- 更新日 : 2024年11月1日
製造原価報告書とは?作成義務や計算方法について解説
製造業において作成される財務諸表の1つに「製造原価報告書」があります。製造業者は必ず作成する書類ですが、法令上作成の義務はあるのでしょうか。また、計算方法はどのようなものなのでしょうか。この記事では、製造原価報告書の概要や計算方法等について解説します。
目次
製造原価報告書とは
製造原価報告書とは、製造業において当該事業年度に販売した製品の製造原価を明らかにするための財務諸表です。一般的には、「製造原価明細書」や「コストレポート(C/R)」とも呼ばれます。
製造原価報告書は、一定の場合に作成が義務付けられるなど財務諸表の中でも重要なものとして位置づけられています。
製造原価報告書が必要な理由
製造原価報告書はなぜ必要なのでしょうか。
製造原価とは製品の製造にかかった費用を指します。製造業において製造原価を抑えることは製品販売における利益増大につながります。製造業者は合理的な経営判断を行うために製造原価について正確な情報を把握するとともに、利害関係者と情報を共有する必要があるのです。また、そのための手段として製造原価報告書を作成する必要があります。
作成義務はない
中小企業の場合、製造原価報告書の作成義務はありません。ただし、上場会社は金融商品取引法にもとづいて財務諸表等を作成する必要があり、その際に製造原価の内訳を記載した明細書を損益計算書に添付しなければならないとされています(財務諸表規則75条2項)。
上場企業以外においても、経営判断の上で製造原価報告書を作成する必要があります。法令上の義務があるかどうかにかかわらず、作成すべきであるといえるでしょう。
また、利害関係者に対しては情報を開示できるよう準備しておくことが望ましいといえます。
製造原価と売上原価の違い
このように製造原価報告書は合理的な経営判断の基礎として位置づけられます。
経営判断の基礎となる会計上の概念としては、製造原価のほかに「売上原価」という概念があります。
製造原価とは製品の製造にかかった費用のことであり、売上原価とは商品の仕入れや製造に直接的にかかった費用のことです。両者とも、材料費、労務費や経費といった形で算出されますが、異なるのは在庫分のカウントです。
在庫製品についても販売した製品と同様に材料費、労務費や経費がかかっていますが、製造原価が在庫製品分についてもカウントするのに対し、売上原価ではカウントしません。
そのため、受注生産体制をとっている企業では、製造原価=売上原価となります。
製造原価報告書を作成するメリット
製造業において製造原価報告書は重要な財務諸表として位置づけられますが、作成することによってどのようなメリットがあるのでしょうか。
以下で詳しく解説していきます。
製造原価が正しく計算できる
まず、メリットとして挙げられるのは、製造原価を正確に計算できることです。
製造業において発生する負担費用には、製造原価以外にも販売費や一般管理費が含まれます。製造原価報告書が作成されていない場合、これらの費用負担が合算された形で把握されることになります。
法人税法上はこのような把握で問題ありませんが、経営状態を正しく把握するためには、より詳細に区分して負担費用を把握しておく必要があるのです。
生産性の向上につながる
次にメリットとして挙げられるのは、生産性の向上につながるということです。
上記のとおり、製造原価報告書を作成することで、製造原価と販売費や一般管理費を区別して把握できます。すると、製造現場においてかかっている人件費、経費が事務費用と区別できるため、製造現場の生産性を可視化し、生産性の向上につながるのです。
迅速な経営判断につながる
製造原価報告書を作成することで、より詳細な形で製造に要したコストを把握することが可能です。
そうすると、経営状態が悪化してコストカットが必要となった場合などに、製造部門においてどのような施策を講じればよいかを迅速に判断できるでしょう。また、製造と販売とを区分して情報を把握できるため、税務申告に必要な情報を集めやすくなるというメリットもあります。
製造原価報告書の作り方・計算方法
それでは、製造原価報告書はどのように作成するべきでしょうか。
以下では、製造原価報告書への記載が求められる必要項目や計算方法について解説します。
記載する項目
製造原価報告書に記載が必要なのは以下の項目です。
- 当期材料費
- 当期労務費
- 当期経費
- 当期総製造費用
- 仕掛品
- 当期製品製造原価
仕掛品というのは、製造工程に上がっていたものの当該事業年度において製品として完成しなかったものの金額を意味します。
計算の方法
各項目はどのように計算すればよいでしょうか。
(1)当期材料費
まず、「製造原価=材料費+労務費+経費」というのが大枠の計算式です。
しかし、各項目を製造の実情に合わせて計算する必要があります。
材料費について前期末に在庫がある場合にはその分を考慮しなければならないため、
で計算します。
(2)当期製品製造原価
次に、当期総製造費用は、
で計算します。
また、期末時点で仕掛品がある場合にはそのことを考慮し、下記のように計算します。
ここからさらに各社の採用する原価計算ルールによっては調整が必要となる場合があります。
なお、製造原価報告書の作成に便利なテンプレートについては以下のページを参照してください。
製造原価報告書は経営上のメリットが大きい
製造原価報告書とは、製造業において当該事業年度に販売した製品の製造原価を明らかにするための財務諸表です。上場企業は法令上作成が求められており、非上場企業でもより正確な経営状態を把握するために作成が必要です。
製造原価報告書の作成は、製造原価の正確な把握、生産性の向上、迅速な経営判断が可能となるなど、多くのメリットがあります。
ただし、記載項目と計算方法はやや複雑であるため、作成する場合にはエクセルなどのテンプレートを活用することが便利でしょう。
よくある質問
製造原価報告書とは何ですか?
製造業において、当該事業年度に販売した製品の製造原価を明らかにするための財務諸表のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
製造原価報告書を作成するメリットは?
製造原価報告書を作成することで、製造原価の正確な計算・把握が可能となること、それに基づいて生産性の向上や迅速な経営判断が可能となることといったメリットがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
決算短信とは?概要と読み方を徹底解説
決算短信(けっさんたんしん)とは、企業の財務情報や経営状態がまとめてある書類のことです。投資家にとっては非常に有益な情報源であり、証券取引所でも重要情報として扱われています。しかし、専門用語や記載内容の多さから「どこをどう読めばよいのかわか…
詳しくみる棚卸表とは?申告の必須項目や書き方をテンプレート付きで解説
在庫管理書類の1つに「棚卸表」があります。確定申告においても必要とされる重要な書類ですが、どのように作成すべきなのでしょうか。また、棚卸表を作成するメリットはどこにあるのでしょうか。 この記事では、棚卸表の概要や作成方法などについて解説して…
詳しくみる貸借対照表の書き方を簡単に解説!エクセル作成も対応
会社は決算の際に「貸借対照表」を税務署に提出します。 この「貸借対照表」には決算日の会社の財政状態が表されており、記載事項には会社の純資産(資本)、そして、それを導き出すための資産や負債があります。書き方が分からない人には煩雑に思えますが、…
詳しくみる月次決算とは?経理業務における目的や流れやり方まで解説
決算は年に1回行っているという会社も多いでしょう。税務申告を目的にするなら、決算作業は年に1回で十分といえます。 しかし、会社の経営状況を正確に把握するには、月ごとの月次決算を行わなければ見えてこないことが多くあるのです。月次決算は経営者に…
詳しくみる営業利益とは?計算方法や経常利益との違いをわかりやすく解説
会社の利益を知ることができる決算書類として損益計算書があります。収益・費用・利益が記載されており、英語の「Profit and Loss Statement」を略して「P/L」とも呼ばれます。 複数の利益区分がありますが、いずれも企業の収益…
詳しくみる決算申告とは?期限や必要書類、作成手順などをわかりやすく解説
一般に、法人は年に一度決算を確定させて、その決算に基づいて確定申告をします。決算書を作成し、確定申告さえすればよいのではなく、法に基づいて決算書類を作成し、取締役会や株主総会で承認を得た上で、法人税をはじめとする申告及び納税をすることになり…
詳しくみる