- 更新日 : 2024年8月8日
役務収益と役務原価の仕訳方法とは
商品売買に限らず、近年では、多種多様のサービスを提供する企業も増えてきました。「役務収益」や「役務原価」は、モノを販売するのではなく、サービスを商品として提供したときに使われる勘定科目です。
この記事では、役務収益や役務原価とは何か、どのように仕訳を行うか、仕掛品との関係や違いまで解説していきます。
役務収益とは
役務収益の「役務」は、サービスのことです。「役務収益」とは、サービスを提供したときの収益を表します。たとえば、サービスの提供の具体例には以下のようなものがあります。
- 土木工事
- 物品の運送や保管
- 不動産売買などの仲介
- パソコンや家電などの修理
- ホテルや旅館などの宿泊先の提供
- クリーニングや清掃
- 演劇やイベントなどの興行
- 弁護士など士業の顧問契約
以上のように、対価と引き換えに無形のサービスを引き渡す取引は、商品売買ではなく、サービス業です。サービス業を営んでいる場合は、商品売買業で使用する勘定科目である「売上(売上高)」の代わりに、「役務収益」の勘定科目を使用します。
役務収益の仕訳
2021年4月から「収益認識に関する会計基準」が適用されたことを受けて、「売上」と同じ収益である「役務収益」も、会計基準の以下5つのステップに従って収益認識をすることになりました。
- 顧客との契約を識別する(サービスの提供を認識)
- 収益認識の単位である履行義務を識別する(サービスごとに識別する)
- 取引価格を算定する
- 履行義務に取引価格を配分する(サービスごとに価格を配分する)
- 履行義務充足時、または充足に合わせて収益を認識する
役務収益の計上において特に重要なのが、どのように履行義務の充足が行われるかです。
一時で履行義務が充足されるケース
一時に履行義務が充足されるスポット的なサービスの提供では、以下のように仕訳を行います。
仕訳例では、すでに清掃が完了しています。収益認識は履行義務充足後、つまりサービス提供が完了したときに行いますので、清掃完了時に役務収益を計上します。
なお、退去後の清掃は一時的な依頼であるため、履行義務充足時に一時に役務収益とするのが適切です。一時に履行義務が充足される今回のようなケースでは、全額を一時に収益に計上します。
仕訳例では、すでに清掃が完了しています。収益認識は履行義務充足後、つまりサービス提供が完了したときに行いますので、清掃完了時に役務収益を計上します。
なお、退去後の清掃は一時的な依頼であるため、履行義務充足時に一時に役務収益とするのが適切です。一時に履行義務が充足される今回のようなケースでは、全額を一時に収益に計上します。
継続して履行義務が履行されるケース
一時的なサービスの提供ではなく、継続してサービスを提供する場合は、履行義務の充足(進捗)に合わせて役務収益に計上します。履行義務の充足において、進捗度を測る方法は、アウトプット法(顧客に提供された価値で見積もる方法)とインプット法(社内のインプットから見積もる方法)の2つです。アウトプット法であれば達成した成果やマイルストーン、インプット法であればコストや労働時間、経過期間などが指標になります。
以下は、継続してサービスを提供したときの仕訳例です。
会計基準では、履行義務の進捗に合わせて収益を計上しますので、マイルストーンが完了した段階で、コンサルサービスの進捗分を役務収益として計上します。
役務原価とは
役務原価とは、サービスを提供するために直接的に要した費用のうち、役務収益に計上される額に対応する費用のことです。商品売買業でいうところの「売上原価」と同じで、役務収益に直結する費用を表します。
サービス業においては、役務収益から役務原価を差し引いて、売上総利益を算出します。
役務原価の仕訳
具体例を取り上げながら役務原価の仕訳を解説していきます。
サービスを提供するのに直接的に必要な費用であっても、仕訳例のように、モノを購入した段階ではサービスが提供されていないため、役務原価にはできません。サービスの提供に必要な費用は、一旦、仕掛品(しかかりひん)に計上します。
また、仕訳例では薬剤を購入した費用を仕掛品に計上していますが、消耗品(この場合はブラシやふきん)など、サービス提供に直接必要なものもすべて仕掛品に計上します。
役務原価は、役務収益が立った段階ではじめて計上されます。計上する役務原価は、その役務収益に対して要した額です。
仕掛品との違い
役務原価の仕訳でも取り上げましたが、サービス業の役務収益と役務原価の仕訳では、「仕掛品」という勘定科目が使用されます。
仕掛品は、すでに費用として発生し、かつ、サービスの提供で将来必要になってくるものではあるものの、まだ収益には貢献していないもののことをいいます。将来の役務収益には関係のある額ですが、すでに計上されている役務収益にはかかわってこない額です。
役務原価と仕掛品は、役務収益に対応した費用かどうかが異なります。役務原価は、売上原価のように役務収益に対応していますが、仕掛品は未提供のサービスにかかわる部分であるため、役務収益には対応しません。
サービス業が押さえておきたい役務収益と役務原価
サービス業では、売上や仕入(または売上原価)の代わりに、役務収益や役務原価といった勘定科目を使って仕訳を行います。役務収益の計上は、商品売買業などと同じです。役務原価は、役務収益に対応する部分を、履行義務充足の都度、仕掛品から振り替える処理を行います。サービスを提供する企業も増えてきましたので、基礎的な部分だけでも押さえておきましょう。
よくある質問
役務収益とは?
サービスの提供による収益のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
役務原価とは?
サービスを提供するために直接要した費用のうち、計上される役務収益に対応する費用をいいます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
現金主義と発生主義の違いを理解しよう
企業の基本的な会計ルールである企業会計原則には、「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない」と示されており、大原則として適正な期間損益計算が求められます。その…
詳しくみる原価計算とは?計算方法や目的、種類などの基本知識と仕訳例を解説!
原価計算は難しいという先入観はありませんか?一度にあまり多くの計算方法を学ぼうとせず、基礎的なところから始めましょう。ビジネスの最前線の問題も、基本的なしくみの理解なしでは語れません。この記事では、原価計算の基礎としてその種類や計算方法、仕…
詳しくみる積送品とは?仕訳から解説
積送品とは委託販売のために発送した商品のことです。委託販売の際に積送品として振り替えをすることによって、商品在庫の管理や委託先への発送状況などの確認ができます。 そこで今回は、積送品における概要について紹介し、実際にどのような場面で仕訳をす…
詳しくみる売上計上の時期はいつ?計上時期の原則や税務調査で注意すべきポイントを解説
売上計上の時期は、会社の規模や業種、取り扱う商品やサービスによってさまざまです。 実現主義や発生主義などのさまざまな用語があり、迷うこともあります。 そこで、この記事では売上計上の時期について、基本的な内容から会社に応じて採用する売上計上の…
詳しくみる入金伝票とは?書き方や仕訳方法をわかりやすく解説
経理経験がある人でも、初めて入金伝票を手にすると戸惑うことがあるかもしれません。この記事では、初めて入金伝票を取り扱う人向けに入金伝票の書き方や仕訳方法を解説します。入金伝票は仕訳業務の効率化のために有効な方法であるとともに、取扱方法がとて…
詳しくみる段階取得に係る差益とは?わかりやすく解説
連結財務諸表を作成するための会計処理には、子会社への投資と、資本の相殺消去をする処理が必要になります。このとき、子会社株式を一括して取得(一括取得)する場合と、複数回にわたって段階的に取得(段階取得)する場合があり、それぞれ処理が異なります…
詳しくみる