- 更新日 : 2024年8月8日
中小企業には連結決算の義務はある?メリットやデメリットを解説
連結決算は、基本的に多くの子・関連会社を抱える大企業が行うべき会計処理方法です。しかし、最近は企業規模を問わずM&Aや海外進出などで国内外に子会社を持つ動きが高まっていることにともない、中小企業でも連結決算を行うケースが増えてきています。
そこで本記事では、中小企業にとっての連結決算の位置付けとメリット・デメリットをわかりやすく解説しました。連結決算を行うプロセスも紹介していますので、連結決算を行うべきかを判断する際の参考にしてください。
目次
中小企業は連結決算を行う義務はない
結論として、中小企業は連結決算を行わなくても構いません。連結決算を免れる根拠として、まず会社法第444条第3項で定められる下記条文をご覧ください。
引用:会社法|e-Gov法令検索
つまり、有価証券報告書を提出する大会社のみ連結決算の義務を負うということです。会社法上の「大会社」とは、資本金5億円以上もしくは負債額200億円以上の株式会社を指します。一方で中小企業の定義は、資本金3億以下(製造業の場合)などとなっており、ほとんどの中小企業には連結決算に関する法的な規定はなく、任意で作成を決められます。
中小企業が連結決算を行うメリット
大会社以外の会社にとっては義務ではないものの、経営上さまざまなインセンティブが得られることから、近頃は連結決算を行う中小企業も少なくありません。
中小企業が連結決算を行う主なメリットは、以下2点です。
- 企業グループ全体の経営状況を把握できる
- 銀行融資を受けやすくなる
連結決算によってもたらされる上記のメリットについて、くわしくお伝えします。
企業グループ全体の経営状況を把握できる
連結決算を行うことで、企業グループ活動の動向が可視化されます。企業全体の経営状況が一目で正確にわかるようになれば、経営判断が行いやすくなります。また、連結財務諸表を外部にも公開することにより、投資家の意思決定を助ける効果も期待することが可能です。
連結決算ではグループ内での取引も可視化されるため、不正の防止にもプラスに働くという側面があります。たとえば不良資産や株式の含み損をグループ内でやり取りすることで経営が良好に見えるようにしようとしても、企業全体の取引状況が明らかになればごまかしようがありません。
企業経営の適正化やコンプライアンスの強化という面で、中小企業における連結決算は大きな意味を持つのです。
銀行融資を受けやすくなる
中小企業が任意で連結決算を行うと、融資による資金調達がスムーズになる可能性が高まります。資金調達手段を検討するとき、多くの中小企業が銀行をはじめとする金融機関からの融資を選択するのではないでしょうか。銀行が融資の可否を判断する際には、一般的に子会社を含む対象グループ全体の経営実態調査が必須の審査項目です。
事業展開の根拠となる連結決算財務諸表があらかじめ外部に公表されていれば、融資の審査工程が大幅に省略されます。銀行にとっては、融資候補を一から調査するより圧倒的に効率的だからです。そのためグループ全体の企業活動の実態を連結決算財務諸表で明確に示すことで、銀行の融資判断において有利に働く可能性があります。
また、銀行の審査工程を省略できれば、融資の申し込みから決定までがスピーディーです。資金が必要になったとき迅速に資金調達が行えると、今後の事業展開によい影響を及ぼすであろうことは間違いありません。
中小企業が連結決算を行うデメリット
子・関連会社を持つ全ての会社にとって有益となる連結決算ですが、連結財務諸表の作成に手間と時間がかかる点はデメリットといえます。
連結決算業務は単純作業の繰り返しとはいえ、工程や作成する財務諸表の種類が多いことから非常に煩雑です。くわしくは後ほど説明しますが、連結決算を行う際はグループ全体の膨大なデータ収集・集計作業や内部取引の相殺処理など、多数のプロセスがあります。
また連結決算を行う場合、子会社との連携にも手間と時間が必要です。多くの関連会社を抱える企業では、決算業務の担当者に大きな負担を強いることになります。もし親・子会社間で採用している会計基準や勘定科目が異なる場合、それを統一する作業から始めるため業務負担の増大は計り知れません。
連結財務諸表のスムーズな作成と連結範囲の決定には、一定の知識が必要です。そのため1人もしくは少人数の担当者が経理を担うことも多い中小企業では、連結決算が属人化しやすいといえます。何らかの理由で担当者が退職・休職となった場合、業務の進行が滞りかねません。
経理・決算業務へ割くリソースがない中小企業では、連結決算を行いたくても容易にはいかないという実情があるのです。
中小企業が連結決算を行う流れ
中小企業が連結決算を行う場合も流れは、一般的な連結決算の流れと変わらず以下の4ステップです。
- 親会社・子会社が個別の財務諸表を作成する
- 個別財務諸表を集計・合算する
- 連結修正仕訳を行う
- 連結財務諸表にまとめる
まず、親・子会社が単独で決算を行い、財務諸表を作成します。合算した際の整合性が保てるよう、事前に会計方針を統一させておきます。
次に、各財務諸表を親会社が取りまとめて合算します。海外子会社がある場合は、円貨換算も必要です。また、各社で決算時期に3カ月以上のずれがある場合には、その調整も行います。
続いて「連結修正仕訳」を実行して親・子会社間の取引における数値を調整します。具体的には、在庫や利益の相殺、新子会社設立時に発生するのれん償却などが仕訳の内容です。
最後に、仕訳結果に基づき連結財務諸表を作成します。連結損益計算書や連結貸借対照表など複数種類を作成しますが、フォーマットは任意です。各連結財務諸表のチェックを終えれば、連結決算は完了です。
なお、連結決算の対象となる子会社が行うべき準備や手順はこちらの記事で解説していますので、ぜひご覧ください。
まとめ
連結決算を行えば、親会社の経営成績だけでは測れない企業グループ全体を通した真のポテンシャルや今後の課題の明確化が可能です。中小企業では必ずしも行うべき業務ではありませんが、連結決算の実行により企業全体の体制構築に繋がります。将来的に上場を目指すのであれば、連結決算の早期導入は決して損ではないでしょう。
とはいえ、連結決算の実施は経理業務の負担を増大させることも事実です。また監査を受ける義務も生じるため、リソースの状況によっては連結決算をしないほうがよいケースもあります。自社の状況に応じ、会計システムを取り入れるかどうかも含め連結決算の導入を検討してください。
よくある質問
中小企業は連結決算を行う必要はある?
会社法第444条第3項の規定を根拠とし、中小企業には連結決算の義務がありません。連結決算を行う必要があるのは、資本金5億円以上もしくは負債額200億円以上の大会社で有価証券報告書を提出している会社のみです。
中小企業が連結決算を行うメリットは?
中小企業が連結決算を行うことでグループ全体の動向が可視化されるため、適切かつ迅速な経営判断とコンプライアンスの強化に繋がります。また、連結決算財務諸表を作成すれば対外的に企業のポテンシャルを示すことが可能です。投資促進やスピーディーな融資判断に繋がり、スムーズな資金調達が期待できるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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