• 更新日 : 2024年9月11日

ソフトウェアやシステム資産の減価償却の計算方法と仕訳例

ソフトウェアやシステム資産の減価償却を適切に行うには、「減価償却の対象になるソフトウェアはどれか」や「耐用年数・仕訳方法はどうすればよいか」などを理解する必要があります。

他の減価償却資産とは違う特徴がいくつかあるため、会計上のソフトウェアの扱い方を事前にチェックしておきましょう。

減価償却対象となるソフトウェアやシステムとは

すべてのソフトウェアやシステムが減価償却になるわけではありません。使用目的によって変わってきます。
まずは会計上におけるソフトウェアの扱いや、減価償却になる・ならないソフトウェアについて解説します。

会計上におけるソフトウェアの概念について

会計上におけるソフトウェアとは、日本公認会計士協会の「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」において、次のように規定されています。

  • コンピュータに一定の仕事を行わせるためのプログラム
  • システム仕様書、フローチャート等の関連文書

ただしソフトウェアの処理対象となるコンテンツは含みません。コンテンツとは、会計ソフトをソフトウェアとして定義した場合、会計ソフトで作成した帳簿や試算表などが当てはまります。ソフトウェアとコンテンツが経済的・機能的に密接につながっている場合は、両者一体で取り扱うことが可能です。

さらに会計上のソフトウェアは、販売する目的別に以下の3種類に分けられます。

  • 市場販売目的のソフトウェア
  • 受注制作(オーダーメイド)販売目的のソフトウェア
  • 自社利用目的のソフトウェア

減価償却の対象となるかは、上記のうちどれに当てはまるかで変化します。

市場販売目的のソフトウェアの場合

市場販売目的のソフトウェアとは、ソフトウェアの「製品マスター」をもとに複製した製品を、不特性多数の顧客へ売ることを目的にして販売するものです。製品マスターとは、製品番号をつけるなどで「最初に販売の意思が明らかにされたもの」を指します。

まず製品マスターが完成するまでの過程のうち「最初の製品マスターを完成させるまでの支出」は研究開発費用としての処理です。続いて「製品マスターが完成してからの支出」は無形固定資産として計上します。

ただし、製品マスターの機能の改良での支出は、改良の度合いの大きさによって扱いが変わります。

  • 製品マスターを完成させた(研究開発終了後):資産価値そのものを高めるための改良・強化費は「無形固定資産計上」
  • 大きな改良を行った:まだ研究開発段階の途中と見なされるため「費用処理」
  • 軽微な改良(メンテンナンス)を行った:機能維持と見なされ「費用処理」

本来、自社で製造した商品は「棚卸資産」での計上になるため、「製品マスターも棚卸資産では?」と疑問に思うかもしれません。無形固定資産として計上する理由として、「著作権が発生した製品マスター自体ではなく、あくまで複製したものを制作するから」との、日本公認会計士協会からの見解が出ています。

ちなみに、製品としてソフトウェアを制作する際に発生した費用は「棚卸資産として計上」し、販売時は「売上原価としての計上」です。

受注制作(オーダーメイド)販売目的のソフトウェアの場合

受注制作(オーダーメイド)販売目的のソフトウェアとは、ある特定の顧客から「特定の仕様かつ個別に制作する」という条件を受託し、その後制作・販売するものです。

こちらのソフトウェアの制作費は「請負工事の会計処理」を適用します。また、無形固定資産ではなく棚卸資産としての計上です。つまり減価償却の対象にはなりません。

(減価償却資産の範囲)
第十三条 法第二条第二十三号(定義)に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。(引用:e-Gov|法人税法施工例

販売目的のソフトウェアとの違いは、販売品が「製品マスターを基にした複製製品=製品マスターそのものを販売するわけではない」であるか、「開発した製品そのものを販売するか」である点です。受注制作の場合は研究・開発した製品=商品と見なすため、製品を棚卸資産として仕訳します。

自社利用目的のソフトウェアの場合

自社利用目的のソフトウェアとは、「自社の業務処理のために購入した」あるいは「制作した」ものです。会計ソフトや給与計算ソフトなどが当てはまります。

こちらを無形固定資産として計上(減価償却すべきか)するかどうかは、導入したソフトウェアが「将来の収益獲得または費用削減に貢献するか」で変化します。具体的には次のとおりです。

  • 確実に収益獲得や費用削減が認められる:資産計上
  • 不明な場合:費用処理
  • 必ずしも確実とはいえない場合:経費処理

たとえば、「あなたの経理業務を効率化させるために導入した会計ソフト」の購入費は無形固定資産として計上します。さらに、この会計ソフト導入のための環境設定や導入作業などの費用も、まとめてソフトウェアの取得価額に含めます。

ただし、クラウド型の会計ソフトの導入費用はすべて経費処理になるため注意しましょう。

クラウド型は「モノを購入して資産とした」というわけではなく、「提供会社のサービスに対して使用料を支払っている」という解釈になるためです。一般的には「通信費」として処理します。

【補足】税務上のソフトウェアの取り扱いについて

税務上のソフトウェアの取り扱いは、会計上のソフトウェアの取り扱いと異なります。具体的にいえば、収益や費用削減につながるかが不明瞭な場合も資産計上の対象になる点です。

もし「導入したけど将来的に効率化や経営状態の向上につながるかわからない」というソフトウェアを購入したときは、税務上と会計上で減価償却限度額(資産の取得価額×定額法の償却率)が異なってくるかもしれません。双方のすり合わせが必要です。

減価償却の期間

減価償却を行うソフトウェアは、「市場販売目的」と「自社利用目的」の2つです。ここからは「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」に基づいた、それぞれの減価償却の期間をご紹介します。

市場販売目的のソフトウェアの減価償却期間

市場販売目的のソフトウェアの減価償却期間は原則3年以内です。もし3年を超える期間にしたいときは、「なぜ3年間を超えて設定する必要があったのか」に関して、合理的な根拠を基にして決定しなければなりません。

なお税務上のソフトウェアの耐用年数は5年です。会計上と税務上の減価償却額が変わる可能性があるため注意しましょう。

自社利用目的のソフトウェアの減価償却期間

自社利用目的のソフトウェアの減価償却期間は原則5年以内です。もし5年を超えるように設定した場合は、前述と同じく「合理的な根拠があったから5年超えの期間に決定した」と、別途で証明する必要があります。

なお自社利用目的も、税務上の耐用年数は5年です。

ソフトウェアの減価償却の仕訳例

ここからはソフトウェアの減価償却の仕訳例をご紹介します。計算方法もあわせて解説するので、ぜひ参考にしてください。

市場販売目的のソフトウェアの減価償却の仕訳例

たとえば、市場販売目的のソフトウェアが270万円だった場合の減価償却の仕訳例は次のとおりです(耐用年数は3年で計算)。

<減価償却額の仕訳>

日付
借方
貸方
概要
12月31日
減価償却費
900,000円
ソフトウェア
900,000円
ソフトウェアの減価償却

あわせて、市場販売目的のソフトウェアの研究開発費の仕訳例もご紹介します。

<研究開発費の仕訳>

日付
借方
貸方
概要
8月31日
研究開発費
1,000,000円
普通預金
1,000,000円
ソフトウェアの研究開発費

正式な減価償却額の計算方法は、「見込販売数量に基づく方法」と「見込販売収益に基づく方法」の2種類があります。

各年度の減価償却額=ソフトウェアの未償却残高×各年度の実績販売数量(収益)÷各年度の期首の見込販売数量(収益)※

※初年度の場合は販売開始時の見込み販売数量もしくは収益

その後「上記の計算式で算出した減価償却額」と「残存有効期限に基づく均等配分額(未償却残高÷残存有効期間)」を比較し、額が大きいほうを計上します。

具体的な計算例として、以下の条件で見ていきましょう。

【初年度】

  • 販売開始時の総見込販売数量が1,800台
  • 初年度の販売実績数量が720台
  • ソフトウェアの制作費が1億5,000万円

1億5,000万円×720÷1,800=減価償却費6,000万円

このケースだと残存有効期間に基づく均等配分額は5,000万円であるため、6,000万円のほうを減価償却費として計上します。

2年目以降は未償却残高9,000万円、見込販売台数1,080台を基に計算します。

自社利用目的のソフトウェアの減価償却の仕訳例

自社利用目的のソフトウェア270万円の仕訳例は次のとおりです(導入にかかった費用も含む・耐用年数は5年で計算)。

日付
借方
貸方
概要
減価償却費
減価償却費
540,000円
ソフトウェア
540,000円
ソフトウェアの減価償却

減価償却額の計算方法は定額法を用います。

減価償却額=取得価額×定額法の償却率

ただし、自社利用目的のソフトウェアのうち購入額が10万円未満だった場合は、少額減価償却資産として経費処理が可能です。減価償却は行いません。

さらに中小企業かつ青色申告であれば、30万円未満の減価償却資産を少額減価償却資産として経費処理できます。適用事業年度ごとに合計300万円までです。

またソフトウェアがクラウド型サービスの場合は、無形固定資産ではなく「通信費」として経費計上が一般的です。

ソフトウェアの減価償却を理解し適切な財務管理を!

減価償却の対象になるソフトウェアは、「市場販売目的のソフトウェア」と「自社利用目的のソフトウェア」の2種類です。

市場販売目的は耐用年数3年、自社利用目的は5年となっています。

それぞれの減価償却の仕訳や計算方法も異なるため、ソフトウェアの正しい減価償却の方法を理解し、適切な財務管理を行ってください。

よくある質問

会計上のソフトウェアの種類は?

販売する目的別に「市場販売目的のソフトウェア」「受注制作(オーダーメイド)販売目的のソフトウェア」「自社利用目的のソフトウェア」があります。詳しくはこちらをご覧ください。

市場販売目的のソフトウェアの計上方法は?

最初の製品マスターを完成させるまでの支出は研究開発費用として、製品マスターが完成してからの支出は無形固定資産として計上します。詳しくはこちらをご覧ください。

減価償却の期間は?

市場販売目的のソフトウェアの減価償却期間は原則3年以内、自社利用目的のソフトウェアは原則5年以内です。詳しくはこちらをご覧ください。


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