• 更新日 : 2024年8月8日

時価会計の意味と時価の算定に関する会計基準の導入を解説

近年、企業の金融投資が増加する傾向にあります。金融投資の実体を財務諸表に色濃く反映させるために、金融商品を時価で会計処理するという「時価会計」が導入されました。
本記事では、「時価会計」が導入された経緯や従来の「簿記会計」と「時価会計」の違い、会計指針である「時価の算定に関する会計基準」の導入時期など、「時価会計」とは何かをわかりやすく解説します。

「時価会計」とは?

時価会計(英語表記:Current value accounting)とは、取得原価主義(英語表記:acquisition cost basis)で計上した資産のうち、一部の金融商品について「時価」により再評価する会計手法のことを指します。

金融商品とは

金融商品とは次の要件に該当する商品を指します。

  1. 市場での公正な評価額である「時価」または合理的な根拠に基づいて算出された「公正な評価額」を持つ商品であること
  2. 「時価」又は「公正な評価額」が変動するものであること
  3. 「時価」又は「公正な評価額」により売却可能であること

金融商品がもつ「含み損益」

時価が絶えず変動するということは、金融商品の評価額も常に変動するということです。つまり、取得価額と時価評価額との間に必ず差額が生じることになります。

代表的な金融資産である「上場株式」を例に挙げてみましょう。

株式市場では株価が日々変化しており、購入価額より株価が上昇することもあれば下落する
こともあります。

例えば、下図のように上場株式の取得後、株価が上昇したとしましょう。
金融商品がもつ「含み損益」

株価が上昇すれば、上場株式が持つ資産価値は、取得原価よりも大きくなります。いわゆる「儲かっている」状態です。この「儲け」の部分のことを「含み益」と呼びます。

逆に、株価が下落すれば、金融商品が持つ資産価値は取得原価より小さくなりますので「損をしている」状態となり、「含み損」を抱えることになります。

「含み損益」を財務諸表に反映させるのが「時価会計」

「時価会計」は、金融商品が持つ「含み損益」を毎期ごとに評価・検討し、評価損益という形で貸借対照表などの財務諸表に反映させることを目的としています。

「含み損益」を財務諸表に反映させることで、株式を購入する投資家が早い段階で企業の損益予想をすることができるようになります。結果としてタイムリーな投資を行いやすくなるといったメリットがあります。

時価評価の対象となる金融商品は、市場価値があり、かつ短期間に取引されることが確実な資産(売買目的資産)です。つまり、近い将来売却することが確実な資産に適用されるというわけです。

「簿価会計」と「時価会計」の違い

では、「簿価会計」と「時価会計」にはどのような違いがあるのでしょうか。

「簿記会計」の会計処理

「時価会計」が導入される以前は「簿記会計」の考え方に基づき、取得時に支出した金額で資産計上し、決算期において評価替えを行わない「取得原価主義」を基礎としていました。

<例示:有価証券 100,000円を取得した場合>

1. 取得時の仕訳処理

借方
貸方
有価証券   100,000円
現金   100,000円

2. 決算時の仕訳処理

仕訳処理なし(時価評価せず)

貸借対照表(B/S)

資産の部
負債・資本の部
有価証券   100,000円

「取得原価主義」を採用する理由は、未実現の利益まで評価益として計上してしまうと、可処分利益として株主配当で資金が社外流出してしまう可能性があるからです。

必要以上に企業の資金繰りを圧迫することを防ぐことが目的であるといえます。

「時価会計」の会計処理

これに対して「時価会計」が採用する「時価評価主義」は、金融商品が持つ決算時点における「含み損益」まで財務諸表に反映させることを目的としています。

金融商品の取得時は「簿記会計」と同様、支出した金額で資産計上しますが、決算時点で帳簿価額の評価替えを行い、取得時の簿価と決算時点での時価の差額を「評価損益」として損益計算書に計上することになります。

<例示:有価証券 100,000円を取得した場合>

1. 取得時の仕訳処理

借方
貸方
有価証券   100,000円
現金   100,000円

2. 決算時の仕訳処理(時価評価が150,000円になった場合)

借方
貸方
有価証券   50,000円
有価証券評価益   50,000円

貸借対照表(B/S)

資産の部
負債・資本の部
有価証券   150,000円

損益計算書(P/L)

科目
金額
売上高
有価証券評価益
当期純利益
××××円
50,000円
××××円

実際に金融商品を売却し、損益が確定したわけではありませんが、「売ったら」「売れれば」といった未確定の損益を見越し計上するわけです。

「簿記会計」と「時価会計」の違いとは

「簿記会計」と「時価会計」の決定的な違いは「100%確実ではない損益を財務諸表に反映させるかどうか」という点です。

「簿記会計」であれば前述の例示のように「時価評価が150,000円になった有価証券」の「含み益」を計上するタイミングは「有価証券の売却時」です。実現した時に損益を計上するのが原則となります。

借方
貸方
現金   150,000円
有価証券   100,000円
有価証券売却益   50,000円

これに対し「時価会計」ではこの「含み益」を売却前の決算時において計上します。

借方
貸方
有価証券   50,000円
有価証券評価益   50,000円

「簿記会計」における「取得原価主義」をベースに、そこから一歩進めて不確実な「評価損益」までも損益として認識するという点が「簿記会計」とは大きく異なります。

時価の算定に関する会計基準とは?

時価会計が採用された背景

日本においては簿記会計の「取得原価主義」が主流でした。

しかし、インターネットの発展等により、有価証券のような資産価値が固定ではない金融商品を保有する企業が増加していきます。

これにより、金融商品が持つ「含み損益」を財務諸表に反映しないと、正確な経営状況を把握することが困難であるとの声が高まります。

そこで海外では既に主流となりつつあった、時価会計適用の必要性が国内でも提唱され始めることとなります。

時価の算定に関する会計基準の概要

国際会計基準審議会(IASB)や米国財務会計基準審議会(FASB)など、海外では早い段階から時価評価会計とそれに伴う会計指針の導入が進んでいました。

日本では、2019年7月4日に企業会計基準委員会(ASBJ)が、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」、企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」等を公表しました。

企業が、時価会計を導入するにあたって指針となる「時価」の定義や対象となる金融商品、評価単位、時価の取り方などが詳細に定められています。

時価の算定に関する会計基準の対象

「時価の算定に関する会計基準」の対象となるのは、以下のとおりです。

  1. 金融商品会計基準における金融商品
  2. 棚卸資産会計基準におけるトレーディング目的で保有する棚卸資産

売買を目的として保有し、かつ株価や市場価格など、客観的な評価額が存在する資産を対象としており、代表的なものとして次に挙げるような金融商品があります。

  • 株式や出資証券、公社債などの有価証券
  • 金融派生商品(デリバティブ商品)の取引により生じる債権等
  • 市場価格の変動による差益で儲けを得ることを目的に保有する棚卸資産

時価の算定に関する会計基準の導入時期

時価会計の導入時期は原則として、「2020年4月1日以降開始する事業年度」からです。
事業年度でいえば「2021年3月31日決算期」から適用することができます。

ただし「2020年3月31日以降に終了する事業年度」に適用することも認められています。

時価の算定に関する会計基準の問題点

時価評価により「含み益」を財務諸表に反映させ、実態に即した企業評価を行うことが時価会計のメリットです。
しかしこのメリットは同時に時価会計のデメリットにもなります。
時価評価を行うのは「含み益」だけではなく「含み損」も対象となっているからです。

簿記会計の取得原価主義であれば、評価損が出ている金融商品は、処分しない限り評価損をわざわざ財務諸表に表記する必要はありません。

しかし、時価会計においては「含み損」も計上しなければなりません。実現していない損失も表記することで、必要以上に財務内容が悪化している財務諸表となります。

金融商品の時価評価による損益は課税対象になる?

会計上の評価と法人税法上の評価の違いはなぜ生じるのか?

法人税法は「適正な課税所得の計算に基づく法人税額の計算」を目的としています。それに対して企業会計は「投資家・債権者等の利害関係者への適正な財政状態および経営成績を明らかにすること」を目的としています。
この目的の違いにより、会計上の「収益および費用」と法人税法上の「益金および損金」に差異が生じます。
実務では会計と法人税の間に生じた差異を決算時に調整し申告することになりますが、この調整を「決算申告調整」といいます。

例えば、会計上は収益に計上していなくても法人税法で収益とみなされるものがあります。
逆に会計上は収益となるものであっても、法人税法から見た場合、収益としなくてよいものもあります。

時価会計で計上した「評価益」を収益としなくてよいケースがこれに該当します。
「評価益」を収益としなくてよいケース

費用についても同様に、会計上は費用としていなくても法人税法では費用とすることができるものがあります。
逆に会計上は費用となるものであっても、法人税法から見た場合、費用として認められないものもあります。
時価会計で計上した「評価損」が費用として認められないケースがこれに該当します。

「評価損」が費用として認められないケース

会計上の評価と税法上の評価の損益は課税対象?

会計上の評価と税法上の評価の差異が生じるため「決算申告調整」が必要となる金融商品の1つに有価証券があります。

有価証券は、保有目的によって以下の4種類に分類されます。

  1. 売買目的有価証券
  2. 満期保有目的の債券
  3. 子会社株式および関連会社株式
  4. その他有価証券

保有目的により保有期間が異なり、有価証券が及ぼす影響も変わるため、必然的に「決算(申告)調整」も変わってきます。

1.売買目的有価証券

売買目的有価証券は、将来の価値の変動により証券を売買することで利益を出すことが目的の有価証券のことを指します。
会計上、法人税法上ともに、売買目的有価証券の評価額は「時価」で評価され、課税対象である評価損益も損益計算書に反映されるので、会計上の評価と税法上の評価差異は存在しません。

2.満期保有目的の債券

満期保有目的の債券は、満期まで所有する目的で保有する有価証券のことをいいます。
会計上、法人税法上ともに、満期保有目的の債券の評価額は原則として「償却原価」で評価されるので、会計上の評価と税法上の評価差異は存在しません。

3.子会社株式および関連会社株式

会計上、法人税法上ともに、子会社株式および関連会社株式の評価額は原則として「取得原価」で評価され、会計上の評価と税法上の評価差異は存在しません。

4.その他有価証券

その他の有価証券は、売買目的有価証券や満期保有目的の債券以外の有価証券のことをいいます。
その他の有価証券の場合、会計上と法人税法上で評価額が異なります。

会計上は、適正な市場価格がある場合は「時価」で評価され、評価で生じた損益は税務調整後の値が純資産に加えられますが、適正な市場価格がない場合は「取得原価」または「償却原価」で評価されます。一方、法人税法では、適正な市場価格がある場合もない場合も、「取得原価」で評価されます。

つまり、法人税法では会計で計上した「評価損益」は「なかったもの」として取り扱われるわけです。

合理的な税負担には「税効果会計」の活用を

上場企業等の大企業では、上記の税務調整により、生じた税引前当期純利益と税法上の課税所得の差額について「税効果会計」を適用し、税費用を合理的に対応させなければなりません。

中小企業には「税効果会計」の適用は強制されませんが、著しく差額が出た場合には適用を検討すべきでしょう。

時価会計の基準を正しく理解しよう

会計上の処理と、法人税法上の課税対象の評価に差異があるものと、そうでない金融商品が存在することに注意して、法人税の計算をする際は正しい税務調整を心がけましょう。

よくある質問

時価会計とは?

取得原価主義で計上した資産のうち、一部の金融商品について「時価」により再評価する会計手法のことを指します。詳しくはこちらをご覧ください。

時価の算定に関する会計基準の導入時期は?

原則として、「2020年4月1日以降開始する事業年度」からです。詳しくはこちらをご覧ください。

時価の算定に関する会計基準の対象は?

金融商品会計基準における金融商品、棚卸資産会計基準におけるトレーディング目的で保有する棚卸資産が対象です。詳しくはこちらをご覧ください。


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