- 更新日 : 2024年10月31日
自己資本比率とは?計算方法や業種ごとの目安
企業を評価する観点として、「安全性」が挙げられます。企業の総資本に占める自己資本の割合を自己資本比率といいます。ここでは、貸借対照表から求める自己資本比率の見方や目安について解説します。
目次
自己資本比率とは
自己資本比率とは、総資本における自己資本の割合のことです。
自己資本比率は企業の財務安全性を分析する指標として用いられ、一般的には自己資本比率が高い方が財務健全性は高いとされます。返済が必要な他人資本(負債)に大きく依存していないと判断できるためです。
日本国内においては、1998年度以降、資本増強などにより全体として自己資本比率が上昇傾向にあります。
自己資本比率が高いと何がいい?
自己資本比率が高いと、他人資本(負債)への依存度が下がります。他人資本にあまり頼らずに経営ができているということは、借入金など他人資本に関する返済負担が重くないということです。
自己資本比率が高いと、返済に左右されず、経営的な安定を図りやすいことから、社会情勢などで一時的に経営に影響があっても、持ちこたえたり回復したりしやすくなります。経営が安定しているときだけでなく、不安定になったときも会社としてある程度の体力があるということです。
ただし、自己資本比率が高ければ倒産しないということでもありません。自己資本比率が良くても手元資金が十分にない場合は経営が傾くこともあります。
自己資本比率が低いとどうなる?
自己資本比率は、30%以上がひとつの目安とされています。反対に、30%を下回ると自己資本比率が低いともいえます。
自己資本比率が低い場合に懸念されるのが、債務超過による経営悪化や倒産です。他人資本の額が増えると返済に追われ必要な設備投資に資金を投入できなくなるなど悪循環に陥ることもあります。
債務超過による倒産を防ぐには、他人資本の割合を減らすなど早急に改善を図ることが必要です。
なお、銀行は倒産すると混乱が大きく波及し多方面に影響を与えることから、自己資本比率の規制が行われています。国際業務を行う銀行の自己資本比率はBIS規制により8%超でなければなりません。日本国内業務のみの場合は、別に基準が設けられており、自己資本比率4%の規制があります。
自己資本とは
貸借対照表の右側は総資産、左側は総資本(負債と純資産)となります。総資本のうち自己資本といわれるのは純資産の額から新株予約権の額を除いた金額です。連結財務諸表の場合は非支配株主持分も除きます。自己資本と対照となる負債は他人資本といわれます。
自己資本は、株主から調達した資金、これまで会社が獲得してきた利益の内部留保などが原資となっており、返済の必要がありません。返済の義務がなく、会社が資金の利用に制限を受けない(借入金などのように期間的な制限などを受けない)ことから自己資本といわれます。
自己資本比率の目安
以下の表は、2021年企業活動基本調査速報をもとに作成した業種別の自己資本比率です。
業種 | 自己資本比率 |
---|---|
鉱業、採石業、砂利採取業 | 55.8% |
製造業 | 50.5% |
電気・ガス業 | 25.1% |
情報通信業 | 50.5% |
卸売業 | 40.2% |
小売業 | 43.2% |
クレジットカード業、割賦金融業 | 12.2% |
物品賃貸業 | 14.6% |
学術研究、専門・技術サービス業 | 40.4% |
飲食サービス業 | 36.7% |
生活関連サービス業、娯楽業 | 36.5% |
サービス業(その他の業種) | 25.9% |
参考:2021年企業活動基本調査速報-2020年度実績-|経済産業省
同調査によると全体の自己資本比率は41.5%でした。鉱業や製造業、情報通信業などは全体の平均値よりも高いことがわかります。
一方、クレジットカード業や割賦金融業、物品賃貸業は10%台とほかの業種と比較して低い割合でした。これは、各業種の特徴が影響しているためと推測されます。
例えば、クレジットカード業は、顧客の利用分を加盟店に対して一時的に立て替えなくてはならないためです。物品賃貸業も、貸し出すための物品を先に用意しなくてはなりません。
いずれも先に多額の負担が必要で回収の時期とのずれが生じるため、借入金などで資金を調達する必要があります。そのため、ほかの業種と比較すると自己資本比率の割合が低くなっています。
自己資本比率の計算方法
自己資本比率は、貸借対照表から次の式で求めます。
図の例では、自己資本比率は
500万円 ÷ (700万円+500万円)≒ 41.7% となります。
自己資本比率の見方のポイント
では、自己資本比率の読み解き方をざっとみていきましょう。
自己資本比率の目安
低すぎても高すぎてもよくないとされた自己資本比率ですが、どれくらいであれば財務健全性が高いといえるのでしょうか?安全性の目安を見ていきましょう。
平成30年企業活動基本調査速報には、「製造業、卸売業、小売業ともに 純資産の増加により自己資本比率は上昇傾向。経営の安定化傾向が進んでいることが窺われる」とあり、製造業、卸売業、小売業とも自己資本比率が上昇傾向にあったことがわかります。
平成29年度における産業別の自己資本比率は、製造業51%、卸売業42.5%、小売業37.9%でした。
また、中小企業全般について言えば平成30年度において全産業の平均が40.92%となっています。
したがって、自己資本比率の平均値は40%程度であり、目安として50%以上あれば良好と判断できるでしょう。ただし、業種によって大きく異なるため、同業他社との比較によって大差ないことや年度推移において自己資本比率が上昇傾向にあることなども要チェックです。
自己資本比率が20%を下回ると危ない
一方、自己資本比率が20%未満である場合、自己資本が乏しい状態といえるでしょう。他の経営指標も併せて調査し、利益体質へと改善したほうが良いと言えます。
物品賃貸業など、投資によって得た資産が事業の中心である場合には借入金等の負債が多いこともありますので、自己資本比率だけにとらわれるのは危険といえます。
自己資本比率が高いとき
自己資本比率が高すぎる場合とは、どんな場合でしょうか?
例えば、無借金の場合です。一見、健全な経営に見えますが、金融機関との取引経験がないのは、いざという時に持ちこたえる力があるといえるでしょうか?景気がよく、事業拡大のチャンスがあるにもかかわらず無借金経営を続けることが投資家に評価されないことがあります。
反対に、資産のうち現金や普通預金の額が極端に少ない場合には、突発的な支払が発生したときに対応できませんし、いつ新たな借入が増えるかわかりません。
このように、自己資本比率が高すぎても、貸借対照表からは安全性を損なうような要素が読み取れる場合には、適正な自己資本比率が求められます。
自己資本比率の上げ方
自己資本比率を引き上げるには、2つ考えられます。
それは自己資本比率の分母である総資本を減少させるか、分子である自己資本の額を増加させるかです。
しかしながら、自己資本の額を増加させると総資本も増加しますので、結局は他人資本を減少させつつ、自己資本を増やすと自己資本比率が上がってきます。
自己資本を増加させるためには
- 事業において利益を得ること
- 企業の本業で黒字化させること
で自己資本を構成する利益剰余金が増えます。
総資本を減少させるためには、
- 借入金の返済
まず、必要最低限の借入金であるかどうかを点検し、返済できる借入金は返済して、他人資本を減少させましょう。
- 不要な固定資産や投資有価証券などの処分
- 不要な固定資産や投資有価証券などの処分
事業に供さず、遊休となっている土地や建物、機械などを処分し、換金できれば借入金を返済すると、総資本を減らし他人資本も減らすことができます。
しかし、固定資産の処分により大きな損失がでる場合には、自己資本が減りますので要注意です。
- 棚卸資産の見直し
材料、商品などの在庫で長期間利用しないにもかかわらず処分できなかったものを処分することによって、総資本は減少します。
自己資本比率と自己資本利益率の関係
ROE(Return On Equity:自己資本利益率)とは、自己資本を活用して企業がどれだけ利益を獲得したか、株主から見た投資効率を測る指標として用いられます。
自己資本比率が企業の安全性を見る指標であるのに対し、ROEは企業の収益性を見る指標です。
自己資本利益率 : ROE = 当期純利益 / 自己資本
自己資本比率 = 自己資本 / 総資本
自己資本比率とROEはトレードオフの関係です。つまり、自己資本比率が高いほど安全性は高まりますが、会社が効率よく利益をあげているかどうかを表すROEは下がります。少ない自己資本で大きな利益を獲得できる力をもつ企業、つまりROEの高い企業は投資家からは高く評価されます。
両者のバランスを考え、ある程度の安全性を確保しつつROEを上げていくことが望まれます。
自己資本比率を計算してみよう
貸借対照表は、決算時点における企業の財産状態を表しています。資金調達の方法が他人資本であるのか自己資本であるのか、また、その調達資金がどのように使われているのか、投資なのか回転資金なのか等を読み取ることができます。
自己資本比率は貸借対照表から容易に計算することができますので、企業の安全性の指標がどのように推移しているのか計算してみると数字の持つ意味が実感できるでしょう。
よくある質問
自己資本比率とは?
総資本における自己資本の比率を指します。詳しくはこちらをご覧ください。
自己資本比率の計算方法は?
「自己資本比率 = 自己資本 ÷ 総資本(他人資本+自己資本)× 100(%)」の式で求められます。詳しくはこちらをご覧ください。
自己資本比率の上げ方は?
自己資本比率を引き上げる方法は、分母である総資本を減少させるか、分子である自己資本の額を増加させるかです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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