• 更新日 : 2023年7月3日

電子保存義務化が延期!2年の猶予期間(宥恕処置)を解説

電子保存義務化が延期!2年の猶予期間(宥恕処置)を解説

令和3年3月に可決された「電子帳簿保存法」改正が令和4年1月1日より施行される予定でしたが、企業側の電子化への対応の遅れなどを理由として、2年間の猶予期間が設けられました。今回はそもそも「電子帳簿保存法」とは何か、施行によって変更される点は何かについて解説します。

電子帳簿保存法の電子保存義務化に2年の猶予期間

法改正の内容を解説する前に、まずは「電子帳簿保存法=電帳法」について、その趣旨や改正の経緯について触れていきます。

そもそも電子帳簿保存法とは?

「電子帳簿保存法」は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」というのが正式名称です。

国税関係帳簿書類とは、法人税や消費税、所得税等の税法で、書面として保存が必要な書類のことです。具体的には、現金出納帳や仕入帳などの「帳簿」や請求書領収書などの「書類」があります。

これらの書類は会社の取引量が増えるにつれ膨大なものとなりますので、一定の要件を満たした場合に限り、帳簿書類を「磁気記録データ」として保存することを認めたのが「電子帳簿保存法」です。

電子保存の義務化とは?

「電子帳簿保存法」の開始当初は、電子データとして作成した帳簿や書類を国税関係帳簿書類として認める簡単なものでした。

その後、パソコンやインターネットの普及により帳簿書類を電子化するための環境が整ったことから電子取引情報の電子保存義務化につながりました。

電子化の対象となるのは大きく分けて次の2点に区分されます。

  • 帳簿書類の電子保存
  • 電子取引情報の電子保存

このうち2022年1月から電子保存が義務化されたのが「電子取引にかかる情報の電子保存」です。

電子取引を簡単に説明すると、従来は、メールに添付されていた注文書や請求書を出力し、書面で保存していれば国税関係帳簿書類の保存要件を満たすとされていました。しかし、2022年の法改正で添付資料を書面出力して保存するだけでは帳簿保存書類の要件を満たしていないものと判断されるようになりました。

添付ファイルを含めたメールによる電子取引の全てを「磁気的記録」に保存してはじめて、保存要件を満たすことになります。

猶予が生じたのは令和4年度税制改正大綱での宥恕処置から

2022年1月からの電子保存義務化で最も大きな影響を受けるのが、メールを使った電子取引やスキャンしたデータを磁気的保存する際の事務手続きでしょう。

例えばメールであれば、今までは添付されていた帳簿書類を紙ベースで出力し保存しておけば保存要件を満たしていました。しかし、今後はメールのファイルを「磁気的記録」として保存する必要があります。

しかも、保存要件を満たすためには磁気的記録に「日付」「金額」「取引先」の3つの項目を付して、すぐ検索できるようにしておかなければならないとの要件もあります。

また、スキャンした「磁気的記録」にタイムスタンプを付与するのであれば、インターネット環境や一般財団法人日本データ通信協会が認定した事業者との契約、専用のソフトなどが必要になります。

インターネット環境が整備され、電子化に明るい人員を多く抱えている大企業であれば今回の改正に対応することは容易かもしれません。しかし、家族経営の中小企業や個人事業者が電子帳票保存法の要件を満たすためには、知識や時間、費用の準備期間が不足しているとの指摘がありました。

令和4年度税制改正大綱での宥恕処置の具体的な内容は?

このような背景から令和4年度税制改正大綱で「電子帳簿保存法」の宥恕(ゆうじょ)措置(経過措置)が盛り込まれました。

令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に申告所得税及び法人税に係る保存義務者が 行う電子取引につき、納税地等の所轄税務署長が当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存をすることができなかったことについてやむを得ない事情があると認め、かつ、当該保存義務者が質問検査権に基づく当該電磁的記録の出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。)の提示又は提出の求めに応じることができるようにしている場合には、その保存要件にかかわらず、その電磁的記録の保存をすることができることとする経過措置を講ずる。

引用:令和4年度税制改正の大綱|国税庁

要約すると、「2022年(令和4年)1月以降は電磁的記録の保存要件を満たせない止むを得ない理由がある場合には従来通りの方法で処理してもこれを認める」というものです。

改正電子帳簿保存法は予定どおり施行されますが、「電磁的記録」を行う準備が間に合わない事業者にも配慮した形となっています。

猶予を受ける方法は?税務署へ事前の届け出が必要?

電子保存義務化を実施できない「止むを得ない理由」については、当初税務署への届出をした場合に限り宥恕措置の適用を認めるという方向でした。しかし、令和4年度税制改正大綱のただし書きに以下の文章が追加されています。

当該電磁的記録の保存要件への対応が困難な事業者の実情に配意し、引き続き保存義務者から納税地等の所轄税務署長への手続を要せずその出力書面等による保存を可能とするよう、運用上、適切に配慮することとする。

引用:令和4年度税制改正の大綱|国税庁

「電子化を実施できない止むを得ない理由」については、従来通り紙ベースでの資料呈示さえできれば届出をする必要はなくなりました。

令和5年度の税制改正による変更点

令和5年度の税制改正では、猶予措置について次のように変更されています。

  • 宥恕措置は、適用期限(令和5年12月31日)をもって廃止
  • 新たな猶予措置の整備

上述した宥恕措置は、令和5年12月31日で廃止されます。代わりに、令和6年1月1日以後に発生する電子取引データについては、以下の新たな猶予措置が整備されます。

令和6年1月1日以後に発生する電子取引データについて、次の要件をすべて満たす場合には「改ざん防⽌や検索機能など保存時に満たすべき要件」は不要となり、「電子取引データを単に保存しておくこと」ができます。

  • 保存時に満たすべき要件に従って電子取引データを保存することができなかったことについて、所轄税務署⻑が相当の理由があると認める場合(事前申請等は不要です。)
  • 税務調査等の際に、電子取引データの「ダウンロードの求め」及びその電子取引データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合」

引用:パンフレット(過去の主な改正を含む)|国税庁
「電子帳簿保存法の内容が改正されました~令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要~(令和5年4月)」

つまり、以前の宥恕措置に、電子取引データの「ダウンロードの求め」に応じる必要が追加されることになります。

猶予期間に電子保存義務化の準備を整えましょう!

宥恕措置は設けられたものの、帳簿書類や電子取引の「磁気的記録」義務化は避けられない状況です。与えられた2年間の猶予期間のうちに、電子化へ向けた準備を今から始める必要があります。「パソコンは苦手だから」「事務負担が増えるのは大変」という先入観をなくし、積極的に取り組んでいきましょう。

よくある質問

「電子帳簿保存法」いつから施行されましたか?

2022年(令和4年)1月1日から施行されました。詳しくはこちらをご覧ください。

「磁気的記録」の実施が困難な場合は?

2023年(令和5年)まで、および2024年(令和6年)から、それぞれ宥恕期間が設けられていますので、その間に準備する必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。


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