- 更新日 : 2024年8月8日
償却債権取立益とは?貸倒引当金戻入益との違いに注意!
償却債権取立益勘定は、前期以前に回収不能であるとして貸倒処理した債権が当期に回収できた場合に、その金額を収益として計上するための勘定科目です。財務諸表では、損益計算書の営業外収益として表示されます。
償却債権取立益とは
貸倒処理とは、得意先の倒産などの理由で回収不能となった債権について、その債権の額を損失として計上するものです。
前期以前に貸倒処理した債権が回収できた場合は、回収できた金額を償却債権取立益勘定で収益として計上します。
貸倒処理による損失は過去の年度で発生したものであり、回収できた債権の額でその損失を取り消すことはできません。したがって、回収できた債権の額は当期の収益として認識します。
なお、貸倒処理したその年度のうちに債権が回収できた場合は、その貸倒処理を取り消せばよく、償却債権取立益は計上しません。
損益計算書での表示区分
償却債権取立益は前期以前の損益の修正にあたることから、以前は、損益計算書では特別利益として表示することとされていました。
しかし、会計基準が改正されたことにより、2011年4月1日以後に開始する事業年度からは、営業外収益として表示されることになっています。
古いテキストは言うまでもなく、インターネット上の書き込みなどでも特別利益で表示するという古い情報が記載されていることがあるので、実務では注意する必要があります。
貸倒損失と償却債権取立益の仕訳例
(例)A社にはB社に対する売掛金が10万円ありました。当期にB社が倒産したため、A社はB社に対する売掛金は回収不能であると判断して、貸倒処理を行いました。貸倒引当金は計上していませんでした。
この場合の仕訳は次のとおりです。
(仕訳例1 貸倒処理)
(例)翌年、B社が清算され、残余財産の分配としてB社の清算人からA社に3万円が銀行振込で支払われました。この場合の仕訳は次のとおりです。
(仕訳例2 償却債権取立益の計上)
仮にB社の清算が早く進み、貸倒処理を行った同じ年度に残余財産の分配としてA社に3万円が銀行振込で支払われた場合は、次のように処理します。
(仕訳例3 貸倒処理と同じ年度に貸倒債権が回収できた場合)
仕訳例1で計上した貸倒損失を部分的に取り消す処理を行います。償却債権取立益勘定では計上しません。
貸倒引当金戻入益との混同には注意
前の章でご説明したとおり、償却債権取立益は、実際に回収不能となって貸倒損失を計上した債権について、翌期以降に回収できた場合に使用する勘定科目です。
償却債権取立益と混同しやすい勘定科目として「貸倒引当金戻入益」があります。貸倒引当金戻入益は、債権が回収不能となる場合に備えて前期に計上した貸倒引当金について、翌期にその額を戻し入れるときに使用する勘定科目です。
償却債権取立益と貸倒引当金戻入益には上記のような違いがあるため、混同しないように注意しなければなりません。
貸倒引当金と貸倒引当金戻入益の仕訳例
(例)A社は03年度の決算にあたって、期末の売掛金残高1,000万円のうち、1%にあたる10万円が翌期に回収不能になると見積もりました。
(仕訳例4 03年度の貸倒引当処理)
実際に売掛金が回収不能になったわけではないため、売掛金を直接減額することはできません。貸方計上した貸倒引当金勘定によって、間接的に売掛金を減額します。
翌期において、貸倒引当金を設定した売掛金の一部が回収不能となった場合は、貸倒引当金と売掛金を相殺します。回収不能となった金額が貸倒引当金の残額を超える場合は、その超えた額を貸倒損失として計上します。
(例)A社は、04年度の決算で改めて売掛金の回収不能額を見積もり、貸倒引当金を計上しました。
04年度中に回収不能となった売掛金はなく、03年度に計上した貸倒引当金の残高(10万円)に変動はありませんでした。
04年度末の売掛金残高1,500万円のうち、1%にあたる15万円が翌期に回収不能になると見積もりました。この場合の仕訳は次のとおりです。
(仕訳例5 04年度の決算)
■差額補充法
■洗替法
上記のとおり、貸倒引当金の計上には差額補充法と洗替法があります。会計上の原則は差額補充法であり、税法上の原則は洗替法となっています。
上記の差額補充法の例では、貸倒引当金を追加で繰り入れています。逆に貸倒引当金を減額する場合には、減少額を貸倒引当金戻入益で収益計上します。
まとめ
償却債権取立益は、前期以前に貸倒損失を計上した回収不能債権が回収できたときに使用する勘定科目です。会計基準の改正によって、損益計算書における表示は、特別利益から営業外収益に変更されているので、注意が必要です。
類似の科目として「貸倒引当金戻入益」があって混同しやすいですが、償却債権取立益とは異なるものであるため、間違えないように注意しましょう。
関連記事
・貸倒損失が適用される状況とは
・法人税法で認められる貸倒引当金限度額は?
・未収入金
よくある質問
償却債権取立益とは?
前期以前に貸倒処理した債権が回収できた場合は、回収できた金額を収益として計上する時に使用する勘定科目です。詳しくはこちらをご覧ください。
損益計算書での表示区分は?
2011年4月1日以後に開始する事業年度からは、営業外収益として表示されることになっています。詳しくはこちらをご覧ください。
「貸倒引当金戻入益」とは?
債権が回収不能となる場合に備えて前期に計上した貸倒引当金について、翌期にその額を戻し入れるときに使用する勘定科目です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
商品保証引当金の意味や仕訳、製品保証引当金との関係
修理や返品交換などの商品保証は、問題となる事象が発生したときにのみ保証が行われます。必ずしも発生する性質ではないことから、これまでの商品保証を行った傾向をもとに、合理的に見積もれる発生額を「商品保証引当金」に計上します。 今回は、商品保証に…
詳しくみる手許商品区分法の仕訳と会計処理をわかりやすく解説
手許商品区分法は手許にある商品とない商品を区分して処理する方法です。受託者に商品の販売を任せる委託販売や、試用期間を設けてから販売につなげる試用販売のときに用いられます。 手許商品区分法の会計処理は、販売原価を算定するタイミングによって、そ…
詳しくみる仕入割戻とは?会計処理、仕訳例、税務上の扱いを解説
仕入割戻とは、一定期間に多額もしくは大量の仕入れをした際に代金の一部が返還されることです。価格が事後に下がるため、仕入高から控除する処理を行います。税務上の取り扱いでは、算定基準が契約書に明示されている以外は、割戻金額の通知を受けた日の事業…
詳しくみる衣装代や装飾品を経費に!仕訳に使う勘定科目まとめ
事業に関連して衣装や装飾品を購入したとき、経費に計上が可能です。仕訳する際、個人事業主の場合は消耗品費の勘定科目を使い、法人では購入した目的や代金などにより異なる勘定科目を使います。 本記事では、事業で使うための衣装代や装飾品代について、仕…
詳しくみる電子記録債権の会計処理とは?仕訳の解説
新しい金銭債権である「電子記録債権」は、発生時と譲渡時、決済時にそれぞれ会計処理をする必要があります。どのような勘定科目が使えるのか、具体的な仕訳例も紹介しつつ解説するので、ぜひ参考にしてください。 電子記録債権とは 電子記録債権とは、電子…
詳しくみる登録免許税の仕訳に使う勘定科目を解説
登録免許税は会社設立の登記や、登記事項を変更する際に納める税金です。会社を興す際は登記が必須なので、法人は登録免許税を納付しなければなりません。したがって法人の会計処理では、登録免許税の適切な仕訳方法を把握しておく必要があるでしょう。今回は…
詳しくみる