- 更新日 : 2024年9月11日
減損損失とは?計算方法や会計処理の方法、認識と測定や財務諸表への影響を解説
減損損失とは、企業が行った固定資産などの投資額と将来キャッシュフローを比べたとき、損が出ている場合の損失額のことです。投資の失敗は、投資家などの外部関係者に影響を与えるため、財務諸表などにその損失額を反映させる必要があります。ここでは減損損失の会計処理や計算方法について詳しく解説します。
目次
減損損失とは?
投資に見合った金額の回収が見込めない資産の価値を切り下げる会計処理を、減損会計といいます。
減損損失は、減損会計で計上された損失を示す勘定科目です。財務諸表では、原則として損益計算書の特別損失として表示されます。
ここでは、減損損失の意味や対象について見ていきましょう。
減損損失とは投資額の回収が見込めない資産の価値を切り下げたもの
減損会計とは、資産へ投資をした際に、その資産による収益の回収可能性を企業の財務状況へ反映するために行う会計処理のことです。減損処理とも呼ばれます。
具体的には、主に固定資産の収益性が低下し、投資額の回収が見込めなくなった際に、その資産の帳簿価額に価値の下落分を反映させる処理を行います。
減損処理を行うことになった資産は、帳簿価額を減額するのと同時に、損益計算書でも損失として計上する必要があります。
減損会計は、上場企業や会社法上の大会社では適用が義務付けられていますが、中小企業では義務付けられていません。減損会計では、減損の兆候の把握、減損損失の認識の判定などといったプロセスごとに高度な判断が求められます。
上場企業や大会社に比べて人的資源が乏しい中小企業では、減損会計を厳密に行うことは難しいことから、適用義務の対象外となっています。
対象となる固定資産は3つ。ただし例外に注意
減損会計は、企業会計審議会の「固定資産の減損に係る会計基準」によって、会計処理の方法が定められています。
この会計基準では、貸借対照表の固定資産の区分に計上される「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」の3つが減損会計の対象となる資産に定められています。
ただし、他の会計基準に減損の規定がある次の資産は対象外であり、各基準で定められた方法で損失を計上します。
- 投資有価証券など「金融商品に係る会計基準」に規定される金融資産
- 「税効果会計に係る会計基準」にもとづいて計上された繰延税金資産
- 「研究開発費等に係る会計基準」にもとづいて無形固定資産として計上された市場販売目的のソフトウエア
- 「退職給付に係る会計基準」にもとづいて計上された前払年金費用
このほか、財務活動による損益に関する経過勘定科目(長期前払利息など)も減損会計の対象にはなりません。
減損損失の計上には高度な判断が必要
「固定資産の減損に係る会計基準」では、減損損失を計上するときのプロセスが定められています。
定められたプロセスに従って本当に減損するべきかを判定し、減損するべきと判定された資産について減損する金額を見積もります。
収益性が低いからといって、その資産を直ちに減損するのではない点を理解しておきたいものです。
減損会計のプロセスは次の4つからなります。
- 資産のグルーピング
- 減損の兆候の把握
- 減損損失の認識の判定
- 減損損失の測定
これらのプロセスでは高度な判断が求められます。対応策としては、社内で減損損失計上のプロセスをマニュアル化するほか、公認会計士など専門家の助言を受けることなどが考えられます。
これから減損会計のプロセスについて簡単に解説します。
資産のグルーピング
減損会計では、資産が投資額に見合った金額を回収しているかどうか、資産のグループごとに判定します。たとえば、工場、支店などのように、継続的に損益を把握できる単位ごとに資産をグループ化します。
減損損失とは、投資額が回収できない部分のことです。しかし、購入した固定資産ひとつだけでひとつの事業や店舗などの経営を行っているわけではありません。減損の出ている固定資産を含めたライン全体がひとつになって機能しています。そのため、キャッシュを生み出す最小の単位で、資産をグルーピングする必要があります。
減損の兆候の把握
資産のグルーピングによってまとめられた資産グループごとに、減損の兆候があるかどうかを把握します。減損の兆候とは、事業を行う固定資産または固定資産グループに減損が生じている可能性を示す事象のことです。
たとえば、次のような事象が減損の兆候としてあげられます。
- 資産が使用されている事業の営業損益または資金収支が継続して赤字である。
- 営業損益、資金収支または資産の価値が著しく低下するような資産の使用方法の変化があった。
- 資産が使用されている事業の経営環境が著しく悪化した。
- 資産の市場価格が下落した。
減損の兆候がなければ、その資産グループは減損損失計上の対象とはなりません。
減損損失の認識の判定
割引前将来キャッシュフローと帳簿価格を比較する
減損損失の認識の判定とは、減損を実施するか否かを判断することです。
減損の兆候があると判定された資産グループについて、その資産グループが稼ぎ出す割引前将来キャッシュ・フロー(※)の総額が帳簿価額を下回っていないかを確認します。
割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価格を下回っていないことが確認できれば、その資産グループは減損損失計上の対象とはなりません。
(※)割引前将来キャッシュ・フローとは、資産グループを継続して使用することによる資金収支と、資産グループの処分による資金収支を合わせた金額です。将来の金利にあたる部分は差し引きません。
将来キャッシュ・フローとは
将来キャッシュ・フローとは、固定資産を将来にわたって使用することにより事業で回収できるキャッシュと、資産の使用見込み経過後に資産を処分したときのキャッシュの総額をいいます。
減損の兆候がある固定資産については、減損損失を認識する段階と減損損失を測定する段階で将来キャッシュ・フローを用います。
このうち、将来キャッシュ・フローを現在価値に直して用いるのが、以下に説明する減損損失の測定時です。現在のキャッシュは、時間の経過によって、将来にわたって価値が減少していきます。そうしたキャッシュの性質を見越して、将来キャッシュ・フローを現在価値に直して資産価値を測定します。
一方、減損の認識で用いるのは、現在価値に直さない、割引前将来キャッシュ・フローです。割引計算を認識の都度行うと作業負担が重くなってしまうこと、割引前将来キャッシュ・フローの額を帳簿価額が下回るときは相応程度の減損があると考えられることから、認識時には割引前将来キャッシュ・フローを使用します。
つまり、割引前将来キャッシュ・フローと帳簿価額との比較で減損が認識できるときに限り、割引後の将来キャッシュ・フローや正味売却価額の計算を用いて減損損失を測定していくということです。
減損損失の測定
割引前将来キャッシュ・フローの総額を測定し、その金額が帳簿価格を下回り、減損損失を認識すると判定された資産グループについて、使用価値と正味売却価額のどちらか高い方の価額まで帳簿価額を切り下げます。この切り下げた金額を、減損損失として当期の損失に計上します。
それでは、減損損失の求め方を見ていきましょう。
減損損失の計算方法
減損損失は、次の計算式で求めます。
減損損失額=固定資産の簿価-回収可能価額
回収可能価額は、使用価値と正味売却価額のどちらか高い方の価額です。
- 使用価値
使用価値とは、該当する資産または資産グループを継続的に使用した場合と使用後の処分によって生ずると見込まれる、将来キャッシュフローの現在価値のことです。
- 正味売却価額
正味売却価額とは、該当する資産または資産グループの時価から、その資産などを処分したときにかかる費用の見込み額を差し引いて計算した金額のことです。
使用価値は、割引率を使って計算します。正味売却価額では、明確な時価がある場合やない場合に応じて、適切な金額を算定する必要があります。
これらの金額の算定には高い専門性が必要となるため、公認会計士などの専門家を通じて行ったほうが良いでしょう。
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減損損失の会計処理の具体例
ここからは、減損損失の会計処理や仕訳方法、勘定科目を具体的に見ていきましょう。
減損損失の計上には、直接控除方式と間接控除方式の2種類があります。原則として定められているのは直接控除方式ですが、間接控除方式も許容されています。
直接控除方式
間接控除方式
減損損失累計額は、減価償却累計額に含めて「減損損失累計額および減価償却累計額」とすることもあります。
財務諸表への影響
貸借対照表への影響
上記の仕訳例でも確認したとおり、原則、減損損失は、固定資産の簿価を直接、減額します。
そのため、減損損失の金額分、貸借対照表に記載されている資産の金額が減少します。
損益計算書への影響
減損損失は、損失のひとつです。そのため、損益計算書に計上されます。具体的には、特別損失の部に計上され、その金額分、当期純利益が減少します。
ただし、固定資産の簿価が減少するため、翌期以降の減価償却費の計上額は減少します。
その結果、翌期以降の当期純利益は改善します。
キャッシュフロー計算書への影響
減損損失は、過去に現金の支出があった資産の価値を減少させる損失です。そのため、減損損失自体は現金の支出は伴わず、当期のキャッシュフロー計算書には影響はありません。
ただし、減損損失を計上するということは、投資当初の見込みよりも利益が出ないということを意味するため、翌期以降のキャッシュフローは低下する可能性があります。
減損損失が発生しやすい企業
減損損失が発生しやすい企業は、資産を多く所有している企業や多角的な経営をしている企業です。例えば、製造業など資産を多く所有している企業は、競合他社が現れるなどして生産ラインが止まると、生産ラインで使っていた機械をまとめて減損処理する必要が出てきます。シャープの液晶事業からの撤退による減損などが、これに該当します。
多角的な経営をしている企業では、その事業や店舗がうまくいかず撤退する場合、その事業や店舗に使っていた資産が他に転用できない際に減損処理する必要が出てきます。コンビニエンスストアやスーパーなどの店舗を閉店した場合の減損損失などが、これに該当します。
減損損失を正しく計上して経営状況を適切に反映しましょう
減損損失は、投資に見合った金額の回収が見込めない資産の帳簿価額を、「固定資産の減損に係る会計基準」にもとづいて切り下げたときの損失の額を示します。
減損会計はプロセスが複雑であり、適用した結果、巨額の損失が発生することもあります。減損会計を適用するときは、公認会計士など専門家の助言を受けることをおすすめします。
よくある質問
減損損失とは?
投資に見合った金額の回収が見込めない資産の価値を切り下げる会計処理のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
対象となる固定資産は?
「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」の3つが減損会計の対象ですが、例外もあるので注意が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
減損会計を計上するときのプロセスは?
資産のグルーピング、減損の兆候の把握、減損損失の認識の判定、減損損失の測定が減損会計のプロセスです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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