• 更新日 : 2022年1月14日

通勤手当の非課税限度額の引き上げを解説

平成26年や平成28年度の税制改正により、交通用具に関する通勤費の非課税限度額が改正されました。平成26年改正は2014年4月より既に支給した通勤手当に対しても、遡って適用されることとなっています。

この、非課税限度額が引き上げられることによって、該当する社員の所得税の負担が軽くなることが考えられます。また、経営者にとっては改正後の通勤費の非課税限度額はどのような影響が出てくるのでしょうか。税法上の変更点や実務において行なうべきことをまとめました。

通勤手当の非課税限度額

そもそもどんな制度なのか?

通勤手当とは通勤にかかる費用を会社が負担するもので、ほとんどの企業は就業規則で取り決められています。

また、通勤にかかる時間は労働時間ではなく私的時間であることや、労働の対価ではなく報酬であるとの解釈によって、税法上と社会保険上において通勤手当を含めて計算するかどうかが変わってきます。

今回この時期に通勤手当の非課税限度額が引き上げられたのは、2014年8月の人事院勧告で職員の給与に関する報告があったことがきっかけです。

それまでの国家公務員の給与は、国内の厳しい財政状況や東日本大震災を鑑みて減額措置がとられていましたが、民間賃金が国家公務員の給与を上回ったことから、その較差(かくさ)を是正するために、2014年8月の人事院勧告により完全実施されることになりました。勧告内容の一部に通勤手当の引き上げに関する内容が含まれていたことから、税法上もそれに合わせる形で改正されることとなったのです。

人事院勧告とは
人事院の給与勧告は、労働基本権制約の代償措置として、(中略)公務員の給与水準を民間企業従業員の給与水準と均衡させること(民間準拠)を基本に勧告を行っています。
参考:人事院

改正で非課税限度額が引き上げられた部分

改正によって限度額が引き上げられた部分は、自動車や自転車などの交通用具を使用した場合で、通勤距離による区分ごとによって額が異なります。

区分改正前改正後増減額
片道2km以上10km未満4,100円4,200円100円増
片道10km以上15km未満6,500円7,100円600円増
片道15km以上25km未満11,300円12,900円1,600円増
片道25km以上35km未満16,100円18,700円2,600円増
片道35km以上45km未満20,900円24,400円3,500円増
片道45km以上55km未満24,500円28,000円3,500円増
片道55km以上24,500円31,600円7,100円増

なお、平成28年度改正により、平成28年1月1日以降に支払われるべき通勤手当の非課税限度額は、下記の区分のように変更されています。
1.交通機関又は有料道路を利用する場合における最高限度額15万円
2.交通機関を利用する場合の通勤用定期乗車券における最高限度額15万円
3.交通機関や有料道路以外に交通用具も併用する場合の通勤用定期乗車券における最高限度15万円

改正前後で変化のなかった部分

通勤手当の非課税限度額が改正前後で変化のなかった区分は1つあります。

1.交通用具を使用し、通勤距離が片道2km未満の場合の全額課税

改正で非課税限度額が引き下げられた部分

今回の改正により、引き下げられた区分はありません。

非課税限度額が引き下げられた場合、課税範囲が拡大し納税額が増額することになりますが、今回は非課税限度額が据え置きもしくは引き上がっているため、課税範囲が縮小し所得税負担額が低くなっています。

適用開始時期

2014年10月や2016年4月に施行された法令であるにも関わらず、2014年4月1日や2016年1月1日に遡って適用されます。つまり既に支給済みの通勤手当に対して、精算する必要が出てくるのです。

また、2014年の改正に当てはめてると、次の通勤手当については、改正後の非課税限度額は適用されず、改正前の非課税限度額で計算することになります。

1.平成26年3月31日以前に支払われた通勤手当
2.平成26年3月31日以前に支払われるべき通勤手当を同年4月1日以降に支払われるもの
3.1または2の差額として追加支給されるもの

例えば、当月20日締め25日支払で給与が支給されている場合、2014年の課税内容のスケジュールは以下のとおりとなります。

給与支給月日適用内容
1月25日改正前の非課税限度額を適用
※改正前期間に該当するため精算不要
2月25日
3月25日
4月25日改正後の非課税限度額を適用
※既に支払い済みのため精算が必要な期間
5月25日
6月25日
7月25日
8月25日
9月25日
10月25日
11月25日改正後の非課税限度額を適用
※これから支給する期間であるため精算不要
12月25日

交通手段が複数種類ある場合

たとえば自宅最寄り駅までは自転車を利用し、電車に乗って会社まで通勤している場合で考えてみましょう。

所得税法では非課税限度額が定められているだけにすぎず、具体的にどのように支給するかまでは規定されていません。労働基準法においても、通勤手当に関して義務付けたり規定したりしていません。実際には就業規則による社内規定で定めることになります。

そのため、自転車通勤者はコストゼロとして支給なしと定めてもいいですし、駐輪場代を申請してもらうことで支給する方法をとることもできます。

電車などの交通機関の定期券代を1か月単位としても6か月単位としても問題ありません。6か月分を支給する場合における中途退職者の精算に関してあらかじめ定めておくことで、トラブルを回避することができます。

これらのことを踏まえて、

1.自転車通勤区間は駐輪場代
2.電車通勤区間は通勤用定期乗車券

を支払うこととした場合、

交通機関を利用するほか、交通用具も使用している人に支給する通勤手当や通勤用定期乗車券という区分に該当するため、1の駐輪場代と2の通勤用定期乗車券の合算金額が、最高限度額である15万円までであれば非課税になります。また、15万円を超える部分に関しては所得税の課税対象として計算されることになります。

なお、就業規則を変更するためには、取締役会における議決が必要になります。

限度額以上の通勤手当を支払った場合

たとえば、あなたが片道25km以上35km未満の区分で通勤手当の非課税限度額16,100円を超えて17,000円を会社から支給してもらっていたとします。

通勤手当17,000円のうち、16,100円は非課税となり所得税の課税対象外となりますが、16,100円を超えた900円について所得税の課税計算対象となり、通勤時間は労働時間でもないのに、他の基本給などと合算されて所得税として計算されたものが、給与から控除されてしまっていました。

ところが今回の改正によって片道25km以上35km未満の区分は18,700円までと引き上げられたため、通勤手当17,000円は全額非課税となり、所得税の課税対象ではなくなりました。今まで課税対象となっていた900円が所得税の計算に含まれなくなるため、所得税課税負担額が軽減されることになるのです。

非課税限度額改正によって生じる事務手続き

2014年(平成26年)10月や2016年(平成28年)4月に施行されたにも関わらず、2014年4月1日や2016年1月1日以降に既に支給された通勤手当も遡って適用されるため、精算するための事務手続きが発生します。再計算によって生じた差額は、年末調整で精算することになります。

既に支払い済みの給与データに変更を加えることはできないため、実際には源泉徴収簿上で調整を行ないます。

また、中途退職者に改正前の源泉徴収票を交付している場合、改正後の支払金額に訂正し、摘要欄に再交付と表記したものを、再度交付する必要があります。

まとめ

マイカーで通勤する場合、単純に通勤距離数だけでなく燃費や車種、排気量によって支給する基準が大きく異なります。また、自転車通勤を希望する社員がいた場合、自動車保険のように任意保険の加入を義務付けたり、駐輪スペースを確保したりといったことに関連して、保険料や駐輪場代をどこまで会社が負担するのかも検討する必要です。


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