- 作成日 : 2025年3月3日
償却保証額とは?減価償却の定率法との関係や計算方法をわかりやすく解説
償却保証額は、定率法の減価償却で最低限確保すべき基準額です。定率法はもうひとつの減価償却の手法である定額法と比較すると計算が複雑になりやすいため、償却保証額などについてわかりにくさを感じることもあるかもしれません。
本記事では、償却保証額の算定方法や定率法との関係を中心に、会計処理上の重要ポイントをわかりやすく解説します。
目次
償却保証額とは
償却保証額は、定率法で減価償却を行う際に最低限確保する必要がある減価償却費の基準額です。減価償却資産の取得価額に、その資産の耐用年数に応じた保証率をかけ合わせた金額を指します。この制度は、定率法による償却額が極端に小さくなることを防ぐために設けられており、毎年の償却額がこの保証額を下回った時点で計算方法が切り替わります。
通常の定率法計算(未償却残高×償却率)による償却額が償却保証額を下回った年度以降は、その時点での未償却残高(改定取得価額)に改定償却率を乗じる方式に移行しなければなりません。この切り替えにより、それ以降は毎年同額の償却費が計上される仕組みです。
詳しくは後述しますが、減価償却方法のうち定率法を採用している場合のみ、この償却保証額が関係します。定額法の場合は、償却保証額は無関係です。
償却保証額と減価償却の関係
定率法による減価償却を理解するうえで、まず減価償却そのものの意義を押さえることが大切です。さらに、定額法と定率法の違いを踏まえると、なぜ償却保証額が必要とされるのかが明確になるでしょう。
そもそも減価償却とは
減価償却とは、建物や機械、車両などの固定資産の価値が時間の経過や使用によって徐々に下がると考え、その費用を法定耐用年数に応じて計上する会計処理です。
たとえば、取得価額100万円、法定耐用年数4年の減価償却資産の場合、初年度に全額を経費にするのではなく、各年度に振り分けて計上することで、資産の劣化を経済的に反映します。こうすることで、各年度の収益と費用の関係が正確に表され、企業の財務状況がより実態に近いものになります。
なお、固定資産はすべて減価償却の対象になるわけではありません。取得価額10万円未満の資産や、使用可能年数は1年未満の資産は例外です。また、土地や骨とう品などの時間の経過によって価値が落ちることがないものは、減価償却の対象にはなりません。
減価償却の定額法と定率法の違い
減価償却には、大きく分けて定額法と定率法の2種類の方法があります。
定額法
定額法は、毎年同額の減価償却費を計上する方法です。取得価額を法定耐用年数で均等に割って求めます。計算がシンプルで、予算管理もしやすいというメリットがあり、個人事業主においては一般的に定額法が使用されます。
なお法人・個人事業主ともに建物や建物附属設備、構築物、ソフトウェアは定額法で減価償却しなければなりません。法人は、それ以外の資産について配下で述べる定率法を使用するのが原則です。
定率法
定率法は、毎期の未償却残高(取得価額から過去に償却した分を差し引いた残高)に対して一定の償却率をかけ合わせる方法です。初年度の償却額が大きく、年を追うごとに償却費が少なくなっていく特徴があります。
企業が早期に費用を計上したい場合や、設備投資に対する減価償却費を前倒しで設定する狙いがある場合などに選択されることが多い方法です。
定率法における償却保証額とは
定率法において、償却保証額は減価償却費の下限を定める基準です。
定率法で減価償却を進めていくと、未償却残高が年々小さくなるため、ある時点からは実際に計算される減価償却費が非常に少額になるケースがあります。極端に小さい償却費しか計上されないと、法令が想定している固定資産の価値消耗を十分に費用化できない可能性が出てくるのです。
そこで、償却保証額という下限(最低限の減価償却費)を設定し、一定の時期に到達したら償却保証額を下回らないように計算方法を切り替えるしくみが導入されています。定率法で算出した減価償却費(調整前償却額)が償却保証額を下回った段階で改定償却率を用いた計算に移行し、残存する未償却残高を加速度的に費用化していく流れになります。
より詳しい減価償却の考え方については、こちらの記事をご覧ください。
償却保証額の計算方法
償却保証額は、減価償却資産の取得価額に当該資産の耐用年数に応じた保証率を掛け合わせて求めた金額です。償却保証額の計算は、以下の計算式で求められます。
保証率は、資産の種類や耐用年数ごとに異なります。
減価償却費が償却保証額を下回った場合
定率法の通常計算では、毎期の未償却残高に一定の償却率をかけて減価償却費(調整前償却額)を算定します。しかし、ある年度においてその金額が償却保証額を下回ったら、そこで計算方法を切り替えなければなりません。切り替え後の計算式は、以下のとおりです。
改定取得価額は「未償却残高×定率法の償却率」が初めて償却保証額を下回った年の期首未償却残高を指します。
切り替えのタイミングは、多くの場合、購入後3年目や4年目など耐用年数の後半で生じます。
耐用年数別の償却率・保証率・償却保証額の一覧
以下に、定率法における償却率と保証率、改定償却率を表にまとめたものです。例として、取得価額を100万円と想定した場合の償却保証額も加えました。
耐用年数 | 定率法の償却率 | 改定償却率 | 保証率 | 償却保証額(万円) |
---|---|---|---|---|
3年 | 0.667 | 1.000 | 0.11089 | 11.089 |
4年 | 0.500 | 1.000 | 0.12499 | 12.499 |
5年 | 0.400 | 0.500 | 0.10800 | 10.800 |
6年 | 0.333 | 0.334 | 0.09911 | 9.911 |
7年 | 0.286 | 0.334 | 0.08680 | 8.680 |
8年 | 0.250 | 0.334 | 0.7909 | 7.909 |
9年 | 0.222 | 0.250 | 0.07126 | 7.126 |
10年 | 0.200 | 0.250 | 0.06552 | 6.552 |
定率法では償却保証額についての理解が必要
定率法を用いる場合、初年度から大きく減価償却費を計上できる一方、耐用年数後半には償却額が急激に減少するリスクがあります。
そこで償却保証額という下限を設けることで、適切な時期に改定償却率を用いた追加償却を行い、最終的に固定資産の価値を適切に費用化することが大切です。税務上も会計上も正確な損益計算と資産管理が行いやすくなりますが、計算は定額法と比較するとかなり複雑になるため、会計ソフトを使用したり、専門家に相談したりすることも検討するとよいでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
屋根の耐用年数と減価償却費計算を解説
減価償却とは、時間とともに価値が減っていくという考え方のもと、会計年度ごとに分割して経費を計上する方法です。この記事では、個人事業主や法人が、事務所として使用している建物の屋根改修を行った場合、どのように減価償却費を計算し、どう仕訳するのか…
詳しくみるプリンターや複合機の減価償却を解説!勘定科目は?
プリンターや複合機は減価償却が可能な資産です。法定耐用年数は5年のため、通常であれば5年で減価償却しますが、プリンターや複合機の価格によっては減価償却の年数が変わることもあります。減価償却の方法や使用する勘定科目についてわかりやすく解説しま…
詳しくみる圧縮記帳の仕組みとは?要件や仕訳、限度額を学ぶ
圧縮記帳とは、一定の要件のもとで固定資産を取得した場合の「課税の繰り延べ」です。圧縮記帳について、適用要件、限度額、直接減額方式や積立金方式といった処理方法から具体的な仕訳までを簡潔に解説します。 圧縮記帳とは 圧縮記帳とは、本来は課税所得…
詳しくみるオペレーティング・リースの税務上の取扱い・税務調査のポイントについて解説!
リース取引を行う際には、税務上の手続きにも注意が必要です。特に、オペレーティング・リースの場合には、新リース会計基準導入によって、会計と税務では取扱いに差異が生じるため、税務申告の複雑化が予想されます。 ここでは、オペレーティング・リースの…
詳しくみる外壁塗装の仕訳に使える勘定科目と減価償却まとめ
建物の外壁の劣化や建物の改装などで外壁塗装を施すこともあります。外壁塗装は必要経費として費用に計上できるのではと思われるかもしれませんが、資本的支出として資産計上や減価償却が必要になるケースもありますので注意が必要です。この記事では、外壁塗…
詳しくみる軽トラは減価償却できる?耐用年数や勘定科目も解説
軽トラの取得金額が10万円未満のときは、一括で減価償却できます。しかし取得金額が10万円以上であるときや少額減価償却資産の特例が適用されないとき、一括償却資産に該当しないときは、法定耐用年数をもとに何年かに分けて減価償却し、経費計上します。…
詳しくみる