- 更新日 : 2024年8月8日
中小企業をサポートするための税制について
わが国の雇用や経済は中小企業によって支えられています。中小企業の活動はさまざまな措置でサポートされており、税法においても法人税法をはじめ租税特別措置法などの支援策が講じられています。
この記事では、日本において企業の99.7%を占める中小企業をサポートする税制について、どのような施策が講じられているか、いくつかピックアップしてご紹介します。
法人税の税率
法人税の税率は大企業が23.2%であるのに対し、中小企業(資本金が1億円以下の普通法人)は15%に引き下げられています。ただし、税率が15%となるのは課税所得のうち年800万円以下の金額についてです。
この施策だけでも 800万円×(23.2%-15%)=65.6万円 と中小企業の法人税額は大企業に比べて65.6万円安く設定されているということです。
中小企業技術基盤強化税制
「中小企業技術基盤強化税制」とは試験研究費に一定の割合を乗じた金額を、法人税額から控除することができるという税制です。
一定の要件を満たす試験研究費がある場合、その試験研究費に税額控除割合(12~17%)を乗した金額を、その事業年度の法人税額から控除できます。その際、法人税額の25~35%と上限にも幅があります。
この税制は、試験研究費の増加割合が多くなるほど税額控除額が大きくなり、上限に幅があるのは、売上高に占める試験研究費の割合に応じて控除の上限上乗せという仕組みになっているからです。
適用の対象は、青色申告をしている中小企業者または農業協同組合などです。ここでの中小企業の定義は、資本金または出資金が1億円以下の法人、資本金または出資金がない場合は従業員数が1,000人以下の法人、常時従業員数が1,000人以下の個人事業主や農業協同組合などとなります。
※ただし、大規模法人に発行済株式、出資金の総額、総額の2分の1以上を所有されている場合、あるいは、2社以上の大規模法人に発行済株式、出資金の総額、総額の3分の2以上を所有されている場合のいずれかは対象外となります。
対象とされる試験研究費は、製品の製造や技術の改良、企画の立案、発明に関する研究の原材料費や人件費および経費、試験研究を委託する場合の外注費、試験研究のために利用する固定資産の減価償却費などです。
中小企業経営強化税制
「中小企業経営強化税制」とは、認定を受けた「経営力向上計画」に基づいて対象となる設備等を取得した場合に即時償却または取得設備の取得価額の10%が税額控除できるという制度です。
ただし、資本金が3,000万円以上1億円以下の法人における税額控除は7%となります。
この制度の対象となる設備は、次の4つに分類され、かつ、要件があります。
- A類型 生産性向上設備:生産性が旧モデルに比して1%以上向上する設備
- B類型 収益力強化設備:投資利益率が年平均5%以上となる計画に係る設備
- C類型 デジタル化設備:可視化、リモート、自動制御化のいずれか搭載の設備
- D類型 経営資源集約化に資する設備:修正ROAまたは有形固定資産回転率が一定割合以上の設備
それぞれの類型ごとに詳細な要件が設定されており、それぞれ工業会証明書や経済産業局の確認書が必要となり、設備メーカーなどと連携して申請します。
また、B類型やD類型については公認会計士や税理士の指導・確認が必要とされ、C類型においては認定経営革新等支援機関の確認が必要とされます。
どの類型においても気を付ける点として、原則として「経営力向上計画の認定後に設備を取得すること」が重要です。
対象となる中小企業については、中小企業投資促進税制と同様ですので、次項でご確認ください。
参考:経営サポート「経営強化法による支援」|中小企業庁、中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き
中小企業投資促進税制
「中小企業投資促進税制」とは、生産性の向上、あるいはIT化を促進するための投資において特別償却または税額の控除が認められるという制度です。
中小企業者が対象となる機械装置や設備の購入、製作をした場合、取得金額の30%の特別償却ができます。さらに資本金3,000万円以下の法人については、30%の特別償却と7%の税額控除のどちらかを選ぶことができます。
中小企業経営強化税制の類型のようなものはありませんが、設備については次のようなものがあります。
- 機械装置:160万円以上
- 測定工具および検査工具:120万円以上、または30万円以上かつ複数の合計が120万円以上
- ソフトウェア:70万円以上、または複数の合計が70万円以上
- 普通貨物自動車:3.5トン以上
- 内航船舶:取得価額の75%
税額控除額は、その事業年度の法人税額または所得税額の20%までが上限です。税額控除の限度額を超える金額は、その後1年間繰り越すことができます。
※対象となる中小企業者について(中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制)
なお、中小企業経営強化税制と中小企業投資促進税制の対象者となる法人は同じで概要は下記のとおりです。
- 資本金または出資金の額が1億円以下の法人
- 資本または出資のない法人で常時使用する従業員の数が1,000人以下となる法人
- 常時使用する従業員の数が1,000人以下となる個人
- 協同組合等
ただし、資本金等が1億円以下でも、大規模法人から1/2以上の出資を受ける法人や2以上の大規模法人から2/3以上の出資を受ける法人などは対象外となりますので、よく確認しましょう。
上記2つの税制(中小企業経営強化税制と中小企業投資促進税制)は、どちらも青色申告者が対象ですが、取扱い対象となる設備が異なるため、設備の種類によって適用する制度を選択することになります。
また、税額控除については、2つの税制(中小企業経営強化税制と中小企業投資促進税制)の合計で法人税額20%が上限となりますのでご注意ください。どちらの制度も控除限度額を超えた場合には、翌年度に繰り越すことは可能です。
参考:中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制|独立行政法人中小企業基盤整備機構
中小企業投資促進税制
そのほかの減税措置や投資促進税制
ほかにも、30万円未満の減価償却資産については即時に全額経費にできる「少額減価償却資産の特例」(青色申告者で、合計取得額が1年度で300万円まで)や、生産工程効率化等設備等の取得をし、事業の用に供した場合に適用される「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」、産業競争力強化法の認定を受けた計画に基づき、ソフトウェア等の取得や製作等をした場合に適用される「DX投資促進税制」などがありますが、いずれも対象設備や指定事業など要件の規定がありますので、詳細を知りたい場合や検討している場合はしかるべき機関に問い合わせましょう。
参考:2023年度版中小企業施策利用ガイドブック|中小企業庁
制度を活用して節税に活かそう
さまざまな減税措置があることがわかりました。もっと詳しく知りたい方は国税庁のホームページや中小企業庁ホームページを訪れてみましょう。
国税庁には各種制度の概要などが掲載されています。中小企業庁では中小企業関連税制のほかに中小企業支援施策についての情報も掲載され、また、国が認定した経営革新等支援機関の一覧も公表されています。
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