• 作成日 : 2023年11月14日

子会社の赤字が連結決算に与える影響は?事例や対処法を解説

子会社の赤字が連結決算に与える影響は?事例や対処法を解説

赤字を出している子会社の会計処理にお悩みの方もいるのではないでしょうか。赤字の子会社を抱えていると、連結決算において不利になります。グループ全体の損益を連結させて納税する方法はあるとはいえ、赤字を解消する対処法を早急に検討しなければなりません。

本記事では、子会社の赤字が連結決算に与える影響を具体的な事例を交えて解説します。赤字続きの子会社への対処法もお伝えしますので、節税効果を高めたい企業の方はぜひ参考にしてください。

連結決算とは

子会社の赤字が連結決算に与える影響は?事例や対処法を解説
連結決算とは、グループ全体の関係会社の業績をまとめて財務諸表を作成する会計業務です。子会社や関連会社も含めたグループ全体の経営状況が可視化され、内部だけではなく外部からも業績を把握しやすくなります。

連結決算は、有価証券報告書を提出している大会社に課される義務です。なお大会社とは、資本金5億円以上もしくは負債の合計額が200億円以上の企業を指します。

連結決算の対象となるのは、原則としてすべての子会社および関連会社です。ただし、大小すべての関係会社の財務状況を取りまとめるのは決算業務が煩雑になりすぎます。そのため、重要性の低い子会社関連会社は対象に含めなくとも問題はありません。

連結納税との違い

連結決算と間違いやすい会計処理として、「連結納税」があります。連結決算を行っても、納税は基本的に個別です。よって、グループ全体からみると赤字が多くても、黒字の会社には相応の納税義務が生じます。

そこで、節税になる手段が「連結納税」です。連結納税とは、グループ全体の損益の合算額に法人税を課税する制度を指します。なお連結納税は廃止され、現在は「グループ通算制度」として引き継がれました。

グループ通算制度は親会社および子会社の所得や法人税の数値を元に損益通算などの調整を行う制度のことです。つまり、赤字会社の欠損分の補填として黒字会社の利益を回せるため、通常より大きく節税できる可能性があるということです。

ただし連結納税を開始すると、親会社の持株比率が100%の国内関係会社はすべて連結範囲に含まれ、その合計が親会社の資産額と見なされます。中小企業が連結納税をする場合、親会社の資本金などの金額が1億円を超えると軽減税率の適用外になるため要注意です。

連結納税の効果についてはこちらの記事でくわしく解説していますので、気になる方はぜひご覧ください。
関連記事:連結納税は得か損か?

子会社の赤字が連結決算に与える影響

子会社の赤字が連結決算に与える影響は?事例や対処法を解説
子会社が計上した赤字は連結決算時に親会社の繰越欠損金として扱われるため、財政的にみてマイナスです。連結決算では対象となる子会社の損益をすべて計上しなければならず、親会社の連結数値へダイレクトに影響を与えます。

なお上述のグループ通算制度を利用すれば繰越欠損金が次年度以降の黒字で相殺できるため、節税効果があります。しかし、繰越欠損金の期限は10年です。赤字が連続すると年度の古いものから消えていくため、いつまでも使える手ではありません。

赤字が長期的に続いて解消が見込めないときは、親会社は子会社の再建を支援しないことにはグループ全体の経営状況を改善できないでしょう。場合によっては、子会社の売却や清算も検討する必要が生じます。

子会社が赤字の場合の連結決算の事例

子会社の赤字が連結決算に与える影響は?事例や対処法を解説
ここからは、以下の事例にあてはめて連結決算時に子会社が赤字だと親会社へどれくらいの影響が出るのかを見ていきましょう。

例)資産が10億円、負債5億円の黒字親会社Aが2億円を出資して完全子会社Bを設立。
子会社Bは、親会社からの出資金2億円以外にも6億円を借り入れている。
後に親会社Aは3億円の黒字を計上した。
一方、子会社Bは3億円の赤字を出している。

【親会社Aの貸借対照表

借方貸方
資産5億円負債5億円
子会社株2億円純資産3億円
子会社貸付金6億円純資産(当期純利益)13億円
13億円13億円

親会社Aは子会社の設立により資産が増加するため出資金である2億円は借方に資産として計上します。一方、貸方では自己資本としての純資産です。

その後出た利益の3億円は借方に資産として合計するのに対し、貸方では純資産に合算します。

【子会社Bの貸借対照表】

借方貸方
資産5億円負債(親会社借入金)6億円
純資産(資本金)2億円
純資産(当期純損失)△3億円
5億円5億円

親会社Aの出資金2億円は、子会社からみると資産の増加です。また、設立後に計上した赤字2億円は、マイナスの純資産として計上されます。

設立後、子会社Bは3億円の赤字です。よって、子会社Bは1億円の超過債務を抱えることになっています。

【連結決後の貸借対照表】

借方貸方
資産10億負債(親会社)5億
子会社株式2億円純資産(親会社)5億円
子会社貸付金6億円親会社借入金6億円
純資産(親会社当期純利益)3億円
純資産(子会社資本金)2億円
純資産(子会社当期純損失)△3億円
10億円10億円

連結決算では重複してしまうため、子会社への出資は子会社の純資産などと相殺します。そのため、親会社Aは子会社Bに出資した資金が無駄になったうえ1億円の超過債務までカバーしなければなりません。

つまり、連結決算においては子会社の赤字が親会社の経営を圧迫するおそれがあるということです。

子会社の赤字が続く場合の対処法


子会社の赤字が続いている場合は、以下3つの手段で迅速に対処することをおすすめします。

  • 再建支援を行う
  • 子会社を売却する
  • 子会社を清算する

何の手立てもなく放置すると、超過債務を抱え続けるだけではなく、税制面でも損です。子会社の赤字への対処法を、それぞれ解説します。

再建支援を行う

再建支援とは、経営不振の子会社に対して親会社が原因を突き止めて立て直しを図ることです。

具体的には、以下の例が有効な再建支援策として挙げられます。

  • 無償もしくは低金利での貸付
  • 債務の引受

親会社が子会社の損失を負担しなければ倒産の危機があるなどやむを得ない事情がある場合、合理的な範囲内ならその負担額は寄付金ではないと見なされます。

経営再建の意義があると考えられるのは、次のようなケースです。

  • 親・子会社間が強固な信頼関係にある
  • 支援により債権が回収できる見込みがある
  • 倒産よりも再建の損失のほうが少ない

また、再建のための支援金は必要最低限の額に留め、子会社の状況に応じて随時見直す必要があります。

子会社を売却する

子会社を売却する方法は、主に以下の3通りです。

株式譲渡とは、親会社の持株をすべて売却することです。一部譲渡する方法と、完全に売却してしまうケースの2つに分かれます。

事業譲渡とは、子会社を事業ごと他社に売り渡すことです。子会社の資産だけではなく、従業員やノウハウなどのリソースも一部もしくはすべてを譲渡します。

会社分割とは、子会社と事業を切り離して譲渡することです。具体的には、子会社の事業を引き継いだ新会社を設立し、その会社を第三者に売却することで譲渡します。

子会社の売却は、採算の取れない事業を手軽に手放せるうえ、売却益を得られる点がメリットです。しかし、子会社の売却は時間がかかるうえ、自社グループのリソースやノウハウの外部流出を避けられません。また、得られた売却益には税金がかかる点もデメリットです。親会社の支援だけでは債権が困難な場合や、事業継続により期待できる利益が少ないときには売却を検討しましょう。

子会社を清算する

清算とは、子会社を解散して消滅させ残った資産や負債などを換金・分配する手続きです。子会社を清算すれば、以降は決算や法人税の支払いがいりません。

清算には、任意清算と法定清算の2種類があります。任意清算は合資会社もしくは合名会社のみ取れる手段であり、会社が自主的に子会社の処分を決定することが可能です。一方、法律に準じて清算を行う法定清算はさらに通常清算と特別清算の2つに分けられます。通常清算は株主総会等で選ばれた清算人が主導し、会社のみで清算する手続きです。対して特別清算は清算人が選出できる反面、裁判所の監督を受けなければなりません。

清算の手段を選択することで、債務超過の子会社の負担を素早く切り離せます。また、子会社による悪影響や税負担も最小限です。しかし、子会社を清算するのにもコストがかかります。顧客や取引先を失うおそれがあるほか、従業員が路頭に迷いかねません。

デメリットだけ見ると売却のほうが好ましい手段のように思えるでしょう。しかし、売ろうにもすぐ売れないこともめずらしくありません。売却までの待機時間にかかるコストや負担を考慮すると、清算のほうがベターなケースも多いでしょう。

まとめ

連結決算を行う場合、子会社の赤字による悪影響は決して小さくありません。子会社の赤字が続くと、収益が得られないばかりかさらなる債務を抱える羽目になるでしょう。連結納税も一つの手ではありますが、場合によっては損するかもしれません。

赤字化した子会社は、親会社による再建支援が推奨されます。しかし、債権による効果が期待できない場合は、子会社を売却もしくは清算を検討することも必要です。グループ全体の経営状態を明確にし、不振を解消する手立てを考えましょう。

よくある質問

子会社が赤字の場合、親会社はどうなる?

子会社が赤字の場合には、親会社が支援して損失を補填する必要があります。赤字のまま連結決算すると、グループ全体の業績に悪影響を与えるためです。

子会社の赤字が続く場合の対処法は?

赤字続きの子会社への対処法として、以下3つの手段が挙げられます。 ・再建支援 ・売却 ・清算 親会社によるサポートで再建が見込まれる場合は、合理的な範囲内で支援しましょう。しかし、親会社の支援では手の施しようがないほど超過債務が積み重なっているときは、最終手段として子会社の売却や清算も検討する必要があります。


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