- 更新日 : 2024年8月8日
手許商品区分法の仕訳と会計処理をわかりやすく解説
手許商品区分法は手許にある商品とない商品を区分して処理する方法です。受託者に商品の販売を任せる委託販売や、試用期間を設けてから販売につなげる試用販売のときに用いられます。
手許商品区分法の会計処理は、販売原価を算定するタイミングによって、その都度法と期末商品一括法に分かれるのが特徴です。ここでは、その都度法と期末商品一括法における仕訳のやり方を紹介します。
手許商品区分法とは
手許商品区分法は、手元にある商品と手元にない商品を別の勘定で処理する仕訳方法です。手許商品区分法の会計処理は、その都度法と期末一括法の2種類があります。
- その都度法:商品が販売されたタイミングで、その都度、売上原価を振り替える方法
- 期末一括法:当期販売分の売上原価を、期末に一括して振り替える方法
売上原価は売れた商品の仕入れに要した費用のことで、通常は販売時点で原価を計上します。その都度法と期末一括法では、この原価を認識するタイミングが異なる点が特徴です。
手許商品区分法は、商品を一度預けて取引を行う委託販売や試用販売といった特殊商品売買に関係があります。特殊商品売買は決して特殊な商品を売買するのではなく、取引の形態が一般の販売とは異なるという意味を持ちます。
特殊商品売買について詳しく知りたい方は、次のページをご覧ください。
その都度法の仕訳・会計処理
その都度法は、商品を受託者に積送する都度、その原価を「積送品」勘定に振り分ける方法です。受託者が商品を販売した時、もしくは、仕切精算書が到達した時に、売上収益の計上とともに「積送品」を「仕入」勘定に振り戻します。
「商品仕入時」→「商品販売時(通常販売)」→「商品積送時(委託販売)」→「販売時、もしくは仕切精算書の送付時」→「決算時」の各段階の仕訳を紹介します。
- 商品仕入時
- 商品販売時(通常販売)
- 商品積送時(委託販売)
- 販売時、もしくは仕切精算書の送付時
- 決算整理仕訳
例)20万円の商品を掛けで仕入れた。
例)仕入れた商品が15万円で売れた。
例)C商店に販売を委託するため、5万円分の商品を発送した。
手元を離れる委託販売の商品を区分するため、別々の勘定項目を割り当てます。返品があった場合、一度手放した商品が戻ってくると捉えて、「積送品」から「仕入」勘定へ振り戻します。
仕切精算書は委託した商品が販売されたときに、受託者から委託元へ送る書類です。売上金額や受託者が立て替えた費用、販売手数料などが記載されています。
例)積送品が販売され、委託先から仕切精算書が送られてきた。積送品は20万円で販売された。
販売を委託していた積送品の売上を計上するとともに、販売分の原価を計算し、「積送品」から「仕入」勘定へと振り戻します。この売上原価の仕訳を行うタイミングが、期末一括法とは違うのです。
販売分の売上原価は、売上に委託原価率を乗じて算出します(今回は20%)。委託原価率は販売した委託品の売上と原価の比率です。
商品販売時と仕切精算書の到達時、どちらをもって売上発生のタイミングとみなすかですが、原則は受託者が委託販売品を販売した時点です。
ただし、例外的処理も認められており、仕切精算書を販売の都度送付しているときに限って、書類の到達時に収益を認識しても良いとされています。この例外的処理によって、決算中に遅れて仕切精算書が到着したときをはじめ、柔軟な会計処理が可能です。
今まで別々に処理していた、通常販売と委託販売分を一括で処理するための決算整理仕訳を行います。通常販売では期首手許商品原価を「繰越商品」から「仕入」勘定へ、期末手許商品の原価を「繰越商品」から「仕入」勘定へと振り替えましょう。
その都度法では、商品販売時に都度、売上原価の算定をしています。このため、決算時に改めて売上原価の計算をしなくて問題ありません。
例)決算整理仕訳として期首手許商品残高5万円を仕入勘定へ、期末手許商品残高8万円を繰越商品へ振り返る
期末一括法の仕訳・会計処理
期末一括法は、売上原価を期末に一括して仕入勘定に振り替える方法です。期首、期中(仕入れ、積送時、受託販売時)、決算時の仕訳を具体例も出して解説します。
- 商品仕入時
- 商品販売時(通常販売)
- 商品積送時(委託販売)
- 販売時、もしくは仕切精算書の送付時
- 決算整理仕訳
例)20万円の商品を掛けで仕入れた。
例)仕入れた商品が15万円で売れた。
例)C商店に販売を委託するため、5万円分の商品を発送した。
例)積送品が販売され、委託先から仕切精算書が送られてきた。積送品は20万円で販売された。
その都度法と異なり、このタイミングでは販売分の売上原価の仕訳は行いません。
一般販売と委託販売の売上原価を一括して処理するための決算整理仕訳を実施します。一般販売は、その都度法と同様、期首手許商品の残高を「繰越商品」から「仕入」へ、期末手許商品の原価を「仕入」から「繰越商品」へ振り替えましょう。
委託販売は、期首積送品原価と当期積送品の原価を「積送品」勘定から「仕入勘定」へと振り替え、期末積送品原価を「仕入」→「積送品」へと移します。
例)決算整理仕訳として期首手許商品残高5万円を仕入勘定へ、期末手許商品8万円を繰越商品へ振り返る。
加えて、その都度法では行わなくてもよかった販売原価の「仕入」勘定への振り替えも行う必要があります。
販売原価の算定タイミングが異なることにより、決算整理前の「仕入」勘定および「積送品」勘定の残高にも違いが現れます。
手許商品区分法の会計処理はその都度法と期末一括法の2種類
その都度法は、委託した商品の販売原価を販売ごとに、期末一括法は期末に一括して処理する方法です。期末一括法の場合、その都度売上原価を算定していないため、決算時点で必要な仕訳の数が多くなります。
その都度法と期末一括法のどちらを使用するかによって、決算整理前の「仕入」勘定と「積送品」勘定の残高が異なります。会計処理上は販売した積送品の原価を計上するタイミングが違うだけだと覚えておけば、問題ないでしょう。
よくある質問
その都度法とは?
販売分の売上原価への振替仕訳を販売時に都度、行う方法である。 詳しくはこちらをご覧ください。
期末一括法とは?
販売分の売上原価への振替仕訳を期末時にまとめて実施する方法である。 詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
繰越利益剰余金とは?求め方や仕訳例、マイナスになるケースを解説
繰越利益剰余金とは、株主への配当額にも関わる勘定科目です。過去の事業年度からの未分配利益で、法定準備金や配当後の残余です。貸借対照表の自己資本欄に記載され、企業の財務安定性や将来の投資資源として重要です。ここではこの繰越利益剰余金が貸借対照…
詳しくみる決算整理仕訳とは?やり方やポイントをわかりやすく解説!
企業は年に1回決算をする必要があり、決算作業の一つに決算整理仕訳の作成があります。 決算整理仕訳は、簿記のやり方に従って、減価償却費の計上や貸倒引当金の繰入、売上原価の計算・仕訳など期中では行わない処理を行います。 また、似ている言葉で決算…
詳しくみる固定費と変動費とは?代表的な種類や削減方法を解説
事業活動で発生するコストを区分する方法として、固定費と変動費に分ける方法があります。固定費と変動費の把握には、どのようなメリットがあるのでしょうか。この記事では、固定費と変動費の一覧の他、固定費と変動費を区分する理由、分け方や関連する指標、…
詳しくみる商標権の会計処理や仕訳方法まとめ
商標権とは商品やサービスに商標となる目印をつけて独占できる権利です。商標権を得ると、自社の商品に使われるデザインや文字などを保護できます。 商標登録をする際に支払った費用は、固定資産として会計処理をします。仕訳は商標権の出願前から更新時まで…
詳しくみる製造原価と売上原価との違い、内訳や計算方法、報告書について解説
製造原価とは、製品を作る際にかかった原価の合計を表しますが、英語では”Manufacturing cost”などといい、また当期製品製造原価となると英語では”Cost of products manufactured”などと表現するようです…
詳しくみる積送品とは?仕訳から解説
積送品とは委託販売のために発送した商品のことです。委託販売の際に積送品として振り替えをすることによって、商品在庫の管理や委託先への発送状況などの確認ができます。 そこで今回は、積送品における概要について紹介し、実際にどのような場面で仕訳をす…
詳しくみる