- 作成日 : 2024年11月5日
電子帳簿保存法で印刷してはいけない理由とは?対象書類を解説
電子帳簿保存法は、各税法で保存が必要な書類を電子データで保存できるよう定めた法律です。日々やりとりしている書類のなかには、電子データとして保存すべきものがあります。本記事では、電子帳簿保存法で印刷していいかどうかや電子データ保存の対象書類を解説します。
目次
電子帳簿保存法で印刷してはいけない理由
電子帳簿保存法の区分のひとつに「電子取引データ保存」があります。2022年1月1日の法改正により、電子的にやりとりしたデータは電子データとして保存するよう義務化されました。
保存の義務化と聞くと「印刷してはいけない」と思われるかもしれませんが、印刷自体は禁止されていません。定められた要件を満たした状態で電子データとして保存してあれば、別途紙に印刷して保存できます。
なお、2022年1月1日から2023年12月31日までは宥恕(ゆうじょ)期間となっていましたが、2024年1月1日からは完全義務化されました。
電子帳簿保存法における電子取引の保存要件
電子帳簿保存法における電子データ保存に必要な条件を見てみましょう。
保存要件①真実性の確保
真実性の確保とは、保存されている電子データが改ざんや削除がされておらず、正しい状態で保存されていることです。要件を満たすには、以下のいずれかの措置を取る必要があります。
- タイムスタンプが押された取引データを受領する
- 取引データ受領後、速やかにタイムスタンプを押す
- 取引データの訂正・削除ができないシステム、または訂正・削除の履歴が残るシステムを利用して授受および保存する
- 訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、それに基づいてデータを運用・管理する
電子帳簿保存法におけるタイムスタンプとは、電子データが改ざんされておらず原本であることを証明する技術のことです。
保存要件②可視性の確保
可視性の確保とは、保存されている電子データを必要なときにいつでも検索、表示できるような状態にすることです。可視性の確保には、以下の3つの要件があります。
- システムマニュアルなどの書類の備付け
- 見読可能装置の備付け
- 検索機能の確保
「見読可能装置の備付け」とは、電子データを表示するパソコンのディスプレイやプリンターの設備を整えて、電子データを確認できるようにすることです。また、機器マニュアルを用意して誰でも操作できるようにする必要があります。
「検索機能の確保」では、電子データを以下の条件で検索できるようにする必要があります。
- 条件①:取引した日付、取引先、取引金額で検索できる
- 条件②:取引した日付、取引金額を範囲指定して検索できる
- 条件③:任意の検索項目を2つ以上組み合わせて検索できる
なお、税務調査の際に税務職員の要求に応じてデータが確認できる状態にしてあれば、上記条件②③は不要となります。
電子取引に該当する取引
電子取引とは、請求書や領収書などの情報を以下の形式等でやりとりした取引のことをいいます。
- 電子メール
- インターネット上のホームページ
- クラウドサービス
- クレジットや交通系IC、スマホのアプリ
- EDIシステム
- ペーパーレスFAX
- DVD等の媒体
上記のように、紙を使用しない取引はすべて電子取引となり、キャッシュレス決済ができるスマホアプリでの取引も該当します。
電子帳簿保存法に違反したときはどうなる?そのときの罰則
電子データを保存する際、電子帳簿保存法の要件を満たさない状態で保存すると罰則の対象になる場合があります。罰則となった場合、青色申告の承認が取り消される可能性があります。
青色申告の承認が取り消されると、以下のような特例・制度が受けられなくなるため注意が必要です。
たとえば、青色申告特別控除が受けられなくなると最大65万円の控除がなくなるため、税負担が多くなるデメリットがあります。
ただし、災害などやむを得ない状況によりデータ保存の要件を満たせていない場合があったとしても、ただちに罰則を受けるわけではありません。
参考:国税庁 法人の青色申告の承認の取消について(事務運営指針)
参考:国税庁 個人の青色申告の承認の取消について(事務運営指針)
電子帳簿保存法で印刷、もしくは紙のまま保存していい書類は?
電子帳簿保存法においてどのようなものが印刷、もしくは紙のまま保存してよいのか見てみましょう。
①自ら作成した帳簿や書類(電子帳簿等保存)
自らが初めから最後まで一貫してコンピュータで作成した以下のような書類は、電子データとして保存が認められるほか、印刷して紙のまま保存できます。
自分のパソコンで作成した書類だけでなく、クラウドサービスを利用して作成したデータも対象です。また、手書きで作成した帳簿も紙のまま保存できます。
国税関係帳簿 | 国税関係書類 | |
---|---|---|
決算関係書類 | 取引関係書類(自己発行の写し) | |
なお、電子データとして保存するかどうかは任意となり、電子データとして保存する場合は要件を満たした状態で保存する必要があります。
②相手先から紙で受領した書類(スキャナ保存)
取引相手から紙でもらった請求書などや、自ら発行した納品書の写しなどの紙の書類は、原本を紙のまま保存しても問題ありません。
- 見積書
- 注文書
- 契約書
- 納品書
- 請求書
- 領収書など
紙で受領した書類は電子データ化して保存するかどうかは任意となっているため、電子データ化して保存する必要はありません。もし電子データ化して保存する場合は、スキャナで読み取るかスマホで撮影するなどして電子データ化して保存します。その際は、スキャナ保存の要件を満たした状態で保存する必要があります。
③電子データで授受した書類(電子データ取引保存)
電子データでやりとりした取引データは、「電子取引の取引情報」の要件を満たした状態で保存してあれば、そのデータと併用して紙に印刷して保存できます。具体的には以下のような書類が該当します。
- 見積書
- 注文書
- 契約書
- 納品書
- 請求書
- 領収書など
取引相手から受領した書類だけでなく、自分から送った書類も対象です。
電子データの保存期限
電子データの保存期限は法人と個人事業主で異なるため、それぞれ見てみましょう。
保存期限①法人の場合
法人の場合、帳簿・書類の保存期間は7年です。また、欠損金の繰越控除を受ける場合は最長10年保存する必要があります。
欠損金の繰越控除とは、赤字があった場合に次の年度以降に繰り越し、黒字となった場合に相殺して法人税を軽減できる制度で最大10年間に渡って相殺できます。
なお、【青色】繰越欠損金の繰越控除を受けるためには青色申告の承認を得ている必要があります。
保存期限②個人事業主の場合
個人事業主の場合の保存期間は7年または5年で、青色申告か白色申告、帳簿・書類の種類によって期間が異なります。
青色申告の場合、帳簿・書類の保存期間については国税庁では以下のように定めています。
保存が必要なもの | 保存期間 | ||
---|---|---|---|
帳簿 | 仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳など | 7年 | |
書類 | 決算関係書類 | 損益計算書、貸借対照表、棚卸表など | 7年 |
現金預金取引等関係書類 | 領収証、小切手控、預金通帳、借用証など | 7年(※前々年分の事業所得及び不動産所得の金額が300万円以下の方は、5年) | |
その他の書類 | 取引に関して作成し、又は受領した上記以外の書類(請求書、見積書、契約書、納品書、送り状など) | 5年 |
帳簿類、決算関係書類、現金預金取引などの書類は7年、それ以外の書類は5年の保存が必要です。
白色申告の場合、帳簿・書類の保存期間については国税庁では以下のように定めています。
保存が必要なもの | 保存期間 | |
---|---|---|
帳簿 | 収入金額や必要経費を記載した帳簿(法定帳簿) | 7年 |
業務に関して作成した上記以外の帳簿(任意帳簿) | 5年 | |
書類 | 決算に関して作成した棚卸表その他の書類 | 5年 |
業務に関して作成し、又は受領した請求書、納品書、送り状、領収書などの書類 |
法定帳簿は7年、それ以外の帳簿、書類は5年の保存期間となります。
電子帳簿保存法を理解して書類を正しく保管しよう
電子帳簿保存法において、電子データで授受した書類は電子データのまま保存する必要があります。保存要件を満たしていれば、紙に印刷して電子データと併用して保存ができます。そのため、日常業務でディスプレイを通して電子データを確認するのが非効率な場合は、印刷してみてもいいでしょう。
電子データを保存するときは保存要件や保存期限が定められているため、正しい知識を身に付けて保存するようにしてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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