- 更新日 : 2024年10月17日
本決算とは?決算業務における立ち位置や必要な書類、手順を解説
本決算とは、企業が1事業年度の経営成績と財政状態を示す重要な会計プロセスです。本決算の目的や時期、過程、必要書類、中間決算との違いなど、決算業務の重要な要素を理解することは経理担当者にとって欠かせません。
この記事では、本決算の基本的な概念から実務的な手順まで、企業の決算業務における本決算の立ち位置を詳しく解説します。
目次
本決算とは
本決算とは、企業が1事業年度の経営成績をまとめ、財務状況を報告するものです。一般的に事業年度末に実施され、企業の経営成績と財政状態を透明にすることが求められます。
本決算の作業は、通常、会計処理の締切り、帳簿の精査、財務諸表の作成、監査、株主総会での報告という順序で進められ、中間決算や四半期決算と比べて、本決算はより包括的で、企業の全体的な業績を反映します。本決算と他の決算と比較したものが次の表です。
決算種類 | 頻度 | 目的 |
---|---|---|
本決算 | 年1回 | 1年間の総括的な報告 |
中間決算 | 半期ごと | 中間期の経営状況確認 |
四半期決算 | 3ヶ月ごと | 3ヶ月ごとの経営状況確認 |
本決算と中間決算の違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。
本決算の最大の目的は、財務状況を正確に反映し、株主や投資家、取引先などのステークホルダーに対して重要な情報を提供することです。また、本決算書類には、貸借対照表や損益計算書、キャッシュ・フロー計算書などが含まれます。そのため、会社法や金融商品取引法、法人税法などの法的要件を満たすために不可欠な手続きといえるでしょう。
このように、本決算は、企業経営において信頼性と透明性を確保するための基盤です。
本決算はすべての企業に義務付けられている
会社の本決算および税務署への決算報告書の届出は、会社法、金融商品取引法、法人税法に基づき、すべての法人企業に義務付けられており、企業の規模や業種に関わらず、法人格を持つすべての企業は本決算を行う必要があります。
本決算を怠ると、法的要件を満たさないため、罰金や行政処分などのペナルティを受ける可能性や、取引先や金融機関との信頼関係にも悪影響を及ぼす恐れがあるため、適切かつ正確に対応することが重要です。特に上場企業においては、金融商品取引法に基づき、財務諸表を含む有価証券報告書を金融庁に提出することが必要です。
これらの書類は、企業の経営状態を把握するために重要であり、貸借対照表や損益計算書、キャッシュ・フロー計算書などが含まれます。企業の資金調達や運用、利益の生成メカニズム、現金の流れを把握するために用いられることが一般的です。
決算報告書に含めるべき書類は?
本決算では、以下の書類を作成する必要があります。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 株主資本等変動計算書
- キャッシュ・フロー計算書(上場会社の場合)
- 注記表
各書類の内容を、それぞれ簡単に見ていきましょう。
貸借対照表(B/S)
貸借対照表とは、企業の資産と負債、純資産を一定時点で示す財務諸表です。主な項目としては、資産が現金や売掛金、棚卸資産など、負債は借入金や買掛金などが該当します。純資産は株主資本を示します。
貸借対照表は、企業の財務状況を把握するための基盤となり、財務分析において企業の安全性や流動性を評価する上で不可欠です。
詳細については、以下のページをご覧ください。
損益計算書(P/L)
損益計算書は、一定期間の企業の経営成績を示す財務諸表です。収益と費用の関係を明らかにし、最終的な企業の利益を算出します。
売上高から始まり、売上原価、販売費及び一般管理費を差し引いて営業利益を算出し、さらに営業外収益・費用や特別損益を加減して当期純利益を導きます。損益計算書を通じて、企業の収益力と収益性を評価することが可能です。
詳細については、以下のページをご覧ください。
キャッシュ・フロー計算書
キャッシュ・フロー計算書は、企業の現金の流れを示す財務諸表です。営業活動と投資活動、財務活動の3つの区分で現金の増減を明らかにします。
営業活動とは本業での資金の動き、投資活動は設備投資などの長期的な資金の動き、財務活動は資金調達や返済に関する動きを示すものです。この計算書は企業の資金繰りの状況を把握し、将来の資金計画を立てる上で重要な役割を果たします。
詳細は以下のページをご覧ください。
株主資本等変動計算書
株主資本等変動計算書は、一会計期間の純資産の変動を示す財務諸表です。株主資本(資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式)の変動を記載し、増資、配当、当期純利益などの要因を明らかにします。
さらに、その他の包括利益累計額や新株予約権の変動も示すことで、純資産の全体的な変動を包括的に表現します。この計算書は企業の資本政策や株主還元の状況を理解する上で重要な役割を果たすため、詳細な分析には不可欠な資料です。
詳細は以下のページをご覧ください。
決算報告書を作成する手順
決算報告書の作成は、以下の手順で行います。
- 決算準備:必要資料の収集と期中取引の確認
- 決算整理仕訳:期末時点での適切な会計処理
- 財務諸表の作成:貸借対照表・損益計算書などの作成
- 監査と承認:内部監査・外部監査、取締役会・株主総会での承認
この流れに沿って、正確かつ効率的に決算報告書を作成することが重要です。各段階で細心の注意を払い、適切な会計基準に従って作業を進め、信頼性の高い財務情報を提供します。
決算準備
決算準備は、正確な決算報告書作成の基礎となる重要なステップです。
まず、帳簿、請求書、領収書、銀行取引明細、在庫リスト、固定資産台帳など、すべての財務関連文書をデジタルデータと紙媒体双方を漏れなく収集します。次に、売上や経費の計上漏れ、誤記入、不適切な勘定科目の使用などがないか、期中の全取引が適切に記録されているかを精査してください。
スケジュール管理も決算準備の重要な要素です。決算日から逆算して、資料収集、取引確認、各種償却計算など、各作業の締め切りを明確に設定し、関係部署と連携しながら作業を進めます。適切な準備が必要な作業を円滑に進め、余裕を持った決算対応を心がける必要があります。
決算整理仕訳
決算整理仕訳は、財務諸表の正確性を確保するための重要なプロセスです。主な決算整理仕訳には以下のようなものがあります。
減価償却費の計上は、固定資産の価値減少を反映し、引当金の設定は将来の費用や損失に備えるものです。
未収収益・未払費用の計上は、実際の事業活動の成果とお金の出入りの認識のずれを修正し、棚卸資産の評価は在庫の実態を正確に反映します。これらの仕訳によって各勘定科目の残高を適切に調整し、期間損益を正確に算出します。
正確性を確保するために、複数の担当者によるチェックや、過去の仕訳との比較を行うことが効果的です。
詳細については、以下のページをご参照ください。
財務諸表の作成
財務諸表の作成は、決算プロセスの中で最も重要な段階です。
ここでは、企業の財政状態と経営成績を明確に示す貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書などの主要な財務諸表を作成します。財務諸表作成の基本原則として、正確性(数値の正確さ)、網羅性(重要な情報の漏れがない)、一貫性(会計方針の継続的な適用)を厳守します。また、各財務諸表間の整合性を確認し、論理的な一貫性を確保することが不可欠です。
注記事項や附属明細書も重要な要素です。これらは財務諸表の理解を深め、詳細な情報を提供するもので、重要な会計方針や偶発的債務などの情報を記載します。
慎重かつ正確な財務諸表の作成は、ステークホルダーからの信頼を築く基盤となります。
監査と承認
監査と承認は、決算報告書の信頼性と透明性を確保する上で不可欠です。
内部監査では社内監査部門が、外部監査では公認会計士や監査法人が、財務諸表の正確性や内部統制の有効性を検証します。これらの監査に対し、証憑書類の整理や会計処理の根拠の明確化など、十分な準備を行うことが必要です。
監査後は、取締役会での承認を経て、最終的に株主総会で決算報告書が承認されます。この過程で、株主や投資家からの質問に備え、財務状況や経営戦略について明確な説明ができるよう準備することも重要です。
適切な監査と承認プロセスを経ることで、企業の財務報告の信頼性が高まり、ステークホルダーの信頼獲得につながります。
本決算を効率化するポイント
本決算の効率化は、企業の会計業務全体の生産性向上につながる重要な取り組みです。以下のポイントを押さえることで、より効率的な決算プロセスを実現できます。
まず、月次決算を確実に実施することが重要です。毎月の会計処理を正確に行い、財務状況を定期的に把握することで、年度末の決算作業が大幅に軽減されます。
次に、各タスクの締め切りや担当者を明確にするなど本決算の作業スケジュールを事前に決定し、効率的に作業を進めます。さらに、クラウド会計ソフトやERPシステムの導入による自動化も効果的です。これらのツールを活用し、データ入力や集計作業を効率化することで、人為的ミスが減少します。
日常的な会計処理の徹底も重要です。日々の取引を適切に記録し、証憑書類を整理しておくことで、決算時の作業負担が軽減されます。
これらのポイントを継続的に改善することで、より効率的で正確な本決算プロセスが実現し、企業全体の財務管理の質が向上や経営判断の精度が高まります。
本決算の重要性と今後の展望
本決算は、企業の財務状況を総括的に把握し、経営者の意思決定を支援する重要な過程です。正確な決算報告書は、投資家、取引先、金融機関などのステークホルダーに対する信頼性の基盤を築きます。
グローバル化が加速する現代ビジネス環境では、国際財務報告基準(IFRS)の世界的な採用拡大や、ESG関連の情報開示要求の高まりなど、多国間取引における会計基準の統一性と透明性の重要性は増す一方です。将来的には、AIやブロックチェーン技術の発展により、決算プロセスがさらに進化する可能性があります。
リアルタイムでの財務データ分析や、より高度な自動化が実現されるかもしれませんが、会計の基本原則を理解し、適切な判断を下せる人材の重要性は変わりません。本決算は単なる法的義務ではなく、企業の持続的成長と健全な経営を支える重要な基盤です。常に最新の動向に注目し、効率的かつ正確な決算プロセスを追求することが、今後の企業経営において不可欠でしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
強制評価減とは?わかりやすく解説
強制評価減は取得原価と期末時点での時価に著しい乖離が見られる場合に、強制的に帳簿価額を下落させる会計処理です。それぞれの資産区分に応じて強制評価減を行う要件があるのが特徴です。 今回は強制評価減の概要や条件、例外、減損会計との違いについて解…
詳しくみる売上高とは?計算方法や他利益との違いをわかりやすく解説
「売上高」とは、企業が製品やサービスの販売から得た総収入のことを指します。これは企業の基本的な業績指標の一つであり、特定の期間内にどれだけの収益を生み出したかを示します。売上高は、企業の規模や市場での活動状況を評価する際に重要な指標とされて…
詳しくみるROEとROAとは?違いや目安、分析方法の解説
財務指標の中で、似ているものにROEとROAがあります。どちらも投資家が注目する指標で、企業分析に役立ちます。しかし、計算方法や分析の方法は異なるため、両者の概要と違いを理解しておくといいでしょう。この記事では、ROEとROAの概要や目安と…
詳しくみる損益計算書と貸借対照表の違いと見方とは?作り方まで解説
損益計算書と貸借対照表は、決算において作成を求められる重要な財務諸表です。そのためには、2つの帳票の関係を正しく理解し、作成することが重要です。また、財務諸表をはじめとする帳簿や書類の保存については、電子帳簿保存法の改正にも注意が必要です。…
詳しくみる棚卸表とは?申告の必須項目や書き方をテンプレート付きで解説
在庫管理書類の1つに「棚卸表」があります。確定申告においても必要とされる重要な書類ですが、どのように作成すべきなのでしょうか。また、棚卸表を作成するメリットはどこにあるのでしょうか。 この記事では、棚卸表の概要や作成方法などについて解説して…
詳しくみる連結決算で親子会社間に決算期のずれがある場合は?わかりやすく解説
連結決算において親・子会社間で決算期がずれている場合、一定の期日を境に対応が異なることをご存知ない企業の方も多いのではないでしょうか。原則として決算日は統一することが推奨されますが、ずれている期間によっては調整しなくても良いケースもあります…
詳しくみる