• 作成日 : 2024年10月1日

分割検収とは?違法となるケースや契約の注意点、対応方法を解説

分割検収とは、プロジェクトをいくつかのフェーズに分けて契約し、フェーズごとに検収や報酬の支払いを行う方法です。主にソフトウェア開発や建設工事で用いられますが、分割検収を実施する場合には、契約内容や仕様を明文化することが大切です。

ここでは、分割検収の概要やメリット・デメリット、法律違反にならないための注意点について解説します。

分割検収とは?

分割検収とは、ひとつの開発プロジェクトをいくつかの作業工程やプロセスに分けて契約を締結し、それぞれの納品時に検収を行ったうえで報酬の支払いまでを行う方法です。

分割検収を採用する場合には、一連のプロジェクトがすべて完成した時点でまとめて検収するのではなく、作業をいくつかのフェーズに分け、それぞれのフェーズごとに検収を行います。これにより、作業の進捗段階で問題が発見されやすく、早期対応が可能になるというメリットがあります。

分割検収では、基本設計や仕様書・フローチャートの作成、プログラム開発、稼働テストなどのように、プロジェクト遂行における各工程を時系列的に分割する方法に加え、経理システムや販売システムの完了などのように物的な観点から分割する方法も一般的です。

プロジェクトの各フェーズに区切って進捗状況を評価し、その都度クライアントとの間で成果物の検収作業を行うため、長期間にわたる大規模なプロジェクトでのリスク管理や品質保証を目的として用いられるケースも少なくありません。

分割検収が用いられている業界

分割検収については、個々の案件が長期化する業界でよく採用される方法であり、特にプロジェクトの工程が複雑な場合に効果を発揮します。

主に「ソフトウェア開発業」や「建設業」などの業界では、開発や作業工程が複雑化かつ長期化しやすいため、分割検収を採用するケースが多いです。

ソフトウェア開発

IT業界では、ソフトウェアやシステムの受注制作が行われる機会も多く、開発工程が複雑になりやすいことから、分割検収が採用されるケースもあります。

特にソフトウェアやシステム制作においては、開発プロジェクトが進行する中で、要件の変更や機能の追加が頻繁に発生するため、フェーズごとに細かく区切って検収を行うことで、問題や改善点を早期に発見し、機能修正を行うことが可能です。

具体的には、要件定義や機能設計、開発、機能テストなどにフェーズを分け、それぞれの段階で成果物の検証を行います。分割検収を採用することにより、開発プロジェクトにおける納期遅延や予算超過リスクの低減にも役立つでしょう。

建設工事

建設業においても、分割検収が用いられるケースは珍しくありません。

特に大規模な建設プロジェクトなどの場合、工事期間が長期化するため、建設工事の工程を複数に分けて契約し、個々に成果物を引き渡す方法が採用されることも多いです。

たとえば、50戸の建売住宅の建設を受注した場合において、1戸ずつ引き渡したうえで検収

を行い、その都度工事代金が支払われるように契約を締結することで、分割検収としてプロジェクトを遂行するケースもあります。

なお、分割検収では複数の工程に分けて契約を締結し、個々の契約に基づいて成果物の納品・検収が行われ、報酬が支払われます。成果物の引き渡しを伴わず、単に進捗状況に応じて請求を行う「出来高払い」とは異なる考え方であるため、混同しないように注意しましょう。

分割検収は違法になる?

分割検収によって、作業工程をフェーズごとに分けて契約すること自体は違法ではありません。

ただし、契約内容や実際の運用方法によっては、下請法や独占禁止法などに違反した取引とみなされる場合もあります。法律に則って分割検収を行うためには、契約時に詳細な検収方法や支払条件を明記し、取引の当事者間で合意することが必要不可欠です。

分割検収を採用する場合には、適切に取引を行うためのポイントや、法律違反となりうるケースについて正しく理解しましょう。

分割検収が違法とならないケース

分割検収を採用する場合には、下請法などで規定される禁止行為などを行わず、適切なプロセスを経て取引を行うことが大切です。

具体的には、以下のケースのように取引を遂行することで、適切な方法で分割検収を実現できるでしょう。

納品後、60日以内に代金を支払っている場合

下請法では、元請け業者が下請け業者に対して代金を支払う際、納品後60日以内に支払いを完了する義務があります。

分割検収の場合も同様であり、フェーズごとに契約を締結した場合には、それぞれの成果物の納品・検収が完了した時点から60日以内に報酬の支払いを行わなければなりません。

開発プロジェクトがすべて完了してから一括で報酬を支払う場合、分割検収では60日を超過するリスクもあるため注意しましょう。

合理的な理由で検収不合格の場合

分割検収において、納品された成果物が仕様や性能を満たしていない場合や、品質が不十分である場合には、合理的な理由として検収不合格とすることが認められます。このような場合、発注者は受注者に対し、修正や再納品を求めることが可能です。

検収不合格とする場合には、求める仕様や検収の手順について、事前に合意していることが前提となります。契約段階で合格の基準を明確にしておくことで、法的リスクを軽減し、スムーズな取引を実現しやすくなります。

単に「気に入らない」などの理由で検収不合格とするなど、不当に受領拒否ややり直しを命じた場合、下請法や独占禁止法違反となるリスクもあるため注意しましょう。

分割検収が違法となるケース

分割検収による取引において、下請法や独占禁止法違反となりうるケースもあります。

法律違反とみなされる行為についてしっかりと理解し、健全な取引遂行を心掛けましょう。

一方的な契約内容の変更

契約書で定められた取引内容について、どちらかが一方的な都合で変更しようとする場合、法律違反となるリスクがあります。

たとえば、納品時点では合格基準を満たしていたにもかかわらず、納品後に仕様を変更したことにより、不当に再納品を要求するケースなどが該当します。

適法に分割検収による取引を遂行するためには、それぞれの契約段階において、発注内容や仕様を明確に設定することが大切です。また、契約内容に変更が必要な場合には、お互いの利益を不当に害することのないように注意しましょう。

代金の不当な減額

下請事業者に何ら責任がないにもかかわらず、発注後に正当な理由なく代金を減額することは、下請法における禁止行為のひとつとして挙げられています。

特に分割検収の場合には、開発プロジェクトが長期化することによって、報酬の総額が高騰しやすいため、受注者に対する「買いたたき」や「下請代金の減額」などの違法行為が行われるケースも少なくありません。

分割検収のメリット

分割検収については、発注者と受注者の双方にとってメリットがあります。

それぞれの立場におけるメリットを正しく理解したうえで、分割検収を採用すべきかどうか検討しましょう。

発注者側のメリット

分割検収を採用することによる発注者側のメリットとしては、主に以下の2点が挙げられます。

  • リスクの分散

分割検収を行うことによって、フェーズごとに成果物を確認できるため、プロジェクトの途中段階でも問題点を早期に発見しやすく、修正する機会を得られます。

各フェーズにおける開発状況も確認できるため、必要に応じて細かい仕様変更を相談することも可能であり、最終納品時に大規模な修正コストが発生するリスクを軽減することにもつながります。

  • 予算管理がしやすい

分割検収の場合には、契約したフェーズごとに成果物の納品・検収が実施され、報酬を支払うため、一連の開発プロジェクトにおける資金繰り計画を立てやすくなります。

特にまとめて報酬を支払うケースに比べ、複数回に分けて支払いを行うことで資金繰りが安定しやすく、予算管理の透明性も向上するでしょう。

受注者側のメリット

分割検収を採用することによる受注者側のメリットは以下の2点が挙げられます。

  • キャッシュフローの改善

分割検収により、プロジェクトのフェーズごとに報酬を獲得できるため、売り手にとっては早期に現金を受け取る機会が増え、組織全体のキャッシュフローが改善されます。

特に長期的な開発プロジェクトや建設工事では、二次請けの外注先などに対するまとまった支出が必要なケースも多く、受注者側が一時的に資金難に陥るケースも少なくありません。

そのような場合において、分割検収を行うことで資金繰りが安定し、プロジェクト全体のスムーズな運営を実現しやすくなります。

  • プロジェクト進行の透明性向上

各フェーズでの検収を通じて、進捗状況をクライアントに確認してもらえるため、プロジェクト全体の透明性が向上します。

これにより、双方の認識違いや誤解を未然に防ぐことができ、信頼関係の強化にも効果的です。

分割検収のデメリット

分割検収にはメリットがある一方で、デメリットも存在します。

分割検収を行う際には、デメリットを解消できるかどうか、慎重に検討しましょう。

発注者側のデメリット

分割検収による発注者側のデメリットとしては、以下の2点が挙げられます。

  • 検収コストの増加

分割検収では、フェーズごとに検収作業を行う必要があるため、その都度リソースを割かなければなりません。

検収作業に関する工数が増加することで、社内の生産性が一時的に低下する可能性もあるでしょう。

  • 成果物の整合性リスク

分割検収ではフェーズごとに成果物を確認するため、全体の整合性を見落とすリスクがあります。

たとえば、ソフトウェア開発においては、個別機能としては問題がなくても、統合テストで予期せぬバグが発生する可能性も考慮しなければなりません。

受注者側のデメリット

分割検収による受注者側のデメリットとしては、以下の2点が挙げられます。

  • 検収合格の遅延リスク

分割検収では、各フェーズでクライアントによる検収が行われるため、開発途中で検収不合格となった場合には次のフェーズに進むことができず、プロジェクト全体が大幅に遅延するリスクもあります。

  • 成果物の修正によるコスト増

分割検収によって、各フェーズで修正依頼が発生する可能性があり、修正回数が増えることで作業負荷やコストが増加しがちです。

修正作業ややり直しによって追加コストが発生する場合、プロジェクト全体の利益率が低下することとなります。

適切に分割検収を行う際のポイント

分割検収を行う際には、業務内容を整理し、当事者間で詳細な条件のすり合わせを行ったうえで契約を締結することが重要です。

具体的には、以下のポイントを意識することにより、法律違反などのリスクを回避し、双方が納得して取引を行いやすくなります。

契約書や検収仕様書の整備

分割検収を行う際には、フェーズごとに契約を締結することとなるため、各契約における業務内容や検収の合格基準などを明文化し、書面として作成することが重要です。その際には、曖昧な表現や抽象的な言葉を避け、検収完了となる基準を明確にすることで、双方の認識のズレを防ぎましょう。

なお、検収の合格基準については、契約書とは別に「検収仕様書」を作成するケースが一般的です。検収仕様書では、開発担当者が判断に迷うことのないよう、仕様や性能についてはできる限り詳細に記載してください。

また、各フェーズにおける検収期間や、検収が完了した場合の支払期限についても契約書上に明記し、発注者と受注者の双方が安心して取引を行うための基盤を整えましょう。

コミュニケーション機会の確保

分割検収の過程におけるトラブルを未然に防ぎ、円滑なプロジェクト運営を実現するためには、当事者間でプロジェクトの進捗状況を共有することも大切です。そのためには、定期的にミーティングを開催するなど、コミュニケーションの機会を十分に確保しましょう。

また、業務内容に関する不明点が生じた場合は、その都度クライアントに確認することが必要不可欠です。特に仕様や性能に関する認識にズレが生じた場合、プロジェクトが進むにつれて問題が拡大する恐れがあるため、早期に解決しておくことが重要です。

分割検収を正しく理解し、適切な運用を心掛けよう

分割検収とは、ソフトウェア開発や建設工事などの長期プロジェクトで用いられる契約であり、プロジェクトを複数のフェーズに分けて検収し、その都度報酬を支払う方法です。

分割検収を採用する場合には、各フェーズにおける契約書の整備や、検収仕様書の作成が必要です。

分割検収のメリットやデメリットを理解し、適切な運用を行うことで、発注者と受注者の双方にとって、公平かつ透明性のある取引を実現しましょう。


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