• 作成日 : 2024年12月5日

電子取引の保存要件は? 電子帳簿保存法における電子取引のデータ保存の要件を解説

2024年1月1日より本格的にスタートした電子帳簿保存法には、3つの保存制度があります。

なかでも電子取引のデータ保存は義務化されているため、ほとんどすべての事業者が対応しなければなりません。

電子取引のデータ保存は、一定の要件のもとで行う必要がありますが「どのような要件があるの?」と不安を抱いている方もいるでしょう。この記事では、電子取引のデータ保存の要件を解説していきます。

電子帳簿保存法とは?

電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類を電子データとして保存する際の扱い方を定めた法律です。この法律には、以下の3つの制度が設けられています。

  • 電子帳簿等保存(任意)
  • スキャナ保存(任意)
  • 電子取引のデータ保存(義務)

電子帳簿保存法は、2022年に改正されました。2023年12月31日までは、上記の3つの制度のうち、電子取引のデータ保存について宥恕期間が設けられていましたが、2024年1月1日より完全に義務化されています。

参考:どうすればいいの?「電子帳簿保存法」|経済産業省電子帳簿等保存制度特設サイト|国税庁

電子取引のデータ保存とは?

電子取引のデータ保存とは、電子的にやり取りを行った取引情報は、電磁的な記録でもって保存しなければならないという制度です。

電子的にやり取りを行った取引情報というのは、電子メールやインターネット上のサイトなどを介し、注文書や契約書、領収書見積書などを授受することを指します。

参考:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】|国在庁(問1)

電子取引のデータ保存の対象者は?

電子取引のデータ保存の対象者は、国税関係帳簿や国税関係書類の保存義務がある事業者です。つまり、ほとんどすべての企業および個人事業主が対象といえるでしょう。

どのような取引情報(書類)が電子取引に該当する?

そもそも取引情報とは、取引の際に受領したり交付したりする以下の書類や、これらに付随する書類に記載されている事項のことを指します。

【取引情報の一例】

  • 注文書
  • 契約書
  • 送付状
  • 領収書
  • 見積書 など

そして電子取引とは、端的にいえば、紙を介在しない取引のことです。法律上では、以下のように定義されています。

取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。以下同じ。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう。

出典:電子帳簿保存法第2条5号

つまり、先ほども少し触れましたが、電子メールやインターネット上のサイトなどを介してやり取りした注文書や契約書、領収書や見積書などが、電子取引に該当するのです。

また、以下のような情報も電子取引に該当すると考えられています。

【電子取引に該当する情報の一例】

  • ウェブサイトからダウンロードした請求書や領収書のPDFファイル
  • ウェブサイトに表示された請求書や領収書のスクリーンショット
  • クレジットカードの利用明細データ
  • 交通系ICカードの支払いデータ
  • スマートフォンアプリによる決済データ など

参考:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】|国税庁(問4・問7)

電子取引のデータ保存の要件

電子取引のデータ保存を行う際は、以下の2つの要件を満たすことが求められます。

  • 真実性の確保
  • 可視性の確保

それぞれの要件について、詳しく解説していきましょう。

真実性の確保

真実性の確保は、電子的に保存した取引情報が改ざんされていないかを明らかにするための要件です。具体的には、以下のいずれかの措置をとる必要があります。

【真実性の確保の要件】

  • タイムスタンプが付された後の授受
  • 授受後遅滞なくタイムスタンプを付す
  • データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用
  • 訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け

出典:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】|国税庁(問15)

可視性の確保

可視性の確保は、電子的に保存した取引情報をいつでも閲覧できるようにするための要件です。具体的には、以下の要件が定められています。

【可視性の確保の要件】

  • 電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け(自社開発プログラムを使用する場合に限る)
  • 見読可能装置の備付け等
  • 検索機能の確保

出典:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】|国税庁(問15)

このうち検索機能の確保については、さらに3つの要件が定められています。

【検索機能の確保の要件】

  • 取引年月日や取引金額、取引先などで検索できる
  • 日付もしくは金額の範囲を指定して検索できる
  • 2つ以上の任意の記録項目を組み合わせて検索できる

参考:電子帳簿保存法施行規則第2条6⑤

電子取引のデータ保存の要件はシステムを導入していなくても満たせる

電子取引のデータ保存を行う際は、真実性や可視性を確保するための要件を満たす必要があるため、専用のシステムを導入しなければならないと思われるかもしれません。

しかし実は、以下の方法で保存していれば、電子取引のデータ保存の要件を満たしていることになります。

  • 電子取引のデータに、取引年月日・取引金額・取引先を含む統一的なファイル名をつける
  • それを任意のフォルダに格納する
  • 「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」を作成のうえ備付ける

参考:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】|国税庁(問16・問29)

なお「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」は、以下の国税庁のホームページからダウンロード可能です。

参考:参考資料(各種規程等のサンプル)|国税庁

電子取引のデータ保存への対応法

いざ電子取引のデータ保存に対応する際は、どのような手順で進めればよいのでしょうか。ここからは、電子取引のデータ保存への対応法を解説していきます。

自社における電子取引をリストアップする

はじめに自社の取引のうち、どのような取引が電子取引に該当するかを洗い出しましょう。

くり返しになりますが、電子メールやインターネット上のサイトなどを介してやり取りした注文書や契約書、領収書や見積書などは、電子取引に当たります。

また、交通系ICカードの支払いデータやスマートフォンアプリによる決済データも電子取引に該当します。

とくに従業員がスマートフォンアプリを利用し、必要な経費を立て替えた場合は注意が必要です。スマートフォン上の利用履歴にもとづいて行う立替精算は、電子取引に該当します。

ひとくちに電子取引といっても、その中身は多種多様です。抜けや漏れがないように、注意深くリストアップしましょう。

参考:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】|国税庁(問4・問7)

要件を確保できる保存方法で保存する

自社における電子取引をリストアップできたら、要件を確保できる方法で保存しましょう。

真実性を確保し保存する方法

真実性を確保するためには、以下のいずれかの要件を満たさなければなりません。

【真実性の確保の要件】

  • タイムスタンプが付された後の授受
  • 授受後遅滞なくタイムスタンプを付す
  • データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用
  • 訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け

出典:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】|国税庁(問15)

このうち、もっとも取り組みやすい要件は「訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け」でしょう。規程を作成するだけでよいため、専用のシステムを導入するコストをカットしたい方や、そもそもあまりコストをかけたくない方におすすめの方法です。

参考:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】|国税庁(問29)

なお、規程のひな形は、国税庁のホームページからダウンロード可能です。法人向けと個人事業者向けがあるので、自分にとって適したほうをダウンロードし、作成してください。

参考:参考資料(各種規程等のサンプル)|国税庁

可視性を確保し保存する方法

可視性を確保するためには、以下の要件を満たさなければなりません。

【可視性の確保の要件】

  • 電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け(自社開発プログラムを使用する場合に限る)
  • 見読可能装置の備付け等
  • 検索機能の確保

出典:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】|国税庁(問15)

見読可能装置とは、ディスプレイやプリンターのことです。可視性の確保では、これらの装置に加えて、その操作説明書も必要になります。

さらに検索機能の確保では、以下の3つの要件が定められています。

【検索機能の確保の要件】

  • 取引年月日や取引金額、取引先などで検索できる
  • 日付もしくは金額の範囲を指定して検索できる
  • 2つ以上の任意の記録項目を組み合わせて検索できる

参考:電子帳簿保存法施行規則第2条6⑤

検索機能の確保の要件は、以下のいずれかの方法で満たしましょう。

  1. 専用のシステムを導入する
  2. 表計算ソフト(エクセルなど)に取引年月日・取引金額・取引先を入力し、一覧表を作成する
  3. 保存すべき電子取引のデータに、取引年月日・取引金額・取引先を含む統一的なファイル名をつける

取り組みやすいのは、2および3の方法ではないでしょうか。こちらも専用のシステムを導入するコストをカットしたい方や、そもそもあまりコストをかけたくない方におすすめの方法です。

参考:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】|国税庁(問15・問44)

電子帳簿保存法における電子取引のデータ保存以外の保存制度

電子帳簿保存法には、電子取引のデータ保存のほかに、以下の2つの保存制度が設けられています。

  • 電子帳簿等保存
  • スキャナ保存

それぞれについて、簡単にご紹介しましょう。

電子帳簿等保存

電子帳簿等保存は、電子的に作成した帳簿や書類について、電磁的な記録でもって保存することを認める制度です。

これは任意の制度であり、電子的に作成した帳簿や書類を出力し、紙で保存しても構わないとされています。

参考:電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】|国税庁(問1)

スキャナ保存

スキャナ保存は、取引先から受領した請求書や自らが作成した請求書の写し、帳簿や決算関係書類を除く国税関係書類について、書面の代わりにスキャン文書で保存することを認める制度です。

こちらも任意の制度であり、たとえば紙で受領した請求書は、紙のまま保存しても構わないとされています。

なお、以上のような書類をスキャン文書で保存する際にも、真実性や可視性を確保するための要件が定められている点に注意しましょう。

参考:電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】|国税庁(問1)

電子取引のデータ保存についてのQ&A

ここまで電子取引のデータ保存について、概要や要件、そして対応法などを解説してきました。

最後に、電子取引のデータ保存に関して、しばしば疑問に思われている以下の質問に回答していきます。

電子取引のデータ保存の対象/対象外書類は?

電子取引のデータ保存は、ほとんどすべての企業および個人事業主に義務づけられている制度です。端的にいえば、オンライン上でやり取りした取引に関係する書類は、電子的に保存しなければならないのです。

参考:電子帳簿保存法第7条

ということは、電子的な方法でやり取りしていない書類は、電子取引のデータ保存の対象外であると考えられるでしょう。たとえば、以下のような書類が該当します。

【電子取引のデータ保存の対象外書類の一例】

  1. 自己が一貫し、はじめからコンピューターで作成した国税関係帳簿書類
  2. 手書きで作成された国税関係書類

1は電子帳簿保存法の電子帳簿等保存の対象となり、以下のいずれかの方法で保存すればよいことになります。

  • 出力した紙
  • 電磁的な記録またはCOM保存

2は電子帳簿保存法のスキャナ保存の対象です。これも以下のいずれかの方法で保存すればよいことになります。

  • スキャン文書

また、そもそも手書きで作成された国税関係帳簿は、いずれの保存制度にも該当しないため、紙で保存しましょう。

電子取引のデータ保存の要件違反にならない場合は?

令和4年度の税制改正において、電子取引のデータ保存の要件への対応が難しい事業者には、電子的に授受した取引情報を出力し、書面による保存を認めるという宥恕措置が講じられました。

この措置は、2023年12月31日をもって廃止されています。しかし、2024年1月1日以降も対応が間に合わない事業者が一定数いることを考慮し、以下のいずれにも当てはまる場合は、電子取引のデータ保存の要件違反に当たらないという猶予措置が講じられています。

【電子取引のデータ保存の要件違反にならない場合】

  • 税務署長が相当の理由があると認めた場合
  • 税務職員からの求めに応じ、出力書面の提示をすることができる場合

出典:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】|国税庁(問61)

ただし、猶予措置の適用を受ける場合は、出力書面だけでなく、もととなる電子データの保存も必要です。

参考:電子帳簿保存法取扱通達7ー13

電子取引のデータ保存の要件を満たすために、システムを導入するのもひとつの方法

電子帳簿保存法における電子取引のデータ保存の要件は、専用のシステムを導入しなくても満たすことが可能です。しかし、規程や一覧表を作成し、ファイル名のルールを社内に周知徹底するなどの手間は免れません。

これらの作業を効率化するために、やはり専用のシステムを導入するのも、ひとつの方法です。この記事を参考に、自社に適した方法で電子取引のデータ保存に対応しましょう。


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