• 更新日 : 2025年2月20日

マネジメントアプローチとは?メリットやデメリット、セグメント情報の作成方法を解説

マネジメントアプローチとは、セグメント会計基準に登場する概念で、連結財務諸表を作成するにあたり、セグメントをどのように分けて作成するか、という場面で用いられるものです。国際的な会計の基準変化に合わせ、日本でもインダストリー・アプローチに代わって2010年度から採用されています。この記事では、マネジメントアプローチのメリット・デメリット、セグメント情報の作成方法を解説します。

マネジメントアプローチとは?

マネジメントアプローチとは、会社の経営上に必要な意思決定を行い、業績を評価するために各事業を種類ごとに分別する方法を基礎とする考え方です。セグメントを分けるにあたっては、企業の経営者が業績評価や資源配分などの意思決定を行う際にとっている企業グループの分け方と揃え、セグメントに表示する利益も経営者に報告される金額に基づくのが特徴です。

マネジメントアプローチの目的は、経営者と同様の視点から事業活動を検討し、今後のキャッシュ・フローや利益の予測精度を上げることです。「財務会計」と「管理会計」との整合性が高まることも期待でき、開示情報の信頼性の向上も見込めます。

マネジメントアプローチが採用された背景

従来は「インダストリー・アプローチ」という財務諸表を産業別・事業別にセグメントして開示する手法が採用されていました。IFRS(国際財務報告基準)と会計基準を統合すること(コンバージェンス)を背景に、セグメント情報の開示に関する会計基準が改正され、2010年4月1日以降よりマネジメントアプローチが採用されています。

アメリカでは1998年から、マネジメントアプローチを採用したセグメント情報の開示が行われていた歴史があります。かつてのアメリカでは、開示すべきセグメント区分の定義が不明確であったため、開示されているセグメントの数が少ないことや、単一セグメントとして報告する企業が多いなどの問題点が指摘されていました。マネジメントアプローチは、これらの問題を解消するための手法として採用されています。

国際財務報告基準(IFRS)においても、2009年1月1日からマネジメントアプローチを採用しました。国際会計の変化の流れに合わせ、日本でもマネジメントアプローチを採用することになったのです。

マネジメントアプローチ方式によるセグメント会計の必要性

セグメントとは、企業内部の財務情報を事業単位で区切ったものを指し、セグメント情報は事業単位に分析した情報のことです。企業が複数の事業を行ったり、製造会社と販売会社を分ける事業構造を採用したりする場合、本来であれば収益性を確認するのが困難です。セグメント情報を採用することにより、事業単位で分けられるため、収益性の開示が容易になります。

また、セグメント情報の開示には、マネジメントアプローチの手法が採用されており、以下の事項を開示する必要があります。

  • 報告セグメントの決定方法
  • 各報告セグメントに属する製品及びサービスの種類
  • 各報告セグメントの利益(又は損失)及び資産の額
  • 各報告セグメントの負債の額
  • 各報告セグメントの以下の項目による金額
    • 外部顧客への売上高
    • 事業セグメント間の内部売上高又は振替高
    • 減価償却費(のれんを除く無形固定資産に係る償却費を含む。)
    • のれんの償却額及び負ののれんの償却額
    • 受取利息及び支払利息
    • 持分法投資利益(又は損失)
    • 特別利益及び特別損失
    • 税金費用(法人税等及び法人税等調整額)
    • 上記8項目に含まれない重要な非資金損益項目
    • 持分法適用会社への投資額(当年度末残高)
    • 有形固定資産及び無形固定資産の増加額(当年度の投資額)
  • 測定方法
  • 合計額とこれに対応する財務諸表計上額との間の差異調整に関する情報

引用:企業会計基準第17号 セグメント情報等の開示に関する会計基準「セグメント情報の開示項目と測定方法」

マネジメントアプローチのメリット

マネジメントアプローチは、経営者の視点を財務報告に反映させることで、企業の実態をより正確に把握できます。本章では、マネジメントアプローチを採用するメリットを3つ紹介します。

経営者視点で企業を見ることができる

マネジメントアプローチでは、財務諸表利用者が経営者の視点で企業を見ることになります。そのため、経営者の行動を予測し、その予測をもとに企業の将来のキャッシュ・フローを評価できるようになります。

経営者の必要とする情報・経営管理に合わせた形で行われるため、より最適な評価が期待できるでしょう。

単一セグメントとして報告する企業が減少する

単一セグメントとして報告する企業が減少すれば、それだけ正しくセグメントを報告する企業が増えるため、セグメント情報の信頼性とアナリスト予想が向上します。マネジメントアプローチを導入する以前は、本来は複数セグメントがあるのに、単一セグメントとして報告する企業が多いことが問題視されていました。

実際に、マネジメントアプローチが導入された2010年度と2011年度を比較すると、596社が分類を変更しており、全企業の約3割がセグメント数を変えています。

客観性が高まる

客観性が高まることで、企業による恣意的なセグメント報告が改善されます。かつてのアメリカでも、開示すべきセグメントの区分が明確に定義づけられていなかったため、企業の恣意的な解釈による開示が行われていました。

マネジメントアプローチでは、事業セグメントを集約基準・質的基準に基づいて報告セグメントを決定するルールに再編されています。これによって客観性が高まり、より正確な情報を得やすくなりました。また、同時に企業間の報告の仕方によって数が変化することも防いでいます。

マネジメントアプローチのデメリット

マネジメントアプローチは、その利点とともにいくつかの課題も抱えています。本章では、マネジメントアプローチを採用するデメリットを3つ紹介します。

企業間の正確な比較が困難

マネジメントアプローチは、企業の組織構造に基づく情報であるため、企業間の比較ができません。従来のインダストリー・アプローチでは、企業間の比較可能性を確保することに重点がおかれ、開示すべきセグメント情報や、セグメンテーションの方法が規定されていました。

しかし、マネジメントアプローチでは、経営者が利用している区分や、自らが管理している区分に基づいてセグメント情報を開示します。内部の作成基準と一般に認められている会計基準とが大きく異なっている場合もあるでしょう。また、報告セグメントの決定方法は企業によって異なります。そのため、企業間で正確に比較するのは難しいのです。

こうしたデメリットに対応するため、「製品およびサービスに関する情報」「地域に関する情報」「主要な顧客に関する情報」といった補完的関連情報の開示が義務付けられています。

同一企業の年度間の正確な比較が困難

セグメント情報は重要な情報源であり、時系列で比較することも経営の根幹に関わる重要な分析となります。しかし、マネジメントアプローチにおいて、セグメントは量的基準に基づいて決定されることから、事業の推移によってセグメントの範囲が変わることがあります。

もし、セグメントの範囲が前年度から変わってしまった場合、比較が難しくなるのです。正しく比較するのであれば、変更された当年度の報告セグメント区分に合わせて、作成し直した前年度と比較する必要があります。

内部情報の開示が外部に漏れるリスクがある

内部的に利用されている財務情報をベースに情報開示をするため、外部に機密情報が漏れるリスクがあります。競合や顧客との価格交渉上不利となり、企業の事業活動の障害となる可能性もあるでしょう。

ただし、企業の競争相手の多くは、すでに財務諸表の情報よりも詳細な情報を入手している場合もあります。そのため、マネジメントアプローチによるセグメント情報の開示が、当該企業の事業活動の障害になることは少ないと言えるでしょう。

マネジメントアプローチ方式によるセグメント情報の作成方法

マネジメントアプローチ方式によるセグメント情報の作成は、一連の体系的なプロセスを通じて行われます。本章では、このプロセスの主要なステップと重要な考慮事項について詳しく説明します。

セグメントの識別

セグメント情報を作成するにあたり、まずはセグメントの識別から行います。以下の要件にすべて該当するものを事業セグメントとして、識別しましょう。

  • 収益を稼得し、費用が発生する事業活動に関わるもの
  • 企業の最高経営意思決定機関が、当該構成単位に配分すべき資源に関する意思決定を行い、その業績を評価するために、その経営成績を定期的に検討するもの
  • 分離された財務情報を入手できるもの

引用:企業会計基準第17号 セグメント情報等の開示に関する会計基準「セグメント情報の開示」

上記の要件を満たす区分方法が複数ある場合は、事業活動の特徴や、管理者の有無などに基づいて、区分方法を決定してください。

セグメント情報の範囲と基準の設定

セグメントの識別ができたら、集約基準に沿って集約し、量的基準に沿って報告セグメントを決定します。

以下の要件をすべて満たす場合は、複数の事業セグメントを1つの事業セグメントに集約できます。

  • 当該事業セグメントを集約することが、セグメント情報を開示する基本原則と整合していること
  • 当該事業セグメントの経済的特徴が概ね類似していること
  • 当該事業セグメントの次のすべての要素が概ね類似していること
    • 製品及びサービスの内容
    • 製品の製造方法又は製造過程、サービスの提供方法
    • 製品及びサービスを販売する市場又は顧客の種類
    • 製品及びサービスの販売方法
    • 銀行、保険、公益事業等のような業種に特有の規制環境

​​引用:企業会計基準第17号 セグメント情報等の開示に関する会計基準「集約基準」

また、以下のいずれかの量的基準を満たすセグメントは、報告セグメントとして決定しましょう。

  • 売上高がすべての事業セグメントの売上高の合計額の 10%以上であること
  • 利益又は損失の絶対値が、利益の生じているすべての事業セグメントの利益の合計額、又は損失の生じているすべての事業セグメントの損失の合計額の絶対値のいずれか大きい額の10%以上であること
  • 資産が、すべての事業セグメントの資産の合計額の10%以上であること

引用:企業会計基準第17号 セグメント情報等の開示に関する会計基準「量的基準」

情報の収集と計算

次に、表を用いて情報を記載し、計算していきます。以下のとおり横軸に「報告セグメント」、縦軸に売上をはじめとした「財務情報」を記載するのが一般的です。

(単位:百万円)

自動車部品ソフトウェアその他連結財務諸表計上額
売上高5,0008,0002,00015,000

また、異なるセグメント間で取引がある場合は、別途考慮する必要があります。「セグメント内取引」と「セグメント間取引」を集計し、それぞれの財務情報から引くことで、外部との取引高が算出されます。

監査とレビュー

最後に、監査人がセグメント情報をレビューします。監査人は、主に以下の方法によって当該セグメント情報をレビューします。

  • セグメント情報を決定する際に、経営者が用いた方法や手順によって作成される情報が、適用される財務報告の枠組みに準拠した開示となり得るかどうかを評価する
  • 適切な場合には、当該方法や手順の適用状況を検証する
  • 状況に応じて、分析的手続又はその他の監査手続を実施する

マネジメントアプローチを活用してセグメント情報を開示しよう

マネジメントアプローチは、経営者視点で企業を見ることが可能になったり、客観性が高まることでより正確なセグメント情報を開示できたりする手法です。企業間や年度間の比較が困難であったり、内部情報が漏れるリスクがあったりするデメリットはあるものの、従来のインダストリー・アプローチよりも有用な情報を提供できるとして日本でも導入されています。

セグメント情報の作成方法を考慮しながら、マネジメントアプローチを活用し、より正確な企業情報を開示できるようにしましょう。


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