小企業投資促進税制の対象になる設備は、以下のとおりです。
対象設備は新品・中古、貸付用途、事業の用に供した日、対象業種などによって取扱いが変わる場合があるため、制度適用前に最新の要件確認が必要です。
- 機械装置:1台160万円以上
- 測定工具および検査器具:1台120万円以上、または1台40万円以上で複数合計120万円以上
- 貨物自動車:車両総重量3.5トン以上
- 内航船舶:取得価額の72%が対象
- 一定のソフトウェア:70万円以上(複数合計で70万円以上も可)
中小企業経営強化税制における特別償却の要件
中小企業経営強化税制は、「中小企業等経営強化法」に基づいて経営力向上計画の認定を受けた企業が、生産性向上に資する設備投資を行った場合に特別償却や税額控除を受けられる制度です。こちらは投資促進税制と比べ、対象となる設備の区分がより多様化している点が特徴といえます。
中小企業経営強化税制の対象企業
中小企業経営強化税制の対象になる企業の要件は、中小企業投資促進税制と同じ青色申告を行っている中小企業等です。
さらに、中小企業等経営強化法第17条第1項に基づき「経営力向上計画」の認定を受けた事業者でなければなりません。この認定は設備の取得前に受ける必要があります。
中小企業経営強化税制の対象設備
中小企業経営強化税制は、設備目的に応じて以下の4種類に分かれます。
- A類型:生産性向上設備
- B類型:収益力強化設備
- C類型:デジタル化設備
- D類型:経営資源集約化設備
対象となる設備は4つの類型で共通ではありますが、適用される詳細な要件はそれぞれ異なります。対象となる設備は、以下のとおりです。
- 機械装置:160万円以上
- 工具:40万円以上
- 器具備品:40万円以上
- 建物附属設備:60万円以上
- ソフトウェア:70万円以上
なお、令和7年度の税制改正において、B類型に限り売上高100億円を目指す企業向けに対象設備に建物が追加されました。
中小企業防災・減災投資促進税制の要件
中小企業防災・減災投資促進税制は、自然災害などのリスクが高まる中、事業継続力強化計画の認定を受けた中小企業が防災・減災設備を導入した場合に特別償却や税額控除を受けられる制度です。設備投資を通じて災害リスクを低減することを主な目的としています。
中小企業防災・減災投資促進税制の対象企業
令和9年3月31日までに「事業継続力強化計画」または「連携事業継続力強化計画」の認定を受けた中小企業者が、認定後1年以内に対象設備を取得等して事業の用に供した場合に、特別償却16%を適用できる制度です。 計画の認定には、防災・減災に関する具体的な取り組み内容や、想定リスクに対する対策の明記が求められます。
中小企業防災・減災投資促進税制の対象設備
対象となる設備は、以下のとおりです。
- 機械および装置:100万円以上(自家発電設備、浄水装置、耐震・制振・免震装置など)
- 器具・備品:40万円以上(感染症対策のためサーモグラフィ、自然災害による事業活動への被害を軽減するすべての設備)
- 建物附属設備:60万円以上(自家発電設備、貯水タンク、変圧器、防水シャッターなど)
特別償却と税額控除はどちらを選択すべき?
中小企業投資促進税制や中小企業経営強化税制などでは、特別償却と税額控除のいずれかを選択できる場合があります。税額控除は法人税額から直接差し引く仕組みであり、安定的に利益を計上している企業にとっては効果が大きいといえるでしょう。ただし、法人税額の20%が上限となる制約があります。
一方、特別償却は初年度の償却費を増やして税負担を軽減するため、当期利益が大きい企業や、設備投資により資金繰りが厳しい企業に有効です。さらに赤字企業の場合、当期の税額軽減効果は限定的ですが、欠損金の繰越控除を通じて将来の課税所得と相殺できる可能性があります。資金繰りに余裕があれば税額控除、そうでなければ特別償却を選ぶといいでしょう。
特別償却が適用される期間はいつまで?
特別償却を適用できる期間は、制度ごとに異なります。
適用期間の基本ルール
中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制は、いずれも令和9年3月31日までに対象設備を取得等し、事業の用に供することが基本となります。一方、中小企業防災・減災投資促進税制は、令和9年3月31日までに事業継続力強化計画等の認定を受け、認定後1年以内に対象設備を取得等して事業の用に供する必要があります。
また、令和8年度税制改正により、これらの制度における対象設備の取得価額要件の引き上げ(中小企業投資促進税制の測定工具・検査器具、中小企業経営強化税制の工具・器具備品、中小企業防災・減災投資促進税制の器具備品について、それぞれ「30万円以上」を「40万円以上」とする見直しが行われています。
繰越制度について
青色申告法人が特別償却を適用する際、その期に償却限度額を超えて償却しきれなかった場合は、一定の要件を満たせば「特別償却の償却不足額」として翌期以降に繰り越すことが可能です。繰り越しを行う場合は、申告書に必要な明細を記載して提出する必要があります。
初年度で引ききれなかった分の金額を翌期以降に適用できるため、企業の税務戦略の選択肢が広がるでしょう。
個人事業主は特別償却を適用できない?
特別償却は法人だけの制度ではありません。要件を満たせば、個人事業主も適用可能です。
個人事業主の適用要件
従業員数1,000人以下の個人事業主であれば、特別償却が利用できます。ただし、青色申告を行っている必要があります。
必要な手続きと書類
個人事業主の場合は、青色申告決算書「減価償却の計算」の「割増(特別)償却費」の欄に、特別償却額を記入します。
確定申告書提出時には、償却限度額の計算に関する明細書を添付して申告しましょう。
特別償却を適用する場合の仕訳
特別償却を適用する際の会計処理には、大きく分けて「直接合算方式」と「準備金方式(特別償却準備金を使用する方法)」の2パターンがあります。
以下で、それぞれの仕訳例を紹介します。なお、前提条件は次のとおりです。
- 取得価額:1,000万円の機械装置
- 耐用年数:10年
- 償却方法:定額法
- 通常償却率:10%(1,000万円 x 10% = 100万円)
- 特別償却率:30%(1,000万円 x 30% = 300万円)
直接合算方式
初年度に通常の減価償却費と特別償却費を合算して減価償却費として計上する方法です。決算書上で特別償却額を独立して把握しにくいものの、仕訳がシンプルという利点があります。
初年度の仕訳例は、以下のとおりです。
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 400万円 | 減価償却費累計額 | 400万円 | 特別償却費を含む減価償却費 |
準備金方式
初年度の仕訳は、通常の減価償却費を計上し、特別償却額は特別償却準備金として積み立てます。
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 100万円 | 減価償却費累計額 | 100万円 | 通常の減価償却費(1年目) |
| 繰越利益剰余金 | 300万円 | 特別償却準備金 | 300万円 | 特別償却準備金 の積立(1年目) |
耐用年数10年の場合、特別償却準備金は84ヶ月(7年)で均等償却します。そのため年度ごとの特別償却準備金の取り崩し額は42.86万円です(※)。
※取崩期間は資産の耐用年数や適用制度により異なるため、実際の処理では税務申告書別表や制度要件を確認する必要があります。
初年度以降の仕訳は、以下のようになります。
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 特別償却準備金 | 42.86万円 | その他利益剰余金 | 42.86万円 | 特別償却準備金の取崩(2年目以降) |
毎年この仕訳を7年間繰り返し、最終的に準備金残高がゼロになります。
特別償却を適用する場合の注意点
特別償却は節税メリットをもたらす制度ですが、適用するにあたってはいくつかの注意点があります。誤った申告をすると税務リスクが発生するため、事前に要件を正確に把握しておくことが大切です。
最終的な償却総額は変わらない
特別償却を適用しても、資産の耐用年数が終了するまでに償却できる総額は変わりません。あくまで「初期に多くの費用を計上できる」という時期配分の問題です。将来的な償却費がその分だけ減少する、という点を踏まえ、資金繰り計画を立てる必要があります。
適用要件や対象資産の確認
特別償却の適用には、細かい基準があります。投資資産の金額要件や取得時期、用途などをよく確認したうえで判断しましょう。また、同一資産について複数の特別措置を重複適用することは認められない(※)、などの注意点もあります。
※同一資産について、特別償却、即時償却、税額控除、少額減価償却資産の特例などを重複して適用することはできません。
さらに、証明書類の不備や提出書類の遅延は否認リスクを高めます。事前に行政庁や税務署の窓口、公式サイトなどで最新情報をチェックし、期限内に必要書類を揃えておきましょう。
特別償却について正しく理解しよう
特別償却は、中小企業の設備投資を後押しするために設計された税制優遇措置です。初年度に多額の減価償却費を計上することで資金繰りを改善しつつ、将来的な事業拡大や防災対策にも活用できるメリットがあります。
一方で、適用要件の確認や書類整備などの手続きが必要であるなどの注意点もあります。適用期限や対象要件を正しく理解し、計画的に制度を活用しましょう。
※本記事の内容は令和8年度税制改正法の成立・公布後の情報を踏まえて作成しています。ただし、制度の詳細な適用要件、対象設備、取得時期、申告書類は改正後の法令・通達・国税庁や中小企業庁の最新資料に基づき確認してください。
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