• 更新日 : 2021年6月10日

決算での利益調整は違法になる?ならない?

決算での利益調整は違法になる?ならない?

利益調整というと、利益操作や不正などの粉飾決算をイメージすることが多いと思います。また、不正と利益調整は似ていることもあり、区別がつきにくい側面があります。

しかし、利益調整は合法的に利益を操作することであり、うまく使うことで多くのメリットを得ることもできますが、デメリットもあります。この記事では、利益調整についての基本的なことから実践的な内容を説明していきます。

利益調整とは

利益調整とは、経営者が合法的に利益を操作することです。
厳密な定義があるわけではありませんが、利益調整はあくまでも合法的で経営者の裁量の範囲内で行われます。

また、利益調整は主に以下のような目的があります。

  • 業績やノルマの達成
  • 節税
  • 業績悪化を回避する
  • その他の規制や法律などの回避

利益調整の目的は、利益を多く、または少なくすることによって得られるメリットを享受することです。例えば、上場企業では株価連動型で取締役の報酬が決まることがあります。この場合は、利益を多くみせることで株価が上昇し、結果として取締役の報酬が増額されます。

利益調整のメリット・デメリット

利益調整のメリットは、利益調整をしようとする年度の利益をある程度操作できることです。
デメリットとしては、利益を操作した翌年度以降は利益調整の反動がくる点に注意が必要です。

例えば、利益を多くする利益調整を行った場合は、翌年度以降にその反動として利益が少なくなります。詳しくは後述しますが、このような反動があることも視野に入れる必要があります。

利益調整は違法になる?

利益調整が違法と判断されれば、一般的に粉飾決算や利益操作などの不正と呼ばれることがあります。
ただし、どこまでが合法で、どこからが違法かという基準はありません。
違法か合法かはケースバイケースで異なり、専門家でも判断が難しいものです。

また、会計操作の不正と呼ばれる事例は、以下の法令違反になることがあります。
利益調整の範囲を超えると、同じような法令違反になる可能性が高くなるでしょう。

会社であれば会社法が適用され、基本は法人税法に従って法人税を納めなければいけません。さらに、上場企業であれば金融商品取引法が適用されます。

その他の法律は、業種によって適用される法律のことです。
例えば、医薬品を売る場合は薬機法(旧薬事法)が適用されたり、食品を提供する場合は食品衛生法が適用されたりします。
利益調整の方法にもよりますが、業種独特の法律違反になることもあります。

また、公認会計士による監査を受ける場合は、会計基準を守らなければいけません。会計基準を遵守していないと判断されれば、公認会計士の監査をパスすることができず、法令違反の罰則でなくとも、なんらかの不利益を被る可能性が高いでしょう。

利益調整と不正会計の違い

利益調整と不正会計の違いは、紙一重のこともあり、方法や目的が同じになる場合もあります。実質的には、目的や方法などの中身で違いを判断することが必要になります。

ただ、不正会計の1つに架空計上という方法があります。
架空計上とは、事実が無いことに対して収益や費用を計上したり、水増ししたりすることを言います。架空計上を行うと、利益調整ではなく不正会計になります。

利益調整の手法

利益調整の手法には「会計的利益調整」と「実体的利益調整」の2つに大別されます。
それぞれ説明していきます。

会計的利益調整

会計的利益調整とは、会計基準の中で認められた会計方針や見積もり方法などの範囲で、利益調整を行う方法です。

この方法の特徴は、会計数値を操作するだけであり、実際の取引や資金の収支を伴わない点です。法人税では基本的に確定していない損益は認められないため、税務上否認されることが大半です。

会計的利益調整は具体的に以下があります。

など

上記を大別すると、会計方針の選択と会計上の見積もりに分けることができます。

まず、会計方針の選択は、減価償却方法評価方法があります。
具体的には、減価償却方法を選択するときに、定額法か定率法かを選択することになります。
定率法を選択すると、始めの年度は費用を多く計上でき、後の年度では費用が小さくなります。これに対して定額法を選択すると、毎期一定の費用が計上されます。
始めの年度の利益を小さくしたい場合は、定率法を選択することで利益を小さくすることができます。

次に、会計上の見積もりは、引当金減損繰延資産などがあります。
これらの特徴は、そもそも確定した数値が無いため、将来の予測や経営者の判断が伴います。

具体例として、貸倒引当金で説明します。
貸倒引当金をどのぐらい設定するかは、経営者の判断が入る要素があり、利益を小さくしたい場合は、引当金を多めに設定することがあります。

実体的利益調整

実体的利益調整とは、実際の取引や資金の収支を伴って利益を調整する方法です。
この方法は実際の取引や資金の収支が伴うため、確定した損益になることが多く、法人税でも否認されにくい点が特徴です。

実体的利益調整は具体的に以下のようなものがあります。

  • 研究開発費を増やす
  • 不要な資産を除却・売却する
  • 得意先に取引量を増やしてもらう

など

実体的利益調整というと、難しく操作するような印象かもしれませんが、これは会社ではよくある行動です。
例えば、利益が多く出ているため、消耗品費交際費を多く支出することなどがあります。

利益調整を行う際の注意点やポイント

利益調整を行う際の注意点を説明していきます。
最低限以下のことは理解しておきましょう。

会計基準と税法

節税を目的とした利益調整を行う場合は、会計基準と税法(主に法人税)の利益計算が違う点に注意しましょう。

会計基準を遵守して計上した収益や費用は、必ずしも税務上で収益や費用になりません。会計的利益調整でも少し説明しましたが、税務上は確定した収益または費用でなければ、基本的に否認され、所得の計算に影響しません。

節税を目的とする場合は、税務上でも費用(損金)として認められるかどうかを確認しましょう。

会計方針の変更は簡単にできない

会計的利益調整の手法として、会計方針の選択があることは説明しました。
ここでの注意点は、会計方針は簡単に変更できない点です。
会計方針の変更を行うには、会計基準で合理的な理由が必要になります。
また、税務上も書類を届け出る必要があり、最低限その方針で数年間は会計を行うことが必要です。

長い期間では変わらない

利益調整の特徴でもありますが、長い期間で利益を計算した場合はトータルで利益があまり変わりません。

利益調整は利益を多く、または少なくすることですが、その反動があるため、長い期間でみると相殺されます。

具体例として、減価償却方法の定額法と定率法を比べてみると以下の計算になります。

例:90万円の機械を3年で償却した場合

1年目2年目3年目合計
定額法30万円30万円30万円90万円
定率法50万円30万円10万円90万円

上記は、1年目に利益を小さくするために定率法を選択した結果、利益を20万円小さくすることができました。しかし、3年目は1年目の反動で利益が20万円増加します。

実体的利益調整が有効

会計的利益調整は、会計基準や税法が改訂されるに従って、利益調整できる範囲が狭くなってきています。その中でも、経営者の判断が伴う見積もりや会計方針の選択が残されていますが、合理的な判断であることが要求され、厳しいものがあります。

それに対して、実体的利益調整は取引や事実があれば可能なため、会計的利益調整よりも行いやすいです。事業計画の上で必要な取引などであれば、実体的利益調整になりますが、数字のために事実を作るようになると、不正会計の部類になるかもしれません。

よくある質問

利益調整とは?

経営者が合法的に利益を操作することです。詳しくはこちらをご覧ください。

利益調整は違法になる?

違法か合法かはケースバイケースで異なり、専門家でも判断が難しいものです。詳しくはこちらをご覧ください。

利益調整を行う際の注意点やポイントは?

会計基準と税法の違いや、会計方針の変更は簡単にできないこと、長い期間では変わらないことなどがあります。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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