
目次
はじめに
老後への不安。
年金制度の破綻が叫ばれている中、若年層から中高年までの幅広い層において、そんな漠然とした不安を抱えている方も少なくないと思います。老後の生活資金として年金の積み立て、投資、貯蓄など様々な対策を講じている方も多いかと思います。
そんな中、大企業に長年勤めたサラリーマンの大きな味方となるのが「退職金」の存在でしょう。退職時にもらえる数百万円、はたまた数千万円という金額は非常に大きいですね。
一方、フリーランスや個人事業主、中小企業の経営者の中には自分は退職金とは無縁と感じている方も多いでしょう。しかし、本当にそうでしょうか?
実は、国が提供する「経営者の退職金」といわれる制度が存在します。その名も小規模企業共済。
本記事では、その「小規模企業共済」について紹介すると共に、そのメリット、デメリットを押さえ、実際のモデルケースに基づいて「共済金」がいくらもらえるのかを試算していきたいと思います。
小規模企業共済とは、個人事業主や会社役員、経営者などが事業を廃止・会社を退職する際に、それまで積み立てたお金(掛け金)に応じて給付金を受け取れる制度のことです。
前述のように経営者の方にとっての退職金にあたるものと考えると分かりやすいでしょう。
国が全額出資している独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営しており、40年もの歴史がある制度です。また、あまり馴染みがない制度ですが、約132万人の個人事業主や小規模企業の役員、共同経営者が加入されてるそうです。
加入できる人はどんな人?
次にどんな方に加入する資格があるのか確認していきましょう。加入するためには、以下条件を満たしている必要があります。
簡単にまとめると、中小企業の役員や経営者、個人事業主が対象になるといえます。
・農業、宿泊業や娯楽業、製造業、建設業、運輸業、不動産業で常に使用する従業員が20人以下の会社役員または個人事業主
・宿泊業・娯楽業以外のサービス業、商業(小売業・卸売業)で常に使用する従業員が5人以下の会社役員または個人事業主
・上記2つのどちらかにあてはまる個人事業主の事業に関わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)
・事業に従事または常に使用する従業員が20人以下の企業組合や協業組合の役員
・農業経営をメインとして行い、常に使用する従業員が20人以下の農事組合法人の役員
・税理士法人や弁護士法人などで常に使用する従業員が5人以下の士業法人社員
注意事項:共同経営者の条件は、事業の資金を負担している、若しくは、経営に関して意思決定をしていることと報酬を受けていることの2つを満たしているということです。また、常に使用する従業員には、臨時・家族従業員・3人目以降の共同経営者は含まれません。なお、2つ以上の事業を行っている事業主又は共同経営者の方はメインの事業の業種で加入します。
さて、小規模企業共済の概要と加入資格がわかったら、今度はQ&A形式で制度について勉強していきましょう。
Q:掛金はいくらでしょうか?
A:掛金月額は1,000円から70,000円までの範囲(500円ごと)で自由に設定いただけます。なお、経営状況などに応じて、増額、減額も柔軟に可能となります。
Q:加入方法はどうなっているのでしょうか?
A:必要書類を入手、記入後、中小機構が業務委託契約を結んでいる団体又は金融機関の窓口で手続きをします。その後、40日程度の審査機関を経て「共済手帳」と「加入者のしおり及び約款」が手元に届きます。
Q:掛け金の納付方法は?
A:毎回、預金口座振替での払込みとなります。また、「月払い」「半年払い」「年払い」のいずれかから、掛金の払込方法(払込区分)は選択可能です。
Q:給付金を受け取れるタイミングはいつですか?
A:事業の廃業時または退職時、または事業の全部を第3者に譲渡した時となります。
Q:受け取り方法はどうなっているのでしょうか?
A:一括、分割(10年、15年)、一括と分割の併用という3種類から選択可能となります。
小規模企業共済制度のメリット
それではまず、小規模企業共済を利用する上でのメリットを整理していきます。「経営者の退職金」にあたる給付金がもらえるだけでなく、その他様々なメリットがあることにも注目です。
1.経営者の退職金
事業の廃業や退職時に、それまで積み立てた金額を「退職金」として受け取ることが可能であり、20年(240ヶ月)以上積み立てていれば、「掛け金の100%以上の給付」が見込めます。
2.掛金は節税対策に
掛金は全額所得控除の対象となり「節税対策」が可能となります。仮に最高額の70,000円の場合は、年間840,000円の所得控除が受けられます。
3.受け取りも節税対策に
分割で受け取る場合は公的年金と同様で雑所得扱い、一括の場合には退職所得扱いとなり、どちらの受け取り方法においても所得控除が受けられます。従って、受け取り時と支払い時でダブルの節税効果が期待出来ます。
4.契約者貸付制度
掛金の範囲内で無担保・無保証人にて事業資金の貸付けが受けられます。
小規模企業共済制度のデメリット
次に、小規模企業共済を利用する上でのデメリットについて見ていきましょう。ここでポイントになるのは「20年」という加入期間です。自身の現在の年齢から退職するまでの期間を試算することがデメリットを解消する上で重要になってきます。
1.掛け捨てのリスク
納付月数が12ヶ月(1年)未満で解約となった場合は掛け捨てになります。
2.元本割れのリスク
加入期間が20年未満の場合は、元本割れしてしまいます。
納付月数と支給割合の相関関係については以下の表をご参照ください。
上記にあるように、納付月数に応じて、掛金の80%から120%に相当する額が支給されます。掛け金以上の支給が見込めるか否かというそのボーダーラインが240ヶ月、つまり20年となるわけです。なお、上記には節税効果の影響は反映されていません。
解約だと元本割れするが、廃業等の場合は元本割れせずに共済金を受け取れるケースも
個人事業を継続したまま小規模企業共済を20年未満で解約した場合は元本割れのリスクがありますが、廃業の場合は元本が100%戻ってくる仕組みになっています。具体的には以下のケースの場合、元本割れせずに戻ってきます。
・事業を譲渡した場合
・老齢給付(65歳以上で180ヶ月以上掛金を払い込んだ方)
・契約者の方が亡くなられた場合
・個人事業を法人成りして、その法人の役員にならなかった場合
仮に50歳の方が小規模企業共済に加入した場合、180ヶ月経つ65歳の時点で老齢給付として受け取るか、退職(=廃業若しくは事業を譲渡)した場合は100%以上戻ってくるので、実際は元本割れのデメリットはないと言えます。
実際に計算してみた
ここまで小規模企業共済について説明してきました。しかし、みなさんが気になるのは「結局、どれくらいの給付が見込めるの?」「どれくらい得するの?」ということだと思います。
そこで、実際に中小機構のサイト上でシミュレーションしてみました。
デザイン会社を経営する35歳男性の例
・属性:35歳男性
・役職:デザイン会社経営者(従業員1名)
・加入:2017年12月
・脱退:2047年11月(予定)
・年月:30年
・掛金:30,000円/月
・課税所得金額:3,000,000円
※課税所得金額とは
総所得金額から基礎控除、扶養控除、社会保険料控除などを控除したあとの額で課税の対象となる金額のこと
まず、加入シミュレーション画面より試算条件を記入します。
続いて、必要な項目を記入したら、計算実行を押します。
これでシミュレーションは完了です。
期間中(30年)の掛金総額は10,800,000円。これに対して、期待出来る給付額も一目でわかります。節税の影響を考慮した実質返戻率は150%程度となりました、毎年の節税額も把握出来ます。
なお、現状の法令に基づくものであること、増減額などが起こる可能性などを考慮に入れていないなど、限定された条件下でのシミュレーションではありますが、このケースでは加入を前向きに検討出来ることがおわかりになると思います。
もちろん、それぞれのケースによって試算結果は変わってくるため、ご自身の試算条件にてシミュレーションしていただくことを推奨しております。
まとめ
上述の通り、退職や廃業などに備えての「転ばぬ先の杖」として経営者を助けるのが小規模企業共済といえるでしょう。小規模企業共済を加入しておけば「気持ち・資金」の両面で安心感があり、さらに節税効果も期待出来る優れものです。
そういった制度の詳細を理解しつつ、しっかりと先を見据えた活用をしていくことで、「経営者の救世主」となる制度ではないでしょうか。
参考
※中小機構
http://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/index.html
2015年11月9日 記事を一部修正いたしました。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。