• 作成日 : 2025年3月3日

任意償却とは?減価償却との違いやメリット、仕訳・勘定科目などを解説

任意償却には2つの意味があり、一つは税法上で認められている償却方法の任意償却のことを指し、もう一つは減価償却において会計処理を任意で行うことを指します。後者の任意償却は法人だけに認められている制度でもあるため、注意しましょう。

本記事では、主に法人だけに認められている任意償却の概要や減価償却との違いやメリット、仕訳・勘定科目などについて解説します。

任意償却とは

減価償却には、法人と個人事業主とで異なる制度があります。そのひとつが、任意償却です。任意償却は法人のみ利用できる方法であるため、注意しましょう。

任意償却とは、減価償却を任意に行う方法です。ここでは、任意償却と減価償却の違いや法人と個人事業主の任意償却の違いについて解説します。

任意償却と減価償却の違い

減価償却とは、購入した資産を一定額ずつ毎年費用計上していくことです。固定資産を取得した年に固定資産の取得費用全額を費用とするのではなく、耐用年数に応じて配分し、減価償却費として計上します。

減価償却の目的は、購入費用を少しずつ経費とすることにより、固定資産の使用によって獲得した収益と費用を対応させることで、毎年の利益を正確に把握することです。

一方の任意償却は減価償却の制度のひとつで、減価償却を任意に行う方法です。取得価額の範囲内であれば減価償却をいつしてもよいということを意味します。また、法人だけに認められている制度です。

減価償却について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

法人と個人事業主の任意償却の違い

法人と個人事業主の任意償却の違いについて、解説します。

前述したように、任意償却が認められているのは法人だけです。個人事業主には認められておらず、個人事業主はその年に償却費として算出される金額をその年に計上する必要があります。先送りは認められていないため、注意しましょう。

任意償却できるもの

任意償却できるものは以下の2つです。

それぞれ詳しく見ていきましょう。

繰延資産

繰延資産とは、開業費や開発費などのように、支出済みの費用において1年以上効果が及ぶもののことです。開業費や開発費は本来経費に該当しますが、長期にわたって効果があるため、資産として処理できます。

繰延資産には、以下の2タイプがあります。

  • 会計上繰延資産として扱うもの
  • 税法上繰延資産として扱うもの

会計上の繰延資産として扱うものとしては、次のようなものがあり、税法上認められた償却方法として任意償却を採用できるため、減価償却費としていくら計上しても損金に算入されます。

税務上の繰延資産として扱うものとしては、次のようなものがあります。こちらは法定耐用年数が定められているため、税務上はそれに従って減価償却費を計上していく必要がありますが、法人の場合、会計上は減価償却費としていくら計上しても、税務調整さえ行えば問題ありません

  • 公共的施設の負担金:自社の位置する商店街にベンチやアーケードを設置するために要した費用 など
  • 役務提供の権利金:フランチャイズ経営にかかる加盟金やノウハウを得るためにかかった提供料 など
  • 広告宣伝用の資産を贈与したことによる費用:看板の設置 など
  • 資産(建物)を賃借する権利金:権利金や立退料、仲介手数料 など

減価償却資産

任意償却できるものとして、減価償却資産も挙げられます。こちらも法定耐用年数が定められているため、税務上はそれに従って減価償却費を計上していく必要がありますが、法人の場合、会計上は減価償却費としていくら計上しても、税務調整さえ行えば問題ありません

任意償却のメリット

任意償却のメリットには、好きなタイミングで計上できることと節税効果が得られることが挙げられます。

任意償却では、取得価額の範囲内であれば自社の都合にあわせて経費計上できます。たとえば、計上することで赤字になるおそれがある場合は、赤字回避するために計上しないという選択肢もあるでしょう。また、税法上の償却方法として任意償却が認められている会計上の繰延資産では、かかった大きな費用を一括で経費計上できるため、大きな節税効果があります。

たとえば、事業開始に向けて開業費1,000万円をかけたとしましょう。開業費を任意償却せず均等償却する場合の償却期間は5年です。

  • 均等償却で減価償却する場合:毎年200万円の減価償却費を計上する
  • 任意償却を利用する場合:取得した年度に1,000万円の減価償却費を計上できる

計上した年度の利益を減らせるため、法人税の負担軽減につながります。

任意償却のデメリット

任意償却のデメリットとしては、適正に決算をしていると認めてもらえない可能性があることです。任意償却は各事業年度に減価償却費を配分する方法ではないため、厳密にいえば企業会計原則に反しているといえます。

任意償却は会計上認められておらず、適正な決算として認められないことで銀行からの評価が高まらない可能性がある点には注意が必要です。

任意償却を行う場合の仕訳・勘定科目

開業費とは、開業準備にかかった費用を繰延資産として計上することです。法人の場合は、会社の設立から開業までに要した費用を計上することになります。

なお、会計上と税法上とで開業費の範囲は異なりますが、実務において税法上の範囲に従って計上しましょう。開業費償却の方法は、法人であれば任意償却、個人事業主の場合は60ヶ月(5年)で均等償却するほか任意償却も選択できます。

企業が開業費を一括償却した場合

企業が開業費80万円を計上し、翌年に一括償却した場合の仕訳例は、次のとおりです。

借方貸方摘要
開業費償却800,000円開業費800,000円開業費の資産計上

企業が開業費の一部を任意償却した場合

企業が開業費の一部を任意償却した場合についても見ていきましょう。開業費80万円かかり、黒字の年に開業費の一部(30万円)のみ任意償却した場合の仕訳例は次のとおりです。

借方貸方摘要
繰延資産償却300,000円開業費300,000円任意償却

個人事業主の開業費を任意償却する場合

個人事業主が開業費を任意償却する場合の仕訳例について解説します。以下の条件で任意償却した場合を例に見ていきましょう。

  • ◯年7月の開業時に開業費60万円を計上
  • 開業費は60ヶ月にわたって均等償却
  • 決算は毎年12月末日
  • ◯年は償却費を6ヶ月分計上(60万円 ÷ 60ヶ月 × 6ヶ月 = 6万円)
借方貸方摘要
開業費償却60,000円開業費60,000円開業費の資産計上

以降は、毎年12万円計上することになります。

任意償却に関してよくある質問

任意償却に関してよくある質問について解説します。ここで紹介する内容をしっかりと理解して、任意償却を適切に行えるようになりましょう。

すでに減価償却している資産を任意償却に切り替えできる?

すでに減価償却している資産を任意償却に切り替えることは可能です。減価償却費の計上時期は、事業の収益にあわせて変更できます(※未償却残高があるかぎり)。

個人事業主の開業費はいつまで任意償却できる?

個人事業主の開業費は、任意償却として処理されます。

個人事業主の場合に、開業費として計上可能なのは、開業までに支払った費用です。開業費として計上可能な費用例としては、次のようなものが挙げられます。

  • 開業に際して実施した調査費用
  • 通信費
  • 打ち合わせ費用(貸会議室のレンタル料など)
  • 旅費
  • 広告宣伝費
  • パソコン購入費(10万円未満)

10万円以上の固定資産や商品の仕入代金、敷金などは開業費として計上できません。

任意償却の仕組みを理解してうまく活用しよう

任意償却とは減価償却する方法のひとつで、取得価額の範囲内であれば減価償却をいつしてもよいというものです。ただし、会計上の繰延資産以外は、任意償却は法人だけに認められているものであるため、個人事業主の方は勘違いしないようにしましょう。

任意償却のメリットは、好きなタイミングで計上できることと、税法上も任意償却が認められている場合は節税効果が得られることです。一方のデメリットとしては、適正な決算として認められないケースが挙げられます。その結果、銀行からの評価が高まらない可能性がある点には注意が必要です。

本記事で紹介した任意償却の概要や任意償却を行う場合の仕訳・勘定科目例をしっかりと理解して、うまく活用できるようになりましょう。


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