• 作成日 : 2025年2月5日

固定資産の減損に係る会計基準とは?金融庁の最新情報をわかりやすく解説

固定資産の減損に係る会計基準とは、固定資産の減損損失を計上するときのプロセスを定めた会計基準のことです。財務諸表の正確性を保つため、基準が設けられています。対象となるのは、有形固定資産無形固定資産です。

本記事では、固定資産の減損に係る基準の概要や適用指針、意見書の内容について解説します。

固定資産の減損に係る会計基準とは

固定資産の減損に係る会計基準とは、企業会計審議会が定めた固定資産の減損損失を計上する処理を定めた基準です。

ここでは、固定資産の減損に係る会計基準の概要や目的を解説します。

固定資産の減損に係る会計基準の概要

固定資産の減損に係る会計基準(以下減損基準)とは、固定資産の減損損失を計上するプロセスを定めた会計基準のことです。対象となる固定資産は、土地・建物・機械装置などの「有形固定資産」、のれん・商標などの「無形固定資産」、「投資その他の資産」です。

固定資産の減損会計とは、固定資産の収益性が低下して投資額が回収できなくなった場合にその損失分を計上する会計処理のことで、減損処理とも呼ばれます。

減損基準が適用されるのは上場企業など大企業であり、定められた手順に沿って減損会計を行わなければなりません。なお、中小企業の基準となるのは、「中小企業の会計に関する指針」です。

固定資産の減損に係る会計基準の目的

減損基準の目的は、財務諸表の正確性を確保し、信頼性を保つためです。企業が保有する固定資産の価値が低下し、固定資産から得られる収益が当該固定資産の帳簿価額(取得原価から減価償却累計額を差し引いた金額)を下回ると判明した場合、帳簿価額を実態に合わせて減額する会計処理として減損会計が必要です。

しかし、減損会計の手順は複雑であり、正確な処理を行うため、統一した基準が定められています。

固定資産の減損に係る会計基準の原文(PDF)

以下は、固定資産の減損に係る会計基準|企業会計審議会による引用です。(引用日:2025/02/05)

固定資産の減損に係る会計基準

一 対象資産

  •  本基準は、固定資産を対象に適用する。ただし、他の基準に減損処理に関する定めがある資産、例えば、「金融商品に係る会計基準」における金融資産や「税効果会計に係る会計基準」における繰延税金資産については、対象資産から除くこととする。

二 減損損失の認識と測定

1. 減損の兆候

  •  資産又は資産グループ(6.⑴における最小の単位をいう。)に減損が生じている可能性を示す事象(以下「減損の兆候」という。)がある場合には、当該資産又は資産グループについて、減損損失を認識するかどうかの判定を行う。減損の兆候としては、例えば、次の事象が考えられる。
  •  資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込みであること
  •  資産又は資産グループが使用されている範囲又は方法について、当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、あるいは、生ずる見込みであること
  •  資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、あるいは、悪化する見込みであること
  •  資産又は資産グループの市場価格が著しく下落したこと

2. 減損損失の認識

  • (1)
  •  減損の兆候がある資産又は資産グループについての減損損失を認識するかどうかの判定は、資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較することによって行い、資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合には、減損損失を認識する。
  • (2)
  •  減損損失を認識するかどうかを判定するために割引前将来キャッシュ・フローを見積る期間は、資産の経済的残存使用年数又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方とする。

3. 減損損失の測定

  •  減損損失を認識すべきであると判定された資産又は資産グループについては、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として当期の損失とする。

4. 将来キャッシュ・フロー

  • (1)
  •  減損損失を認識するかどうかの判定に際して見積られる将来キャッシュ・フロー及び使用価値の算定において見積られる将来キャッシュ・フローは、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積る。
  • (2)
  •  将来キャッシュ・フローの見積りに際しては、資産又は資産グループの現在の使用状況及び合理的な使用計画等を考慮する。
  • (3)
  •  将来キャッシュ・フローの見積金額は、生起する可能性の最も高い単一の金額又は生起しうる複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの確率で加重平均した金額とする。
  • (4)
  •  資産又は資産グループに関連して間接的に生ずる支出は、関連する資産又は資産グループに合理的な方法により配分し、当該資産又は資産グループの将来キャッシュ・フローの見積りに際し控除する。
  • (5)
  •  将来キャッシュ・フローには、利息の支払額並びに法人税等の支払額及び還付額を含めない。

5. 使用価値の算定に際して用いられる割引率

  •  使用価値の算定に際して用いられる割引率は、貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする。
  •  資産又は資産グループに係る将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクが、将来キャッシュ・フローの見積りに反映されていない場合には、割引率に反映させる。

6. 資産のグルーピング

(1) 資産のグルーピングの方法

  •  減損損失を認識するかどうかの判定と減損損失の測定において行われる資産のグルーピングは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行う。

(2) 資産グループについて認識された減損損失の配分

  •  資産グループについて認識された減損損失は、帳簿価額に基づく比例配分等の合理的な方法により、当該資産グループの各構成資産に配分する。

7. 共用資産の取扱い

  •  共用資産に減損の兆候がある場合に、減損損失を認識するかどうかの判定は、共用資産が関連する複数の資産又は資産グループに共用資産を加えた、より大きな単位で行う。
  •  共用資産を含む、より大きな単位について減損損失を認識するかどうかを判定するに際しては、共用資産を含まない各資産又は資産グループにおいて算定された減損損失控除前の帳簿価額に共用資産の帳簿価額を加えた金額と、割引前将来キャッシュ・フローの総額とを比較する。この場合に、共用資産を加えることによって算定される減損損失の増加額は、原則として、共用資産に配分する。
  •  共用資産の帳簿価額を当該共用資産に関連する資産又は資産グループに合理的な基準で配分することができる場合には、共用資産の帳簿価額を各資産又は資産グループに配分したうえで減損損失を認識するかどうかを判定することができる。この場合に、資産グループについて認識された減損損失は、帳簿価額に基づく比例配分等の合理的な方法により、共用資産の配分額を含む当該資産グループの各構成資産に配分する。

8. のれんの取扱い

  •  のれんを認識した取引において取得された事業の単位が複数である場合には、のれんの帳簿価額を合理的な基準に基づき分割する。
  •  分割されたそれぞれののれんに減損の兆候がある場合に、減損損失を認識するかどうかの判定は、のれんが帰属する事業に関連する複数の資産グループにのれんを加えた、より大きな単位で行う。
  •  のれんを含む、より大きな単位について減損損失を認識するかどうかを判定するに際しては、のれんを含まない各資産グループにおいて算定された減損損失控除前の帳簿価額にのれんの帳簿価額を加えた金額と、割引前将来キャッシュ・フローの総額とを比較する。この場合に、のれんを加えることによって算定される減損損失の増加額は、原則として、のれんに配分する。
  •  のれんの帳簿価額を当該のれんが帰属する事業に関連する資産グループに合理的な基準で配分することができる場合には、のれんの帳簿価額を各資産グループに配分したうえで減損損失を認識するかどうかを判定することができる。この場合に、各資産グループについて認識された減損損失は、のれんに優先的に配分し、残額は、帳簿価額に基づく比例配分等の合理的な方法により、当該資産グループの各構成資産に配分する。

三 減損処理後の会計処理

1. 減価償却

  •  減損処理を行った資産については、減損損失を控除した帳簿価額に基づき減価償却を行う。

2. 減損損失の戻入れ

  •  減損損失の戻入れは、行わない。

四 財務諸表における開示

1. 貸借対照表における表示

  •  減損処理を行った資産の貸借対照表における表示は、原則として、減損処理前の取得原価から減損損失を直接控除し、控除後の金額をその後の取得原価とする形式で行う。ただし、当該資産に対する減損損失累計額を、取得原価から間接控除する形式で表示することもできる。この場合、減損損失累計額を減価償却累計額に合算して表示することができる。

2. 損益計算書における表示

  •  減損損失は、原則として、特別損失とする。

3. 注記事項

  •  重要な減損損失を認識した場合には、減損損失を認識した資産、減損損失の認識に至った経緯、減損損失の金額、資産のグルーピングの方法、回収可能価額の算定方法等の事項について注記する。

引用:固定資産の減損に係る会計基準|企業会計審議会(引用日:2025/02/05)

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針は、2002年8月に公表された減損会計基準を実務に適用する場合の具体的な指針について取りまとめたものです。

指針における会計基準の適用は、次の手順で行います。

  1. 資産のグルーピング
  2. 減損の兆候
  3. 減損損失の認識の判定
  4. 減損損失の測定

適用指針の内容をみていきましょう。

資産のグルーピング

減損損失の検討対象となる資産を特定するため、資産の範囲を特定します。複数の資産が一体となって独立したキャッシュ・フローを生み出す場合には、合理的な範囲で資産のグルーピングが必要です。

固定資産は単独ではなく、複数の資産が一体となって使用されることが一般的です。一例として、工場用地に工場を建て、その中に機械を置いて製品を製造している工場が挙げられます。

減損会計では、このように複数の資産が一体となって独立したキャッシュ・フローを生み出す場合に、それを一つの単位として資産のグルーピングを行います。

減損の兆候

減損の兆候とは、事業を行う資産または資産グループに減損が生じている可能性を示す事象のことです。グルーピングした資産において、このような事象があるかを判定します。兆候がない場合には、減損会計の必要はありません。

減損の兆候がある場合とは、減損適用指針では次のような例が挙げられています。

  1. 営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナス、あるいは、継続してマイナスとなる見込みである
  2. 回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、あるいは生ずる見込みである
  3. 経営環境が著しく悪化したか、悪化する見込みである
  4. 市場価格が著しく下落した

2の例は、事業の廃止や再編といった場合が挙げられます。3は、市場環境の悪化や法規制の強化などが該当します。

4では、資産が土地である場合の地価下落が挙げられるでしょう。

減損損失の認識の判定

減損の兆候が認められるグループに対し、実際に減損すべきかを判定します。

資産が生み出す割引前の将来キャッシュ・フローの総額と比較し、帳簿価額を下回っている場合は減損損失の認識が必要と判定されます。

将来キャッシュ・フローとは、資産を継続して使用することにより得られる収益と、キャッシュ・フローの見積り期間経過後の資産の処分により得られる正味売却価額の合計額です。

減損損失の測定

実際に減損すべきと判定された資産は、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、その差額を減損損失として計上します。

回収可能価額は、使用価値と正味売却価額のいずれか高いほうになります。

使用価値とは、資産の継続的な使用と処分によって、生じると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値のことです。現在価値の計算には割引率(将来のキャッシュ・フローを現在価値に換算する際に用いる利率)という指標を使います。

正味売却価額とは、資産の時価から処分費用見込額を差し引いた金額です。時価とは資産を売却できる市場での取引価格を指します。処分費用見込額は、資産を売却するために必要な費用のことです。

固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書

固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書は、固定資産の会計処理について幅広い観点から検討し、審議を経て2002年8月に公表された意見書です。

意見書の内容について解説します。

経緯

固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書(以下意見書)は、近年の市場環境や企業行動の変化に伴い、会計基準も変化が求められ、会計基準の国際的調和が課題となっていたことを背景に審議されたという経緯があります。

1999年10月の総会で、「固定資産の会計処理について」が審議事項に取り上げられ、固定資産の会計処理について幅広い観点から検討が始まりました。審議の経過報告に対する意見も踏まえて検討を続け、2002年に公表されています。

会計基準の整備の必要性

日本では、従来、固定資産の減損に関する処理基準が明確ではないという事情があります。そのため、固定資産の価格や収益性が著しく低下している状況で、これらの帳簿価額が価値を過大評価されたまま損失を繰り延べているのではないかという懸念がありました。

このような状況が、財務諸表への社会的な信頼を損ねているという指摘があります。国際的にも固定資産の減損に係る会計基準の整備が進められており、我が国も減損処理に関する会計基準を整備すべきとの意見があり、会計基準の設定が進められることになりました。

基本的考え方

意見書は、基本的に次の考え方に基づいて作成されています。

  1. 事業用の固定資産は収益性が当初の予想よりも低下した場合、資産の回収可能性を帳簿価額に反映させなければならない
  2. 臨時償却は資産の収益性の低下を帳簿価額に反映すること自体を目的とする会計処理ではないため、別途、減損処理に関する会計基準の設定が必要である
  3. 固定資産の減損とは、固定資産が収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理である

会計基準の要点と考え方

意見書では、次の項目で会計基準の要点と考え方を記載しています。

  1. 対象資産
  2. 減損損失の認識と測定
  3. 減損処理後の会計処理
  4. ファイナンス・リース取引の取扱い

対象資産とは固定資産に分類される資産であり、ほかの基準に減損処理に関する定めがある資産は対象外です。たとえば、「金融商品に係る会計基準」における金融資産や「税効果会計に係る会計基準」における繰延税金資産は除外されます。

前払年金費用についても「退職給付に係る会計基準」において評価に関する定めがあるため、 対象外とされています。

「減損損失の認識と測定」では、以下の内容について詳細に定めています。

  • 減損の兆候
  • 減損損失の認識
  • 減損損失の測定
  • 将来キャッシュ・フロー
  • 使用価値の算定に際して用いられる割引率
  • 資産のグルーピング
  • 共用資産の取扱い
  • のれんの取扱い

「減損処理後の会計処理」では、減価償却と減損損失の戻入れについて記載しています。

「ファイナンス・リース取引の取扱い」は、ファイナンス・リース取引にかかる借り手側の会計処理方法について定めています。

固定資産の減損に係る会計基準の理解を深めよう

固定資産の減損に係る会計基準は、財務諸表に企業の実態を反映し、信頼性を保つという目的があります。近年の市場環境や企業行動の急激な変化に合わせた会計基準の整備の必要性から審議が行われ、まとめられました。

減損会計は企業の経営状況を正しく反映するために重要な処理であり、会計基準の内容を理解し、正確に会計処理を進めましょう。


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